女の子は誰でも、いい匂いが大好き。いやな臭いは大嫌い。
なのに、なんでどっちもおなじ「におい」なの?
わたしのにおいはどんなにおい?
これは一人の女の子と、いろんなにおいの物語。

香水天使 Perfume Angel
セイント・コーミィ



(くるぶしあんよオリジナル企画・原案日記20060626-)

<主題歌>
オープニング「コーミィかおります!」 エンディング「においをくんくん」
春のお日さま けさもお元気
風がつれてく 花のかおりを
おめめつむった わたしのもとへ
シャンプーハットも くるくるまわる
はじける あわのなかで、ほら
あのひと ほほえんでるから
Call me, コーミィ きれいになれる
むねのときめき においにのせて

春の星空 やさしくひかる
ちぎれたくもに なみだふいてと
おめめにしみる わたしもきっと
シャンプーハットに あまやどりして
かがやく あわのなかで、ほら
「だいすき」 ささやいてるから
Call me, コーミィ ゆうきをくれる
すてきなかおり とどけにゆくの

かいじゃお、くんくん かいじゃお、くんくん
いろんなにおいをかいじゃお

はたおりしているふすまのすきま
おみまいきましたふとんのすきま
くんくん、かくれているのはだぁれ?
においをかいだらわかるかな

かいじゃお、くんくん かいじゃお、くんくん
こっそりにおいをかいじゃお

あわててぬげちゃったガラスのおくつ
はまべでぬいじゃったしろいはごろも
くんくん、あのひとどこにいるかな?
においをかいだらわかるよね

かいじゃお、くんくん かいじゃお、くんくん
なめずににおいをかいじゃお


<主要登場人物>
名前 設定
春野かおり 主人公。この春から小学3年生。少し引っ込み思案だけど心優しい少女。お風呂が大好き。
シャンプーハット愛用。寝癖が悩みのタネ。はやく素敵な女性になりたいと願っている。
バブルの力でセイント・コーミィに変身。街の平和を守るために日々いっしょうけんめいがんばる。
おとうさん 会社員。煙草が好きだが、妻や娘に止めるよう言われている。
おかあさん 専業主婦。最近、化粧が濃い。
バブル パヒュームランドからやってきたシャンプーハットの妖精。いろんなあわから召喚される。
アロマ 可愛い柴犬。妙なにおいが好き。じつは魔獣。
みはやちゃん ケーキ屋の娘。のんびり者でいつもにこにこ。かおりと仲がいい。
モレナちゃん ドイツ人のハーフ。自尊心が強く言葉もきついが、じつは恐がりでおもらし癖がある。
かけるくん サッカー少年。かおりの幼馴染みでケンカ友達。かおりのにおいにどきどきしている。
沢谷(さわだに)先生 明朗快活で爽やかな青年教師。かおりの担任で、片思いの相手。
オドレス 世界の悪臭化を目論むデオドランドの国王。その正体は謎。魔人を町に送り込む。
ネスティ 少女戦士。毒ガスと催眠ガスが武器。人間の少女・黒岩アスカとして教室に潜入する。


<全13話 各話内容>
話数と題名 放映日
内     容
第1話「あわから、あわわ」 4/3
 この春に小学3年生になったかおりは、子供っぽさ返上とばかりに、大好きなお風呂に一人で入ることに決めた。しかし、かおりはシャンプーハットがないと頭を洗えない。被らずに頑張ってみたものの、目にしみて仕方なく母親を呼ぶ始末。
 これではいつまでも大人になれない、と焦るかおりは、シャンプーハットをごみ箱に捨てようとするが、どうしても手を離せない。そのとき星々の間から飛来してきた虹色に輝くシャボン玉が、かおりの部屋に漂いこむ。シャンプーハットに触れたとたん、そのシャボン玉の輝きは部屋を包み込み、はじける音とともに妖精バブルが姿を現した。
 かおりは驚いて声も出ず、バブルが話すのをただ見つめる。バブルの故郷であるパヒュームランドから、妖精たちはかおりの世界に幸せな匂いを日々運んでいるのだ。ところが、この世界にいまや、悪臭の国デオドランドがその手を伸ばそうとしているのだという。しかも、まさにこの町に。
 説明を飲み込めないまま、かおりはバブルに連れ出される。すると通りでは、あちこちに開いた下水口から吹き出す悪臭によって、通行人が次々と倒れていた。立ちすくむかおりをマンホール魔人の攻撃が襲う。あやうく家まで逃げ延びたかおりは母親に事態を説明できないまま、臭うわね、と風呂場に連行される。どうしていいか分からないかおりに、バブルはシャンプーハットを被って魔法のシャンプーを使うように促す。その通りに洗髪し始めた瞬間、かおりの体は虹色に輝く泡にくるまれて、香水天使セイント・コーミィが誕生した。シャンプーハットは弱さの表れではなく、怖くても立ち向かっていこうとする勇気の証。そんな勇気をもつかおりに、パヒュームランドの魔法が力を貸してくれるのだ。
 感嘆する間もなく風呂場の窓から再び現場へ向かうと、なおも暴れる魔人に呪文を唱えて、巨大な魔法のあわで包んで空に飛ばしてぱちん。見事に敵をやっつけた。やった、とはしゃぐコーミィだったが、体を覆い隠すあわが次第にはじけていくことに気づいた。変身中は一般人に姿は見えないが、あわが消えるとその効果もなくなるとバブルから聞いて、かおりは慌てて家に戻るのだった。
