アニメ版『シスター・プリンセス』英語版における翻訳表現の事例



はじめに


 雑誌企画『シスター・プリンセス』(以下シスプリ)開始から20年が過ぎた2019年今秋、シスプリ20周年記念としてVtuber可憐が登場するという突然のニュースにファンは大いに湧いた。論者もその一人としてこの盛り上がりに何か寄与できないかと考えたが、アニメ『シスター・プリンセス』(以下アニプリ、2001年放映)などアニメ版について当時執筆公開した一連の考察群が、今なお論者の力の及ぶ限りのものとなっている。その一方、遅れてきたファンである論者がシスプリファンダムの驥尾に付したさい、日参させていただいた多くのファンサイトが、現在すでに閉鎖している(現存するサイトについては確認範囲内でリスト化した)。そこに掲載されていた作品受容のありかたや、相互交流のなかで育まれた作品愛の多様なかたちは、今や発掘するのも困難な状況にある。論者の本サイトは幸いにもほぼ当時のまま(まるで化石のように)継続できているが、それでも日記に綴った内容などは検索性も低く、論者自身さえ忘れかけつつあるのが正直なところなのだ。もちろん、かつてのファンの方々が去ることもあれば、今回のイベントを機に新たにファンダムに参入する方々もおられることだろう。それはごく自然なファンダムの新陳代謝であり、たまたま論者はその中に(休眠しながら)居続けているというだけのことではある。しかし、新規ファンの方々が本作品についての情報やファンダムの記録を求められるとき、あるいは往事のファンだった方々が久しぶりにあの頃の思い出の場所を再確認されるとき、興味を抱けそうなコンテンツを容易に探し出していただけるように、ただ散乱するまま埋もれていた記録をこの機会にまとめておくことも、好きな作品に対するひとつの恩返しとなるのではないか。
 このような願いを抱きつつ、本論では、論者の旧日記の2006年3月3日以降に記されたアニプリ英語版DVD全7巻(ADV Filmsより2004年発売、『Anime News Network』による作品・ソフト紹介ならびに2004年9月13日のリリース記事があり、また英語版Wikipediaの作品解説ページには英語版声優の情報も記載されている)の翻訳表現についてのメモをまとめ、単独コンテンツとして公開するものである。当時は美森勇気氏、幽霊氏、2sky氏ほかに英語表現等についての情報提供をいただいた。ここに感謝申し上げる。また、作品註の台詞表現と字幕表現は必ずしも一致していないが、論者自身の英語能力が低く、台詞を正確に聞き取ることができていない。そのため、多くの箇所で字幕のみの紹介となっていること、さらにおそらく誤解・誤記が多々あることを最初にお詫びしておく。



1.英語版における兄呼称

 シスプリといえば、妹それぞれに兄の呼び方が異なることで有名だが、英語版でも下表のとおりきっちり区別している。

<英語版における兄呼称>
兄呼称 英語版
可憐 お兄ちゃん(おにいちゃん) Big Brother
花穂 お兄ちゃま(おにいちゃま) Brother
あにぃ Big Bro
咲耶 お兄様(おにいさま) Dear Brother
雛子 おにいたま Bro-bro
鞠絵 兄上様(あにうえさま) Brother Mine
白雪 にいさま Elder Brother
鈴凛 アニキ Bro
千影 兄くん(あにくん) Brother Darling
春歌 兄君さま(あにぎみさま) Beloved Brother
四葉 兄チャマ(あにちゃま) Brother Dearest
亞里亞 兄や(にいや) Mon Frere
眞深 あんちゃん Bud




2.各巻における主な翻訳表現


 英語版アニプリDVD全7巻は、4話収録の第1-5巻と3話収録の第6-7巻から構成されている。以下、各巻の収録話について、主な台詞等についての翻訳表現を掲載する。
 なお、DVD各巻にはおまけとして、吹き替え版の声優の方々のコメントが映像入りで収録されている(第1巻が航・可憐・雛子、第2巻が四葉・花穂・眞深、第3巻が衛・春歌・山田、第4巻が咲耶・千影・じいや、第5巻が白雪(『あずまんが大王』のちよの声も当時担当)・亞里亞、第6巻が鈴凛・鞠絵、第7巻がこの16名全員)。また、Production Sketchesとして、キャラ設定資料(日本ではムック掲載済)の一部も収録されている。さらに、妹達の手紙英訳も各巻に1名分ずつ同封されているのだが、可憐・花穂・衛・咲耶・白雪・鞠絵・雛子の7名分しか収められていない。


Volume01-“OH, BROTHER!”

・OPとEDは、奇数話で英訳歌詞テロップが、偶数話で日本語歌詞のローマ字テロップが出る。英訳では「アイアイアイ」ではなく“you, you, you”になっている。

01:My Graduation(僕のグラデュエーション
・「それは、遠い遠い昔のような、
 それとも、ほんのちょっと前のような……。
 とにかくぼくの人生は、その子達に出会った時から、ガラリと音をたてて変わってしまったんだ。
 そして、それは、これからも。」
 “It seems like a long time ago...
  Or it seems like only a short while ago...
  Anyway, my life has changed completely since I met the girls...
  And it will continue...”
・前半冒頭のビクトリー塾の場面は、海兵隊訓練風味になっている。
・「そんな馬鹿な!?」“It can't be true!”
・ボート上から可憐が手を伸ばすとき、「お兄ちゃん」“Big Brother”にちゃんとエコーがかかる。
・「じ、じいや!?」“Jeeves!”
 n. ジーヴズ 《P. G. Wodehouse の一連の小説 Jeeves 物に出る奇策縦横の模範的執事》。(研究社『リーダーズ+プラス』より)
・「ガルバン大地を絶つ!」“Garban Cuts the Earth!”

