アニメ版『シスター・プリンセス』における調和の完成

〜永久の奇蹟の第20話〜



はじめに 〜問題の視点〜

 3月に始まった共同生活は、春の危機を乗り越え、夏に確固たる基礎を築き、秋に実りを結び、そして初めての冬を迎えた。個々に至る過程で、兄からの、あるいは妹からの様々な動揺は見られたものの、それは彼らの絆をいっそう強める契機となり、ウェルカムハウスはこの「家族」が生きる「家」として、ほぼ完全なものとなった。第20話「Christmas Love Destiny」は、兄妹のこの姿を、クリスマスという特別な日をめぐる彼らの振る舞いを通して描ききるものである。本論では、この回の内容を追いながら、兄妹が培ってきたものを確認していくことにする。


1.準備

咲耶「あと少しでクリスマス。ウフフッ…、うん。バッチリ!」

 12月21日のウェルカムハウス。登校前の身支度をする咲耶の耳には、大きなモミの葉のイヤリング。アクセサリに疎い論者は、それが本当に「バッチリ」なのか判断できない。いやそれ以前に、こんなアクセサリを身につけて中等部に登校していいものだろうか。こんな疑問を感じる間もなく、咲耶の部屋に可憐、春歌、鞠絵、雛子がやって来る。

可憐「咲耶ちゃん。ちょっといいですか?」
咲耶「みんな。どうしたの?」
可憐「うん、…お願いがあるんだけど…。」

 やや躊躇いがちな可憐の微笑みには、ようやく第7話以来の借りを返せることへの安堵感もあずかっていただろう。何事かと目を丸くする咲耶、そして自室で何も知らずメールを打つ航。

航 「燦緒へ。いよいよクリスマスが近づいてきたね。今年は妹達とクリスマスパーティをすることになったんだ。
   正直、…ちょっとドキドキしてるかな。」

 玄関ホールには、プロトメカで運んだのか大きなツリーが据えられ、飾りの完成を待ちわびている。花穂、亞里亞、雛子が今日の分を開こうと、壁のアドヴェントカレンダーに駆けていく。アドヴェントとは降臨節(the Advent)、つまりクリスマス前の4つの日曜日を含む期間のことを指す。欧米では11月下旬から早くもクリスマス仕度が始まり、広場には屋台や見世物小屋などが立ち並び、暖かな光と賑わいに彩られる。ヨーロッパ帰りの妹も多いゆえだろうか、ウェルカムハウスでもアドヴェントカレンダーを特別にこしらえて、来るべきよき日までの時を毎日数えてきているのだ。このカレンダーの通例に漏れず、今日の場所を開くと、そこには子供が喜ぶお菓子が入っている。渦巻き模様の飴を取り出した雛子は、ひょいと口に放り込むが、そばで見ていた亞里亞が食べたかったらしくうつむく(第23話でもぐるぐる好きは示される)。謝る雛子も気落ちさせないように、航は「明日は、亞里亞ちゃんね。」と亞里亞の頭をなでて場を収めるという見事な兄らしさを発揮して、今日も皆で仲良く登校。玄関ホール場面の途中で咲耶の耳からあのイヤリングが消えているところを見ると、やはり他の妹に咎められたようだ。隣にいた鈴凛あたりだろうか。もちろん航は咲耶のおしゃれに気づかないまま、ふと「クリスマスパーティか。ということは、当然あれもつくよな…。」と思案しつつ、ツリーを見上げていた花穂に声をかけて外に出る。
 航が気になったのは、クリスマスプレゼントのことだった。こういう賑やかなクリスマスを迎えるのは生まれて初めてであり、要領が分からないのだ。学校で山田に、プレゼントに何がいいのかを相談するものの、「女には、やっぱりあれだろ。貴金属をあげれば満足するだろ。」と第17話同様の返答で、さすがに航も「そうかなあ?」と疑念を含んだ返事。気まずい山田は、「そんなさみしい青春」を送ってきた航を憐れみ、「今年も山田太郎は相変わらずモテモテさぁ。」と吹聴するも、航に聞き流され、かえって辛くなる。山田こそ今までそんな聖夜を過ごしたことがなかったのだ。ここでは未だその独白どまりだが、第14話以降その上辺を取り繕う性格が徐々に緩みだしてきた成果が、第19話の転機を経て今回の彼の行動にそれなりに現れてくることになる。

