『ベイビー・プリンセス』公式日記における姉妹の相互言及(3)

〜3年目の変化とその意味〜



はじめに

 この2年間にわたり、論者は、『Baby Princess』(以下べびプリ)公式日記(WHOLE SWEET LIFE)における姉妹の相互言及(自分の担当回に他の姉妹の名を記す回数・頻度)について調査してきた。1年目の調査では姉妹各人の個性と関係性などを読みとり、2年目の調査では1年目との数値的比較から、長男に対する態度の変化を浮かび上がらせた。日記がついに3年目(2009/12/24-2010/12/23)を迎えたとき、そこに示された変化は2年目のそれを引き継ぐものだったのだろうか。それとも、別の傾向が現れていたのだろうか。本論では、その変化の具体的な姿と意味とを、『電撃G's magazine』(以下本誌)連載内容も参照しつつ検討する。


1.日記における姉妹の言及数・被言及数:3年目

 前回・前々回と同じく、期間内の日記において各人が挙げた姉妹の名を単純に数えたものを表1Aに示す。ある担当日に同じ姉妹の名が複数回挙がっても、言及数・被言及数はそれぞれ1とする。言及人数・被言及人数は、それぞれ自分を除く姉妹18人のうち1度でも担当日記中で言及・被言及している人数を示す。霙がヒカルになりすました回(4/1)については、ヒカルから霙への言及ではなく、霙からヒカルへの言及数1として処理する。小雨の絵のみ更新(10/30)は日記の担当回数に含めない。

表1A. 公式日記3年目における姉妹の言及数・被言及数
言及者/被言及者 綿 総言及数(A) 言及人数(C)
海晴 - 1 1 2 2 1 1 1 3 1 2 0 1 1 0 2 0 0 0 19 13
2 - 7 4 5 2 2 0 1 1 1 2 0 0 0 0 1 0 1 29 12
春風 1 1 - 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 2 2
ヒカル 5 1 2 - 2 0 1 0 1 0 0 1 0 1 0 1 1 1 0 17 11
3 2 2 1 - 2 3 0 1 1 1 0 0 1 0 1 2 2 2 24 14
氷柱 1 0 2 1 4 - 2 0 0 1 3 0 1 0 1 1 1 0 0 18 11
立夏 0 2 1 1 3 3 - 1 1 0 1 0 0 0 0 0 0 0 1 14 9
小雨 2 1 2 2 1 0 4 - 2 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 14 7
3 0 1 0 0 1 1 1 - 0 0 0 0 0 0 1 0 1 0 9 7
星花 4 1 1 1 0 1 1 1 1 - 5 1 1 0 3 1 0 1 1 24 15
夕凪 0 3 3 2 1 2 1 0 3 1 - 0 0 1 0 2 1 1 1 22 13
吹雪 3 1 2 0 4 1 3 1 1 0 2 - 1 0 1 3 1 1 1 26 15
綿雪 4 0 0 0 0 1 0 0 0 2 1 4 - 1 1 2 1 1 1 19 11
真璃 1 1 0 0 0 1 0 1 0 1 3 1 0 - 0 1 1 2 0 13 10
観月 0 1 0 0 1 1 0 1 1 1 2 1 0 0 - 1 0 0 0 10 9
さくら 0 0 2 0 1 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1 - 1 3 1 10 7
虹子 0 2 0 0 1 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 - 1 0 5 4
青空 2 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 1 0 - 0 5 4
あさひ 0 0 0 0 0 1 0 0 1 0 1 0 0 0 1 1 0 0 - 5 5
総被言及数(B) 31 17 26 15 25 19 19 7 16 9 22 10 5 5 8 18 10 14 9 285 -
被言及人数(D) 12 12 12 9 11 14 10 7 11 8 11 6 5 5 6 13 9 10 8 - -


 他の姉妹への総言及数では、霙(29)、吹雪(26)、蛍・星花(各24)、夕凪(22)が上位に並び、続いて海晴・綿雪(各19)、氷柱(18)、ヒカル(17)の順となる。2年目に引き続き、全体として減少傾向にあり、とくに小雨が上位陣から消えた。
 他の姉妹からの総被言及数では、海晴(31)、春風(26)、蛍(25)、夕凪(22)の順となり、40台が消滅して過去ならば中位クラスの20台でさえ上位となったほか、首位が氷柱から海晴へと移った。
 言及人数では、星花・吹雪(各15)、蛍(14)、海晴・夕凪(各13)と、夕凪が新たに上位者に加わった一方で、春風(2)、小雨(7)が激減した。姉妹全員の名を最低1度でも挙げた者は、ついに皆無となった。
 被言及人数では、氷柱(14)が首位を維持したほか、さくら(13)を除けば年長者が上位を占めた。
 特定の姉妹間で5回以上言及しているペアは、霙から春風(7)、霙から蛍(5)、ヒカルから海晴(5)、星花から夕凪(5)のみとなり、氷柱から綿雪(1)のような1年目から継続しているペアはもはや存在しなくなった。
 相互言及数では、前回は合計1にすぎなかった霙(7)&春風(1)ペアの8を筆頭に、海晴(2)&ヒカル(5)ペアと霙(5)&蛍(2)ペアの7、海晴(3)&麗(3)ペアと蛍(2)&氷柱(4)ペアと蛍(3)&立夏(3)ペアと星花(5)&夕凪(1)ペアの6、の順である。前回最上位の霙(今回2)&氷柱(0)ペアのほか、海晴(1)&氷柱(1)ペアやヒカル(2)&蛍(1)ペア、小雨(0)&吹雪(1)ペアが上位陣から消えた。1年目でヒカル&蛍ペアと並び最上位だった氷柱(1)&綿雪(1)ペアは、2年目同様、3年目もわずかな数にとどまった。