02:I Love Big Brother So Much!(お兄ちゃん、大好き!
・「純白……綿100%……」“Pure white... 100% cotton...”
・雛子の台詞のとこでなぜか可憐が口パクしてる場面は、英語版でもちゃんとそのまま間違っている。

03:Being with Dear Brother(お兄様といっしょ
・「生まれ変わるのさ俺は……山田Mk.IIに!」
 “I will be born again. I'll become Yamda mark II!”
・「花穂ドジだけど、見捨てないでね?」
 “I'm a klutz, but don't give up on me, okay?”(字幕)
・「美しい死相が出ているよ…………」
 “You have the beautiful shadow of death...”(字幕)

04:Where is Mr. Teddy Bear?(くまさん、どこ?
・「花穂、絶対にしゃべらないもん!」
 “I'll never say it to anyone!”
・「チェキ!」“Check it!”
・「兄ちゃんモテモテだねえ」
 “You're so popular, big brother.”(字幕、台詞共通)
・「可愛い妹がいて羨ましいかぎりだぁ」
 “I envy you your cute younger sisters.”(字幕)
 “Your sisters are so so cut, aren't?”(台詞)


Volume02-“SIBLING REVERY”

05:E-mailing with Bro(アニキとメール
・「アリリリリリリリリリ」(メール文面)“Whattttttttttttttttttt”

06:Twelve Gentle Princesses(お兄ちゃんは王子様
・「早口ういろう売り」“Quick-spoken-old-medicine-man's-sales-pith”
 ご存じ吉田ファミリーハーモニーズによる出し物の名前だが、2sky氏の教示によれば、ここにあるような歌舞伎の十八番「外郎売りの科白」は、今でも放送部などの発声練習に使われている。アニプリ日本語版でもこれを早口で唱えているのだが、英語版でもなんとその冒頭の英訳をまくしたてている。冒頭の箇所を引用すると、次の通りである。
 “Some of you may know the man I call“boss”
  but he left Edo and went through
  Isshiki-cho of Shoushu Odawara,
  20-ri toward Kyoto and Osaka area,”
 これはつまり、
「拙者親方と申すは、お立合いの中にご存知のお方もござりましょうが、
 お江戸を発ってニ十里上方、相州小田原一色町をお過ぎなされて」
のあたりまでを一応そのまま正しく訳していることになる。また、「外郎(ういろう)」は名古屋のお菓子ではなく元々は薬のことであり、“Quick-spoken-old-medicine-man's-sales-pith”という英訳字幕はそこをきちんと押さえている。
 もっとも、、発声練習に用いられるほど滑舌の難しい元の日本語表現を、このようにそのまま英語訳したならば、早口の難しさがまったく失われてしまっていることにもなる。『マイ・フェア・レイディ』の“The rain in Spain stays mainly in the plain.”のような英語圏でも分かる早口言葉に置き換えられなかったものか、とも思うが、これもまた「日本製アニメ」の楽しみ方なのかもしれない。
・ 「一人だけなんて選べないよ!」“I can't choose only one!”
 台詞では前に数語しゃべっているが、聞き取れない。

07:Season of Love(恋する季節
・四葉の「わははのは!」は英訳さすがに無し。
・「意外と力強いんだね」「そ、そんな……!」
 “I did'nt know you are so strong.”“Not really.”
 あまり衝撃を感じてないような返事のしかた。
・「アイスピックって、どこにあるか知ってますか?」
 “Do you know where the ice pick is by me to use?”(台詞やや怪しい)
 “Do you know where there's an ice pick?”(字幕)

08:One Day, Two of Us(いつの日かふたりで
・日本語台詞の不明箇所(ガルバン関連)である「きったねえぞ***[テイレクゼン?]め!」は“That was a dirty trick, Mok'ele-ebembe”(字幕・台詞とも)であり、UMAのモケレ・ムベンベが謎の敵性種族の名として流用されている。


Volume03-“SISTERS & SUNSHINE”

09:Summer Has Come(夏がきました
・千影「…………暑い」“...Hot”
・「ピヨちゃん」 “Quacky”、つまりアヒルの鳴き声。
・「素麺」 字幕では“Somen”、台詞ではjapanese云々と言っているが聞き取れない。
・「くすん……」“Sniffle...”(字幕)
・「チェキ」“Check't out”
・ 「どなたか分かりませんが、お掃除してくれてありがとう!」「山田だってぶぁ!」
 “I don't know who did it, but thank you for cleaning .”“I'm telling you Yamada did it!”(字幕)

10:Do Your Best, Big Bro!(頑張って、あにぃ!
・衛が航を水泳の練習に誘うときの「ね、あにぃ」という台詞だが、“Come on, my Big Bro”とここに“my”をつけることで、この話が衛ヒロイン話であることを示唆しているのではないか。
・ボブ・スタンバックの声はDavid Born氏。日本語版では英語台詞の声優は不明。
・以前よりずっと不明だった亞里亞の謎のつぶやき(カルボナーラ風きしめんを食べてる場面)は、“But...”(台詞では“But Mon Frere...”)つまり「でも……」だった。日本語版も「でーもー……」と聞こえるが、一時はフランス語なのではと思案したものだった。

11:Secret Tour With Bro(アニキとシークレットツアー
・春歌の和風さ加減が英語だと怪しさ倍増。
・「……ポッ」“Brush...”(字幕)
・「ピョンピョン」“jumpy-jumps”
・「バナナはおやつに入りません」“Bananas are not considered a snack.”
 鈴凛お手製の『旅のしおり』の表紙にあった注意事項。
・「真夏の果実はまぁナッツかな〜〜」“Are summer fruits nuts ?”
・『非凡キック』“Extraordinary Kick”
 直訳なのだが、さすがに『平凡パンチ』の雑誌名パロディということまで表現する手間は不要か。

