<考察本扉絵感想>

 改訂新版にて追加された扉絵の感想を、絵師天野拓美氏への感謝の意を込めてここに記す。もちろんこれは論者個人の感性に基づくものであり、読者諸兄姉の想像力はこれらの絵からより豊かな情景を得られることだろう。 (くるぶしあんよ)


第1部(p.4)可憐
 制服姿の上半身。アニプリでは、こんな表情の可憐は意外にもほとんど描かれていない。その目に宿る感情は、兄の前で初めて制服姿を披露して「どうかな?」と尋ねる場面を想像させるが、作品内では可憐と同じ学校に通うことに初登校日まで気づかなかった航に、気の利いた反応ができたとは思い難い。あるいはこの絵は、姿見を前にして可憐が自分の姿をチェックしている朝の光景かもしれない。日常生活の中で毎日繰り返される、そして兄とともにいるその日常のかけがえのなさを見つめ直す、そんなひととき。可憐の瞳には兄が宿り、今日一日への期待に満ちている。

第1-2話(p.9-12)12人
 兄と暮らすために、妹達は島へ向かう。CD『Prologue of Sister Princess』では、島に渡る前にほんのちょっとだけ顔合わせしているが、この絵の妹達はその直前までの姿にも思える。今まで暮らしていた家を離れて、未知の生活に向かうという不安と期待。そして、兄への憧憬。兄にしてあげたいこと、兄からしてもらいたいことを胸の中でこっそり呟いたり、信頼するよき大人に声をはずませて伝えたり。だが、妹達のその目線は未だお互いに向いてはいない。

第3話(p.25)四葉
 自作の<お兄ちゃんと一緒>表を手に、自慢げな立ち姿。共同生活の原則が、妹側に偏りすぎながらもひとまず構築される場面である。論者はこの四葉の姿を想定することで本話考察の、ひいては考察全体の端緒を得たが、まさにその「はじまり」の情景を見事に描き出している。その手に掲げる表の文字は、あまりに細かいためにこの絵では描かれていない。だが、このことがかえって、第3話の最後になされる表の廃棄と、兄妹が手探りで一緒に歩んでいく白紙のままの未来を、暗示してくれている。

第4話(p.39)雛子
 くまの帽子のお出かけ姿。頼るべきものを探し求めて覗き込む扉のこちらと向こうは、雛子の夢と現実。手をつないでぬいぐるみを探し回った兄とともに、雛子はこの扉をくぐりきることなく、夢と現実を結びつけられた。だから、やがて彼女は、不在の兄を待つこともできるようになる。しかし、ぐっとこらえるその辛さは、幼い雛子にとっていかばかりか。この服装で再度登場した第25話、ウェルカムハウスから船着き場に向かう直前に、雛子が兄の部屋をそっと覗き込む、そんな姿にも映る絵。

第5話(p.49)鈴凛
 床座りではなく腰掛けたままで、モバイルの最終チェック中らしき姿。あるいは、調子の悪くなった機械を直しているところだろうか。やや見上げる読者目線で、この頼れる年長者への敬慕をふと抱く。その鈴凛のまなざしは、メカを見据えつつどこまでも優しい。この自作機械を妹達が喜ぶことへの、そしてその機械が兄と自分達を結ぶことへの、自負と嬉しさがにじみ出ている。そんな彼女が作り上げた、いや育て上げた発明品は、まるで子どものようにみな温もりと愛嬌がある。

第6話(p.61)眞深
 一瞬、停止中のメカと見間違えそうな13人目の妹の姿。眞深はスパイの道具として潜入し、心のない機械のように命令を受ける。そんな彼女を妹達の輪に迎え入れる契機が、本話だった。みんなの靴に囲まれて、眞深もこれからの足跡をともにしていく。だが、今までの歩みを脱ぎ捨てることはできないし、いつまでも一緒に歩むこともできない。いま勝ち得た幸せに、過去と未来のいろを重ねて、眞深は自らの揃わぬ足下を静かに見つめる。スイッチの入れどころが分からないまま、いましばらくは心躍る輪の中をさらに賑やかす。