第2話「ふわふわ、リンス」 4/10
 寝癖が今朝も直らず、新年度早々に遅刻寸前のかおり。クラスがえを行った教室では、引っ込み思案なためになかなか新しい友達が作れない。前から仲良しのみはやが他の同級生たちとの仲立ちをしてくれるものの、クラス女子をはやくも仕切りだしたモレナに気圧されて、かおりはますます内にこもってしまう。それでも、担任となった憧れの沢谷先生に励まされたり、幼馴染みのかけるのからかいに反撃したりするうちに、なんとか前向きの気分を取り戻す。
 翌朝、モレナから漂ういい匂いが女子たちの人気を呼び、その秘密が新製品のリンスにあると自慢げに教えられる。賑やかな雑談を離れた席から聞いていたかおりは、大人っぽいモレナに自分もあやかりたくて、帰宅後におこずかいを握りしめて買い物に出かける。しかし、店に並んだ新製品は大人向けで値段も高くて手が出ない。仕方なく子供用の棚に足を運ぶと、そこには偶然にもモレナがいた。同級生に気づいた途端、手にした商品を慌てて後ろに隠すモレナを見て、かおりは教室の彼女と違う何かを感じつつ、ぎこちなく挨拶をかわす。
 そこに突如、パイプ魔人が出現すると、詰まり物の悪臭を周囲にまき散らしながら暴れ出した。恐怖に怯えたモレナは、腰を抜かして座り込んでしまう。かおりは咄嗟にモレナをかばい、体を引きずってトイレの個室に連れ込む。「ここでじっとしてて」と言い残し扉を秘めると、洗面所の石けんを泡立ててバブルを召喚し、セイント・コーミィに変身。魔人をパイプクリーナーで攻め立てて最後はぱちんとやっつけた後、元の姿に戻ってトイレに向かうと、涙目のモレナは少しちびってしまった下着を洗面所で手洗いしている最中だった。
 大失態を目撃されたモレナの顔は青ざめるが、かおりもまた戦闘の衝撃で少々ちびっており、「あのね、わたしも……」と呟きながら、かすかにおしっこのにおいのする下着を脱いで洗い始める。かおりの恥ずかしそうな横顔を見つめるうちに、モレナはいくぶん心を和らげて、先ほどのかおりの勇敢な行動を思いおこし、本当は臆病な自分を助けてくれたことに感謝する。思わぬ言葉にさらに照れたかおりは、ふとモレナがさっき手にしていた子供用リンスに話をそらす。モレナが告白するには、じつは姉の購入した新製品を勝手に使ったことがばれて怒られ、やむなくいつもの子供用のを買いに来たのだという。そんな意外な裏話にかおりは思わず顔を崩してしまい、モレナも一度は頬を膨らませながら、つられて声を合わせて笑った。こうしてともだちになった二人には、洗ったパンツの冷たさもいくぶん心地よく感じられたのだった。
第3話「くんくん、アロマ」 4/17
 みはやと一緒に下校中、かおりは、よれよれな柴犬の子が倒れているのを発見する。手をこまねく二人のもとに沢谷先生が通りがかり、知り合いの動物病院へと連れ帰る。さいわい命に別状なく、三人は首輪のないこの犬をどうするかで話し合った。
 犬を気に入ったかおりは、帰宅して母親にうちで飼いたいとお願いするが、案の定だめと言われる。だが、娘が珍しく自分の意思を通そうとしているのを喜んだ父親は、かおりが率先して世話をすることや途中で投げ出さないことなど約束のうえ、飼うことを許可してくれた。はしゃぐかおりは早速子犬を家に連れて戻り、アロマと名付けて世話やしつけを始める。アロマはトイレのしつけも不要なほど賢くてみんなを驚かせるが、体を洗うことをとてもいやがるほか、なぜか洗濯前のくつしたなど汚れ物の中がお気に入りだったり、かおりの膝裏をなめたがったりと、妙な癖も目立った。散歩に連れ出すとあちこちでいたずらを始め、しまいには公園にいたモレナのスカートの中に首を突っ込んで、動物の苦手な彼女に悲鳴をあげさせる始末。かおりはペットを飼うことの大変さを思い知るのだった。
 そんなある日の夕暮れ、散歩に連れ出したアロマが突然唸ると首紐を振り切って駆けだした。慌てたかおりが後を懸命に追いかけ、ようやくわんわん吠える声のもとに辿り着いたとき、そこではアロマがポリバケツ魔人から通りすがりの老人を守ろうと立ちはだかっていた。かおりはポケットに入れている携帯用シャンプーでコーミィに変身するが、老人をかばって危機に陥る。だがそのとき、魔人の足もとを狙って転ばしたアロマのおかげで、コーミィは一瞬の隙をついて敵を倒すことに成功した。
 老人の無事を確認したのち、元の姿に戻ったかおりはアロマを抱きしめて頭をなでてやる。嬉しそうにしっぽをふり、かおりの首筋を執拗にぺろぺろなめるアロマは、今日はお風呂でいっぱいきれいにしてあげるからね、と微笑むかおりの言葉に、たちまち血相を変えて腕の中から逃げだすのだった。
第4話「うきうき、ケーキ」 4/24
 みはやの家は、町で人気のケーキ屋さん。だからといって毎日ケーキを食べられるわけでもないと言うが、かおりはいつも羨ましくて仕方ない。もうじき発売予定の新作ケーキのことを教えてもらい、バブルともどもわくわくして待っていた。