 より詳しく比較するために、3年目の数値から2年目の数値を差し引いたものが表1Bである。マイナスの値は太斜字で記されている。

表1B. (3年目の言及数・被言及数)−(2年目の言及数・被言及数) 太斜字はマイナス値
言及者/被言及者 綿 総言及数(A) 言及人数(C)
海晴 - 0 1 0 0 3 0 1 1 1 1 0 1 1 1 0 1 1 1 4 1
1 - 6 1 0 6 1 1 4 0 0 1 2 2 2 1 1 0 1 10 3
春風 1 1 - 2 3 1 0 0 0 0 1 1 0 1 1 1 0 2 11 7
ヒカル 1 1 2 - 4 5 0 1 2 0 0 1 0 1 0 1 1 1 1 10 2
1 0 0 0 - 1 1 0 1 1 0 0 0 0 0 0 2 1 1 5 2
氷柱 3 3 0 0 4 - 2 1 3 0 1 0 5 1 1 0 0 0 0 8 1
立夏 3 2 2 0 4 1 - 1 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 3 3
小雨 2 1 1 1 1 1 0 - 2 0 2 2 0 3 1 2 1 2 1 13 7
1 1 1 1 0 0 1 1 - 0 0 0 1 0 0 1 0 1 0 1 0
星花 3 0 2 1 2 1 1 0 0 - 1 2 2 2 2 1 1 0 0 3 0
夕凪 4 2 1 2 2 3 2 2 0 2 - 3 1 1 2 2 1 1 1 12 0
吹雪 2 0 0 1 2 3 1 4 5 3 1 - 1 1 0 2 0 0 0 12 3
綿雪 3 1 0 0 1 2 0 0 1 2 1 4 - 1 1 0 1 2 1 3 2
真璃 1 1 2 0 1 0 1 0 1 0 2 1 0 - 2 0 1 1 0 4 3
観月 2 1 1 0 0 0 0 0 1 1 2 1 0 1 - 1 0 0 2 5 1
さくら 0 1 1 0 0 0 0 1 2 0 0 0 0 2 1 - 0 1 1 2 2
虹子 0 1 1 1 1 1 1 0 2 0 1 0 1 0 0 0 - 1 1 10 7
青空 2 0 0 1 2 0 0 0 0 0 0 1 0 0 1 0 - 1 2 2
あさひ 0 0 0 1 0 1 0 0 0 0 1 0 0 0 0 1 0 0 - 2 2
総被言及数(B) 2 2 1 0 13 25 1 9 22 0 5 2 12 12 6 4 1 0 3 96
被言及人数(D) 0 1 2 2 3 2 0 3 4 3 1 0 3 5 4 3 1 1 2


 総言及数における全体的な減少傾向は、3年目も引き続き確認された。3年間にわたる個人ごとの傾向をみると、減少継続が海晴、春風、ヒカル、氷柱、立夏、小雨、麗、吹雪(このうち春風と吹雪のみ減少傾向が加速)。減少から増加への転換が蛍、綿雪、青空。増加から減少への転換が霙、星花、夕凪、真璃、観月、さくら、虹子(このうち霙、夕凪、虹子の転換が極端)。そして、ごくわずかながらの増加継続があさひである。
 他の姉妹からの総被言及数も、海晴、夕凪、さくら、虹子を除いておおむね減少した。
 被言及人数でも、星花(-7)をはじめ総体として減少しながら、氷柱(+4)や麗(+2)などは増加した。

 なお、本誌連載における言及について一覧すると、表2のとおりである(2011年4月3日現在)。

表2. 本誌連載における姉妹の言及対象
2010年3月号 (べびコレ#04 立夏)立夏から「チビたち」(絵はさくら、青空、あさひ)
4月号 (べびコレ#05 春風)春風からさくら、夕凪、小雨、青空、ヒカル、氷柱
5月号 (べびコレ#06 麗)麗から立夏、小雨
6月号 (19人姉妹日記)立夏から麗/蛍から綿雪/氷柱から海晴、霙/
7月号 (べびコレ#07 小雨)小雨から麗、立夏
8月号 (べびコレ#08 海晴)海晴から氷柱、立夏、麗、小雨、さくら、虹子、青空、あさひ

 姉妹各人の日常コメントページは激減したままだが、年長者中心のべびコレシリーズでは、公式日記よりも姉妹への言及が積極的になされている。


2.日記あたりの頻度としての言及度:3年目

 3年目の日記では、1年目(麗22回)・2年目(氷柱18回)のような突出した担当回数の者はいない。日記あたりの頻度は表3Aのとおりである。

表3A.公式日記3年目における姉妹の言及度
総言及数
(A)
日記数
(E)
日記当
言及度
(G)=(A/E)
被言及数
(B)
他姉妹
日記数
(F)
他日記当
被言及度
(H)=(B*18/F)
相互言及度
(G+H)
言及度差
(G-H)
言及
人数
(C)
被言及
人数
(D)
言及
人数差
(C-D)
海晴 19 13 1.46 31 243 2.30 3.76 -0.84 13 12 1
29 13 2.23 17 243 1.26 3.49 0.97 12 12 1
春風 2 14 0.14 26 242 1.93 2.07 -1.79 2 12 -10
ヒカル 17 15 1.13 15 241 1.12 2.25 0.01 11 9 2
24 12 2.00 25 244 1.84 3.84 0.16 14 11 3
氷柱 18 14 1.29 19 242 1.41 2.70 -0.12 11 14 -3
立夏 14 14 1.00 19 242 1.41 2.41 -041 9 10 -1
小雨 14 13 1.08 7 243 0.52 1.60 0.56 7 7 0
9 13 0.69 16 243 1.19 1.88 -0.50 7 11 -4
星花 24 14 1.71 9 242 0.67 2.38 1.04 15 8 7
夕凪 22 13 1.69 22 243 1.63 3.32 0.06 13 11 2
吹雪 26 14 1.86 10 242 0.74 2.60 1.12 15 6 9
綿雪 19 13 1.46 5 243 0.37 1.83 1.09 11 5 4
真璃 13 14 0.93 5 242 0.37 1.30 0.56 10 5 5
観月 10 13 0.77 8 243 0.59 1.36 0.18 9 6 3
さくら 10 13 0.77 18 243 1.33 2.10 -0.56 7 13 -6
虹子 5 13 0.38 10 243 0.74 1.10 -0.36 4 9 -5
青空 5 14 0.36 14 242 1.04 1.40 -0.68 4 10 -6
あさひ 5 14 0.36 9 242 0.67 1.03 -0.31 5 8 -3
計 285 計 256 平均 1.11 計 285 延4608 平均 1.11 平均 2.22 平均9.42