第7話(p.71)咲耶
 花嫁の麗しい後ろ姿、白い肩が輝く。そこに兄の目は、やがて離れていくこの妹の姿を、移ろいゆく日常のかなしさを、ほのかに見る。可憐の目は、自分の先をゆく競争相手の堂々たる美しさとつよさを、一歩後ろから無言で認める。そして咲耶自身の目は穏やかに閉ざされたまま、今日こぼれ出た不安と切なる想いとを再び胸にしまいこんで、兄と向かい合ったほんのひとときを微笑みにかえる。やがて空に投げるブーケを、幼い日のこの咲耶は受けとめることができたのだろうか。

第8話(p.81)鞠絵
 椅子に腰掛けて本を繙く姿。一度読んだ本なのか、ページをまとめて見返そうとしているかのようだ。島に来る前の鞠絵が、療養所でお気に入りの本を手にして、幸せな過去と未来に思いをはせているのだろうか。それとも島で二度目の梅雨を迎えた彼女が、思い出の物語を、あるいはその思い出を託した日記を開いて、ぱらぱらとページが送るかすかな空気の波に、あの日の澄み切った風を心に感じているのだろうか。そんな主の静かな安らぎを、ミカエルはいつまでも見つめ続ける。

第9-10話(p.89)衛
 水着姿の上体。この年頃の女の子らしい伸びやかな肢体と、彼女らしい筋肉の付き方。水着のよれ具合からして、曲げた脇腹にもおそらく肉が余っていない。泳いでいる最中は兄の手も届かないが、ゴーグルを外せばあどけない瞳が、この夏に賭ける兄の決意の言葉を引き出してくれる。だから一緒に過ごせた特訓の日々もやがて終わりを迎え、寂しさを脱ぎ捨てるように日焼けした皮をぺりぺり剥がす。そう、たとえ乙女心に揺れるとしても、まだまだ衛は日焼けも怖くない。

第11-12話(p.99)潜航艇プロトメカ4号
 垂直発射口がはっきり描かれ、逆に甲板上の手すりがないために、なぜか原子力潜水艦風味。こんな小さい原潜が存在するのか、形状は適切なのかなどの疑問はともかく、もし甲板の○模様が天窓カバーでなく本当に発射口なのだとしたら、ぜひ花火を打ち上げてほしい。あるいは脱出カプセルが発射されるというのも、鈴凛っぽくていいかもしれない。思い出の詰まったガラスの小瓶や、ウニ型機雷を放出するというのも今思いついた。四葉の三角が流されるというのもありか。米国を兄に仕立て上げる、そんな沈黙の艦隊。

第13話(p.111)可憐、白雪
 サラダを仕上げているところか、器はちゃんと14人分。たとえサラダといえども結構な量なわけで、幾つか分けて下ごしらえした材料を最後にあわせるのだろう。ドレッシングをかけて終わり、ではなく、一品ごとに手間暇かけて。白雪がペッパーと一緒においしくなるおまじないをふりかけ、可憐も微笑みながら料理の技を盗む。このペアの台所姿はアニプリではとうとう描かれなかったが、コテージで手をつないで眠る姿からして、きっとこんな雰囲気の中で兄妹のご飯をこしらえたものだろう。

第14話(p.119)可憐、猫
 「迷子の子猫」同士、猫を胸に抱いた可憐。やや不安げな表情は、猫に兄と自分との関係を重ねる彼女の想いをそのままに表している。猫をしっかと抱きしめるその腕も、思慕の相手を想う瞳も、兄に抱きつくそのときと同じ余裕のなさ。やがて兄と手をつなぎ、お互いの本心を打ち明けあうとき、可憐はようやくその手で兄も猫も優しく抱くことができるようになる。それはそうとして、論者としてはこの猫になりたい。あるいはこんな瞳で見つめられる兄に。