12:Vacation Is Love(バカンスはラブよっ
・咲耶の水着が取れてるよ、と叫ぶ衛の声から焦り加減が消えており、むしろ笑っている。
・「動くバナナは嫌いー」“Don't like moving banana...”(字幕)
 今回の最重要ポイントの一つなのだが、字幕は直訳でいいとして、台詞の方はずいぶん違うことを語っているのに聞き取れない。無念すぎる。


Volume04-“BROTHERLY LOVE”

13:Summer With Big Brother(お兄ちゃんとの夏
・「亞里亞、ばーいばーいー」“I go Bye-bye.”
 美森氏の指摘によれば、“say”のかわりに“go”を使うのは若い女の子限定の用法であり、『苺ましまろ』英語版ではあちこちに使われている。ちなみに、本当なら過去形なので”say”ではなく“said” のところだが、“went”にはならないらしい。大人が使うのはおかしい若者表現。
・「ポポポッ」“Blush, blush, blush”

14:True Feelings(本当のキモチ
・可憐の舞い上がりぶりが声でちゃんと表現されており、この話の異常さ(以前の可憐と明らかに違う)が伝わる。
・「富士山麓(2236)オウム鳴く」“May I have a large container of orange juice?”
「いい国(1192)作ろうロシア革命」“In fourteen hundred ninety-two, Magellan sailed the ocean blue.”
 どちらも第14話で山田が必死にノートしていた言葉だが、亡霊氏の指摘によれば、前者は「英語圏での円周率の覚え方(の一つ)」とのこと。
 文字数をみると、 May:3 I:1 have:4 a:1 large:5 container:9 of:2 orange:6 juice:5 で 3.14159265となる。
 美森氏からは後者について、“In 1492 Columbus sailed the ocean blue.”という有名な詩をマゼランと間違えているとのこと。
・「はい、あーん」“Open your mouth. Hay, ah.”
・「お兄ちゃん、今日一日可憐のためにいっぱいしてくれたのに……」
 “Oh Big Brother...Even though you did so much for me all day long (...)”
 聞き取れた分のみ掲載。字幕では“so many things for me all day today”。

15:Aria's Ribbon(亞里亞のおリボン
・「亞里亞ね、兄やにもらったおリボン、宝物なのー。ずっと、ずっと、宝物なのー……」
 “It's a treasure, because my Mon Frere gave it to me... For a long long time now, it's been most special treasure that I habe...”
・老紳士への別れの挨拶「またねー」が、台詞では「ばいばい」と同じ“Bye bye”に置き換わってしまっているため、(論者の考察によれば)老紳士との再会を期しているという事実が失われてしまっている。
 ただし、字幕では“See you again.”となっており、こちらは論者の考察と一致する。

16:Kaho Will Do Her Best!(花穂、がんばっちゃう!
・英語だと本当にあちらのチアリーディングの雰囲気そのまま。YEAH !
・「花穂、ドジだから、お兄ちゃまにしてあげられることって、応援ぐらいしかないの……」
 “Because I'm klutzy, cheering is about the only thing I can do for you.”(字幕)
・「ラブよー!」“Remember "Love"!”
・「フレー、フレー、お兄ちゃま! 頑張れ、頑張れ、お兄ちゃま!」
 “Hooray! Hooray Brother! Do your best! Do your best, Brother!”(字幕)
 台詞では“Don't forgive!”とも言っている。


Volume05“GIFTS FROM THE HEART”

17:It's Moxibustion...Blush(おキューですわ……ポッ
・「割れない……くすん」“Can't be break...Sniffle...”(字幕)。台詞は聞き取り辛い。
・「痛いの痛いのとんでけー」“Pain, pain, go away.”
・「あっ……。兄君さま、だめですそんな急に動いちゃ……」“Ah, please don't move so quickly, Beloved Brother. ...”
 「ごめん……。あ、春歌ちゃん……!」“Ah, I'm sorry...”
 「ふぅっ……」“(喘ぎ声)”
 「あっ……は、春歌ちゃん……!」“Ah, Haruka...!(喘ぎ声)”
 「ふぅっ……。ふぅっ……」“(喘ぎ声)”
 「ううっ……!」“(喘ぎ声)”
 「兄君さま!?」“Beloved Brother!”
 「ううっ、ふぅっ、まだ……!?」“Ummm...Not yet?”
 「兄君さま、もうちょっとの辛抱ですわ……」“Beloved Brother, please be patient this mean...”
 「ううっ、くうっ……!」“Uhh, HuuH...”
 「もうじき、もうじきよくなりますから、兄君さま、頑張って……!」“Soon... Please hold on, Beloved Brother. It will feel better soon...”
 以上台詞より。

18:...External...Vows...(…永久の…契りを……
・航の悲鳴の一部は“Oh, my God!”になっている。
・「悪いけど、今はまだあげられないよ…………。気に入っているんだ…………」
 “Sorry...you can have this not yet... While I think I like it...”聞き取りできているか怪しい。

19:Boxed Lunch of Love(愛のお弁当ですのっ
・白雪の鼻歌は「笑顔がNo.1、やっぱりネ」ではなくなっていた。
・「にいさま……姫のお料理で、心に栄養、つきました……?」

20:Christmas Love Destiny!(Christmas Love Destiny
・咲耶はクリスマスツリー前で無言の台詞(航の耳元で囁く場面)があったが、英語版では“It is you, Dear Brother...”と語っている。
・合唱歌「その奇蹟は永久に」を、全部英語で歌っている!! (歌詞はここに転載しない。)明らかに歌唱力の足りないらしき人もいるが、それもいわば原作通り。
・「お兄様、来年も私と二人っきりで、ねっ?」
 “Next year, it'll be just you and me for Christmas, yeah.”(台詞)


Volume06“ONE BIG HAPPY FAMILY”

21:Me two to Bro \(^o^)/ 〜(アニキにme two\(^o^)/〜
・英語版サブタイの\は半角バックスラッシュが実際の表記だが、このコンテンツで正しく表示できないため代替(なんとなく資金援助風味だが)。
・「……動いても、いいのよ?」
 “It's okay the move, you know.”
・「四葉と兄チャマは、一心同体少女隊デス!」
 “You and I are like two heart visiting just one mind!”(台詞)
・「ジャンジャカジャカジャカジャーン!」“(タッタカタカタターン!)”
 いわゆるファンファーレではなく、ワーグナー『ワルキューレの騎行』風味というか。
・「メカ雛子なのー!」“Hay look, it's Mech-Hina!”
・「……ねえ。私がいなくなったら、悲しい?」“Say, would you be sad if I were going, Bro?”