 日記あたり言及度の上位は霙(2.23)、蛍(2.00)、吹雪(1.86)、星花(1.71)であり、ヒカルや小雨、綿雪は2年目に続いてトップ集団にいない。下位は春風(0.14)、青空・あさひ(0.36)、虹子(0.38)、麗(0.69)であり、麗よりも春風が突出してきた。春風のこの値は1年目のあさひ(0.15)を越えた歴代最低値である。
 他の姉妹の日記あたり被言及度の上位は海晴(2.30)、春風(1.93)、蛍(1.84)、夕凪(1.63)であり、前回首位の氷柱が後退したほか、麗が平均並みに下がった。下位は綿雪・真璃(0.37)、小雨(0.52)、観月(0.59)であり、乳幼児や小雨の値がやはり低い一方、さくらが平均値を越えた。
 この2つの値を合計した相互言及度では、蛍(3.84)を筆頭に海晴(3.76)、霙(3.49)、夕凪(3.32)、氷柱(2.70)、吹雪(2.60)と続いており、麗が平均値未満まで急激に下がった。ヒカル・小雨・綿雪の名は引き続き消えたままである。
 言及度差について、正に大きいのは上位から吹雪、綿雪、星花、霙であり、綿雪が2年目のマイナスから復活した。小雨はわずかに正の値だが、ヒカルと夕凪はほぼゼロである。負に大きいのは上位から春風、海晴、青空、さくらの順となっており、麗の値が目立たなくなった。
 言及人数差が正に大きいのが吹雪、星花、真璃、綿雪の順であり、負に大きいのが突出して春風、続いてさくら・あさひ、虹子、麗の順である。差が小さい姉妹のうち、言及人数と被言及人数がともに大きいのは海晴(13-12)が筆頭であり、ともに小さい側に小雨(7-7)が属した。

 ここでも比較のために、3年目の数値から2年目の数値を差し引いたものが表3Bである。マイナスの値は太斜字で記されている。

表3B.公式日記2年目・3年目間における姉妹の言及度の差
総言及数
(A)
日記数
(E)
日記当
言及度
(G)=(A/E)
被言及数
(B)
他姉妹
日記数
(F)
他日記当
被言及度
(H)=(B*18/F)
相互言及度
(G+H)
言及度差
(G-H)
言及
人数
(C)
被言及
人数
(D)
言及
人数差
(C-D)
海晴 4 0 0.31 2 - 0.16 0.15 0.47 1 0 1
10 1 0.56 2 - 0.15 0.61 0.41 3 1 2
春風 11 2 0.95 1 - 0.05 1.00 0.89 7 2 5
ヒカル 10 2 0.95 0 - 0.01 0.94 0.96 2 2 4
5 2 0.64 13 - 0.97 0.33 1.61 2 3 5
氷柱 8 5 0.08 25 - 1.92 2.00 1.84 1 2 1
立夏 3 1 0.31 1 - 0.07 0.38 0.24 3 0 3
小雨 13 2 0.72 9 - 0.67 1.39 0.05 7 3 4
1 2 0.02 22 - 1.79 1.99 1.77 0 4 4
星花 3 1 0.37 0 - 0.01 0.36 0.38 0 3 3
夕凪 12 0 0.93 5 - 0.38 0.55 1.31 0 1 1
吹雪 12 1 1.06 2 - 0.15 1.21 0.91 3 0 3
綿雪 3 0 0.23 12 - 0.88 0.65 1.11 2 3 5
真璃 4 2 0.49 12 - 0.88 1.37 0.39 3 5 2
観月 5 0 0.38 6 - 0.44 0.82 0.06 1 4 3
さくら 2 1 0.09 4 - 0.29 0.20 0.38 2 3 5
虹子 10 0 0.77 1 - 0.08 0.69 0.85 7 1 8
青空 2 2 0.11 0 - 0.01 0.12 0.10 2 1 1
あさひ 2 1 0.13 3 - 0.22 0..09 0.35 2 2 4
96 -1 平均 0.37 96 - 平均 0.37 平均 0.74 平均 1.18

 相互言及度はさくらと青空の微増を除いて、全体的に低下傾向が続いている。
 言及度差については、年少者も年長者と同じく減少傾向に戻ったが、その傾向の中でも蛍・氷柱・麗・綿雪は逆に数値を目立って上昇させている。このうち蛍と綿雪については、日記当言及度が上昇しているとおり、他の姉妹への言及度が回復したことによる。一方、氷柱と麗は被言及度が2年目ほどには高くなかった結果であり、言及度はほぼ横ばいのままである。


3.言及数・言及度に基づく姉妹のタイプ変動とその原因

 以上の公式日記データをもとに、姉妹を1・2年目と同様のタイプに分類してみよう。(上の表1A・1B、表3A・3Bは参照用ファイルにて別画面で閲覧できる。)これまで用いてきたのは、以下の5つのタイプ区分だった。

表4.タイプ一覧
タ イ プ 言及度 被言及度 言及人数 言及人数差 様      態
母性的保護者=姉タイプ 平均以上 みなの面倒を見ながら、まとわりつかれるタイプ
父性的保護者=男役タイプ 平均未満 みなの面倒を見ながら、超然とするタイプ
観察者タイプ みなの様子を見ながら、落ち着いていたり籠もっていたりするタイプ
バランスタイプ ほどほど ほどほど ほどほど ほどほど 姉・妹としてそれなりにうまくやっているタイプ
関心事優先タイプ 様々 長男独占欲求の強いお姫様やお子様か、わが道を行くタイプ


 これにしたがい、3年目の姉妹をデータによって分類し、1・2年目と比較したものを表5に示す。

表5.公式日記における姉妹のタイプ分類とその変化
タイプ 母性的保護者 父性的保護者 観察者 バランス 関心事優先
1年目 海晴、蛍、氷柱 霙、ヒカル 小雨、吹雪、綿雪 星花 春風、立夏、麗、夕凪、真璃、
観月、さくら、虹子、青空、あさひ
2年目 - 霙、(星花) 小雨、星花、
(夕凪)、吹雪
海晴、ヒカル、(小雨)、夕凪、
綿雪、真璃、観月、虹子
春風、蛍、氷柱、立夏、麗、
(観月)、さくら、青空、あさひ
3年目 霙、(星花) 星花、吹雪、綿雪 海晴、ヒカル、氷柱、小雨、
夕凪、真璃、観月
春風、立夏、麗、(観月)、
さくら、虹子、青空、あさひ


