日記
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2007年9月1日(土) 麻帆良祭考察書きかけ・続き7
(1)あやか

 最初に断っておくが、あやかは麻帆良祭中に不安や動揺を与えられてはいない。しかし、先述のような祭の特性を確認したり、他の少女達を理解するための比較対照に用いたりするのに最も適切なことから、ここで登場願うことにする。
 あやかは常に「委員長」としての自己制約を毅然たる態度で維持してきたが、これが脆くも崩壊する唯一の対象がネギである。そんな彼女が、ネギとの出会いから麻帆良祭初日に至るまでどのような姿を示してきたかについては、すでに「成長の相互性」考察後編2(1)において説明してある。そのうち、とくに祭初日のネギ達との巡回場面に関する叙述を、ここで引用しておこう。
2007年9月2日(日) 続き8
(引用)

 しかし修学旅行を経て、のどかが明確にネギへの恋を宣言し、明日菜へのタタカイへも少しずつ踏み込んでいくのと対照的に、あやかのネギへの熱心な態度はほとんど強化されない。その背景は、学園祭でネギと一緒に各所を回る中、睡魔に負けたネギを膝枕することになった場面で、はっきりした理由を与えられる。以前にネギが家庭訪問してくれたとき、ネギも明日菜の意を汲んで「弟」になると言ってくれたとはいえ、あくまでそれは先生としてのネギの気遣いだった。だが、いまネギが膝の上で穏やかに眠りながら「おねえ ちゃ… ん…」と寝言を呟くとき、それはネギが10歳の少年として、あやかに素のままに甘えていることを意味する。あやかは、会うことのできなかった弟の声と温もりを、ついに感じることができた。二人を風が包むのは、あやかの8年分の時がようやく流れたことの象徴である。その前後をコミカルに描かれてはいるが、「委員長」としての外面的役割に疲れ切っていたあやかが「姉」として内面から再生するこの場面こそ、彼女が弟の死を本当に受け入れることができた瞬間なのかもしれない。

(引用終わり)
2007年9月3日(月) 続き9
 あやかは、巡回中の膝枕のさいに耳にしたネギの寝言によって、「委員長」としての役割制約から一時的に、そしてもう一つの隠された制約であった姉になれなかった自分という否定的自己像から持続的に解放され、幼少期からの心の欠乏を満たされて、たちまち活力を「つやつや」と回復しえた。少女達の中で、あやかは、学園コメディパートのみにおいて肯定的に解放された最も端的な例である。
 この自己解放と充足感に支えられて、あやかは、超との別れを知ったその場で、クラス全員で超を送り出す場の設定を決断する。それは、委員長として級友への務めを果たさねばならないという強制的な義務感によるものではなく、あやかのまっすぐな善意と優しさ、そして自らを厳しく律してきた彼女ならではのリーダーシップと包容力が、明日菜に対するときと同様に超に対しても、人になすべきことをしたいという意志からごく自然に発揮された瞬間であった。とくに彼女のつよさに裏付けられた包容力は、タカミチとのデートに向かう明日菜とのやりとりにも、また失恋の激痛に苦しむ明日菜を胸に抱くさいにも、明確に描かれているところのものである。
2007年9月4日(火) 続き10
 なお、上述の引用文に続いて、論者は

 (引用)この空虚を埋められたがゆえに、今後のあやかは、ネギ好感度では不動の2位を保つにしても、今まで以上にはネギに迫らなくなる可能性がある。もちろん、弟の影を重ねずにネギそのものを愛するようになるとも考えられるのだが、ここでもう一つ言及しておきたいのは、あやかと小太郎の関係である。不幸な初対面以来「おばさん」「野生児」とケンカする両者は、1時間目の頃の明日菜とネギの関係を彷彿とさせる。[……]あやかにとってネギが理想的な弟だとすれば、小太郎は反発しあう弟として、彼女に新たな慈愛の対象となっていくのかもしれない。(引用終わり)