第15話(p.129)亞里亞、老紳士
 背筋のぴんと伸びた亞里亞。隣に座る老紳士の姿勢の良さにつられてか、とも思ってしまうが、むしろリボンをどこまでも探し求める亞里亞の隠れた気丈さと純粋さに、老紳士の方がつられているのではないか。そう考えると、老紳士の手つきもまた微妙な表情を垣間見せているように感じられてくる。昭和天皇とマッカーサーの並んだ写真をふと思い出す、記念写真のような一枚。ただし、亞里亞の晴れ晴れとした表情からは、「また緑の服を着る頃に」現れた老紳士と再会した春の光景だと考えてもいいかもしれない。

第16話(p.137)花穂
 チアリーダーとして、両腕を高く掲げて満面の笑顔で応援する姿。脇の下に思わず目を惹きつけられながら、二の腕のほのかなたくましさに練習の成果をうかがいもする。兄のために心から応援するこの素晴らしい笑顔を、その声援に応えて走る兄が直接見ることはない。ためらいのない花穂の想いにいつも応えられる兄であるために、せめてこの瞬間の妹の笑顔を、青空が留め置いていてくれるだろうか。青空の向こうまで届けてくれるだろうか。そんな一人の兄のために、この考察を記したのだったが。

第17話(p.147)春歌
 こちらを振り向く穏やかな笑顔。やや「ポッ」としたその赤らみに、隣の兄もやや心揺らせる。姿勢がいいのに線が柔らかいのは、ドイツ生まれながらさすがの大和撫子というところか。凛とした佇まいに秘められた膨大な熱量は、ほんのちょっとしたきっかけで爆発する。その瞬間を待ちわびて、春歌は兄の次の一言をじっと待つ。そうやって待つことが兄への最大の誘惑にもなることを、今の春歌は知っているのだろうか。普段あまりに素直な彼女だけに、そんな勘ぐりもしてみたくなるこの瞳。

第18話(p.157)千影
 横向きに寝入っている姿。日頃のように棺桶で仰向けに寝るのではなく、まるで幼子のように身を丸ませて。左腕でここにいない兄をかき抱き、右の手で薔薇十字架を握る。そこに見る夢は、あの婚礼の続きか、かつての美しい日々なのか。それとも、兄妹達とともに生きていくこの現世への希望と不安なのか。その密かな心細さを支えてもらおうと、右の手で過去の証を、左腕でここにいない兄と胸の痛みとを抱きしめて、千影は短く深い夜を過ぎていく。寝顔にえも言われぬ想いを浮かべて。

第19話(p.171)白雪
 スーパーで買い物中の姿。ウェルカムハウスの財政事情はさほど気にせずにすむはずだが、それでも値段と中身の質をしっかりチェック。贅沢すぎないけれどきちんと吟味した食材で、美味しく栄養満点の料理を作ること、それが白雪の腕の見せ所。だが小さい子もいる大所帯ゆえ、好き嫌いをふまえた献立の工夫や調理の手間など、考えるべきことはあまりに多い。兄のための新たなメニューにも思いをはせながら、レジに向かえば今日も結構な荷物。みんなの心の栄養のために、腕をぷるぷる震わせて帰路に就く。


第20話(p.179)オルゴール
 兄が妹達に贈った初めてのクリスマスプレゼント。奏でられた旋律が居間の空気にとけ込んで、兄妹の日々を慈しむ。妹達の救い主である兄と、妹達に囲まれて志を得る兄。くまのように目立たぬ庇護者の眞深。そして皆の生活を守り育てるウェルカムハウスという小箱。もはや鍵で閉ざされることなく、この家の中から島へと広がりゆく暖かな歌声が、この絵から流れ出てくる。しかし、このオルゴールだけはぜひとも商品化してほしかったと思うのは、論者だけだろうか。