 あくまで数値上の結果であり、この3年目についても1つのタイプに特定できない者が少なくないが、さしあたりこの分類に基づいて考察しよう。
 まず、2年目に消滅していた母性的保護者タイプが復活した。蛍はあの1年目の圧倒的な数値にはとうてい及ばないものの言及度を回復したため、被言及度などは低下継続ではあるが他の姉妹との相対的評価から、母性的保護者タイプの条件を満たしたものと判断した。
 父性的保護者タイプの欄では、霙にくわえて星花が足半分をここに置いている。ただし常連の霙も、全般的に数値を減少させてはいる。
 観察者タイプの欄では、小雨の名がついに消えた。言及度、言及人数ともに平均値を割り込んだのである。この一方、綿雪が言及度・言及人数の再増加によりこのタイプに復帰した。なお、真璃が数値上ややこのタイプに接近しているが、言及人数がいっそう減少しているため、この欄に含めなかった。
 バランスタイプの欄では、虹子が抜けて氷柱が加わった。氷柱が関心事優先タイプからこちらに移ったのは、被言及度の減少により結果的に数値上のバランスがとれたことによるが、後述するように具体的な記述内容をみれば必ずしもバランスタイプとは言い切れない。
 関心事優先タイプの欄からは蛍と氷柱が消え、虹子が戻ってきた。年少者による言及数が2年目に比べて減少したため、バランスタイプには含めにくくなった。
 1年目)には、2つの保護者タイプ=年長者的な集団とそれ以外の年少者的な集団に大別できた。2年目)には、数値上は年長者集団がほとんど消えてしまっていた。これに対して3年目は、関心事優先の傾向が(数値減少の継続というかたちで)なお続きつつも、その度合いがごく若干ではあるが落ち着いたものと捉えられる。

 以上の推移をもとに、きょうだいの3年目はどのような姿で浮かび上がるだろうか。
 公式日記の1年目は長男を新たな生活に馴染ませるための導入的な自己紹介と姉妹相互紹介、2年目はその成果をふまえた姉妹各人の自己主張の場であった。3年目は、この各人の自己主張とそれによる長男との関係深化を優先させながら、

自分以外の姉妹が今日行ったことについて長男に説明しなくともすむようになった、とも解釈できる。つまり、長男がその場面にいていつもどおり振舞うということが、姉妹にとってとくに注目しなくてすむほど当たり前のことになってきているのである。

氷柱と麗にとくに顕著であるように、長男の参入による動揺がおおむね落ち着き、また姉妹各人の暴走行為が2年目に比べて目立たなくなった
とはいえ、氷柱の場合は

 まず、家族生活そのものを日記で描くのは1年目でおおむね終了した、と考えることができる。これは、読者に与える情報のコントロールという製作者視点でも理解可能ではある。だが、そもそも公式日記とは、長男がこれを読んで早くこの生活に馴染んでくれるように、という海晴達の思惑で始まったことをふまえれば、1年を共に生活した段階で長男もおおよそ要領を得たため、姉妹が家族生活を日記に綴る必要性が薄れたと言うべきだろう。その結果、他の姉妹のふるまいに言及することも少なくなったのである。
 となればその分だけ、自分のことや自分と長男の関わりについてもっと多く綴ることが可能になり、当然ながら姉妹はそれを望んだ。2年目初頭に麗が日記の本来の目的を満たしたのだから終了していいのではないかと問うたのは(1/15)、このような日記の役割の転換点を意識化させる出来事だった。こうして姉妹は各人の興味関心をより前面に押し出すこととなり、結果として保護者タイプ的・観察者タイプ的な日記文章は1年目よりも数を減じることとなった。蛍などは、やはり「みんな」などという表現できょうだい全体への配慮を変わらず示しているとはいえ、長男の妹であることの幸福感を、1年目にも増して直球で綴っている(本誌連載べびコレ#2も同様)。彼女の場合は、きょうだいに対して母親的保護者タイプであり続けながら、ただ日記担当回では長男の前で一人の妹たらんとしているのである。

 もっとも、例えば小雨や綿雪のように、自らの変化・成長がタイプの変更につながった者達もいる。小雨は始業式の日に今年の目標を掲げ、なお失敗反省は多いものの前向きに行動しようと努めてきた。綿雪は体調の安定もあって、将来の夢に向かって進もうとしている。両者とも、長男の訪れ以降に少しずつ自らの意志を日記に綴りだしており、この2年目はとくに綿雪の場合、長男との関係ばかりを話題にすることが多かった(このことが氷柱の家出事件にもつながっていく)。
 しかし、各人の変化ということでいえば、年少者はきわめて不利な立場にある。綿雪は今まで他の年少者と同じ生活ができなかったため、体調安定によって普通の年少者化(関心事優先タイプ化)することが、一つの大きな変化となっていた。これに対して、他の年少者は、誕生日を迎えても年齢を重ねないということもあって、ほとんどこの2年間で成長していない。夕凪が氷柱の解決策に感動したり、さくらが真璃の格好よさに憧れたりはするが、総じてそのような衝撃が妹達の成長を促したという形跡は乏しい。例えば星花は1年目にコヤマくん事件を経験しているが、これと連関した変化は2年目にはまったく見られない。また、長男という年の離れた兄との関係がひとたび確立してしまえば、その後は年少の妹として多少の我儘を許され可愛がってもらえるものの、それ以上に長男との距離を縮めたり、そこに複雑な含意を発見したりすることは、年少者にはほとんど不可能である。(この安定しすぎる問題は、逆に最年長の海晴にも通ずる。妹達が安心して暴れられるのは長女の確固たる庇護のおかげなので、姉弟関係が揺らぎにくいのだ。ただし、パートナーシップの確立というテーマは海晴と長男にとって固有の絆でもあった。)
 一方、年長者の場合は、思春期の少女であることから、長男を焦点とする変化の足取りを数名が日記に残している。ヒカルは1年目に引き続き乙女な側面をいっそう無防備にさらし、小雨も上述のとおり思春期の入り口を垣間見せている。長男への女性的な思慕とその揺れという、シスプリでも年長者が担っていた要素が、ここに継承されているのである。本誌連載でも、母親の暴走にすぎないかのようにして始まった「真夏のファミリーバトル」が、表向きは年長・年少を問わず共有されている一方で、姉妹各人の内面までとらえてみれば、年長者への刺激はことのほか大きい。べびコレシリーズは果たして年少者の分まで描かれ得るのだろうか。