 と予想していたが、小太郎との関係はこの予想どおりだったとして、ネギへの愛情についてはどちらの予想とも外れたかもしれない。最終日の一大イベントを「ネギの頼み」だからと二つ返事で聞き入れてしまったうえ、いくらコスプレ大会で慣らしたからといってあんな胸元丸出しのコスチュームまで着用に及んでしまうとは、あやかのネギ愛は、出会った日から現在に至るまでトップギアのまま安定している模様である。また、やがてウェールズで明日菜にネギの安全を委ねる場面では、やはりネギを保護すべき対象として(しかし己の分を弁えて)見守るあやかの姿が描かれている。いずれにせよ、あやかは麻帆良祭を通じて、学園コメディパートにおいてのみ自己解放の機会を得たのであり、しかもそれは否定的自己制約からの解放によって安定化をもたらすものであった。
2007年9月5日(水) 続き11
(2)夏美

 準レギュラーとも言えるあやかがこのように安定化を果たしたのに対して、これまで脇役の名をほしいままにしてきた夏美は、祭の最中に動揺と不安をこっそりと与えられている。まほら武道会の予選では、出場する小太郎が教えなかったにもかかわらず、夏美はわざわざ「調べて」「部の準備も抜けて」までして「応援」に訪れた(88時間目)。そこでは、夕映に乱暴な口をきく小太郎をたしなめており、また小太郎を心配する千鶴に「大丈夫だよ強いもん(はぁと)」と断言したり(93時間目)、リハーサル中でさえ「ネギ君と戦えたのかなー」(114時間目)と、小太郎の願いが満たされることを気にかけている。しかし、これらのような姉としての振る舞いの一方で、武道会第1回戦にて、敗北した愛衣と勝者の小太郎が何気にいい雰囲気で会話しているのを遠目に見て、夏美は「ん?」と汗を浮かべるのである(94時間目)。このとき、横にいる千鶴が「あらあら」と微笑んでいるのと好対照に、夏美は小太郎が他の見知らぬ少女と親しむことに警戒心を抱いてしまっている。武道会という非日常的イベントによって、日常生活ではうかがい知ることのできない小太郎の一面を見てしまい動揺する夏美の姿がここにあるのだが、本考察の目的からすれば、これをバトルパートから学園コメディパートへの浸透の一例としてとらえることができるだろう。この動揺についてはやがて祭後、学園生活に復帰した段階で詳しく描かれることになるのだが、そこでは夏美は千鶴の冷やかしによって、小太郎を否応なく意識してしまい、さらに夕映や楓達とも親しげにつきあう意外な小太郎の姿に驚くことになるのである。
2007年9月6日(木) 続き12
 思い返せば夏美は、小太郎の年近な姉のように振る舞ってはいるものの、「コタロー君 裏の世界の人なの?」とやや不安げに尋ねているように(88時間目)、小太郎の背景事情を気にしてもいる。平凡なはずの日常に突如乱入したこの少年がいかなる素性の持ち主なのかについて、夏美はほとんど何も知らないまま、あのときと同じような危機に小太郎が巻き込まれないかどうかを心配しているのだろうが、当の小太郎はといえばそんな彼女の気苦労を気にも留めない。そして、自由気ままな小太郎が他の少女達と親しくある姿もまた、夏美にとっては、小太郎を理解することも支えることも包容することも満足にできない自分の不甲斐なさを突きつけるものでもあり、ますます動揺せざるをえないのである。
 この動揺は、いったんは小太郎が彼女に示す普段通りの気さくな態度によって解消するが、夏美が今までと同じく日常的生活世界に身を置き続ける以上、彼女はこれからも小太郎の素顔を知りえないままであるだろう。だが、すでに千鶴ともども小太郎登場時の騒動に巻き込まれているがゆえに、「裏の世界」の存在をそこはかとなく察知している夏美は、その別世界を見知ってしまったとき一気に小太郎のすぐそばへと到達できる立場にある。
 とはいえ、それは同時に、ただの一般人にすぎない夏美が、すぐ手の届く場所にいるはずの小太郎との間に横たわる途方もない断絶に直面し、その届かなさに本気で動揺し苦悩しはじめる瞬間でもあるはずだ。そのとき彼女は、「それでも小太郎くんと一緒にいたい」と決心できるだろうか。いずれにしても夏美は、麻帆良祭にて出演したシェイクスピアの戯曲『真夏の夜の夢』のタイトルがいみじくも暗示していたように、学園祭を終えてなお覚めない夢と現実のあわいを、この夏を通じて生きていくことになる。
2007年9月7日(金) 続き13
(3)亜子