第21話(p.187)鈴凛、メカ鈴凛、プロトメカ1号
 メカ鈴凛のメンテナンス中。薄着姿からして、夏の日の光景だろうか。夏休みの終わり、部屋を訪れた兄にちょっと寝ていたことをごまかしていた鈴凛は、前の日の夜中までこうして作業を続けていたのかもしれない。動力を切られたメカ鈴凛は体を凍りつかせ、自らを重ねたこの子を点検する鈴凛は表情に密かな屈託を浮かべる。第5話のモバイルのときほどに穏やかな面持ちではいられない。そんな主と似姿の傍らで、プロトメカは黙して全てを受け止める。

第22話(p.197)四葉
 胸を張って立つ上体。美少女怪盗クローバーの胸元には、第6話のあのチョーカーが飾られている。四葉とクローバーとの両面が、兄との一日でようやく結びつき、四葉は堂々と自分でいることができる。そこに至る秘密の過程を知っているのは自分と兄だけであり、そんな謎を二人だけで共有することへの喜びと興奮を、この生き生きとした瞳と頬の温もりが物語っている。p.25と同じようでいて、その自信を支えるよすがは、もはや揺るぎない兄との絆。

第23-4話(p.207)咲耶
 船着き場で独りしゃがみこみ、涙にかきくれる姿。春だというのに、島のいのちは失われてしまったかのように、咲耶は泣き濡れる。兄の不在に悲しむ妹達の前では、何とかリーダーらしく振る舞っているとしても、この場所では耐えられず本心を吐露する。やがて再び立ち上がり、涙を払っていつもの毅然とした顔で家に向かうとしても、普段の彼女から想像もつかないほど小さくか弱い後ろ姿を、あるいは可憐が陰からそっと見つめていなかっただろうか。その胸のうちが分かりすぎるほどに、揺らぐ希望を懸命に守り抜こうとするのも独りきりのままで。

第25-6話(p.223)黄色い帽子の少女
 マッキー像のてっぺんから、入江の向こうに広がる水平線を眺める後ろ姿。左方の陸地はやがてプロミストパークになる場所だろうか。だとすればこの光景は兄妹達が来島する前のものかもしれない。その行く手には様々な困難があるとしても、少女はここで結ばれた約束への想いを秘めて彼方を見つめる。それに無言で応えるかのように空は青く澄み渡り、そしてやがて訪れる島の幸せに満ちた日々の中で、少女はやはりここから、守られた約束を胸にして、島に生きる兄妹達の未来を見晴るかす。そんな暖かな喜びに満たされる、美しく切ない一枚。

補論1(p.245)鞠絵、春歌
 デジカメの画面を覗き込む姿。台所でお茶の支度中に、兄か四葉に写されたのだろうか。趣味も近い二人ならではの落ち着いた雰囲気。画面を見つめて、そこに写された春歌の姿を鞠絵が褒め、そのさりげない言葉に春歌が頬を赤らめる、という展開を論者はこの絵から想像した。このペアだと、春歌の積極性が鞠絵に柔らかく宥められるように思える。そのあたりが春歌の今後学ぶべき和風の精髄なのかもしれない。あるいは、それが鞠絵の眼鏡娘たる所以か。

補論2(p.253)マック大和、ガルバン
 映画版ポスターなのか、有無を言わせぬこの「まんま」さに男泣き。表紙絵ではMGガルバンモデル、扉絵では完全に初代モードという完璧さ。ガルバンが持つリアル・ヒーローの両面性のうち、リアルロボットの面を端的に押し出しているが、もしも敵側のイラストが存在するなら、それは案外ダイナミック・プロ風なものかもしれない。それはさておき、マック大和の立つ場所は、「脱出」ののちに広がる新世界であろうか。自らの意志と力で、この荒涼たる宇宙に新たなる人間のいのちを灯すことができるか、君は!