 このような年長者優位の状況で進められた2年目の日記において、どのような事件が目立って生じていたかを列挙してみよう。
 1月に麗の日記やめる騒動とヒカルによる解決、2月に綿雪の発熱から氷柱のバレンタインやめる騒動、3月に麗の遊園地行きたくない騒動と氷柱による解決、4月に健康診断データ騒動と立夏のブラ着用、5月には味噌餡ショックとヒカルのキス騒動、6月に授業参観と氷柱の偽装デート騒動、7月に麗のジャンケン騒動と立夏のアイス喰いすぎ、8月にオシャレ泥棒出現と宿題始末記、9月に蛍酔っ払い騒動、10月に氷柱留学希望・家出大騒動、11月はとくになく、12月に麗・氷柱・長男がインフルエンザ罹患。
 もはや明白すぎるのは、2年目は氷柱と麗の年、とりわけ氷柱メインの年だった、という事実である。緋燕白昼夢『うらプリ』にて泉信行氏が指摘していた、「妹的ヒロイン」のトップである氷柱と、「氷柱のサブ」である麗。この2年目も麗は決して少なくない騒動の担い手となっているが、彼女に起因する遊園地騒動では氷柱が鉄道博物館行きという見事な解決策を示したし、インフルエンザ罹患でも麗に始まり氷柱で終わった。また、「恋人的ヒロイン」のトップであるヒカルも、キス騒動で主役を務めたほか、姉妹の問題解決に安定した役割を果たしてはいる。しかし、年間を通じて氷柱ほどに家族生活をかき回し、そのつど揺れる内面を露呈したわけではない。2年目のメインヒロインは、第3回人気投票1位の氷柱なのである。
 (余談となるが、ヒカルが中心人物になりにくいのは、公式日記における長男との関係がいくぶん不明瞭であることも影響している。小説版ではヒカルが陽太郎を連れてくることで、最初に出会い、同い年で、最も近くにいるはずの家族の一員という立場を確立している。しかし、公式日記のヒカル紹介文では、「なんでこんな家にひっかかっちゃったんだよ?」とあり、長男の訪れに積極的な働きをなしていないことが分かる。このため、公式日記のヒカルはもう少し積極的に動いてもいいのだが、もともと強力な設定でもあり、1年目以上に能動的になるのは姉妹のバランスからみて難しいのかもしれない。)

 氷柱を筆頭とする年長者達が長男との関係をめぐって変化する各人の内面を綴るとき、それはしばしば彼女達が引き起こした騒動の最中である。そこで繰り広げられる思春期ならではの感情のもつれそのものに、年少者が関与する余地はない。しかし、そのもつれの表出である言い争いや箝口令その他の出来事については、年少者も巻き込まれ、あるいは自らその発端となり、関与可能となる。こうして、事件の推移を描くうえで、年少者の日記担当回は、叙述上の役割を担うことになる。いわばギリシャ悲劇のコロスのように、年長者の言動の目撃者として状況を日記に直接描写する。あるいは、一見して日常的なほのぼのした内容の背後に、ややこしい事態が続いていることを読者に間接的にほのめかす。日記を読者向けコンテンツとしてとらえれば、これは「溜め」をつくって読者に期待・不安を抱かせる手法の現れである。そしてまた、作品内論理にしたがえば、これは長男との距離を変化させづらい年少者と、変化させやすい年長者の相違に由来している。とくに星花や真璃は、幼児達よりも事件に接近して語ることできる。また、夕凪は騒動の当事者や媒介者として、年長者の反応を日記に綴ることが多い。事態の描写にこの妹達が果たす役割は1年目に比べて大きなものとなっているが、しかしそれは、彼女達が話題の中心となる機会をますます減少させているということでもある。

 以上をまとめてみるならば、以下のようになるだろうか。時間が1年単位では循環しつつ、各人の内面において固有の流速をもつという作品世界。その中で、変化せず言及されにくくもなった年少者が、年長者の変化に伴う騒動を描写した結果、観察者タイプやバランスタイプに接近するという事態こそ、2年目のデータ上の変化が意味するものである。そしてその背景には、きょうだいの中で日記が果たす役割の変化が存在していたのだった。
 しかし、この傾向は、年少者の日記担当回がたんなる解説回として機能することを促進してしまうかもしれない。日記を通じて描かれる物語の主役は一部の年長者で、その他の姉妹は脇役として位置づけられる。この格差は、ヒカルや氷柱、麗などの設定上「ずれ」を抱えた者だけが物語の主動因となりうることを鑑みれば、本作品にとって当初から予定されていたことであるとも言える。だが、その場合、シスプリ原作が12人の妹達全員を最後まで同格に扱い続けていた(個々の人気への対応はあっても、1キャラごとに用いるページ数やキャラクターコレクションなどに差をつけなかった)ことと比べると、本作品における姉妹の格差は、人気投票の流動性を大きく損なう危険性がある。
 この危険性と引き替えにべびプリが獲得しようとしたのは、すでに繰り返し指摘してきた作品の物語としての流動性、ドラマ性である。実際、シスプリにおいても、単一の妹を対象とする本誌連載やキャラクターコレクション、アニメ版リピュアBパートなどと異なり、複数の妹を登場させた物語ものであるポケットストーリーズやリピュアAパートでは、妹達の扱いに差が生じていた。全員を登場させつつ各妹を比較的公平に扱ってひとつの物語を描写しえたのは、アニメ版第1作のみであり、今更ながらあの作品の価値がうかがい知れる。しかし、あのプロミストアイランドでさえも、兄妹の共同生活の完成と調和に至った最終回のその後を想像するならば、もしかしたら妹達の間で何らかの格差が生じた可能性もある(論者はまったく賛同しないが)つまり、べびプリ公式日記は、あの島の描かれざる2年目を、航達とは異なるきょうだいの中で表現する段階へと、意欲的に踏み込んでいるのである。


4.姉妹各人についての分析

 ここでは、3年目の姉妹の一人ひとりについて、1・2年目と同様にふり返ってみよう。

 海晴は母性的保護者=姉タイプからバランスタイプへと移動したのち、ここに定着した。しかし、さくら(1/28)や麗(4/9)への配慮に見られるように、やはり最年長者としての役割を担う姿も変わりない。(とくに公平さを維持する役割を年少時から務めていたことは、霙の10/29の愚痴からもうかがえる。)そして、いずれの場合にも、とるべき対応へのアドバイスを行うにとどめており、家の中での問題解決を長男に委ねる姿勢は揺るぎない。パートナーシップを(愚痴も含めて)分かち合うという固有の絆についてもあらためて明言しており(2/146/7)、自分の通知表を弟につけてとねだるのは、この二人の間に確立された信頼感のあらわれとも言えるし、今までの様々な重圧(9/21)からの憩いの場とも言える。そのさい長男をからかいつつ甘える癖も相変わらずだが(7/30など)、その中にも一瞬本気が垣間見えて、そこにまとわりつくためらいが可愛らしい。