 しかし、町周辺ではここしばらく食中毒事件が大量発生していた。注意を呼びかけるニュースを見ながら、かおりは別段気にも留めずにプリンを食べていたが、父親までもが食中毒で病院に運ばれたという電話があったと母親から知らされる。思わずスカートにこぼしてしまったプリンをアロマがぺろぺろ舐めとるのに気づかないほど、かおりはショックを受けていた。
 軽症ですんだ父親を見舞うなか、かおりは看護婦たちの立ち話を小耳にはさむ。事件発生した各店舗で不審人物の目撃情報があるというのだ。怖いながらもみはやの店のことが心配になり、何となく近くに立ち寄ると、まさにタッパーウェア魔人が中身の腐乱した食物から病原菌をまき散らそうと、裏口を探している最中だった。
 驚いたかおりはポケットをまさぐるが、今日に限って石けんなどを所持していない。焦る中でふと思いつき、店に入っておじさんへの挨拶もそこそこになけなしのお小遣いで買い物をし、裏口へ回ってそのショートケーキの生クリームをすくいとった。微細なホイップを使って何とか変身できたコーミィは、ともだちの店とケーキを守るために、魔人をたちまちぱちんとやっつけた。しかし、元の姿に戻ってからも、変身に用いたクリームの甘く濃い匂いが消え去らず、当初は喜んでいたかおりも次第に胸焼けがしてきてしまう。帰宅後すぐさま体を洗ったかおりが風呂場から出たとき、母親が笑顔とともに夕飯後のお楽しみとして差し出したのは、今日発売のあの新作ケーキだった。絶句したかおりは、その前にうちも危ないから片付けようよ、と冷蔵庫を開き、奥の方に眠る幾つものタッパを掘り出して、蓋を開けては母娘ともども悲鳴をあげるのだった。
第5話「むずむず、かさぶた」 5/1
 休み時間、ドッジボールを手にしたかけるに追いかけられたかおりは、転んで膝をすりむいてしまう。心配するみはや、怒鳴るモレナ、まずいと思いながらも謝れないかける。やってきた沢谷先生は、すぐにかおりをお姫様だっこして保健室に向かい、膝を消毒して絆創膏を貼ってくれた。かおりはあまりに嬉しくて、教室前で待っていたかけるが詫びるのにも上機嫌で応え、肩透かしをくらわせた。
 帰宅後、かおりは先生の絆創膏をはがすまいと注意し、アロマを膝に寄せつけない。風呂場でも膝を湯船につけず、バブルが新しい絆創膏に換えようと言っても耳を貸さない。その夜、先生の夢を見ることができたかおりは、朝方に布団の上を転げ回りながら、絆創膏のおかげだね、と納得するが、膝のそれはだいぶがびがび。校庭での授業中に沢谷先生の説明を聞きながら体育座りをしていると、先生の姿と絆創膏が重なってくすぐったい気持ちになりながら、その臭いがかおりの鼻先で少々気になってしまう。
 帰宅後、散歩の最中もしつこく膝にまとわりつく愛犬に辟易としながら、かおりは、今晩もう一度だけ先生の夢を見てから新しいのに換えようと考えていた。そんなかおりをいきなり引っ張るように、アロマが唸って駆け出した。公衆便所魔人が出現して、目に刺さるようなアンモニア臭を町中に垂れ流しつつあったのだ。携帯シャンプーで変身したコーミィだったが、絆創膏を気にして戦っているうちに、強烈なしぶきをくらって倒されてしまう。絶体絶命の大ピンチ、そこに身を挺して愛犬が吠える。アロマだけでも助けなければ、とコーミィは下がるように命令するが、アロマは言うことをきこうとしない。コーミィはとっさに絆創膏をはがすと、魔人の反対側へ投げ捨てる。アロマが飛びついたのを見て安心したコーミィは、魔人の腕が振りあげられた瞬間、目をぎゅっとつぶった。
 そのとき、絆創膏を口にくわえたアロマが玉虫色に輝き、みるまに狼めいた巨体へと変化した。驚いたコーミィが言葉もなく見つめる前で、魔獣アロマは魔人に飛びかかり、あっという間に地面にたたき伏せる。バブルの「いまだ」との叫びに我を取り戻したコーミィは、起き上がりざまに魔人をぱちんと消し去った。力を使い果たしたコーミィに魔獣はゆっくり近づくと、その姿を恐れながらも逃げようとしない飼い主に、おごそかな声で問いかけた。「かさぶたも、はがしていい?」
 ……えー、だめー、との返事を聞いて、魔獣は残念そうに唸ると、再び怪しい光をまとって元のアロマに戻る。もはや一言も語らないまま飼い主の膝のかさぶたに鼻先をこすりつけようとする愛犬を抱きかかえながら、かおりはバブルと顔を見合わせる。パヒュームランドの住人ではないこの魔獣、いったい何者なのだろうか。かおりの不安な表情を見つめながら、バブルは、ともかくコーミィの能力をアップさせないと、ともうひとつの懸念を口にした。
 そのころ、とある闇の世界では。濁った水晶球の中に浮かぶコーミィたちの映像を、指先の動きでかき消しながら、そこにいたのか、と呟く偉丈夫がいた。その男こそデオドランドの支配者オドレスであり、その背後には幾体もの魔人の影と、一人の少女の姿が控えていたのだった。
第6話「ころころ、コロン」 5/8