22:Check It Out, Brother Dearest(兄チャマ、チェキデス
・「霧の都で大人気、美少女怪盗クローバー!
 チェキチェキッとただいま参上!
 あなたのハートもいただきデス!」
“It is I, the beautifl mysterious thief girl Clover,
 who is very popular in the city of fog.
 Here I come to "check, check, check it out!"
 And I'll check out your heart as well!”
 四葉の夢に出てきたクローバーの口上だが、英語ではとてもリズミカル。もしや4行の韻律を合わせているのかと思うほどで、イギリスで暮らしていた頃の四葉の元気なときの姿を彷彿とさせ、嬉しく感じる。
 美森氏の指摘によれば、「"It is me."でなく"It is I."であるあたりが何かあるのかも(どちらも正しい英語です) 。英米ともに、文法上正しいのは"It is I."ですが、どちらでも口語では "It is me." といってます。で、meを使う間違いは16世紀ごろからすでにあるらしい。このあたりの事情は、特に英米の差はないようです。」とのこと。とくにQueen's Englishやシェイクスピア調とかいうわけでもないのであれば、「我こそは」というニュアンスが“me”の場合よりも強いのか、それともたんにプライマリースクール在学時の先生が文法教育に熱心だっただけなのか。
・「ピクピク」“A twitch-twitch”。
・「わったーしが美少女怪盗クロ−バーデス!」“I am the beautiful misterious thief girl Clover!”
・「海神航くんへ
 四葉ちゃんは、美少女怪盗クローバーが頂いちゃいましたデス。
 君が世界で一番大切かわいい妹の四葉ちゃんをあんまり大切にしないからデス。
 返してほしかったら真ん中の一番高い所に今すぐ来るチェキ!」(手紙)
 “To Wataru Minakami
  I, Clover, the beautiful mysterious thief girl took Yotsuba.
  Because you don't cherish Yotsuba very much who is the loveriest sister in the world.
  If you want her back, come to the highest place in the middle immediately, check it!”
 クローバーからの犯行声明兼挑戦状。日本語の方の太字箇所は、日本語版の手紙に大きい文字で記されてる箇所。英語版では、手紙の上に英訳がかぶさり、一部該当箇所が太字に。

23:The First Guest(はじめてのお客様
・じいやの所有する『海神』本に“SPIRIT”とかぶさってるが、「精神」と読んだか。
・「ツンツン」“poke-poke”
・「ベルリンベルリン、こちらクレーフォー」“Berlin, Berlin, this is Cray Four.”
 Cray.がザリガニでないとすれば、もしやクレイ社のスーパーコンピュータCray-4のことだろうか。論者の考察では、「クレーフォー」はドイツ語の“Klee”(クローバー)と英語の“four”ではないか、と推察した。ただし、スパイの符丁として元ネタがあるのかもしれない。
・「白黒抹茶小豆コーヒー柚子桜の和風マカロン」
 “white, black, green tea, red bean, coffee, citrus fruit, cherry blossom, Japanese-style macarons”
・「めくるめく大回転ですわー!」“These are the dizzying great rotations!”
・「眞深、お前も堕落したんだよ。駄目からさらに駄目駄目に」
 “Mami, you've also become spoiled. You've gone from no good to even worse.”
 字幕だでは「堕落」に“decadent”を使っている。デカダンだとむしろ燦緒の方が、という気もする。
・「血の繋がったあんたより、あんちゃんの方が、……あいつの方が、優しいよ……!」
 “Even more than someone I share blood with... Bud is... He's a lot... kinder...”
 英語版でもこの台詞では眞深の怒りと悲しみがこもっていた。ただ、その後にわずかな泣き声が分かりやすく付け加えられている。日本語版では、無言のうちに押し殺された涙を眞深の背中から視聴者が感じ取るわけだが、このあたりは文化的・テレビ番組表現技法的な相違点なのか。同様の箇所は各所で他の登場人物についても見られた。


Volume07“BROTHER, WHERE ART THOU?”

・タイトルの“art”は“are”の、“thou”は“you”の古語。パロディ元と思しきは、シェイクスピア『ロミオとジュリエット』(880行目)におけるジュリエットの台詞“O Romeo, Romeo! wherefore art thou Romeo?”であるが、この英語版発売の直近では映画『オー・ブラザー!』(2000年)の原タイトル”O Brother, Where Art Thou?”かもしれない。

