(あとがき)

 

 今から30年ほど前の1970年代後半に「BCLブーム」というものが起こった(海外の放送を聴くことを「BCL」という)。同じ頃(19768月)、NECが「TK-80」という組み立てキットを発売したことで、「マイコン」もブームになった。今、30代中盤〜40代前半の中堅技術者の人は、おそらく小学校〜高校ぐらいまでの時期に、なんらかの形でBCLやアマチュア無線、あるいはマイコンなどに手を染めたことがあるだろう。いずれにも共通することは、ある程度の電子工学の知識と工作技術があった方が幸せになれることで、(今では信じられないことだが)当時の「ヲタク」な中・高校生は普通に回路図を読み、ラジオなりマイコンなりを組み立てていた。そういうこともあって、入門者向けの月刊誌(「初歩のラジオ」など)や単行本も多く出ていたわけだが、今やそんなマニアックな趣味を持つ人は少なくなったのか、秋葉原に出かけてもパーツショップは今ひとつ元気がないし、入門向けの本を探すのもなかなか大変だ。しかも困ったことに、一昔ならば簡単に手に入ったようなパーツまで続々と製造中止になっており、(web等で入手できる)少し前に書かれた回路図をそのまま再現することすら難しくなっている。手に入るものを使って代用すればいいだけのこととはいえ、全くの初心者にはそれも容易ではないだろう。こんな状況では、何かの気の迷いで夏休みの宿題にラジオの一つも自作してみようと思った中学生がいたとしても、実際に製作までこぎつける前に挫折してしまうのが関の山だと思われる。

 

 個人的には、はじめて自作ラジオで海外の放送が受信できた時には、けっこう新鮮な感動が得られるのではないかと思う。そういう意味では夏休みの宿題や学校の総合学習等にうってつけなのだが、いざ「比較的苦労せずに入手できる材料を使って、誰が作ってもそれなりに動作する」ような短波ラジオの回路を探してみると、どうもパーツの入手がネックになることが多いようだ。「他人が書いてくれないなら、自分で書けばよい」という発想で、こんな小冊子ができたというわけだ。特に再生式ラジオは電波が弱いところでもボリュームを上げると発振するために、動作チェックが容易という利点がある。一方で異状発振も起こりやすいので、いろいろと工夫する余地もある。

 

 ところで、本書で取り上げた日本語国際放送を見て、元BCLマニアの新中年の人は何かに気づかなかっただろうか。そう。ヨーロッパ諸国(D.W.BBCなど)あるいはオーストラリア・エクアドルの、当時の人気局が軒並み入っていない。そうでなくても東西冷戦の終結とともに、国策的な宣伝放送の必要は減ってきているのに加え、時代はインターネット放送に移りつつあることから、短波放送からの撤退が世界的に進みつつあるのだ。ただ面白いことに、日本との関係を強めつつあるタイやモンゴルが日本語放送を始めており、さらに(自由主義国の放送戦略に対抗するかのように)イスラム教の日本語放送が開始されている。国際放送が時代を映す鏡であることは、今も昔も変わりがない。