 魔人に負けない力を得るために、かおりはバブルの指導のもとで、日頃からいい匂いを身に纏う訓練をする。とは言っても、お風呂で体や頭をもっと念入りに洗うのがせいぜいのところ。しかもあんまり洗髪に時間をかけすぎて、おでこにシャンプーハットの跡が残ってしまう。続いて母親の化粧品に手を出すが、化粧のまねごとをしているうちに顔面が大変なことになり、まだ早い、と半ば笑われながら叱られる始末。
 焦るかおりが迎えた授業参観日、教室でひときわ注目を集めたのがモレナの姉のユリアだった。多忙な親の代役で現れた彼女の若さと美貌は、周囲の母親達を圧倒し、沢谷先生までもが動揺してしまう。そのことで辛さを感じたかおりは、しかし授業後にユリアから、妹と仲良くしてくれてありがとう、と輝く笑顔で感謝されて気がほぐれ、かえって憧れの気持ちを抱くとともに、その体から漂うコロンの匂いにうっとりするのだった。
 数日後、かおりから相談をもちかけられたモレナが、今回だけよ、と釘を刺しながら、姉の愛用コロンを微量拝借してきた。代わりにモレナの家で禁じられている漫画本を渡しつつ、かおりはうきうきとコロンを仕舞い込む。これで次はすごい力が出せるよね、とほくそ笑むかおりとバルブに、アロマはなぜかよそよそしい。
 その帰宅途上、焼却炉魔人が出現し、不完全燃焼プラスチックの臭いを煙もろともまき散らし始めた。かおりは絶好のチャンスとばかりにコーミィに変身するが、ふりかけたコロンの匂いを強烈に纏っているにもかかわらず、パワーアップできていない。なんで!?と問うまもなく窮地に陥るコーミィ、迫る魔人の炎熱に髪の毛の端が焦げてしまう。その焦げ落ちた毛先をくわえたアロマは、またも魔獣に変じると、敵の煙突に石ころを投げ込んで煙を止め、コーミィがぱちんと倒す隙を作った。
 戦闘後、コーミィは魔獣をいいこいいこしようと近づくが、魔獣は鼻先をしかめて、そうじゃないんだよなぁ、と呟くと、たちまち元のアロマに戻った。何を尋ねても再びさっぱりな愛犬を抱えて家に戻ると、かおりのコロンの匂いに気づいた父親に呼び止められる。おしゃれしたい気持ちは女の子らしいが、あまり背伸びしすぎるのはかえっておしゃれじゃないし、かおりらしくない。そう諭されたかおりは困惑しながら、わたしらしいにおいってなんだろう、と自問するのだった。
第7話「かびかび、おふろ」 5/15
 家の風呂が故障したため、かおりは両親より一足先に銭湯に行くことになった。久々の大きなお風呂に心浮き立つかおりだが、番台に座っているのがここの息子のかけるだったため、顔を真っ赤にして恥ずかしがる。動揺したかけるもまた、お前の裸なんか見たってしょうがない、などと憎まれ口を叩いてそっぽを向く。憂鬱なまま服を脱いでいるとき、後から来た客のややきつい目をした凛々しい少女が、かおりにふと鋭い視線を投げかけるのを感じた気がした。
 湯船に入る前に体を洗っていると、遅れて入ってきたあの少女がそのまま湯船に入ろうとして、先客のおばさんに、体を流してから入りなさい、と叱られる。しかし少女は、どうせ洗ったって汚れは湯に溶け出すのに、などと澄ました顔で、おばさんを怒らせてしまう。少女は何事もなかったかのようにかおりの隣に腰掛けると、石けんを貸してちょうだい、とぶしつけに言う。あ、はい、と思わず貸してしまったかおりに、少女は、安物ね、と心ない言葉を返し、そんな匂いでこの世界を幸せにできるのかしら、と謎めいた微笑みを残して、結局入浴せずに風呂場を出てしまう。
 かおりが呆然と見送るなか、さっきの口うるさいおばさんが今度は、なんかカビくさいわねえ、と文句を言いながら風呂から上がろうとして、滑って頭を打ち気絶してしまう。あわわと焦って助けに行こうとしたかおりは、床タイル一面が突然ぬるぬるしたカビに覆われていくのを発見し、急いで変身。バスタイル魔人の攻撃に、足下不如意のコーミィは大いに苦戦するが、風呂桶をスケート靴がわりに滑走する戦法で、なんとか敵の背後をとりぱちんとやっつけた。戦いを終えたかおりは、湯船の中で一息つくが、ずっと熱気の中にいたためにのぼせて倒れてしまう。やがて目が覚めたとき、頭上ではかけるが心配そうにうちわを扇いでいた。照れながら体を起こすかおりに、かけるは安堵しつつも、彼女から立ち上るほかほか湯気のにおいに胸がときめいてしまう。迷惑かけんなよ、と思わずつっけんどんに冷たいフルーツ牛乳を少女の首筋に押し当てて、かおりに悲鳴をあげさせた。
 翌朝の教室。かおりは、昨晩風呂場から助けてくれたのがかけるの母親だったと聞いてほっとする。しかし、沢谷先生が連れてきた突然の転入生を見て、かおりは思わず声をあげる。銭湯で出会ったあの無表情な少女が、そこに立っていた。黒岩アスカと名乗る転入生は、教室内を鋭いまなざしで見回していたが、やがてかおりを視線にとらえると、妖しい笑みを浮かべるのだった。
第8話「すーすー、しょうどく」 5/22
 転入生のためにと親切に振る舞うモレナをアスカは冷たくあしらい、女子生徒達の心象を大きく損ねる。しかし、なぜかかおりにだけはわずかに言葉を交わすため、モレナとの板挟みに苦しむかおり。そんなかおりをみはやは元気づけ、モレナもかおりにアスカの世話をお願いするなど度量の大きさをみせ、かおりは素敵な友人達の期待に応えようと発憤する。アスカに語りかけるもなかなかうまくいかないが、めげずに頑張るかおりを見て、沢谷先生は優しく励ましの声をかけ、かおりを大喜びさせた。