24:Premonition of a Farewell(さよならの予感
・「……いや、やっぱりいいです。こういうことは自分で決めなくちゃ」
 “No, just forget it. I need to decide this things from my thought.”
・「実はさ、あたし、あんちゃんの妹じゃなくて、燦緒の妹なんだよね……」
 “To be honest Bud, I'm not your sister, I'm Akio's sister.”(台詞)、字幕では末尾“Akio's little sister”
 「……え? またまた、そんなことばかり」
 “Oh, come on, you're such a kidder.”
・「航は東京へ行くんだ。
 航は僕と一緒に、明日東京へ行くんだ」
 “He's going to Tokyo.
  Wataru is going to be turning to Tokyo tommorow, with me.”(台詞)
 台詞後半は、東京に「戻る」ことを強調した言い方にも聞こえるか。
 美森氏の指摘によれば、“be turning to Tokyo”は「東京について考え始めている」ような意味もある。単に“He's going to Tokyo.”や“He's turning to Tokyo.”で良いところを“He's going to be turning to Tokyo.”としてるのは何かありそうに思われるとのこと。字幕ではその簡単な方の表現を選んでいるのだが、台詞では意味が二重化されている、つまり航を東京にたんに連れて行くのみならず、その心も島から引き離して東京に再び引き寄せる、という燦緒の意図を露呈させていることになるだろうか。
・「わーい、ピクニックー!」“Yeah! I gonna have a picnic♪”
・花穂がピクニックでバレーボールしたい、と衛に答えた場面。
 亞里亞「亞里亞もー」“Aria want to play to...”
 衛 「きゅ、球技はちょっと……」“Maybe you should'nt...”
 ここは球技の苦手な衛の腰引けっぷりに一同が笑う場面だが、英語版の台詞ではまるで衛が亞里亞に「君は運動が苦手だからどうかなあ」と遠回しに言ってるかのように(そしてそれを皆で笑っているかのように)聞こえる。とくにアニプリでは第9話で衛が普通にビーチバレーしてるように見えるため、「球技が苦手」という原作設定を知らないと誤解されやすい箇所ではある。なお、字幕の方では“Ball games are a little much...”と、日本語版の直訳になっている。
・「お願い……私たちをおいていかないで……私を……!」
 “Please... don't leave us... Don't leave me...”
・「お守りをあげるなんて、まるでお別れみたいデス……」
 “Giving him your charm makes it seem, rather, like a farewell.”
・じいやの小舟の落書きは「バカ」「アホ」が“Stupid”、「ジジィ」が“Geezer”など。

25:I Want to See... Big Brother(あいたい…お兄ちゃん
・ガソバルプラモの「ご自由にお持ち下さい」は“Help Yourself.”、なんとなく山田というキャラそのものにぴったりな意味にも読めてしまう。
 ちなみにガソバルは“Gasobru”。
 なお、この場面で船着き場の垂れ幕綴りが“Promised Iland”とsが抜けてるのみならず、カタカナも「プミスト アイランド」とロが抜けている。
・「これで元通りだ」“With this, things are back to normal.”(字幕)
・「あーもう! 耐えられないわー!」“Argh! I can't stand it anymore!”(字幕)
・「鈴凛ちゃん、起きて。朝だよ、朝だよ。研究資金を援助するよ」(目覚まし時計)
 “Wake up, Rin Rin! It's morning! It's morning! Okay your research grant.”
・「ああっ、いやぁ、私ら今日は手荒い用件じゃねえんで」
 “Oh, no, we're not here today to give you a rough time.”(字幕)
・「ちょっと待ったー!」“Hold on a sec!”(字幕)
・「眞深ちゃん、ぼくは、行かないよ」“Mami, I'm not going.”
 この言い回しが第26話の頭にどう関わってくるか。
・第25話にて兄不在を悲しむ妹達の台詞を、聞き取り不十分ながら一挙掲載。

 可憐「お兄ちゃん……お兄ちゃん、可憐どうしたらいいの? 必ず帰ってくるって信じてる。
     だけど、だけどいま、ここにお兄ちゃんがいないの……。お話もできない……。
     ずっと一緒にいられるって、思ってたのに……お兄ちゃん……」
   “Big Brother...BIg Brother, what should I do? I believe that you will come back no matter what.
    But...But, here, now, you're not with me, Big Brother. I can't talk to you.
    I thought we could always be together. Big Brother...”

 花穂「みんな、お兄ちゃまがいなくて寂しいんだねぇ。花穂も、とっても、寂しいんだぁ……。
     でもねっ、お兄ちゃまはきっと、一人でも頑張ってると思うの。だから花穂も、お兄ちゃまの応援、しなくちゃ、って。
     お兄ちゃま、頑張って、って……。う、うえええええん、お兄ちゃまぁ、うええええん……」
   “Everyone must be lonely because Brother isn't here. And me too. I'm also so, but I'm lonely.
    But I'm sure that Brother is trying very hard only by him, so I should try too, to cheerplay him.
    I have to say, "Do your best, Brother!" ...Brother...”
 字幕では冒頭が“All of you”、つまり目の前の若葉のみに語りかけていることになるが、台詞だと日本語版通り、若葉のみならず他の妹達「みんな」のことも意味していることになる。

 衛 「あにぃ、ボク、何をしてもつまらないんだ。あにぃと一緒だったら何だって楽しかったけど、
     あにぃと一緒じゃないと、ボク、何もできないんだよ……。助けて、あにぃ……」
   “Big Bro. No matter what I try, nothing is any fun. But when I was with you, Big Bro, everything was fun.
    If I'm alone, I can't do anything. Plese help me, Big Bro.”

 咲耶「離れ離れになるなんて、私絶対に許さない!迎えに行くわお兄様、
     私達は何があっても絶対に離れられない、運命の糸で結ばれているんだもの!」
   “I can't accept being apart! I'm coming to get you, Dear Brother!
    We are tied together by a string of fate, Dear Brother, that will not allow us to be separated from each other, no matter what happens!”
   台詞聞き取り、“from each other”のあたりが怪しい。

 雛子「はやくかえってこないかなー。おにいたまのダーイスキなおかし、こーんなにいっぱいもってきたんだけど。
     クシシシ、おにいたま、きっとびっくりしちゃうな。おそらさん、おにいたま、きょうかえってくるよね? ね? すぐかえってくるよね、ね、ね?
     ……おそらさん、おへんじしてよぉ。おにいたまのこえ、きこえないよ……?」
   “I wish he'd come back soon. I bought all these snacks that Bro-bro likes, though.
    I bet Bro-bro will be surprised. Mr.Sky, Bro-bro will be back today? He'll be back soon, right? Right? Right?
    Mr.Sky, please answer me. I can't hear Bro-bro's voice.”(字幕)
 最初のあたりが聞き取りきれなかった。台詞もだいたい字幕と同じみたいだが、「ね?ね?」の部分は台詞では“Won't he? Won't he?”。

 鞠絵「兄上様にお会いできて、私、こんなに元気になりました。
     兄上様、私は信じています。また一緒に暮らせる、その日が来ることを」
    “My dearest Brother Mine, having been able to meet you, and spenting time with you, has me feel so, to become so energetic.
     I believe in my heart the day will come when we will be able to live together once again.”

