「アイドルポップス」に見る「少女」たちの世界(2)

アイドルポップスにおいてはなぜか「彼氏に打ち明けてもらえてラッキー」な女の子よりも「片想いの彼はいるけど打ち明けられない」というタイプの女の子の気持ちを歌った曲の方が多い気がします。ここでもクリスマスの例を挙げるならば、菊池桃子の「雪に書いたLOVE LETTER」(46)。ホワイトクリスマスに一人ぼっちで過ごしているこの作品の主人公は、片想いの相手がいつも通る雪が積もったレンガの石畳の上にせつない想いを指で書いて、「私の気持ちが届いたらいいな。」と願う。後に高井麻巳子の夫となる秋元康は彼女に「こわれかけたピアノ」(47)という曲を提供しています。主人公は初めてのラブレターをポケットに入れて、出そうかどうか迷いながら歩道橋の上を行ったりきたりしている女の子で、その揺れる心をピアノに喩えて「まるで誰かの指先が/熱い気持ち誘って」「フラットしてる/今の私よ/譜面通りに決められない」と語らせています。ちなみに「紺色の車があと"10台"通ったら手紙をだすわ・・・」というところで曲は終ります。中華魔女「ちゅーかなぱいぱい」こと小沢なつきの「星座だけのランデブー」(48)に出てくる女の子は列車の中で「いつでも遠くから見つめていた」男の子に「今が帰りなの?」と声をかけられた時に、「みじかい時間でも何か聞き出したい」と、誕生日だけは聞き出しています。こういう曲に出てくる女の子たちは、自分の気持ちを伝えようという努力(?)はするのですが、それがもっと内気になると佐野量子の「蒼いピアニシモ」(49)に出てくる女の子のように「夏の日に遠くから/こっそり写した」彼の写真の前で日記を前に、「キャンドルを消すように」彼のことを忘れられたらいいのに、とため息をついてみたり、山中すみかの「なぜ」(50)の主人公の女の子のように、鏡に向かって「彼はただのクラスメート」と言い聞かせてみたりするわけです。そして「そっと見ていたい/それだけでいいの/そう決めているの/それなのに」他の女の子にやきもちを焼いてしまう自分が嫌いになってしまったりする。

こういう女の子たちは「まるでドラマみたい」に「ある日、彼の方から告白してくれる」みたいな夢を見ているわけで、実際にそういうシチュエーションを曲にしてしまったのが水野あおいの「とまどい」(51)です。内容は「いつも同じ列車の決まって前から3両めに乗っている彼に片想いをしていた女の子。「遠くから見てるだけでよかった」と思っていると、ある日、その男の子が改札まで追いかけてきてラブレターを手渡してくれた。」というご都合主義なもので、ご丁寧にも「"まるで夢みたい・・・" /頬をつねってみた/痛かった」というお約束まで入っています。この曲の作詞・作曲を担当している沢田聖子は、フォークソング歌手のイルカが世に送り出した元アイドル歌手で、そのファーストアルバム「坂道の少女」(52)などで「明るくて素直な少女」の姿を歌っていました。その彼女が書いた少女趣味的な歌詞は、まさにこの歌手にぴったりとはまってしまいます。

だけど「見てるだけ」で気持ちが伝わるということはあまりないわけで、気がつくと男の方はしっかりと(笑)ほかの女の子と付き合っちゃったりするわけです。渡辺満里奈withおニャン子クラブの「深呼吸して」(53)の主人公はバスのターミナルの人込みの中で片想いの彼を見つけたます。彼の名前を呼んでみたかったのに、「腕を組んでるわけじゃないけど/なんとなく似合いの二人」を見てしまい、「隣の人/きっとガールフレンドでしょう?」と勝手な解釈のもと、あきらめてしまいます。ここまであきらめがよくないのが中山忍の「視線だけのハート・ブレイク」(54)に出てくる女の子。「毎日バス停で待ちぶせて見つめていたけど、今日だけいつもと様子が違う。よく見ると他の女の子の手作りマスコットがカバンに揺れているのを発見して涙。」みたいな。もう少し時代が下がって90年代に入ると、同じような片想いのシチュエーションでもここまで行くと嘘くさいと思ってか、「つれていってあなたの胸/心をみんな傷つくことが待っていたってもう怖がる私じゃない」「そっときのうの内気な私を裏切る時そこまで来てる」 [山口リエ「ときめきはひとりぼっち」(55)]という風になってきます。