 予防注射の日を迎えたかおりは、戦々恐々と自分の番を待つ。モレナとみはやが軽々と済ますのを感嘆しつつ、かおりはみはやに手を握ってもらって何とか乗り越えようとする。だが、ふと何かを感じて振り返ると、ちょうど真後ろには青白い顔のアスカがいた。かおりはすぐに一計を案じて、みはやではなくアスカに自分の手を無理矢理握ってもらうことにした。消毒液の臭いとひんやりする感触、そしてちくっと痛み。涙目で我慢できたかおりは、もう少し手をつないでてね、とお願いし、不承不承うなずくアスカの手が、注射される間自分の手をぎゅっと握るのを黙って受け止めた。
 腕の脱脂綿を押さえながら微笑みかけるかおりを、アスカは気まずそうに避けてトイレに姿を消す。それでも何となく彼女に近づけた気がしたかおりを突然襲ったのは、腐ったタマネギのような悪臭と、それを嗅いでむせこんだとたんに催眠状態に陥った級友達と看護婦、お医者さんだった。勢い変身したものの、みはややかける達を攻撃することができず、トイレ前に封じ込まれるコーミィ。そこに迫るのは、怪しい液体をたたえた太い注射器を構えた医者。さらにその隣に出現したのは、今までの魔人とは違う、一人の少女戦士だった。ネスティと名乗るその敵は、コーミィの無力さをあざ笑いながら医者達を操り進ませる。注射器への恐怖で半べそのコーミィは、だがトイレの奥へ逃げようとしない。そこには、きっと友達がいるはずだから、わたしが守らなきゃいけないの。
 その震え声にネスティはなぜか一瞬躊躇し、その隙にどこからともなく駆け込んだアロマが、コーミィの腕に貼られた血の付いた脱脂綿を器用にかすめとって魔獣に変化する。助っ人を得たコーミィは一気に反撃、あわでぱちんと消そうとしたとき、不利を悟ったネスティは姿をくらました。しかしその寸前、コーミィの目はネスティの腕に脱脂綿が貼られているのをとらえ、皆を回復させながら小首をかしげる。その廊下の陰ではネスティがアスカの姿へと変身し、かおりの後ろ姿をにらみ据えながら、いまいましげに脱脂綿をはがして床に投げ捨てるのだった。
第9話「ぷかぷか、たばこ」 5/29
 かおりは父親の煙草の臭いが好きではない。体にも悪いしやめようよ、と母親ともども説得し続けているが、効いたためしがない。しかも今日はモレナの誕生パーティに着ていく服に煙草の臭いがうっすら染みこんでいたことに気づいて、腹を立てたかおりは父親をなじってしまう。
 パーティの場で、かおりの怒りにモレナやみはやは同情する。だが、モレナとかおりに請われて仕方なく出席したアスカは、その臭いはかおりの父親自身にとっては嬉しいものなんじゃないの、だって仕事の疲れを癒してるんでしょ、と問いかける。えーそんな、と言い返そうとしながらも、かおりは父親にきつく言い過ぎてしまったかもと反省する。そんなかおりの着飾った姿を横目に、かけるは何となく気もそぞろ。
 かおりが帰宅すると、ちょうど父親が禁煙を決意し、灰皿などを片付けていた。驚いたかおりは父親に先の件を謝るが、母親の喜びようや父親自身の熱意の前に圧倒される。しかし長年の習慣はすぐには変えがたく、近所の「近年の集い」に参加しながら陰で悶える父親の姿に、かおりは応援しながらもいたたまれない。
 そんなタイミングの悪いときに、ニコチン魔人が出現し、集い参加者を煙に巻いて次々と喫煙の道に舞い戻らせ始めた。集い会場の公民館への道をかおりと一緒に歩いていた父親は、いきなりの煙に襲われて、たちまち自販機の煙草を購入してしまう。その手にしがみつき「がんばって!」と訴えかけるかおりに、出現したアスカが、悪しき臭いの威力には誰も逆らえないのよ、たとえ身を滅ぼそうとも、と嘲笑する。だが父親は、娘の涙顔を前にして、震える手を気合いもろとも握りしめ、つぶれた煙草を投げ捨てた。目を見開く娘ににっと微笑みかけた父親は、さらに敵からかおりをかばおうとするが、力を使い果たして昏倒する。父親の手をそっと両手で包んで、「お父さん、かっこいいよ」とうれし涙をこぼしたかおりは、なおも驚愕したままのアスカに向き直り、怒りの変身でたちまち追い詰める。救援に赴いたアロマが手を出す暇もなく、コーミィはパワー倍増でアスカを退散させた。
 あまりの威力に自分でもびっくりしたコーミィに、バブルも信じられない面持ちで、こんな煙草臭いのに、と首をかしげる。でもお父さんの煙草のにおいってなんだか安心するね、とかおりが思い直したとき、ようやく意識を取り戻した父親は、何があったんだっけとぼんやりしながら、懐に隠していた煙草を取り出して一服してしまう。あーずるっこだ!と叱る娘に気づいて驚いた父親は、慌ててもみ消しながら親父ギャグをまじえて言い訳を始めるが、かおりはその加齢臭にもくすくす笑いながら、お母さんにはナイショにしてあげるからちょっとずつ減らしていこうね、と諭す。一方、魔界に逃げ戻ったネスティは、次こそは、とシガーチョコをかみ砕くのだった。