補論3(p.265)亞里亞
 歌姫亞里亞。考察で予想した10年後の彼女の姿か。これまでの共同生活で、亞里亞は兄や他の妹達との絆を獲得し、日々それを深めてきた。かつての孤独は、ただ彼女の心の奥底に静かに眠っている。兄妹達へ、精霊達へ、そして外なる世界へと開かれた亞里亞の想いは、その透明な歌声にのって人々の魂に響き、それぞれの孤独を優しく受けとめながら、調和へと共鳴させる。兄が、みんなが、ともに生きるこの世界が、好きだから。そんな溢れる愛を贈るべく、亞里亞の両腕は世界に向けて開かれている。

結論(p.277)雛子
 身をかがめた姿。ぴょこん、という音が聞こえてくる。妹達の成長というアニプリの主題は、この雛子に最も明確に描かれてきた。彼女は兄と手をつなぎ、年長の妹達から学び、その暖かな家の中でつよく優しく育まれてきた。半腰で作業中の兄の顔を、こんな風に斜めに見上げる雛子の表情は、それでも年齢相応の幼い好奇心を露わにして、兄にひとときの安らぎを与えてくれる。悪戯っぽく微笑みながらつまさきが揃う。ちっちゃくておしゃまな、レイディ。

考察1(p.282)可憐
 砂浜での姿の上半身。p.4と対になっている。華奢な上腕につい目を奪われてしまうのは因果。兄との絆に何ら疑問を抱かずにすむ可憐、その閉じられた瞳に映るのは、いまそこにいる兄の笑顔。あるいは夏の昼下がり、自分の部屋でこの服を着てふと目を閉じれば、耳に届くあの日の潮騒。兄との思い出をどの衣装にもまとわせて、可憐は少女としていよいよ輝いていく、その伏せられた瞳も、指でなぞりたいほど繊細な鎖骨も。

考察2(p.291)花穂
 薄着でウエスト計測中。体重という全体的基準ではなく、局所への視線が少女としての成長の証。しかしその驚愕の表情からして、他の2カ所は計らずに終わりそう。そのへんの子供らしさが、おしりの小ささにやはり如実に示されている。そうはいっても、この格好の花穂を後ろから抱え上げるのは、いくら兄でも勇気がいる。さすがに花穂の側から照れてほしいと思いつつ、この絵の横からとらえた彼女の逆S字曲線にひとまず見惚れておく論者。次の瞬間、おなかを無理にひっこめてラインを崩しそうだけど。

考察3(p.301)咲耶
 冬衣装。首に巻くマフラーの色は、きっと赤。目を伏せて独り佇むその姿は、冬の風に身を切り裂いてしまいそうな痛々しさ。Aパートで描かれた安らぎを過ぎて、ついに壁に突き当たってしまった咲耶を、兄ですら完全に癒せるものではない。もはやBパートの彼女に近いこの悲痛さを、それでも兄が受けとめてくれるようにと、マフラーの先が長く揺れる。この絵を見つめてからp.71を振り返ると、Bパートの〈Thinking of you in this special day〉というフレーズが無言のうちに重なり合う。特別な日の咲耶、その閉じられた瞳のいろを兄は想う。

考察4(p.315)衛
 階段に腰掛けて大股開き。衛のこういう無防備な、女の子らしからぬ格好はアニメ版作品ではわりとよく登場している。その意識のなさが彼女の魅力なのだが、それをいっそう魅力的にしているのが、ほのかに芽生えた乙女っぽさ。この絵の衛も、はにかんだ微笑みと開脚とのかみ合わなさこそが、微妙な時期にある彼女の心身の結ばれようを端的に示している。兄に無邪気に飛びつきたくもあり、そうするのがなぜか照れくさくもあり。おそらく意識されないそんなためらいを、右足に触れる指先がそっと物語る。