 帰宅後、兄妹達はツリーの飾り付けを行う。いっぺんに行わず、今日はこの飾り、明日はあれ、と少しずつ進めていくのが、この過程そのものを楽しむやり方だ。ツリーの向こう側、左方に足元だけ見える可憐らしき人物の、太腿と靴下の色が逆になってしまっているのは、この浮き立つ心を製作者も共有しているということか(やや不本意な表現だが)。一方ラボでは、鈴凛、衛、鞠絵、眞深が、当日のライトアップの計画に知恵を絞っている。鈴凛の原案は今ひとつの出来で、本人が自分のデザインセンスのなさを認めている次第だが、これに関しては衛も眞深も人の事は言えそうにない。これを受けて、鞠絵はペンを借りると、一気呵成に見事な完成図を描いて3人に驚嘆される。第7話でも咲耶のウェディングドレス姿を美しく整えたのは鞠絵だったが、まさに彼女の本領発揮といったところである。
 さて、ツリーを飾り付けていた春歌は、懐中時計を見て咲耶に合図を送る。今は午後4時、夕飯の時間は6時なのであと2時間。咲耶は計画通り、航に「ねえお兄様、今から私にちょっと付き合って下さらない?」と声をかける。買物の付き添いかと航は同行するが、咲耶の理由はそうではなかった。

航 「え? ぼくにプレゼント?」
咲耶「そうよ。私達からお兄様にあげる最高のプレゼントを、今作ってるの。」
航 「でも、何で咲耶ちゃんは?」
咲耶「私は引き付け役よ! お兄様へのプレゼントが何なのか、当日まで分からないようにね。」

 イルミネーションで彩られた街中を、兄と腕を組んで、手を繋いで、寄り添って歩く。こんな時でも、自分がこの役目のために兄を連れ出したことを正直に言える咲耶は、もちろんごまかし続けることが困難であるにせよ、やはり第7話の毅然たる彼女のままである。可憐は、咲耶にこの大切な役目をお願いした。それは、咲耶でなくとも果たせる仕事であり、皆で毎日交替してもよかったに違いない。しかし、可憐は、咲耶一人にお願いした。今まで他の妹達のために尽力してきたお礼として、そして自分からの感謝として、咲耶にこの役目を委ねた。これが可憐達にとってどれほどのことかを知っている咲耶は、だからこそ、黙ってこの幸福を享受することはできない。自分がこうして兄と一緒にいられる時間に、他の妹達は一生懸命頑張っていることを、兄に伝えたい。これが咲耶なりの誠意にほかならなかった。