 霙は3年間、父性的保護者=男役タイプのままである。 星花と夕凪がふてくされているときに長男の務めを示唆してやる(5/20)あたりは、さすがと思わせてくれる。しかしその一方で、麗がふさいでいるときには水ようかんのことしか心配していない(6/10)のは、氷柱の場合(9/16)と同じようにいつものことと割り切っているからか、それともあんこ優先というだけなのか。おそらくその両方なのだろう。実際この3年目は、彼女特有の思索(1/26、)、食欲(2/146/107/2910/2911/1812/17)、きわどいからかい(7/298/1911/18)という3項目のうち、明らかに食欲関連が突出している。お見合い(4/23)という一大事件でさえ、食欲の問題に還元されてしまった(4/1の偽名日記を読むと、長男へのからかいにやや本気度が混じっているようにも思えるが)。「本当に−−まったく。大人げがない!」(10/29)とはいえ、これは3年目ともなると長男にほぼ安心して任せていられるということでもある。(霙は要領がいいだけでなく小器用だったのが、妹達に各自の得意な分野を委ねていくうちに不得意になってしまった、という「やる気のない万能タイプ説」を論者は唱えている。)

 春風は関心事優先タイプのままである。しかも3年目の総言及数2という値は、1年目のあさひと並んで歴代最低を記録するに至った。妹達の靴洗い(3/10)や食事管理(4/14)なども例年どおりあるにはあるが、それらも含めた全ての担当回が長男への誘惑で結ばれている。「大人になるの(はぁと×3)」(8/25)ともなると、さすがに(アニメ版のように)長女からのお叱りがあったことを期待するしかない。「家族」のために、と培ってきた能力が、長男と出会ってからは長男のためにというベクトルを与えられて収斂・加速している、というのが本人も自覚するところだが(11/16)、この過程(と暴走)はアニメ版シスター・プリンセス第1作の白雪とよく似ている。それにしても、公式日記を通してみれば春風担当回はその瞬間風速ゆえに日常にメリハリを与える機会となっているが、彼女自身の日記のみでは毎日が春一番のようなもので、かえって波乱に乏しい。実際、日々の振る舞いがこの通りなのだろう。

 ヒカルは父性的保護者=男役タイプからバランスタイプへと移動したのち、ここに定着した。彼女の持ち味は、筋肉脳と乙女心の天然合体とその振れ幅にあるわけだが、3年目もそのへんぬかりはない(5/76/296/30)。「プロポーズコンテスト」に動揺(2/122/14)し鬼の霍乱を起こしたのち、真正面から堂々と応える(2/19)というのも、相変わらず溜めて振りぬく破壊力である。季節の変わり目にしんみりするのも例年通り(8/309/2811/5)。ただ、長男と二人で穏やかなひとときを過ごしたいという欲求は、かつて以上に感じられもした(さらに12/21)。もともと姉妹から離れて独りでいたい時のある少女だったが、その気持ちや時間を分かち合いたい唯一の相手が長男であり、ここにスポーツや他の姉妹を媒介としない固有の絆が生まれている。また、青空を養子にという冗談話に憤ったヒカルのきょうだい思いの姿(1/18)と、霙の見合い話を受けて姉の巣立ちを心配するよりも長男の気持ちを尋ねた姿(4/2)との間の微妙なずれには、(見合い話がエイプリルフールのネタだった可能性は当時強かったとしても)ヒカルの乙女心の揺れ具合を確認できる。とはいえ、2年目に続いて3年目もわりあい穏やかな日記内容だったとは言えるだろう。

 蛍は関心事優先タイプから母性的保護者=姉タイプへと戻ってきた。ただし、1年目ほどの徹底した言及度ではないため、2年目よりは自己主張が落ち着いたという程度である。彼女もきょうだいのお世話係として相変わらずだが(1/224/276/1611/1)、春風同様に、しかしもっと穏やかに、「家族」のための能力と努力を長男へ指向していく姿勢が本人の口からも語られている(2/1411/15)。また、自覚なき誘惑もヒカルとはまた異なるかたちで示されている(3/187/89/29)。「家族」だから格闘による身体接触も気にならないヒカルがきょうだいの目線ならば、「家族」だから日々のお世話による身体接触も気にならない蛍はやはり母親的な目線なのである(6/4)。ただし、小説版をふまえれば、蛍のこういった態度はいくぶんの自覚を含んでいると考えるべきかもしれない。2年目のように過去を長男に語ることがなくなったのも、いまの自らの思いを素直に伝えるだけでいいという段階に至ったという証しである。だとすれば、3年目の自己主張は表現こそ穏やかだが、2年目よりもいっそう内実を増しているということになるだろうか。胸の成長のように。

 氷柱は母性的保護者=姉タイプから関心事優先タイプへと移動したのち、ここに定着した。

1年目のような「隠れ関心事優先タイプ」ですらなくなったのは、氷柱自身が長男の存在をためらいながら受け入れ(12/242/14)、誰よりも気になる相手になってしまったためである。変わらず叱り屋でありきょうだい思い(3/17)であるこの妹には、しかし女性的な自信がなく(4/17)、初めて親近感を抱いた長男にどう対処していいか分からない。その不安定さが日頃の跳ね返りや過度の甘え(7/309/10)として表されていたほか、級友の煽りでぎこちなく暴発したのが偽装デート騒動だった(6/236/267/2)。一方また長男は、自分が大切に守ってきたこの妹との最優先関係を横取りする存在(2/9)にもなってしまい、嫉妬し自己否定したた氷柱は留学を志して家出騒動を巻き起こした(10/1410/2710/30)。長男への、そして綿雪への思慕との間で絶えず揺れる氷柱だが、年末インフルエンザ騒動では、長男と二人の部屋で何事か生じ(綿雪12/21)、ある意味では綿雪のために配慮することが長男との距離も縮めるという理想的な展開となった。文句なく2年目のヒロイン。