第10話「ちりちり、ひやけ」 6/5
 夏休み直前、かおり達は一足早く海に遊びに行くことになった。晴れた海岸はの香りに満ち、かおりは喜び勇んで波打ち際でみはやとちゃぷちゃぷ遊ぶ。泳げない二人にモレナは厳しく水泳指導しようと試み、独り泳ぐアスカはかけるにクロール勝負を挑まれるも、あっさり大差で片付ける。かおりに笑われたかけるは、腹立ち紛れに岩場の向こうへ歩み去る。
 一方、かおりは不意に尿意をもよおして、トイレに急ぐも長蛇の列。海の中でしてしまう度胸もなく、仕方なく岩場の陰へと小走りに向かう。ここなら大丈夫、と気を緩めた瞬間、背後の岩間から大声をかけられて、かおりはへたりこむ。笑いながら出てきたかけるは、じんわり濡れていく砂の上にしゃがんだかおりの泣きべそ顔を見て大慌て。困り果てて、これやるから、と差し出した手には、美しい貝殻がいくつも握られていた。
 ようやく顔を上げたかおりは、ほっとしたかけるに誘われて、皆の分もと貝殻などを集めることにし、濡れ跡を砂で覆うと、いそいそと探索を開始した。久々に幼いころと同じようにかおりと二人はしゃぐかけるだが、彼女の手をとって岩の上へ引っ張りあげたとき、水着から覗く白い肌と日焼けのにおいに、なぜか胸がどきどきしてしまう。
 二人とも腕いっぱいに戦利品をかかえて次の岩間に踏みいると、そこでは先客がひたすら集めたまま放置した海産物の小山が悪臭を放っていた。悲鳴をあげて貝殻をばら撒いてしまった二人の背後に、突如現れたのはネスティと潮溜まり魔人。魚発酵系スプレーにかけるは卒倒し、変身したコーミィはたちまち追い詰められてしまう。しかし、そばに倒れ込んだコーミィの日焼けのにおいを嗅いだとき、眠るかけるの意識の底に小さな波紋が生まれた。
 かけるが手の中に唯一残っていた貝殻を投げつけると、ネスティ達がわずかな隙を作る。たちまちコーミィは魔人をぱちんとやっつけネスティを退散させると、かおりの姿に戻って幼馴染みを介抱する。やがて目覚めたものの記憶がはっきりしないかけるは、日射病みたいというかおりの説明に半信半疑ながら、ともかく貝殻を一緒に集めなおす。皆の分を1個ずつだけ選び終えて戻ろうとするとき、かけるはとっておきの貝殻を、これやるよ、と無愛想に差し出す。しかしその貝殻は、さっき無意識に敵に投げつけたときに端が欠けてしまっていた。気づいて手を引っ込めようとするかけるを留めて、かおりは素直に受け取ると、ありがとね、とってもきれい、と微笑んだ。
 照れくさくてたまらず顔を背けたかけるは、かおりから漂うシャンプーの匂いに気づいて、あれ、なんでだ、と怪訝に思う。しかし鼻をひくひくさせているうちに、海の家の方から流れてきたやきそばの香ばしい匂いに釣られて、そろそろお昼だな、と砂浜めがけて走り出す。かおりも慌ててその後ろを追いかけるが、腕の中の土産がこぼれそうで走れない。ちょっとまってよ、もー、と叫ぶ声が、岩の合間に響き渡った。その頃、魔界では、ふて寝するネスティのバッグの中で、洗っていないままの水着が腐り始めていた。
第11話「ぺたぺた、うわばき」 6/12
 終業式の日、夏休みの予定で盛り上がるモレナ達のかたわらで、かおりは愛想笑いを浮かべながら足をもじもじさせていた。ここしばらく上履きを持ちかえって洗うのを忘れ、しかも今週ずっと暑かったため、だいぶ汚れてしまっていたのだ。でも今日で終わりだから、と思いつつ、沢谷先生に見つからないようにとひやひや。席についている間も、なるべく机の前から沢谷先生に見えないようにと、足をぐいと椅子の下に曲げてがんばる。
 そんなかおりを、アスカは忌々しげに横にらみ。主のオドレスから、もはや失敗は許されないと最後の通告を受けていたのだ。コーミィの弱点を探さねば、と眉根を寄せるうちに、かおりの姿を見て何かに気づく。その後しばらく様子を監視し、担任から通信簿を受け取るさいのかおりの足が奇妙にもじもじしているのを発見して、アスカはその理由に思い当たる。さっそく次の作戦を練りながら、通信簿を手渡されて席に戻ると、何気なく開いたその成績表が意外に悪いことに大衝撃。これもみんなコーミィのせいよ、と決めつけたアスカは、やがて練り上げた計画に満足すると歪んだ笑みを浮かべた。
 ようやく下校時間となり、かおりは上履き入れをランドセルにぶらさげて、みはやと一緒に足早に玄関を出る。そこに現れたネスティは、みはやを失神させると単身でかおりに襲いかかる。かおりはランドセルを下ろすとすぐにコーミィに変身し、ネスティの攻撃からみはやを守ろうとするが、なぜかネスティはいつもより気迫に乏しい。理由はともかく好機を逃すまいと、コーミィが魔法のあわでネスティを包み込もうとしたとき、アスカに手紙で呼び出されていた沢谷先生がやってきた。驚いて動きの止まったコーミィの隙をついて、ネスティはかおりのランドセルから上履き入れをもぎとると、担任めがけて投げつける。二人の姿が見えないまま、上履き入れを拾い上げた沢谷先生は、コーミィがうろたえる間もなく春野の名札を見て首を傾げ、はみ出た中身の上履きに苦笑した。