航 「ぼく、こんなふうにクリスマスを過ごすの初めてだよ。」
咲耶「世界で一番大切な人と一緒の聖なる夜は、神様が力を貸してくれるのよ。」

 そして嬉しそうに航の手を引いて、通りの真ん中の大きなツリーまで駆けていく咲耶の姿は、他の妹達の前ではこらえがちだった、彼女の素直な子供らしさを表してもいる。皆に与えてもらったこの機会を、皆への後ろめたさで遠慮してしまうような咲耶ではない。この機会を得られたことに感謝するには、最大限満喫するのが一番だ。
 ところで、ここで今朝咲耶にお願いに行ったメンバーを確認すると、首謀者の可憐、可憐と仲の良い雛子、さらに自分達が一歩引くことに価値を見出しそうな春歌と鞠絵である。残りの妹達の反応を想像すると、第19話で満たされたうえクリスマス特製料理に余念がない白雪は(可憐と仲が良いこともあり)反対しないだろうし、亞里亞はプレゼントの練習の中核、花穂はその練習に一生懸命であり、衛や鈴凛や眞深は飾り付けが楽しいこともあり特に拘泥せず、千影は我関せずだろうか。可憐の多数派工作はまず成功しているわけだが、この場合、問題は四葉である。今まで兄のチェキに日々努めてきたものの、未だにヒロインとなる機会に恵まれていない。これは鈴凛も同様だが、性格からいって四葉の方がより欲求不満を強めており、とりわけクリスマスというお祭りを前にして、晴れの舞台に立ちたいという焦りは相当のものだったに違いない。この感情は、四葉がこの第20話から髪型を変えていることにも表れている。手を尽くして兄を振り向かせようという努力が様々になされているわけだが、しかし航はどうにも反応が悪く、かえって不満が募っていく。今回は、うっかりプレゼントの中身を航にしゃべってしまう危険性からも四葉は回避されたわけだが、彼女の不満はひとまず鈴凛との共謀によってある程度昇華されるにせよ、に一挙に噴出することとなる。

 それはさておき、ツリーを眺めながら、航は咲耶にプレゼントが何がいいか尋ねてしまい、「お兄様?女の子に直接そんなことを聞いちゃだめじゃない!」とたしなめられる。6時が近づき、ウェルカムハウスの礼拝堂では、他の妹達がプレゼントの練習を終え、咲耶も家に帰ろうと言う。だが航は、プレゼントを選ぶという目的は言わずに、もうしばらく町に留まると応える。「私には、言えないことなのー?」と咲耶は怪しがるも、「まあいいわ、許してあげる。内緒にしても、お兄様のことは全部分かっちゃうんだから。」といつもの調子で先に帰宅する。エスコートしてやらなくていいのかという気もするが、それほどまでにこの島は安全なのか、たんに航の気遣いがそこまで及ばないのか。ともあれ航はあちこちの店を回っていく。第17話での眞深の助言も脳裏に蘇っていたとすれば、妹達の気持ちを考えながら。腕時計、和服、カジュアル、ぬいぐるみ、どれも個々の妹の好みには合いそうだが、クリスマスだから、というものには思えない。さらに咲耶が「私達から」のプレゼントと言っている以上、それは全員協同の贈り物なのであり、自分も「妹達」全員に対する唯一の贈り物を選ばねばならず、ますますその選択は難しい。彼が贈る物が喜ばれないはずはないにせよ、だからこそ航は、妹達への自分の気持ちに一番相応しい贈り物を求め、大いに悩んでいた。

航 「まさかプレゼントを選ぶのが、こんなに大変だとは思わなかった…。」

 困り果てたあげく、やむを得ず1丁目を帰路につくと、ふと覗いたアンティークショップの店内に、航の直感に触れる品物が鎮座していた。すぐさま中に入り、その「クリスマス限定のオルゴール」を見つめていると、店主じいやが久々に登場し、気に入ってもらえること間違いなしと太鼓判を押す。このオルゴールの意匠と楽曲を用意したのはじいや達ではあるが、これを目ざとく見つけて選ぼうとしたのは、この島で成長した航本人である。悩んだだけの甲斐はあった。早速購入したこの贈り物を内緒で家に運び込もうと玄関に入った航は、一同の出迎えに驚き、慌てて荷物を背に隠す。千影も一緒に出迎える中で、花穂が楽譜を落とし、咲耶達が何とかごまかす。航に見当がつかないうちに夕飯の仕度が整い、賑やかな夜が過ぎていく。