 多大な影響を受けたとはいえ、麻帆良祭ではあくまでも不安と動揺の端緒のみを与えられたに留まった夏美と比べて、彼女と同じく「フツー」の常識的女子中学生である亜子が最終的に獲得したのはより明確で意識的なものであり、しかしまた不安や動揺とは一見して縁遠い肯定的なものである。だが、そこに至る過程は揺れに揺れており、学園コメディパート中心で最も甚大な動揺をきたしたのは(明日菜やのどか、夕映など中核メンバーを除けば)彼女である。
2007年9月8日(土) 続き14
 122-6時間目にて描かれた亜子の自己認識は以下の3点からなっている。

 まず、「どこにでもいるごくフツーの女子中学生」という自己像であり、これは特異な才能・技術や心身・意志をもつ者が多い「みんなに比べてウチは何の取り柄もないし特に将来の夢みたいなんもない…」という、級友達に対する劣等感をもたらしている。仲良し4人の中でも自分は「フツーの位置」であり、青年ネギは格好良すぎて「フツー人のウチにはちょっとレベル高いかもしれ」ず、バンドを組むチア3人の演奏技術が高いだけに「ウチみたいな素人のへたっぴーな演奏聞いてもらってもハズかしいだけ」である。
 この否定的な平凡さに対する劣等感は夏美にも共通のものだろうが、彼女の場合には演劇という部活動によって、自分の能力と役割を舞台の上で試し確かめることができている。これに対して亜子は、また修学旅行中に朝倉が仮契約候補者としてチェックしたように身体能力も決して低くないはずであるものの、サッカー部の選手ではなくマネージャーであるため、自分の能力を積極的に確かめる術を持ってはいない。

 もちろんマネージャーとして、また教室でも保健委員として、部員や級友を支援し健康管理するという能力と役割には、自負心を持ってかまわないはずである。かつてまき絵がネギとの早朝トレーニングに向かうとき、この同室者の酷い化粧具合を直してあげており(57時間目)またネギと刹那の対戦では、周囲の仲間達がネギの勝利に喝采する中で、敗れた刹那の体を心配している(116時間目)。このへんもマネージャーなどの役割と同様、亜子という人間の、つい他人を気遣い面倒をみてしまうというよさである。
 しかし、亜子自身はそのことを自分の長所とは意識していない。むしろ逆に、緊張に弱く上がり性であるために、あえて人前に出ない役目を負おうとした気弱な結果と考えているのだろう。
2007年9月9日(日) 続き15
 次に、そんな「フツーな私が少しだけ人と違う所」が、目や髪の色以外にはよりによって背中の大きな傷跡しかないという自己理解である。この傷の由来は学園祭中には明らかにされなかったが、おそらく亜子が幼少期に(場合によっては、今は記憶のない魔法関連で)大怪我をした名残であり、その傷跡は、肉体的に明確に残っていることにくわえて、流血への恐怖感とパニック衝動、また級友達に対しても「最初の頃はスゴク気にしてコソコソスミで着替えたりしてた」り(あんなん見てキライにならへん男の人なんておらへん)と思わざるをえないような人目をはばかる態度など、トラウマないしスティグマとして彼女の精神に深々と刻みつけられている。この否定的な異常さによって亜子の劣等感はいっそう強化されている。

 最後に、「脇役人生」という人生観である。上述のような劣等感を抱きながらも、亜子はやはり一人の少女であり、昨年は勇気をふるって先輩に告白している。しかし、あえなく振られてしまったことで、彼女の劣等感はまったく解消されず、しかも自分にはスポットライトが当たらないのだ、ということをますます痛感させられた。目立とうとすれば自分の劣等感を、つまり平凡さや異常さにかかわる否定的自己像を否応なく再認識させられるとすれば、これを避けるにはおとなしく日々を過ごすのが賢い選択となる。
2007年9月10日(月) 続き16