 汚れた上履きを見られてしまい、憧れの先生に嫌われたと感じたコーミィは、へなへなと座り込んでしまう。作戦大成功のネスティは逆襲に転じ、コーミィにとどめをささんとするが、上履きを嗅いだアロマが巨大化して沢谷先生を昏倒させると、ネスティに突進して魔法のあわの中へ突き倒す。悲鳴をあげたネスティはかろうじて逃走したが、かおりは着替えたあとも涙目のまま、木陰からそっとみはやの様子をうかがう。沢谷先生に介抱されていたみはやはそれに気づいて、かおりが担任を呼んできてくれたのだと勘違いして感謝する。しかし、かおりは先生の傍らにある上履き入れを目にすると、たまらず背を向けて駆け去った。
第12話「べとべと、ねあせ」 6/19
 みはやが上履きを家まで持ってきてくれたものの、かおりは意気消沈したっきり。親身になって心配するみはやに、正直に話すこともできずますます落ち込んでいく。このままじゃ先生に臭い子だって思われたままだ、と翌日ようやく気を取り直したが、今度は体臭を気にしすぎて、バブルが止めるのも聞かずお風呂に入り浸り。とうとう夏風邪をひいて風呂どころでなくなり、逆に汗臭くなってしまう。
 病院で注射まで打たれ、いっそう自己嫌悪に陥って布団の中に潜っていると、サッカークラブ帰りのかけるが珍しく見舞いにやってきた。あいからわず寝癖ひどいなー、などとからかうが、いつもの反撃がこない。そういやこれ配ってたからやるよ、とぎこちなく差し出したのは、本当はわざわざ買ってきたにおい袋だった。いくぶん表情を輝かせたかおりは、ありがとう、と受けとって鼻をくんくんさせていたが、しかし涙ぐんでしまう。大慌てのかけるに、かおりはめそめそと、わたし先生に嫌われちゃった、だって臭い子だもん、としゃくりあげる。そんなことねえよお前べつに臭くねえよ、と思わず語気を強めたかけるは、びっくりして見つめるかおりに、い、いやほら俺のほうがよっぽど臭いしさ、ほら、と汗だくのユニフォームを指さしてごまかす。
 そのとき、街の真ん中で爆音が轟き、コーミィに勝負を挑むネスティの声が響き渡る。母親は娘に部屋で寝ているよう言いつけて様子を見に出かけたが、かおりは戦いに向かおうとしてふらつく。ばか寝てろよ、と支えたかけるは、お願いあそこに連れてって、私が行かなきゃだめなの、と懇願する幼馴染みの真剣な顔に驚き、また寝汗のにおいとパジャマごしの温もりに動揺しながら、やむなくおんぶして抜け道を走る。背中におぶさりながら、かおりはかけるののにおいに顔をうずめるが、不思議と気分が落ちついた。
 待ちかまえていたネスティは、先日のダメージが癒えずにいたが、到着したかおりの前で野次馬たちを昏倒させ、さあこいと挑発する。かおりはシャンプーを髪の毛にふりまくが、寝汗のせいでほとんど泡立たず、変身したものの力が出ない。あざ笑うネスティはコーミィとバブルを防戦一方に追いやる。かおりの姿が消えて驚愕していたかけるの手から、飼い主の首に巻かれていたタオルをくわえ去ってアロマは魔獣に化ける。反射的にこの子犬を抱き留めたかけるは、その見えない体躯の変貌を感じて悲鳴をあげるが、跳躍するアロマにふりほどかれまいと必死にしがみつく。
 あわをはぎ取られていくコーミィに、ネスティがアスカの姿を明かす。騙されていたのに気づかないとはね、と笑いつつこちらも体力わずかのネスティは、とどめをささんと空中から急降下。だが、呆然と立ちすくむコーミィをかばうように飛び込んだアロマがネスティの爪を受けたとき、しがみつくかけるの手から吹っとんだにおい袋が、ネスティの鼻先に命中した。目を眩ませたネスティはバランスを崩して落下する。しかし、真下に駆け込んでその体を受け止めようとしたのは、変身を解いたかおりだった。下敷きになり力尽きたかおりは、なぜこんなことを、と叫ぶバブルに、だってアスカちゃんは友達だから、と呟く。息を呑んだネスティは、それでも好機と爪を再び振りかざすが、かおりの腕に注射の跡を見つけてためらってしまう。
 そのとき闇が訪れ、一同に覆い被さっていく。デオドランドの支配者オドレスが降臨したのだ。恐怖するネスティを、オドレスは「敵に情けを見せおって」と容赦ない一撃で打ち倒した。
第13話「にこにこ、におい」 6/26
 ついに最後の戦いに臨んだかおり達。だが、すでに変身する手段さえ残っていない。かおりは、倒れて動かないネスティを抱き起こそうとし、その二人をかけるとバブル、アロマがかばう。オドレスの周囲に浮かぶ悪臭の魔人達をアロマが引きつけ、その隙間に突進したかけるがバブルをオドレスに投げつける。我が身を犠牲にしてでもかおり達を逃がそうとした3人の協力で、バブルの生命力を振り絞った巨大なあわが敵を包みこもうとした瞬間、バブルはオドレスの吐息に巻かれて捕らえられてしまった。