 翌22日のアドヴェントカレンダーを亞里亞が開くと、お菓子はマシュマロ。「ふわふわー。」と喜ぶ彼女だが、前日のうちに航達が気を効かして、亞里亞の最も好きなふわふわ系を入れておいたのだろう。夕方の玄関ホールでは、千影がツリーの飾り付けを手伝う姿も見られる。23日のお菓子は花の形のクッキー。夜の礼拝堂から出てくる妹達の姿は、先頭を雛子が走り、礼拝堂の扉前では衛と眞深が手を伸ばしてアーチを作っている。他の者が(四葉・花穂・鈴凛・鞠絵・可憐・春歌・白雪の順で)このアーチをくぐり終え、ちょうど亞里亞の番だろうか、すると最後に千影も通ることになるのだが。こんな小さな場面にも、妹達の心浮き立つ様がよく描かれている。それは、どんな小さなことにも喜びの種を蒔き幸せの芽を見いだす、兄妹の共同生活意識そのものを製作者も分かち持っていることの表れかもしれない(こういう示し方なら理解できる)。一方、アルバイトのサンタとして街頭に立つ山田は、航と咲耶を見て羨ましがり、自分の姿を見られまいと路地に隠れる。寒さと寂しさの中で、彼も彼なりに何かを感じているのだろうか。第11話以来、じいや達からたびたびアルバイトを請け負っていることが、山田を真面目な労働に向けて鍛えていきつつあり、そしてウェルカムハウスの準備に安易に乱入しないほどには、第19話での反省が活かされている。

航 「燦緒へ。いよいよ明日はクリスマス。ぼくが買ったプレゼント、妹達に喜んでもらえるかな…。」

 就寝前に、玄関ホールのツリーがまたしても気になる花穂。24日のカレンダーは「お星様のチョコ」だが、花穂はそれを見つめて「なーんか忘れているみたいな…。」と思い悩む。だが、ほとんど正解を目の前にしながらも、チョコを口に入れた途端に「おいふぃい!」ときれいさっぱり忘れるあたりが、第16話を経ても変わらない花穂の花穂たるゆえんだろう。いかに兄妹が成長しようとも、変わらないものはそのままにある。何事かをやり残したまま、いよいよ今晩はパーティである。


2.クリスマスイヴ

 下校する航が現れるのを、妹達全員が待っていた。咲耶は役目を果たす最終日、他の妹達は飾り付けの仕上げと、各人の準備のための買物に向かう。いったんは各所に別れ別れになるとしても、帰る場所は皆の家である。衛、鞠絵、鈴凛、眞深の4人は、鞠絵の案の通りにライトアップ準備を完成させ、満足気にうなづきあう。可憐、春歌、四葉、亞里亞、雛子の5人は、玄関の飾り付けを作る。おそらく礼拝堂の準備を終えて通りがかった千影に、春歌が一緒に作らないかと誘い、雛子達の声に千影も微笑む。それは、はるか昔に兄と飾り付けをした記憶を重ねてのことだろうか、それとも飾りに用いられるリンゴに第14話での自分を思い出したためか。千影もまた、妹達の一員として、今やこうして普通に迎え入れられている。それに、ツリーの飾り付けにしても第12話の花火にしても、こういう楽しみが決して嫌いではない千影だった。
 街頭では、今宵もアルバイトに精を出す山田。鼻風邪気味になりながら、恨めしげに見上げる島の頂上では、オブジェもサンタの格好を纏っている。あの巨大な物体に着せるとなれば相当の重量になるはずだが、確かに島全体が聖夜の喜びに包まれているかのような光景である。その浮かれたつ空気に足取りも軽く、咲耶は航を広場のツリーの前に連れてくる。いつも通りのツリーに首を傾げる兄に、咲耶は「今日は特別なの。始まるわ!」と指し示す。その瞬間、ツリーに数多の灯がともり、幾条ものライトに照らし出されて、天に昇るような光の道が、ツリーの頂上で星を輝かせた。