 白雪「姫、最近おかしいんですの。お料理失敗ばっかりしちゃって…。いつもと同じにお料理しているはずなのに……。
     夕御飯、もうちょっと待っててくださいね。可憐ちゃんも食べないと、元気でないですの」
    “Princess is strange lately. I keep making blunders cooking, even though I'm cooking the same way I always have.
     Please wait a little longer for dinner. Also Karen, if you don't eat, you won't be well.”(字幕)
 台詞は字幕と異なるようだが聞き取れない。最後は“healthy”。

 鈴凛「アニキ、いなくなるんなら、何か代わりになるもの置いていってくれたらよかったのに……。
     研究資金の援助してくれるとか、鈴凛ちゃんかわいいよ、って言ってくれるとか。
     アタシ、アニキ以外に頼れる人、いないんだからさ……。……でも、アニキの代わりなんて、いるわけないんだけど、ね……」
    “Bro, if you were going to disappear, you could have left something as a replacement.
     Something that says you'll give me financial support or that tells me, "You're cute, Rin Rin."
     I've got no one to depend on but you, Bro. But then, there's no replacement for you, Bro.”(字幕)
 聞き取り困難。ただ、真ん中の台詞で“You could give”などと言っているあたり、主語が「代わりになるもの」ではなくなっている模様。また、台詞では最後で“for you”と言わずに“There is just no replacement”と繰り返しているのだが、これも「アニキの代わりなんて」というニュアンスを消してしまってるのかは不明。

 千影「…………兄くん…………。兄くんとの絆が見えないよ…………。私達を結んだ絆は、決して切れるはずがないのに…………。
     兄くん…………必ず、また会えるよね…………? 私は、今ここに、私のそばに、いてほしいんだ…………」
    “Brother Darling. Brother Darling, I can't see our bond. Even though it shouldn't be possible to sever the bond that ties us.
     Brother Darling, we will be able to see each other again, right? I want you to be here, near me, now.”
 台詞では最後が“just moment”。また、“I want”を繰り返すなどして千影の焦燥感を示している模様。

 春歌「兄君さま……。ワタクシ、兄君さまが大切などと言いながら、兄君さまに甘えていただけでしたわ……。
     兄君さまがいらっしゃらないことが、こんなにも辛いなんて…。お姿が消えるまで、気づかなかった……。ごめんなさい、兄君さま……」
    “Beloved Brother. Even though I have said that you are so important, Beloved Brother...all I have done so far is to lean on you.
     Beloved Brother, I did not realize how hard it would be to be without you until you vanished. I am so sorry, Beloved Brother.”(字幕)
 これも台詞では“vanish”が“aren't here with me”かなにかに置き換わったなどのほか、文意はほとんど変更ない模様。

 四葉「ワトソンくん、四葉は兄チャマがいないとチェキできないデス。
     もし、また美少女怪盗クローバーが現れたら、兄チャマは助けに来てくれるのかな……。
     兄チャマは四葉と約束したデス、四葉を守っちゃうって。けど、四葉はどうすればいいの、兄チャマ……?」
    “My dear Watson... Brother Dearest, I can't check it out if you aren't around.
     If the beautiful mysterious thief girl, Clover appears again, will you come save me, Broter Dearest?
     Brother Dearest promised me. That he would protect Yotsuba. But... What should I do, Brother Dearest?”(字幕)
 これも台詞はおおよそこの字幕まま。

 亞里亞「亞里亞も、兄や、好きー」
    “Aria likes Mon Frere too.”(字幕)
 字幕は直訳だが、台詞では“Aria is missing Mon Frere too.”兄を失いつつある、見失いつつある、という意味か(美森氏の指摘による)。こちらの方が兄の「お姿が消えるまで、気づかなかった」春歌の悲しみに対する亞里亞の共感をストレートに表現しているわけだが、逆に、日本語版の短い台詞に示された亞里亞らしい想いの込め方が消失している。

