おわりに
ミレニアムを控えた1999年12月25日の朝、私はいつもの土曜のように近所の「ミスタードーナツ」に出かけました。そこでコーヒーを飲みながらこの本の原稿を書いていたのですが、何かいつもと雰囲気が違う。よく周りを見るとアルバイト店員や数少ない客の中に女の子たちが全く見当たらないのです。気がつくとノートパソコンのディスプレイの上で、「ふりふり」な少女が迷路を抜けようと歩き回っていました(97)。少女たちはいったいどこに行ってしまったのでしょうか。
「アイドル歌手」がどこかに行ってしまってから幾星霜。現実世界の彼女たちはこの本の冒頭に書いたように、タレントに変貌したり、普通の主婦していたりするわけですが、彼女たちは数多くのアイドルポップスを世の中に送り出してきました。私の手元にもそのほんの一部にあたる(それでも2000曲を超える)シングル・アルバム曲がストックされています。この本を書くにあたってこれらの多くを聞きなおし、一聴の価値があると思われる曲を紹介させていただきました。選曲にあたって歌手の「アイドル」としての人気は全く考慮しておらず、いかに「少女」というコンセプトがその曲の中で表現されているかという点を重視しています。一つの反省点としてはここ数年間の歌謡界の動向について全く知識がなかったため、「SPEED」など年齢的には少女と呼ばれる女の子たちの音楽世界について十分に検討ができなかったことです。なお文中に出てくる歌詞は著作権法第32条第1項にもとづく引用の範囲のものであり、同法第48条第3項の規定にもとづき、注釈に原題および著作者を明示しております(99)。
気がつくとゲーム・アニメーション世界では「ときめきメモリアル」や「センチメンタルグラフティー」、「To Heart」といった「乙女チック」な虚構世界が幅をきかせています。私がこういうコンセプトの本を書こうと思ったのは、昔のアイドルポップスを知らない「遅れてきた少年・少女たち」に「こんな世界があったのだよ」ということを垣間見せてあげたかったからです。決してシニカルなアイドルマニアの興味を満たすためでも、「大人になれない困ったちゃん」たちのためでもありません。「少女」はいつか大人になるものです。心の中に少女を持ち続けることはそれなりに意味があると思いますが、そのことは忘れないようにしないといけないのでしょう。
(追記1)
スタジオぴえろ制作のアニメーションの中に、「魔法少女もの」と呼ばれる一連の作品があります。その中の2つ「魔法のスター マジカルエミ」と「魔法のステージ ファンシーララ」はいずれも、主人公の女の子が「たまたま」魔法のアイテムを貰うことで、等身大の女の子とその変身した姿である「スター」の二重生活を送ることになる点では同一です。しかしその幕引きには大きい違いがあります。
マジカルエミの主人公「舞」は第37話「ためらいの季節」で、「舞でやる方がおもしろい」と自分から魔法を返そうと決心します。そして「エミ」としての最終ステージを終えて「エミ」のいなくなった会場で「マジカル舞」への道を歩み始めるのです(最終回「さよなら夢色マジシャン」)。
一方、ファンシーララの主人公「みほ」は『不思議さん』の「きまぐれ」からもらうことになった『魔法のペンとスケッチブック』を第25話「消えてしまったララ」でなくしてしまい、魔法が使えなくなってしまいます。『不思議さん』は最終回「みんな大好き!」で「魔法をなくしてしまうのもひとつの方法だよ」と話して聞かせ、みほもそれを受け入れます。
この対比は女の子たちがもつ「成長後の姿」に対するイメージの変化を反映しているように思えます。少なくとも舞の時代(1985年)までは少女の外部に「あるべき自分の姿」が存在して、自らの意思でそこへ向かって行こうとするストーリーが成立したように見えます。しかしその13年後の「みほ」の時代になると、「華麗なるせいちょー」後の姿は偶発的に手に入るものであり、それがなくなったとしても今どきの女の子は「終わりなき日常」を淡々と生きていけるのです。[2000.1.1]
(注釈)
(追記2) 本編でも取り上げた水野あおいは2000年3月20日のライブ"Love Songs For..."を最後に引退しました(その時の様子は「アイドルプレミアクラブ」五月号に掲載)。オリコンThe Ichiban 2000.3.20掲載のインタビューによれば、「フェイドアウトして"どうしたんだろう"ってなるより、ちゃんとお別れできる時期にやめたい」と思っていたとのことです。[2000.4.16]
(追記3) 最近、諸事情により初期の「歌姫伝説」について調べる機会があって「では最近のプレアイドルをめぐる状況はどうなっているのだろうか?」という素朴な疑問を持ちました。で、とりあえずwebで目についた、吉本愛美・山内夕奈(OMP所属)のライブに出かけてみました(4/15 目黒福祉センターホール)。両者ともビジュアル的には一定水準を楽にクリアしているものの、歌唱力という点からは到底、評価に耐えないもののように感じました。もっともファンにとっての歌というものが「お約束」のコールや踊りを行うためのツールのようにも見えたことから、もしかするとその点はあまり問題がないのかもしれません。[2000.4.16]
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