咲耶「素敵…。」

 その美しさに見とれる航達。だが、咲耶に手を握られて、航はふと隣に寄り添う咲耶の横顔を見つめ、そして、そこに美が存在した。

航 「きれいだ…。」
咲耶「え?」
航 「あ、いや…。」
咲耶「…お兄様覚えている、聖なる夜は大切な人と過ごす日だって。
   来年もその先も、私がずっとずっと一緒に過ごしたい人は一人だけ。」
航 「咲耶ちゃん…。」
咲耶「それはね…。」

 口づけのように顔を寄せて、兄の耳にそっと囁く。それは、広場の喧騒に覆い隠されて航以外には聞こえない。あえて想像をすれば、(世界一愛してるお兄様。)あるいは(My Sweet Honey.)などといったところだろうか。(この声が届いたひと。)や(お・に・い・さ・ま。)というのもありそうだが、野暮な詮索はさておき航は赤面し、咲耶もまた頬を染める。聖なる夜は、大切な人に想いが届く。そして、咲耶はすぐさま兄に帰る時間だと告げ、年長者として自分の責務を全うするのだった。

 ウェルカムハウスに帰ってみれば、既に屋敷全体に灯りがともり、玄関も美しく飾られていた。ホールでは皆が航達を出迎え、可憐が「お兄ちゃん、気に入ってくれました?」と尋ねる言葉に、航は「もちろん!みんな、素敵なプレゼントをありがとう!」と喜びを素直に表す。だが、それを聞いた妹達は、思わせぶりな笑い声をたてる。「もっと素敵なプレゼント」が、この後に控えているのだ。
 礼拝堂の前で待たされた航は、合図で扉を開き中に入る。航がここに来る姿が描かれるのは、あの第7話での結婚式ごっこ以来である。真っ暗な堂内でまごついていると、祭壇へ向かう通路の両脇に、12本ずつの蝋燭の灯が、千影の部屋と同様に順次点されていく。炎の列が行き着いた奥の壇上にはライトが灯り、そこに並ぶ妹達の姿を照らし出す。向かって左側から、咲耶・千影・春歌・眞深・鈴凛・衛・四葉・鞠絵・白雪・花穂・亞里亞・雛子。これを原作の設定と比較すれば、ほぼ身長順に並んでいることが分かり、さらに眞深の身長は鈴凛(152cm)と春歌(156cm)の間と判明する。花穂(143cm)と白雪(140cm)だけは順番が逆転しているが、これは白雪が成長したのか、あるいは彼女のリボンの効果を考えてのことだろう。(ただし、花穂、亞里亞、雛子の身長は設定よりも低く描かれていることが多いと感じる。)
 壇の上から、咲耶が、そして妹達が、兄に語りかける。

咲 耶「お兄様、びっくりさせてごめんなさい。」
春 歌「ワタクシたち、兄君さまにお渡しするプレゼントを何にしようか、すごく迷いました。」
花 穂「でね、みんなでお話したの。」
 衛 「あにぃには、たっくさんのものをもらったよね、って。」
 航 「ぼくは、何も…。」
千 影「フッ…分からないのかい、兄くん…。」
四 葉「それは、心なのデス!」
鞠 絵「兄上様からいただいた笑顔や優しさ、そして思いやり。」
雛 子「いーっぱい、いーっぱい、おにいたまからもらったよ!」
亞里亞「亞里亞もー。」
鈴 凛「アタシは資金援助もしてもらってるしね、エヘヘ。」
白 雪「だから、姫達からのクリスマスプレゼントも、にいさまの心にプレゼントなんですの!」
咲 耶「お兄様、受け取って。可憐ちゃん!」