 握りつぶされるかと思いきや、バブルの体はオドレスから注ぎ込まれる魔力によって逆に輝きを増していく。かおり達が声もなく見あげる前で、バブルが放つシャンプーの匂いはどんどん濃厚になっていき、やがて鼻腔を突き刺すような悪臭へと転じた。悲鳴をあげるかおり達に、オドレスは、いい匂いの化粧をした者達の集う部屋がなぜか息苦しいこと、香水も濃縮すれば悪臭を放つことを冷ややかに語る。いい匂いは、つきつめればすべていやな臭いなのだ。世界にいい匂いをもたらそうとするパヒュームランドが、悪臭の国デオドランドに破れることは運命づけられているのだ。
 自分のにおいに衝撃を受けたバブルは闘う意志を失い、アロマはオドレスの足下に踏みしだかれる。じつはアロマはかつてオドレスと覇を争った間柄で、破れた末にデオドランドから脱走していたのだ。オドレスが求めたのは圧倒的な悪臭による破壊、しかしアロマが理想としたのはほどほどの臭いによる心地よさ。そんなアロマも再び仇敵に屈服させられようとしていた。哄笑するオドレスは、かおりの世界をいよいよ征服する前にと、この犠牲者達を弄ぶ。バブルのにおいを元に戻すと、次はかおりの番だと指さして、彼女の体臭を一気に濃縮する。自らの臭いに倒れるがよい、と勝ち誇る敵の眼前で、かおりは嗅覚のみならず恥ずかしさに耐えかねてしゃがみこみ、顔を両手で覆い隠した。わたし、臭いんだ。やっぱり臭い子なんだ……。
 そのとき、かおりの小さな体を、かけるが力いっぱい抱きしめた。驚くかおりは、臭いでしょ、しんじゃうよ、と突き放そうとするが、かけるは腕にいっそう力をこめる。臭くなんかない。「だってお前、ずっとがんばってきたんだろ。怖くても、いっしょうけんめいやってきたんだろ。今日だって、お前、熱あんのに……すごいよ、お前すごいよ。だから、汗かいて泣きべそかいてがんばってるお前のにおいが臭いわけない。俺は、お前が……お前のにおいが好きだ!大好きだ!」真っ赤になって叫び大きく深呼吸するかけるの汗のにおいを、ユニフォームに顔をうずめたかおりが思わず吸い込んだとき、かおりの体がまばゆい輝きに満たされた。汗のにおいには、いっしょうけんめいがしみこんでる。かけるのにおい。サッカーの好きな、わたしを守ってくれる、明るくて優しいかけるのにおい。わたしも、こんな匂いがしているのかな。「うん……いい匂い、だよ。」泣き笑いささやいたかおりは、ともに立ち直ったバブルの力を借りて再びコーミィに変身した。
 思わぬ展開に激昂したオドレスは、悪臭の魔人どもに襲いかからせるが、コーミィの輝きに触れた魔人は次々と消滅してしまう。七色のあわをまとって突進するコーミィを叩き落とさんと腐乱した両腕を振り上げたとき、オドレスの足がアロマによって不意に突き上げられて体を泳がせてしまう。こっそりアロマににじり寄っていたネスティが、瀕死の魔獣の鼻面をスカートの中に突っ込ませ、あっという間に回復させていたのだ。喚く巨躯をコーミィのあわが包んだとき、パヒュームランドの力に耐えられるはずのオドレスの体は、かおりの、かおりだけのにおいによって脆くも崩壊していった。シャンプーの匂い。汗びっしょりの臭い。どっちも、わたしのいいにおい。わたしらしい、いっしょうけんめいのにおい。
 オドレスは絶叫とともに爆発し、闇もまた消えていく。爆風からかおり達を守ってくれたのは、バブルのあわだった。きらきら光るあわの中で、バルブとアロマはかおりにお別れを告げる。かおりとかけるから大切なものを教わった二人は、それぞれ故郷に戻って本当に幸せなにおいを仲間達と目指すと言う。そして、いつかお互い助け合える日がくるように、と。また会えるよね、と約束をして、かおりとかけるは手を振り見送る。憮然と立っていたネスティは、何も言わないままアロマを追って去ってしまう。あ、とその背に伸ばした手が届かないまま、かおりは気がつけば自分の部屋に戻っていた。。
 熱も下がっていたかおりは、ひとり久々に風呂に浸かる。髪を洗おうとシャンプーハットに手を伸ばすが、ふと引っ込めて使わずにがんばろうとする。しかし、やはり目にしみてしまいうーうー唸るうち、バブル達の顔を思い浮かべて涙がこぼれる。ようやく洗い終えて風呂場を出ると、ちょうどみはやとモレナ、そしてかけるが玄関を訪れていた。近くで見つけたんだけど、かおりちゃんちでお風呂入れさせてもらえる?と尋ねたみはやの後ろに隠れるように身をこごめていたのは、頭からドブに落ちたとおぼしき格好のアスカだった。「アロマの奴に、途中で振り落とされた……」とうつむき呟くアスカを見て、口をあんぐり開けたかおりはたちまち玄関に飛び降りてそのヘドロまみれの手を握りしめた。「入って入って!あ、みはやちゃんもモレナちゃんも一緒に入ろうよ、洗いっこしよ!」ええっいいわよ一人で入れるわよ、と喚きながらも引きずられていくアスカに咄嗟に腕を掴まれて、かけるまでもが「え? ……え?俺も!?」と連行される。狭い風呂場と脱衣場で、アスカとモレナの罵りあう声が、かけるの怯える声が、かおりとみはやの笑い声が、にぎやかに響き渡る夕暮れどき。シャンプーハットをのっけた頭の上から、あわがふんわり浮かんで飛んだ。(終)


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