この手の「見つめているうちに失恋しちゃった」というパターンの曲はいくつも思い付きますが、その中で「真夜中のコンビニ」を出会いの場に設定した曲が「とても小さな物語」(中嶋美智代)(56)。主人公は「欲しいものは買えないとわかっているけど、毎晩、自転車をこいで片想いの彼がいるコンビニに向かう」女の子で、「家はこのへんにあるの?」なんて話かけられたり、お釣をもらう手が触れたぐらいで舞い上がっていたけれど、彼に本命がいることを見せ付けられてしまう、っていうお話。最後の「気づいてたことなのに/打ち消して過ごしたの/自動ドアが音たてて/明るすぎる店を出て/涙があふれた・・・」という最後のフレーズは、うすうす感じていた本命の影を見ないようにして、勝手に自分の夢に酔っていたことを、人為的に暗さを排除した空間であるコンビニで表現し、そこから外に出るということで現実に戻っていくことを暗示したところに作詞者のセンスを感じます。一方で夢見ごこちな女の子の曲を歌わせたら超一流だった「とろりん」こと西村知美の曲に「初めまして 愛」(57)という曲がありますが、それに出てくる女の子は同じ車の彼が助手席の娘ばかり見ていることに気づいても「美しく残るわ/胸の虹は/いつまでも」と、理想化された初恋の形までは捨て去ろうとはしません。どっちのタイプの女の子を好みかは、その人が「もののあはれ」を好むか、あくまで「かわいらしい夢見る女の子」の姿が好きか、というところによるでしょう

 

このパターンの応用例として「幸せな彼を遠くで見ているだけでいいの」というものがあります(58)。野球部のマネージャーがフェンス越しに「君が夢見る夏の紙吹雪の向こうに私がいればいいな」と、彼の夢がかなうことを願っている思いを描いた作品、藤谷美紀の「応援してるからね」(59)もその一つですが、もっと端的な例がそのものズバリの「見つめていたい」[水野あおい](60)。その内容を少し詳しめに紹介すると「授業中、窓からグランドを走る彼の姿が見える。ほんの少しでも、遠くからでも逢えるだけで幸せなの。今日は彼の誕生日。手作りの白いマフラーを持ってきたの。気づいてくれるかな。切ない心」。と、ここまではありがちな展開で、島田奈美の「パステルブルーのためいき」(61)に出てくる女の子みたいに「ぶきっちょな手作りの夢を/笑われてしまうのがこわい」なんて言いながらも、自分から瞳を閉じてキスを待つくらい積極的な女の子だったら、男の子の方からプレゼントの袋を覗いてもらえたかもしれません。しかしこの作品の主人公はそういうことを思いもつかず、結局、「ピンクのリボンに、願いを込めて、結んだプレゼント」も渡せないまま一日が過ぎて行ってしまいます。もっと悲惨なことに突然「お願い、彼と話すきっかけを作って!」なんて友達に頼まれてしまい、お人よしにも「うまくいくように、応援するよ」なんて答えてしまう。それでも彼を「ずっと見つめていたい」という、ここまで少女漫画をトレースしたような歌詞は案外、見当たらないものです。

 

こういう「親友の彼に恋しちゃった」(その逆も可)というパターンはありがちで、こういうシチュエーションは、石川ひとみの「まちぶせ」(62)の主人公のような策士を別とすると、やっぱり当の本人にとっては彼と友達とどっちを取るか悩んでしまうものです。例えば島田奈美(63)の「ブルードットの恋」(64)。この曲の主人公は放課後のバス停で「好きな人ができた」と友達に打ち明けられて、それが自分が想っていた人と同じだったことを知ってしまいます。結局「昼休みの校庭で/二人を見たときに/定期の中 はさんでいた/写真を破ったの」というフレーズから分かるように自分から身を引くわけですが、「ブルードットの傘」の中の友達と彼を見て涙してしまう。

ここまでウエットではなく、もう少しさわやかに揺れる心を描いた曲がQlairの「眩しくて」(65)。これは「初夏の木漏れ日の下、彼氏とラブラブ真っ盛りな親友が、彼の名前を口にしている。自分も同じ人を大好きになってしまったけど、その気持ちを知られたら、親友の笑顔も壊れてしまう。だから自分は違う恋を捜して、いつか同じ場所で親友に打ち明けたい」というものです。恋よりも友情を取る作品には、ヤマザキのCMでおなじみな酒井美紀のデビューシングル「永遠に好きといえない」(66)もあります。これは親友の恋人に片想いしたブラスバンド部の女の子のお話(67)で、主人公は「がんばってね・・・」と友達に告げて、Vサインを出して駆け出すのですが、やっぱりつらくてしかたがない。でも親友のことを思えば、永遠に好きとは言えない、というもの。

こういう風にあきらめがつけば、表面上、問題はおきないのですが「親友の彼を取っちゃった」ということになると一波乱起きるわけです。杏里の「悲しみがとまらない」(68)では友達に自分の彼を会せたばっかりに、友達も恋人もなくした女性の姿が描かれていますが、アイドルポップスにおいては、せめてもの救いが残しているものです。たとえば南野陽子のセカンドアルバム「VIRGINAL」(69)には「接近」と「ガールフレンド」という曲が入っています。前者は「友達の恋を相談したい」といって、本当は「あの子が怒ってもあきらめないわ」と、その友達の彼に接近しようとする女の子の姿が描かれており、そして後者では恋人を取られた女の子の方が主人公です。あやまりに来た友達を前にして、「誰も憎めなくて/だけど またねって言えなくて」雪の中たたずむ二人、主人公は「次の彼を見つけたから」と強がってしまい、「降り積もる雪のように時間が積もって、真っ白だった笑顔に戻りたい・・・。」と、それでも友情が元どおりになることを願う。たしかに「二人の仲を壊してやろう」なんて考える女の子の姿は、理解はできるものの、あまり美しいとは思えませんからねえ。

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