 右手のスポットライトに可憐が浮かび、パイプオルガンの調べが広がる。キャラクターコレクション第12巻第4話でも描かれる才能を見せて、日頃ののんびりさとは全く違う歌声を響かせる亞里亞に続き、眞深も含めた13人の妹達が、航に、想いを込めた歌を贈る。原作版の著者である公野櫻子氏が作詞しただけあって、この合唱歌「その奇蹟は永久に」は、兄と同じ世界に生まれ、兄との出会いにより世界が変わり、兄との絆の中で生きることの幸せを見出せた妹達の喜びを、これ以上もなく美しく表現している。とくに第18話まで前世に強く囚われていた千影もここに「花は開き」と歌うのは、彼女の心がついにこの固有の生に向けて開かれていることを示唆している。それは聖夜に相応しい救世主の誕生を祝う歌であるとともに、誕生という唯一の瞬間ではなく皆で少しずつ積み重ねてきた日々への、感謝の祈りでもあった。これを歌いあげる妹達のハーモニー、それは文字通り、兄妹の調和(harmony)の調べである。
 頂上の公園の時計台の上には、黄色い麦藁帽子の少女も腰かけて、ウェルカムハウスから聖夜の風に運ばれて遠く響く歌声を聴きながら、その旋律に身を委ねる。航もまた、礼拝堂の入り口から、歌声に導かれて、妹達の方へと歩を進めていく。歌に込めた妹達の想いは、兄が妹達に寄せる想いでもある。絆がお互いを引き結ぶように、航は妹達の前に立つ。

妹達「メリークリスマス! お兄様/兄くん/兄君さま/あんちゃん/アニキ/あにぃ/
   兄チャマ/兄上様/にいさま/お兄ちゃま/兄や/おにいたま/お兄ちゃん!」
航 「…今までで最高の、クリスマスプレゼントだよ。みんな、本当にありがとう!」

 混じりけのない、お祝いと感謝。とりわけ眞深にとってはこのようなクリスマスは少なくとも久々だったはずであり、偽の妹でありながらこうして妹達が同格に扱ってくれるということに、何よりの感謝を込めた一時だった。他の妹達にしても、物怖じしない眞深のおかげで危機を脱したことも多く、また航の適度な鈍感さのおかげで、そんな眞深の個性も生かせることとなってきた。これから先に何が起ころうとも、この一時だけは間違いなく、眞深もこの家の兄妹の一人だった。
 離れに戻る道すがら、画面には描かれていないが、どれほど楽しげに兄の周りに皆がまとわりついたことだろうか。リビングでは白雪達が腕によりをかけた特製料理が所狭しと並び、トナカイの格好をさせられたミカエルも、骨をくわえて満足そうにしている。そろそろプレゼント交換という咲耶の言葉に、皆が贈ったものは次の通りである。

可 憐 刺繍入りハンカチ (白雪へ) 鈴 凛 目覚まし時計 (眞深へ)
花 穂 鉢植えの花 (可憐へ) 千 影 十字ペンダント (咲耶へ)
 衛 手袋 (花穂へ) 春 歌 巾着 (鞠絵へ)
咲 耶 香水 (千影へ) 四 葉 クローバー模様の写真立て (衛へ)
雛 子 くまサンタのぬいぐるみ (亞里亞へ) 亞里亞 お菓子入り長靴 (雛子へ)
鞠 絵 絵葉書セット (春歌へ) 眞 深 辛さx20 KARA CURRY (四葉へ)
白 雪 エプロン (鈴凛へ)  航 オルゴール (全員へ)