 以上の3点によって、亜子は、「人前に出る柄」ではない「脇役」としての慎ましやかな、というより「恥」をかかないよう人目を忍んだ生き方を送ることを自らに強制していた。彼女の自己認識は全体として否定的なものであり、普通であることも駄目、普通でない箇所も駄目、というように、低めで安定し続けていたのである。
 とはいえ、この自己認識は、クラスの中では脳天気な雰囲気のおかげで背中の傷もさほど気にしなくてすむようになり、またそのような受容的環境や自己努力のおかげで先輩に告白できる程度にまでは高まっていたわけだが、そこを挫かれた失恋の痛手は大きく、そして親友達もまた自分の遙か上方にいる。アキラは水泳部の中心選手であり、まき絵は独特な新体操技術の持ち主であり、裕奈は胸が。彼女達の屈託も分け隔てもない明るさに助けられながら、亜子は同時に、(他ん所はフツーなのにこんな所だけ違うなんて…)という、平凡さと異常さの両面における苦悩と自己否定を味わっていた。
 あやかは異常であることに(ショタという非難には敏感だが)さほど気を止めず、他者との比較よりもむしろ自らを高めることを重視しており、夏美は平凡であることの劣等感こそあれども自分の異常さには苦しんでいない。この二重に否定的な自己認識は、日頃「普通」で目立たない亜子だからこそ、読者に厳しく哀しく訴えかけてくる。
2007年9月11日(火) 続き17
 青年ネギとの偶然の出会いは、そんな亜子の低い目線を、再び希望へ向けて引き上げる契機となった。だが、それは同時に、春先の失恋で経験した否定的自己像の確認・強化を、再び亜子に予感させるものでもあった。そのことを感じればこそ、亜子は必死に気を強く持とうと努力し、そしてますます空回りしていく。青年ネギに好かれよう、ライブを成功させよう、と思うとき、自信のない亜子は、青年ネギに嫌われないようにしよう、ライブで失敗しないようにしよう、そのためには自分の否定的な平凡さや異常さを露呈しないようにしなければ、と内向きの思考しかできなくなり、だからこそそれらの否定的な面を強迫的に意識し続け、心身が縮こっていき、失敗の恐れも強まっていく。
 この悪循環が限界に達しかけたとき、よりによって亜子は背中の傷跡を青年ネギに見られてしまう。ライブへの緊張と恐怖、青年ネギへのためらい、そしてそんな臆病な自分に対するさらなる自己否定に加えて、亜子は、自分の無理な招きに応えて「せっかく来て頂いた」青年ネギへの申し訳なさや、憧れのこの人に自分の最も隠しておきたかったものを無惨に晒してしまった自らの愚かさ、そしてそんな自分をかばって青年ネギにくってかかっている釘宮の友情がありがたいがゆえの情けなさなど、その「最悪」に耐えきれず駆けだしていってしまうのである。
 その「最悪」は、頭からの流血に意識を失った結果、ライブまですっぽかしてしまうことで「最低」へと上書きされるのだが、この一連の展開において、亜子は、ライブに参加した自分のために釘宮達に迷惑をかけた、自分が「カギ閉めてなかった」ために青年ネギに嫌な思いをさせ嫌われた、などと、きわめて自罰的な思考に囚われている。このままでは、亜子は、脇役人生を素直に生きるべき自分が思い上がった望みを抱いたことでその罰を受け一切を失ったたのだ、という自己否定の徹底という絶望へと陥らざるを得なかったかもしれない。
2007年9月12日(水) 続き18
 その危機を救ったのが、(おそらく千雨の助言を受けた)ネギの機転だった。夢と現実の区別もつかないままに、亜子は青年ネギとのデートにあれよあれよと引き込まれる。ベストカップルコンテストへの強制参加に遭遇しても、当惑する亜子に青年ネギは、どうせなら「僕達二人で」優勝を狙ってしまおう、と受動的状況を能動的行動に転化してしまう。背中の傷痕が露見するのを青年ネギが上着でそれとなく覆い隠し、花嫁姿でのお姫様だっこまで経験できて、亜子はこれ以上もない幸福を味わった、と傍目には思えただろう。だが、当の亜子は、こんな晴れやかなコンテストに出ては「脇役体質」な自分が青年ネギに「迷惑かける」と恐れ、また準優勝という立派な結果を得ても「ウチのせいで負けちゃって」と詫びているように、彼女は自罰的な態度を変えられずにいた。
 こんな彼女に対して、青年ネギが教師として励まそうとした一言「…自分のこと脇役なんて言わないでください みんな…主役なんですよ」によって、亜子はネギが想像もしない勇気を振るおうと決意する。このまたとない機会に告白という「最初の一歩を踏み出」し「主人公になるんや!!」というその決意は、再びフラれるかもしれないという恐怖、今日の姿を見れば好意を抱いてくれてるのではという希望、しかしそれも釘宮からの依頼を受けてのことではという常識的予測と、数瞬の間に大きく揺れ動く。最後に亜子が選び取ったのは、結果の引き延ばしだった。
2007年9月13日(木) 続き19
亜子(ううっ でも一歩踏み出して一瞬主役になっても フラれたらやっぱりそれは脇役やん
  それよりはナギさんとの二度となさそうなこの時間を大切にしたい自分がおるんです)