26:Promised Island(約束の島
・燦緒が自己紹介している教室の転入場面で、黒板の「山神眞深美」に“AKIO YAMAGAMI”とテロップを入れてしまっているのはご愛嬌。
・後半冒頭の朝の場面で航が目覚めたとき、日本語版にはない妹達の声が背景に騒がしく響いているのだが、第3話でやはり妹達の楽しげな声に耐えかねていた航の姿と重ねてこの1年間の成長を感じさせてくれる。
・「燦緒、ぼくは行かないよ。学校へは。ぼくは、プロミストアイランドに戻る」
“Akio. I'm not going... to school. I'm going back to Promised Island!”
 ストレートの訳だった。
・「今日は『お兄ちゃんの日』、でございましたな」
 “I guess that today is going to "Big Brother's Day", isn't it?”(台詞)
・「海神航の、大馬鹿野郎ー!」“Wataru Minakami, you big fool!”(台詞)字幕だとidiot。
・「お兄様!?」“Dear Brother?!”
 航の帰還直後、風が吹いた場面の咲耶。台詞の方だと“He's come back?!”で、航が戻ってきたことをたちまち察知したかのように聞こえるが、それでは咲耶が抱いていた不安の根深さが消えてしまう。あるいは、この後に続く他の妹達が風によって何に気づいたのかを視聴者にはっきり伝えるため、こういう台詞にしたのだろうか。
・「亞里亞、兄やがいないと寂しい……」“Aria is lonely if Mon Frere isn't around.”
 兄がそばにいない(not around)かわりに、亞里亞がエスカレータをぐるぐる(around)してるという。
・眞深の書き置き。
 「12人の妹達へ。
  あたしは今日、ここを出て行きます。詳しい理由は、今は秘密。
  でも、兄ちゃんは必ず帰ってくるから…。
  それからみんな、たぶん知ってると思うけど、あたしは兄ちゃんの本当の妹じゃないの。
  兄ちゃんは全然気付いていないけどね…。
  そんなあたしを本当の妹の様に受け入れてくれて、ありがとう。
  この一年すごく楽しかった。
  さよなら…。     眞深より」
 “To the twelve sisters.
  I will leave here today. The datails of the reason are a secret for now.
  But Bud will definitely come back.
  And also, I think everyone knows this already, but...I'm not really Bud's sister.
  Though Bud has totally not realied it.
  Thank you for accepting someone like me as if I were real sister.
  This past year was very fun.
  Goodbye.   From Mami.”
 台詞だと冒頭が twelve "wonderful” sisters となっている。
・「フ…燦緒あんちゃんか。久しぶりにそう呼んでくれたな…。」 “Akio-bud, eh? It's been a while since you've called me that.”
 「ん?…んふふー、あーんちゅわーん。」“hmmmmm. Bu-ud.”
 「ぶはぁっ!そ、そんな気色の悪い呼び方するなぁ!するなぁするなぁ」“Don't say it so creepy!”(エコーなし)
・「今度は忘れないでね。私は、みんなの中に、いるから」“Don't forget this time. I'm inside everyone.”
・「ガルバンー? ガソバルー? ッハハハハ、いやだなー航くん。
  あれは、昔はよかったなーっていう後ろ向きの象徴さー。ボキは今日から前向きに生きることに決めたんだー」
 “Garuban? Gasobaru? You're kidding, Wataru.
  Lookong back, that was one of those "It was good back in the day" feeling I had. I have decided from today on to live my life looking forward.”(字幕)
 この後の顛末も含め、最後まで完璧に山田。

・妹達が一対一の場面で航に告げた言葉の一部を掲載。

 可憐「ううん、いいの。お兄ちゃんがそばにいてくれたら、それだけで」
    “Ah, It's fain. If you just stays close, it's all I need, Big Brother.”(台詞)

 花穂「うん! いっぱいいっぱい、大きくなりますようにっ」
    “Yup! I want you to grow to be really, really big, okay?!”(台詞)

 衛 「あにぃ。これからもいっぱい色んなことしようね」
    “Big Bro. Let's do a bunch of different things together from now on too .”(台詞やや怪しい)
  この後、自転車でこけるときに英語版では衛もうわーと叫んでいる(日本語版では航のみ)。

 咲耶「私を置いていくはずないわ。そうでしょ、お兄様?
     ……信じてたんだから。探しに行こうなんて、思わなかったんだから……!」
    “There is no way you would leave without me. Isn't it right, Dear Brother?
     ...I believed. I never thought about going to look for you or anything...”(台詞聞き取りやや怪しげ)

 雛子「ちょうちょさんにもくまさんグミあげようと思ったのになー」
    “I was hoping I could give Mr.Butterfly a gummy bear too.”(台詞)

 鞠絵「でも、かすり傷でよかった」
    “Still, I'm glad it's just a scratch.”(台詞)

 白雪「『おいしい』……姫は何より、にいさまのその一言が嬉しいんですの」
    “Delisious... Hearing that one word, more than anything, makes Princess happy.”(字幕)

 鈴凛「というわけで、この子のためにも資金援助よろしくねっ」
    “For this, I'm counting on your support, Big Bro!”(台詞)
 字幕では for this “child”と直訳。メカ鈴凛の意味を考えるとその方がよさそう。

 千影「ああ、見えるよ…………。けれど、未来は人の意志の力で、刻々と変わるんだ…………。
     だから…………兄くんはここにいる…………。それだけのことだよ…………」
    “Brother Darling, I can. However, the future can be changed with a single person's will, bit by bit.
     That's why you are here, Brother Darling, that's all the reason.”
    「戻ってきた兄くんには…………必要ないものだね…………」
    “It's unnecessary now that you're returned, right, Brother Darling?”(字幕)

 春歌「兄君様といつまでも一緒にいられますように 早く帰って来られますように 春歌」(絵馬に記した言葉)
    “To be able to be with Beloved Brother forever. So that he comes home soon. Haruka”

 四葉「四葉は兄チャマのことなら何でもお見通しデス。
     これからも、兄チャマをチェキ、チェキ、チェキデス!」
    “When it comes to Brother Dearest, Yotsuba sees through everything! From here on, Brother Dearest,
     I'm going to check it! Check it! Ckeck it out!”(台詞、聞き取りやや怪しい)

 亞里亞「亞里亞と遊ぶー?」
    “Please play with Aria...”(台詞)
 字幕では"Please"がない。個人的には、その方が亞里亞らしいと感じる。

・そして、潜航艇プロトメカ4号とともに妹達の呼び声が。

 「兄チャマー! 」「兄君さまー!」「アニキー!」
 “Brother Dearest!”“Beloved Brother!”“Bro!”
 「お兄ちゃまー!」「お兄ちゃーん!」「あにぃー!」
 “Brother!”“Big Brother!”“Big Bro!”
 「にいさまー!」「兄くん!」「おにいたま!」
 “Elder Brother!”“Brother Darling!”“Bro-bro!”
 「お兄様!」「兄上様!」「兄やー!」
 “Dear Brother!”“Brother Mine!”“Mon Frere!”