 可憐−白雪−鈴凛−眞深−四葉−衛−花穂−可憐という大きな輪以外は、咲耶−千影、雛子−亞里亞、鞠絵−春歌がそれぞれ交換する結果となっている。これが一応のくじ引きなどによるものだとすれば、相当の偶然というべきか、見事なほど作為的ととるべきか。もちろん、ウェルカムハウスの調和がこの巧みな組み合わせを実現させたと考えてもよい。辛さ20倍のレトルトカレーなんて、辛いのが駄目な妹に渡ったら笑いもとれない。なお、このレトルトカレーは辛いもの好きな鈴凛の試食に供され、さらに航にも一口食べてもらいその反応を「兄チャマファイル」にチェキするなど有効に役立てたものと予想される。
 航が妹達にと贈ったものは、妹達の歌を奏でるオルゴールだった。その木組みの蓋を開けると、穏やかな調べに乗せて、大きな天使と熊がゆっくりと回り、それを囲むように12人の小さな天使達が跪き祈りを捧げている。言うまでもなく大天使は兄、小天使は12人の妹達、そして熊は眞深である。振り返れば、荒っぽい態度で他の妹達の面倒を看たり、航につけつけと物言いしたりと、ある意味で肝っ玉母さんのような役目を勝手に果たしてきたのが、この偽妹だった。第4話で雛子の庇護者の象徴として夢に現れたくまのぬいぐるみは、今は眞深によって部分的に具現しているのかもしれない。
 妹達の感謝の声に、航も、贈り物を気に入ってもらえた喜びに満たされる。だがそこに、玄関を叩く音が響く。雛子がすぐさま「サンタさんだよ、ヒナのお願い聞いてくれたのー!」とはしゃぐが、航が開けた扉の向こうに立っていたのは、涙と鼻水にまみれた山田サンタだった。航に飛びつき泣き崩れる山田は、自分の境遇の寂しさにもはや耐えかねており、第19話で情けない姿をさらせてことでしまった吹っ切れたのか、思う存分みっともなく料理をかっこみつつ「やっぱり、クリスマスは、こうでなくちゃ…。」と嗚咽する。山田としてはついに自分に正直になれたとはいえ、妹達にとってはせっかくの雰囲気が台無しというところだが、それでも山田に料理を食べさせてやるあたりは鷹揚な振る舞いと言えるだろうか。聖夜にあまり冷たくしても罰が当たる、とディケンズの『クリスマスキャロル』あたりを読んだ妹の誰かが考えたのかもしれないし、それでもあくまで山田をリビングには入れないのではあるが。

 この山田サンタの襲来に、最も衝撃を受けたのが眞深だった。「ささサンタが山田で、山田がサンタ!? …いやぁーっ!?」と叫んでいる姿からは、どうやら彼女がサンタの存在を今まで信じ続けていたらしき様子が伺える。眞深は第7話の結婚談義に見るように非常に現実主義者であるのだが、ここでは意外にファンタジーを好む性格を示しているかに思える。これは、たんにサンタのプレゼントに対する物欲として捉えてはならず、また今日の暖かい輪に包まれて彼女が日頃よりはるかに夢想的になり得ていたということだけでなく、彼女にとってこれまでの毎年のクリスマスがどのようなものであったのかを考える手がかりなのである。燦緒を「あんちゃん」と呼べた幼少期はともかく、少なくともここしばらくは、燦緒と共に楽しいクリスマスを過ごすこともできずに来たとすれば、そんな眞深にとって、サンタという存在はただの空想の産物ではなく、自分に贈り物を、つまり一番求める暖かさを与えてくれないことへの不満をぶつける対象だった。その意味でサンタは、確かに実在していなければならなかった。そうでなければ、なぜ眞深が独りでいなければならないかが納得できないからだ。だから今この場所で、その温もりを、実兄からではないにせよこの兄妹から与えてもらえたがゆえに、これを確証するためにサンタが現れるのは願ってもないことであり、また来るべき未来をも贈り物として約束してくれることで、彼女の過去の苦しみを一挙に癒すはずの訪れだったのだ。
 だが、今宵のサンタはよりにもよって山田だった。それは彼女を夢想者からいつもの現実主義者に立ち戻らせるのに十分な衝撃だった。夕飯に喰らいつく山田に、眞深は、偽サンタの袋の中身は何かと凄む。山田がバイトで配った余り物だとひっくり返す袋の中からは、幾つかのプレゼント箱と、銀色のガイディングスターが転がり出た。それを見た花穂が、ようやく何が足りなかったのかに気づく。玄関ホールのツリーのてっぺんに、この星が飾られていなかったのだ。星チョコどころか歌でも「その星をしるべに」などと歌っていながら、どうしてこのことに思い至らないのかと誰一人首を傾げるわけもなく、航はこの大きな銀星をツリーの頂上に飾り付け、花穂は満面の笑みで応える。こうして山田も、全く偶然でありながら、このウェルカムハウスの幸せのために一役買ったことになった。それは、第6話以来彼が担ってきた無意図的な近接支援者の役割を、航の反面教師としてではなくついに直接的・肯定的に果たしたという点で、ひとつの完成と言えるのかもしれない。