 立夏は関心事優先タイプのままである。中一らしい思春期の揺れがあるかと思いきや、正月のお腹のヤバさが6月にのっぴきならなくなったという成長?のみに留まった。話題も焼き芋(2/24)にアイス(7/24)に屋台(8/28)と、2年目も食欲に忠実だった。ただしバレンタインの告白に見られるように、日頃の陽気で軽いノリの背後に真摯な想いを秘めているという点で、シスプリの鈴凛に似ている。また、身体的成長といえばスポブラ卒業(4/23)であり、これは本人よりもむしろ氷柱や麗を刺激したが、この年の近い姉妹よりも性的アピール度が高く、意識的に長男を煽りつつも、しかしサンタを未だ信じているなど肝心なところで幼いために、ヒカルとは違った意味での無防備さを発揮している。4月のコラボ企画では桐乃との友人関係が示されたが、立夏の外向的性格からすれば、今後そのような家族外の第三者を日記に登場させる媒介となっていくかもしれない。

 小雨は観察者タイプのままであるが、言及度がそれほど高くはないために、バランスタイプに分類してもよい。1年目から一貫して前向きになろうと努力しており、1月始業式のさいも頑張ることを誓っていた。その成果は本人も実感するところで(3/3)、バレンタインのときも一度は立夏に中てられながら、むしろつられて長男に想いを告げることができた。それでも着ぐるみが怖い(4/3)だの柏餅を間違って買った(5/1)だのと失敗もあり、そのたびに失意と自己否定に苛まされてもいる。台所の手伝い要員としてはすでに地位を確立しており(11/24)、年少者への配慮もあり、これで被言及さえあれば母性的保護者タイプになれるのだが。麗への言及が2年目には激減したものの、仲のよさは変わっておらず、ただ小雨が麗達に励まされたとおり、後悔しないよう自らの気持ちを日記で前面に示しているだけである。

 麗は関心事優先タイプのままである。1年目のような罰担当こそなくなったものの、己の関心事のみに専念する傾向はいっそう強まった。2年目は騒動の発端(1/153/9)となりヒカルや氷柱の株を上げる機会をもたらしたほか、男嫌いの壁はなお(照れとない混ぜとなりつつ)厚く(2/144/24)テツの情熱も止まらない(6/99/411/12)ものの、長男との関係は安定して穏やかなものとなった。長男におでこの熱をみてもらった(12/8)というのは、いくら発熱時とはいえ驚かされるし、日常的にも喜びのお裾分け(9/16)など距離が他のきょうだい同様に縮まっている。それは毎日を過ごしていることによってでもあり、また鉄道博物館行き(3/303/31)のように、長男の訪れ以来、自らの願いが姉妹に受け入れられてきているためでもある。そもそも、遊園地に行きたくないどうしたらいい、と相談する相手が長男だったあたり、信頼感のほどがうかがえる。

 星花はバランスタイプから観察者タイプへと移動した。
遠足が雨となり、お貸しをヤケ食い(5/20
三国志ネタは定番(2/43/28/25ほか)だが、いずれの場合でも英雄達の間柄ときょうだい関係とを重ね合わせ、長男との距離を確認しているのは1年目と変わらない。また、しっかり者らしさも相変わらずで、日常的な物事以外にも怒れる年長者との間に立つなど、兄の支援(6/2910/211/27ほか)にも心を砕いている。2年目に観察者タイプへ分類されたのは、星花自身の変化によるものではなく、他の姉妹から言及されることが昨年以上に少なすぎたからである。もちろん無視されているわけではなく、騒動を起こさない性格なので、今年のような騒動屋が大活躍する状況では、どうしても名前が挙げる機会を奪われるだけのことだ。もしも星花がいなかったなら、騒動のたびにいっそう危険な空気が生まれたに違いなく、その意味ではすでに保護者タイプであるとさえ言える。

 夕凪は関心事優先タイプからバランスタイプへと移動した。麗の日記やめる騒動(1/16)、氷柱のバレンタインやめる騒動(2/12)、氷柱の鉄道博物館行き希望(3/16)、蛍・氷柱の健康診断騒動(4/10)、氷柱の偽装デート騒動(6/24)、氷柱家出による綿雪発熱(10/29)、インフルエンザ(12/11)と、2年目の担当回のほとんどが年長者の騒動に関する記述である。これで観察者タイプになりきらなかったというのは、宿題騒動(8/31)など自前の軽い(本人にとっては深刻だが)話題も提供していたことに加えて、年長者関連でもたんに観察・解説するのではなく、火に油を注ぐなどして自ずと関係者になってしまっていたからである。バランスタイプと呼ぶにしても、崖っぷちで三点倒立しているような雰囲気だろうか。

 吹雪は観察者タイプのままである。2年目は全員に言及した唯一の者であることなど、このタイプの代表格となった感がある。また、その中立公正な態度が評価されて、遊園地行きについての投票では議長に任じられていた(3/12)。そのさい述べた、個人意見の主張の自由と共同生活の制約についての言明は、まさしく公正な中立者に相応しいものだった。これで率先する意志さえあれば保護者タイプになれるはずだが、もとより吹雪にそんな気はない。むしろ、きょうだいが個人的欲求と全体的制約のはざまで示す相互支援や配慮のなかに、合理非合理を問わず調和的な美を認めて安らぐのがこの妹の楽しみなのかもしれない(6/1111/10)。もちろん吹雪自身もその担い手であり、アイスへの恨めしげな呟き(7/27)や、相変わらずの冷静なツッコミなどが、読者としてはじつに楽しい。

 綿雪は観察者タイプからバランスタイプへと移動した。将来の夢を見つけた(1/27)ユキだが、療養時に抱いた「ふつうになりたい」という願望も消えたわけではなく、むしろ他の姉妹と同様に長男との日常生活を送らんがため、いっそう強まっている(2/147/169/7)。「お兄ちゃんの日」に象徴されるように、長男への思慕は1年目から引き続き日記に明示された(2/65/75/2710/8)が、鉄道博物館行きが決まったとき(3/19)も氷柱の賢慮に言及しないなど、日記叙述の上では姉離れが少々急激に進みすぎたきらいがある。そのことに無自覚だった綿雪は、氷柱が家出したさいに大きな衝撃を受け(10/28)、今まで築かれた絆の重みを再認識させられた。とはいえ翌月には長男にのみ自転車二人乗りをせがむ(11/16)など大勢に影響なしとも思えるが、年齢不相応な気遣いをしないという点では、綿雪も本当に「ふつうに」なれたということかもしれない。