 シスプリが言語と文化の壁を乗り越えた瞬間、ここに。

 なお、英語版アニプリ第7巻のExtraで英語版声優の方々が選んだベストシーンは、次のとおりである。(名前の順番は論者により変更。)半分の人はキャラの想いがしみじみ伝わる場面を、残り半分の人はネタっぽい場面を選んでいる模様である。(論者は当時、亞里亞の声優さんが選んだ場面の鋭さに注目した。)

 航 :第18話、幽体離脱した航が「そんな馬鹿な!?」と叫んで妹達の部屋を駆け抜ける場面
可 憐:第14話、雨の公園で子猫を抱えてうずくまる場面
花 穂:第10話水着姿で転ぶ場面、第3話チア姿で転ぶ場面、
    第15話エスカレータで転ぶ場面、
    第16話バトンを飛ばす場面、第14話バトンを飛ばす場面、
    第11話ジョウロを手に「見捨てないでね」の場面、
    第16話バトン忘れちゃったぁの場面
 衛 :第10話、最後に「この夏が、いつまでも、続けばいいのにな」とつぶやく場面
咲 耶:第11話、旅行出発前の潜航艇そばで航に身を寄せ耳元にささやく場面
雛 子:第4話、兄の背中で「おにいたまがいれば何もいらない」の場面
鞠 絵:第3話、金網の向こうから航に呼びかけつつ倒れる場面
白 雪:第19話、台所に航が様子を見に来てエプロンポケットをまさぐる場面
鈴 凛:第5話、冒頭で機械製作の作業を終わらせ窓を開けてほほえむ場面
千 影:第11話、潜航艇の暗室から魚に生まれ変わるのもいいね、と航に呼びかける場面
春 歌:第17話、凛々しく厳しい表情で薙刀を構えて犬を追い払う場面
四 葉:第21話、「四葉と兄チャマは、一心同体少女隊デスー!」の場面
亞里亞:第13話「亞里亞、ばーいばーいー」の場面、
    第6話舞台に親指姫登場の場面、
    第4話葉っぱを片づけられくすんの場面、
    第9話プールでスカート濡らしくすんの場面、
    第3話下校時に航の上着をそっとつまんで帰る場面
眞 深:第14話、自室からメールを送信しつつ航に何を買ってもらおうかと企む場面、
    第11話潜航艇内で船酔いに苦しむ場面
山 田:第9話プール掃除の事実をさわやかに告げる場面、
    第9話無視されて捨て台詞の場面、
    第10話ボブ・スタンバックスで特訓の場面、
    第6話監督として演技指導の場面、
    第9話モテモテ妄想で高笑いの場面、
    第7話新郎役は自分だと駆け込むも司祭役の場面
じいや:第1話航に別れを告げる場面、
    第14話電気屋・アンティークショップじいや変化、
    第16話教師じいや
全 体:第26話兄妹写真撮影の場面、
    第20話合唱の場面



おわりに


 本論を結ぶにあたり、本作品の翻訳・吹き替えについての論者の全体的な感想を記す。

(1)声質は日本語版にかなり近い
 視聴中に何度も驚嘆したが、英語版の声優は相当入念に選ばれたうえで最大限の声作りをしている。作品前半では多少あった違和感を抱く場面が、後半ではほとんどない。亞里亞などはまるでアメリカにも水樹奈々さんがいるかのような錯覚さえ抱くほどである。また脇役の出来映えは素晴らしく、とくに山田は完璧すぎる。

(2)声に込められる感情の幅は小さいかもしれない
 その一方、日本語版の声に比べると、英語版の声から受け取れる感情の起伏はさほど大きくないように感じる。極端に笑う・泣く場面は別として、微妙な振り幅はあまり感じられない。ただし、その原因の一つは間違いなく、論者が英会話に馴染んでいないということにあり、聞く人が聞けば違う印象となるのかもしれない。なお美森氏からは、英語は発音やアクセントなどの縛りが日本語よりきついことも一因ではないか、との指摘をいただいた。
 しかしこの結果、例えば千影の声は日本語版以上に感情の起伏が小さくなり、そのささやきぶりにかえってぞくぞくするという思わぬ効果も生み出している。

(3)感情の起伏は台詞で補完
 英語版では日本語版にない泣き声をはっきり入れるなど、いわゆる「人物の心中を察する」箇所がいくつか分かりやすく修正されている。このあたりの好みは分かれるところだろうが、2.を補完するという意味があるのかもしれない。

(4)台詞と字幕は同じ箇所も違う箇所もある
 当然のことながら、字幕はだいたい日本語版台詞の直訳が多く、英語版台詞は登場人物の口の動きに合わせる必要や言い回しとしての適切さなどを鑑みて、適宜修正されているように思われる。どちらがより妥当な翻訳表現かは、論者の判断によればそれぞれである。

(5)アニプリを通じて広がる調和の輪
 アニプリは英語でも最高だった。兄の呼び方をきっちり13通り用意するなど、その丁寧さには心から感動した。英語圏でこの作品はちゃんと受容されてもいたようであり、他に中国語版も発売されているなど、様々な国の人々にその言語に翻訳されたアニプリがその想いを伝えてきているのだろう。そして、世界中に兄妹愛が染み渡っていくのだろう。そうして各地の人々の心のなかに、あの兄妹の共同生活は息づくことができるのだとすれば。そんな者達同士のつながりを大切に培うことができるなら、プロミストアイランドの調和は、やがてこの世界にもゆっくりと広がっていくのかもしれない。

 そして、それは、これからも。英語版声優の方々や英訳担当の方々をはじめとするスタッフの皆様に、心より感謝申し上げる。



(2019年10月3日公開・くるぶしあんよ著)


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