 こちらも飾り付けとしてようやく完成したツリーを航達が玄関で眺めていると、咲耶が外から呼びかける。聖夜のプロミストアイランドに、雪が舞い始めていたのだ。これに気づけたのもリビングから出たからだとすれば、やはり山田が乱入したおかげだろう。ゆっくりと、この幸せな時を包むように舞い降りる雪を、航も妹達もただ喜びだけをあらわにして見上げる。航を真ん中に、眞深をやや横に、その周りを12人の妹達が輪になって囲む姿は、あの航のオルゴールのそれと重なり合った。
 ところで、この絶妙なタイミングでの降雪に偶然以上のものを感じるとすれば、例えば頂上のオブジェがサンタの格好をしていることと結びつければ、あのオブジェが今回は天候調整の機能を発揮したと考えることもできるだろう。だが第15話以来の経緯からすれば、別の存在の働きを想定する方が自然だろう。そう、四大の精霊達である。公園の時計台に少女がいたことが、これを間接的に裏付ける。調和の輪に包み込まれた精霊達の、これが兄妹への贈り物だったのだ。

航 「燦緒へ。今年のクリスマスは、今までの中で最高のクリスマスだよ。
   どんなプレゼントよりも、大切な人達がここにいるから。」

 視線を空から戻せば、自分の周りに「大切な人達」。なおも雪に見とれる妹達の向こうでは、山田がミカエルに追いかけられている。おそらくリビングに侵入しようとして迎撃されたのだろう。余計なことをしてかえって輪から遠ざけられるあたりは、緩和されこそすれ相変わらずの山田らしさである。航がぐるりと見わたすと、雪を見ていない妹が2人だけいた。山田の逃走を見て呆れる眞深の姿は、この輪の中にいながらも、やはりここにはいない実兄を見晴かしている想いのさまを暗示している。果たして燦緒と眞深は、せめてクリスマスメッセージメールでも交し合ったのだろうか。そして咲耶は、航を微笑んで見返していた。

咲耶「お兄様。来年も私と二人っきりで、ねっ?」

 そう囁いてウィンクする咲耶の背後には、今しがた場面の左端に消えたものの、雪を見上げている可憐の姿があるはずだ。咲耶の囁きを聞き逃さずに胸の中で
(それは無理だと思うの。)と呟く声が、オルゴールの調べに紛れて伝わってくるのは論者だけだろうか。実に4日間も咲耶に塩を送ったのだ。これでようやく貸し借りなし、勝負はこれから仕切り直しなのだ。ウェルカムハウスの共同生活は完成した、そして今から、また戦いが始まる。互いを認め合い、支え合い、高め合いながら。


終わりに 〜Gloria in Excelsis Sispri〜

 小題名は格変化を無視している。
 これまでの共同生活で培われたものを総括したこの第20話については、その上さらに何を語るまでもない。兄妹の絆とこの島の調和を満喫した以上は、第5話以来静かに続けられてきた燦緒との戦いの決着が待ち受けていることだけを、ただ付記するのみである。このクリスマスは共同生活の完成を指し示すが、これが大団円を即意味するわけでは決してない。航は島に来る前の過去と現在とをしばしば比較するようになっているが、そのような時間軸による「いま」の理解だけなく、島と都という空間軸の対比によって、「ここ」をいかに守ろうとするのかが最後の問題として課されているのである。もちろん、そのような決戦を云々する以前に、残る2人のヒロイン、つまり鈴凛・四葉の物語が当然控えているのではあるが。

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