 自分の弱さに打ちひしがれる彼女に、青年ネギは演奏を聞かせてくれるよう頼む。緊張をほぐしてもらい演奏にやや自信を回復した亜子だが、その自信は、彼女の自己否定感情を払拭するに到るものではない。むしろ、告白できなかった先の自分を反省し、さらに青年ネギの将来の夢の話に驚かされることで、彼と自分の間にある溝をいっそう痛感するのである。
 青年ネギの優しさに包みこまれることで、亜子は、さっきとはまったく異なる告白をすることになる。それは、たしかに弱音を吐くことでもあるが、しかしまた、親友達にさえ今まで言えずに内に秘めてきた苦悩を、ようやく言葉にすることができた瞬間でもあった。亜子は、おそらく青年ネギの頬の絆創膏から思い出して、午前中にネギの戦う姿を見て「うらやましい」とも感じてしまった自分の後ろ暗さを吐露する。
2007年9月14日(金) 続き20
亜子「ひどいですねこんなこと言って
   でもネギ君は… 行方不明のお父さんを捜してあんなにがんばって…
   何て強くてかっこええんやろって… まるで物語の主人公みたいやって…」

 父との別離という悲しみに、ネギは幼いながら毅然と立ち向かっている。自分が置かれたどうしょうもない現実を、いまだ力及ばずながら変えようとしている。その涙ぐましい努力を傍目に見て、はるかに幸せな境遇にいるはずの自分が格好いいだのうらやましいだのと思うのは、あまりに身勝手で酷いことだと亜子はもちろん分かっている。
2007年9月15日(土) 続き21
亜子「…でもウチにはネギ君やナギさんみたいな将来の夢や目標もなければ…
   ちょっとの一歩を踏み出して主人公になる勇気もない それに…」

   (ウチのマイナスは ウチに何の力も与えてくれへん)

 この最後の一言はフキダシの中に記されていないが、はたして亜子の内心の声か、それとも実際に声に出して語ったものなのか。いずれにしても、ネギ(と小太郎)はこの悲痛な呟きをたしかに受け止めた。ネギの頬の傷や右腕の怪我は、タカミチや父との絆を確証してくれるしるしである。だが、亜子の背中の傷痕は、大切な誰かとの絆も、かけがえのない何かへ至るすじみちも、彼女に与えてはくれない。そうである以上、こので亜子に与えられる最も望ましい応えとは、傷痕ごと彼女を受け入れてくれる青年ネギの告白だったろう。しかし、もとよりそんなつもりもない青年ネギは、笑ってごまかそうとする亜子をコチンと叱り、励ましを与えるのである。
2007年9月16日(日) 続き22
青年ネギ「たとえ亜子さんが自分を脇役だと感じていても…
     それでもやっぱりあなたは主役なんだと思います
     だって 亜子さんの物語の主人公は…亜子さんしかいないじゃないですか」