考察5(p.323)鞠絵
 窓辺に佇む姿。療養所に兄が訪れる朝はいつもより早く目覚めて、短くない時間を静かに待つ。楽しいひとときはあっという間に過ぎ去って、引き留めることもできずに、ただ再訪の約束に心を慰める。それでも、兄がいてくれた時間があまりに心浮き立たせるがために、兄が帰った後の静寂は朝よりも深く冷たく、鞠絵の心を凍えさせる。外の光に背を向けてうつむく主を、見上げるミカエルが一吠え励ます。思い詰めかけた自分に気づいて、鞠絵は努めて微笑む。未来の遠さを胸に隠し、再訪の日を数えて生きる。

考察5(p.331)鈴凛、四葉
 風呂上がりの格好のままの二人。スナックをつまみながらの作戦会議か。ぺたん座りで和気藹々と、このペアならではの女の子空間だが、リピュアでの光景に比べると、鈴凛は彼女本来ののほほのした態度で、四葉の話に耳を傾けている様子。兄と秘密を分かち合った後の、クリスマスに備えての打ち合わせに思える。次々アイディアを出す四葉に、鈴凛は既に余裕をもって「ふーん」と聞き流すことさえできるのだが、それも四葉に心を軽くしてもらったおかげ。四葉は四葉で鈴凛に何でも聞いてもらえる気安さで、妹同士の賑やかな支え合い。

考察6(p.339)千影
 窓辺に佇む姿。夏の夜、月明かりに淡く照らされて、千影は狂おしい情熱を音もなく燃やす。憂いをたたえた瞳は、遙かな過去と未来とをともに見透かそうとして妖しく輝く。p.323の鞠絵と似た姿でありながら、千影のまなざしは唯一無二の機会を自ら求めて、月と星の相を読み解いていく。だが、そんな彼女のすぐ隣に兄がただいてくれさえすれば、あのプラネタリウムでのひとときのように。月影さながらに、千影の想いも過去と未来といまとに揺れ動く。

考察7(p.352)春歌
 浴衣姿で見返り美人。腕のみながら、兄が唯一登場している絵でもある。指をそっとからませながら、兄の手のひらの大きさに気づいて「ポッ」となる。待ち合わせてのお祭りの夜、初めての七夕も羽が生えたように過ぎ去り、兄の手に引かれながらふと振り返れば、消えゆく夜店の灯りが賑わいの名残りをとどめる。今宵はさらに兄のお泊まり、胸も高鳴る大和撫子。頬を染めていよいよ艶やかなこの妹の、しかし見えざる右手には水ヨーヨーでもぶらさげられていないものか。もちろん兄の左手には、本日の戦果が袋一杯に。

補論1(p.375)プロミストアイランド
 島影が遠く霞む。それでもこの島が何ものかを声高に伝えるように、頂の像は雲を背景にくっきりと浮かぶ。リピュアではこの島の存在が明確に描かれることはなかったが、兄妹のいるところに常に島はある。航が運ばれる沿岸道からも、p.282の可憐が歩む砂浜からも、島はそのおぼろげな姿を水平線に浮かべて兄妹の心に映し出される。そして、そんな兄妹達を、頂の像のてっぺんから黄色い帽子の少女が見守っている。精霊達が包むこの世界に、少女の想いは息づき、愛する者のそばへと優しく波打ち寄せる。

補論2(p.387)咲耶
 横向きながらも咲耶絵の中で唯一こちらを見つめている。両手に抱くガイディングスターは、兄妹の救済への未来を導く星。聖夜の祈りをともに分かち合って、咲耶の「タタカイ」はまだまだ続く。諦めることなく、誇りをもって、兄への愛を貫いていく。それがいつかよき思い出に変わるなどと言い訳もせずに、ただひたすらに己の誠実な愛のままに。この手の中の星が、天頂に昇る日を目指して。咲耶は、妹達は、そうしてまばゆく輝き、兄に、地上に光をもたらしてきた。兄妹の想いの妙なる光輝、そして、それは、これからも。