 真璃は関心事優先タイプからバランスタイプへと移動した。おませな年少者の視点から年長者を解説する役割(6/30)も担ったが、姉妹に言及しながら最終的には自分自身と長男の距離を縮めようとしているあたりは、保護者タイプとも一線を画している。お店屋さんごっこ(1/29)やひな人形作り(2/26)など常にトップを目指す姿勢や、妹達の指導者然とした振る舞い(9/3)は揺るぎないものの、反面まわりの手ごたえのなさもあり、有閑幼女ぶり(4/29/2411/6)が著しい。周囲を見下しかねない傾向に対して幼稚園長が巧みに修正を図ったのは見事だったが(6/2)、いまマリーに必要なのは手強いライバルだろう。幼稚園の転入生が長男に接近したことに嫉妬して、あり余る力を発散させる、というのはどうだろうか。

 観月は関心事優先タイプからバランスタイプへと移動した。しかし、基本的に大きな変化はない。日本の伝統文化や風習について講釈を垂れつつ(2/29/810/13)、年齢相応に長男との遊びや食べ物などを享受する。きょうだいの面倒も見つつ、自分の楽しみも忘れないのが、この妹のバランス感覚ということかもしれない。そんなしっかり者の観月にも少々怖いものがあると判明したのは、ブラジャー話のときであった。なお、年長者の騒動をそれと知らずに霊的に解釈(3/2610/26)して解説者の役割を知らずに果たす一方で、本人の変化というより猫に変化(へんげ)あるいは魂が入れ替わってしまったこともあった(7/6)。霙やあさひも気づいてはいたが、長男がこの霊能力という観月との固有の絆を通じて異界に入ってしまう(他の姉妹の多くに行方不明と心配される)ような事件は今後起こるのだろうか。

 さくらは関心事優先タイプのままである。真璃などに倣って姉らしく振る舞うことは、青空への気遣い(8/4)のほかにはとくに見あたらなかったが、病床の兄姉に折り紙を贈る(12/14)など、優しい言動は少なくない。また、1年目と同じく、せっかく頑張ったのにツメを誤ったこと(10/6)や、欲求を抑制できなくて悩むこと(3/5)は諸処に綴られたが、豆まきで鬼への恐怖になんとか立ち向かったり(春風2/3)、幼稚園の先生の期待に応えられたり(1/135/19)と、それなりの成長を遂げているようでもある。ぼちぼち歩んでいくのがぴったりの性格なので、年少者の時間流速が遅いという本企画の特性は、さくらにとってさほど不利益を与えていない。

 虹子は関心事優先タイプからバランスタイプに移動した。これは虹子自身の変化というより、姉達が虹子に日記内で言及しなくなったための相対的変化によるものである。実際に言及度や言及人数は増えているのだが、そこには年長者の騒動の推移を暗示させる内容も含まれている(5/2510/23)。標準的幼児である虹子のこの状況も、2年目の日記を象徴するものと言えるだろう。本人の女の子らしさを追求する姿勢にはまったく変わりなく(2/17、)、フレディもたまに日記中で言及される(3/23)。とくに氷柱の書類に落書きしてしまったとき、氷柱に叱られたこと自体よりも、氷柱が涙したことに衝撃を受け、自分が「悪い子」なのかもと泣いて謝っている場面は、人の痛みを感じられる子であることをあらためて知らせてくれる。

 青空は関心事優先タイプのままである。日々おおいに遊んでいる姿が描かれているが、とくに2年目は虫愛ずる幼女としての活躍が凄まじく(6/87/1011/18)、長男が未然に防いでいなければ食卓その他で姉達の悲鳴が響き渡ったのではないかと懸念される。天真爛漫なのはいいとして、この妹も長男との関係が安定しすぎていて変化をつけにくい一人である。しかし、固有の絆として「おちんちん」というキーワードがあるので、1年目の本誌連載で霙に納得させられてはいたものの、来年あたりに再び(日記上では初めて)これをめぐって騒動が勃発するという可能性もなくはない。それもまた、ヒカルや氷柱の反応の呼び水として回収されてしまうかもしれないが。

 あさひは関心事優先タイプのままである。いつ明瞭な言葉を話すのか、と1年目には期待していたのだが、2年目はついに「0歳のお誕生日」を自ら宣言するという事態が生じ、乳児としての順調な成長は望むべくもなくなった。しかし、その状況下でも、長男(にゃーにゃ)との関わりによって喃語は増えてきているらしく、また「にゃーにゃと!」と助詞まで口にするに至っている。赤子として食欲その他の欲求をそのまま表す一方で、麗のふくれ顔(1/21)やヒカルへの手紙(5/15)など、騒動の推移を間接的に読者に伝える役割も果たした。来年は3度目の0歳誕生日を迎えるのだろうか、もはや様式美として受け入れたい。


終わりに

 本論で明らかにしてきたように、2年目の公式日記における姉妹の相互言及データは、姉妹各人の内面やきょうだい間の関わりようの変化について、また作品そのものの今後の展開などを検討するための手がかりとして、やはり一定の有効性を持つものであった。基盤の構築期としての1年目に対して、2年目の日記はその意味づけを変化させ、長男に向けた姉妹の直球の意思を、より強く表現するものとなってきている。
 この変化の先にある3年目の公式日記は、はたしていかなる展開を読者=長男に突きつけるのか。氷柱の独走を許すまいとするかのように、ヒカルや麗などの「ずれ」の保有者が競り合ってくるのだろうか。それとも年少者のみならず今までメインとなることのなかった者達が、大きな騒動の中心となるのだろうか。はたまた、氷柱がさらに加速して、シスプリの壁を突破することになるのだろうか。そんな期待を込めて、今後の公式日記と本作品の発展に注目していきたい。


なお、論者の当初の予定では、公式日記が3年目の末を越えて半年ほどの継続延長を公表したさいに、その期間も3年目分とあわせて考察することにしていた。しかし、公式日記が東日本大震災による一時中断を挟んで半年以上続いていることをふまえて、遅まきながら3年目分のみについての検討を行い、ここに提示することとなった。正直、あの時点で日記終了もやむを得ないと考えていた論者にとっても、この予想以上の延長は本当にありがたいものだった。本論を閉じるにあたり、公野櫻子先生をはじめとする企画・制作者の方々に、いちファンとして厚く御礼申し上げる。



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