 この言葉は、教師ネギとしての「分かった様な」説教というだけではないのだが、その詳細はネギの個所で述べることとする。ともかく亜子は、この言葉によって、ようやく立ち直るのである。たとえ不条理な背景事情を強制されたとしても、それをいかに受け止め、いかに生きるかは、自分の意志によるほかない。「もうステージの上に立ったらイヤでも主役」なのであれば、そのことを自ら引き受けて、そこで自分の求める何事かを実現しようと努めたほうがいい。自己制約からの解放(freedomとしての自由)によって、亜子は、(そこで培われる力もまた自分の一部だとネギがかつて四葉に教えられたように、)青年ネギに自分の長きにわたる苦悩を告白する力をかち得た。そして、その応えとして、自己制約と向き合いながら自分を生き抜いていくという、新たな自己規定への意志(libertyとしての自由)へと差し招かれた。そのことはまた、自分というかけがえのない存在者に対する責任(responsibility)を果たすということでもあり、いましばらくは傷痕の痛みをさらに鋭く重くすることに他ならない。しかし、亜子の告白に青年ネギが応え、亜子の恋心に釘宮達の友情が応えたというその応答可能性(responsibility)が描かれている現在、彼女の主体的意志への努力は、先刻の絶望のごとく世界から孤立したものでは既にないのである。ステージに上がる直前、亜子が青年ネギに問いかけた「また会えますか?」という一言は、そんな青年ネギの応えに対する彼女からの応えの約束でもあった。
2007年9月17日(月) 続き23
 とはいえ、結論の引き延ばしをひとまず選んだ亜子が、舞台の上でマイクを渡されたからといって、釘宮達の期待に応えてすんなり公開告白できるわけもなかった。いや、それ以前に、千雨が看破しているとおり、青年ネギという美男子は「夢幻」にすぎず、「不毛の荒野」をゆくこの恋路はあまりに「前途多難」である。
 麻帆良祭という非日常的空間において、ネギによって学園世界に魔法世界が混入した状況下で、亜子は自己制約からの部分的解放を果たした。だがそれは同時に、青年ネギと過ごしたこの夢のような現実と、青年ネギが現れた夜の噴水での現実のような夢との、渾然一体となった眩惑が、日常復帰後の亜子を捕えて離さないということでもある。そして、背中の傷痕は、今のところは青年ネギに知られていないこととなっており、亜子がこのスティグマに真に向き合うまでには至っていない。主役への意志と不安は表裏一体のままに、この2つの世界の不安定な境目のように、亜子の心に根付いていく。
 やがて青年ネギの正体という現実に直面したとき、亜子はこの幸せな夢からどのように覚醒するのだろうか。幻滅し深く挫折するのだろうか、それとも、例えばおのれの傷痕を日常世界と魔法世界とを繋ぐ絆として再発見することによって新たな肯定的自己像を獲得するのだろうか。あるいは、大切な者達の傷と苦痛を癒したいという彼女本来の優しさが傷痕への劣等感を圧倒して、その意志を貫くべく仮契約することとなるのだろうか。
 もしもこの自己制約を力強く乗り越えていくのだとしたら、それは、刹那がその翼の色を受け入れていく今の姿と、そして明日菜が自らの過去の闇の衝撃を受け止め乗り越えていく未来の姿とも、重なり合うような少女のつよさなのだろう。
2007年9月18日(火) いじょ
 8/25分から続けた『ネギま』麻帆良祭書きかけ考察掲載はとりあえずここまで。このあとは、バトルパート中心の連中として龍宮、小太郎、くーふぇ、と続き、そのあとは両パートにまたがる代表として茶々丸、千雨、で締めます。
 従来の主役たちは、中編・後編にて扱う予定。また3部作ですか。かつてのような考察えねるぎーが不足している昨今、はたして書けるのか自分。
2007年9月19日(水) 散財
「お前は今までに買った本のタイトルを覚えているのか?」

 いや、またもや既に購入済みの本を買ってしまったという……。ぎゃー。2980えんー。

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