その3 短波ラジオに挑戦

 

短波って何?

 

 普通のラジオには「AM」と「FM」の切り替えがついていることが多い。チューニングの表示を見ると、「AM」は530-1600kHz、「FM」が大体、76-90MHzをカバーしているはずだ。この「kHz」とか「MHz」というものを「周波数」といい、「1000kHz=1MHz」の関係がある。例えば80MHzFM放送の周波数は800kHzAM放送のそれの100倍ということになる。ただし、AMFMというのは、電波に音を乗せる時の方法(変調方式)を示すものなので「FMだから周波数が高い」というわけではない。正確にいうと、周波数とは1秒間に電波が何回振動しているのか、ということで、例えば10Hzであれば1秒間の間に10個の波が含まれる。周波数がこの10倍になると、1秒間に含まれる波の数は100個に増える。ここで逆のことを考えると(同じ時間の中にたくさんの数の波を詰め込むことになるわけだから)周波数が上がるほど、一つの波の幅が短くなることがわかるだろう。この波の幅のことを「波長」といい、周波数が上がるほど波長は短くなる。短波というのは(中波放送の電波と比べると)「波長が短い電波」という意味で、FM放送の電波は(短波よりももっと波長が短いので)「超短波」という。日本ではあまり使われていないが、「長波」というものもロシアなどで放送に使用されている。また100kHzの長波は「ロランC」という双曲線航海システム(船の位置を調べる方法)にも使用されている。

 

 無線通信が始まったばかりの時代には、波長が長い電波ほど地上や海上で弱くなりにくい(減衰しにくい)ので、遠距離通信にはできるだけ長い波長の電波を使用した方がよいと考えられていた。しかし波長が長いほど、送信に使うアンテナの長さも長くなる(最低でも波長の半分ほどの長さが必要)。「波長(m)=300÷周波数(MHz)」の関係があるので、ロランCの電波送信に使用するアンテナの長さは1.5kmほどの長さになる。いくら遠くまで届くからといっても、これではあまりに場所を取りすぎる。

 

 ところで、AM(中波:300kHz-3MHz)放送を聞いていると、夜遅くなるほど遠くの放送が聞こえてくることがわかるはずだ。なぜこういうことが起こるかというと、放送局から送信された電波が空の上100km以上の所にある「電離層」にぶつかって、地上に反射してくるようになるからだ。短波(3-30MHz)は中波よりもこの性質が強いので、地上と電離層の間で反射を繰り返すことで、電波を遠くまで伝えることができる。そういうわけで、短波が長波の代わりに遠距離通信、特に海外国際放送に使われるようになってきた。ただし、電離層はそれほど安定なものではないので、電波航行のように安定な通信が求められる用途には向かない。

 

 短波よりももっと波長が短い電波(30kHz以上)を「超短波」「極超短波」などという。「VHF」とか「UHF」といった名前の方がわかりやすいだろう。FMラジオやTVなどの放送、最近では携帯電話にも使われている。あまりに波長が短くなると、電波は電離層を飛び抜けてしまうし、ビルの陰や地下には届かない。そういうわけで、基本的にはアンテナから直接電波が届く範囲しか、受信はできないし、普通は外国のFM放送やTV番組を受信することもできない。ところが夏の暑い日にテレビ画面が荒れていたりするような日に、時々、韓国(や中国)のテレビ番組が受信できることがある。これはあまりに強い太陽の光によって、昼間にE-スポ(スポラディクE層)という高密度の電離層ができるためで、これによってFMラジオやTV1-3Chの電波が短波のように反射されて、日本まで届くというわけだ。ともあれ、外国のラジオ放送を聴く一番簡単な方法は、短波放送を受信することだ。そういうわけで、今回は短波ラジオを作って、本当に外国のラジオ番組が聞こえるかたしかめてみよう。

 

回路の説明

 

 まず、回路図と実体配線図(図7)を見てもらおう。


 

 


図7 2石再生式短波ラジオの回路図・実体配線図

 

「高周波増幅→検波→低周波増幅」のストレート方式だが、高周波増幅のところで再生をかける「再生方式」になっている(2SK241のソースにつながっている1kΩの可変抵抗器の中間タップから、増幅出力の一部を入力側に戻すようになっている)。普通の増幅回路は例えば入力が1あった時に10の出力を出し、この10を全部使ってイヤホンを鳴らしたりする。ところが出力の一部(1)を入力に戻してやると、(一回目で取り出せる出力は9になるが)2回目の入力は2になって、出力は20になる。これを繰り返してやると出力をどんどん大きくできる。再生式ラジオはこれと同じ考え方で、高周波増幅の出力の一部をアンテナ側の入力に戻してやることによって、増幅率を上げようというものだ。

 

 さらに同調回路に繋がっている高周波増幅回路に再生をかけてやると、「選択度」も上げることができる。選択度というのは「近くの周波数にある放送を、どれくらいきれいに分けて聞くことができるか」というもので、特に狭い周波数帯の中でたくさんの放送が行われている短波帯では、これを高くするのは大切だ。「なぜ再生をかけると選択度が上がるのか」というのをきちんと説明するのは難しいが、イメージとしては次のようなものと思っておけばよいだろう。まずアンテナからいくつもの放送局の電波が入ってくる。コイル(L)とバリコン(C)のLC共振回路によって、ある周波数の電波だけが選び出されるが、その近くにある電波も弱いながらも通り抜ける。ここで目的の電波の強さを10、脇にあるものの強さを1としよう。高周波増幅によってこれがそのまま10倍になり、そのなかの1/10を入力に戻したとする。2回目の入力は202になる。これを繰り返すと、目的の電波の強くなりかたの方が、脇の電波の強くなりかたよりも早いことがわかるだろう。もっとも、これをあまりやりすぎると「発振」する。カラオケでボリュームを上げすぎた時に生じるハウリング(「ピー・ギャー」という音)も原理は同じで、スピーカーの出力をマイクが拾うことによっておこる。そこで発振が起こらないように、可変抵抗器で入力に戻す量をコントロールして、発振直前で高い増幅率が得られるところを使うようになっている。

 

 高周波増幅にはFETを使用する。「電子マスカット」(http://www32.ocn.ne.jp/~audio/)記載の回路では2SK439を使用しているが、この部品は今や秋葉原でも手に入れるのが難しいレアアイテムなので、ここでは2SK241を使用する(どちらも全く同じ回路で動くことを確認しているが、足の出方が逆なので注意)。ドレインに繋がっている抵抗の大きさはこれくらいの値がよい(いくつか変えて調べてみた結果)。ゲートに繋がっている1MΩの抵抗器はなくても動くが、ある方が安定性が高いようだ。今回はFETのソース側から帰還をかけているが、ドレイン側から可変抵抗器を経由してアンテナコイルに帰還をかけることもできるはず(CQ出版社「ラジオ&ワイヤレス回路の設計・製作」にそういう回路が記載されている。ただし動作チェックはしていない)。検波はゲルマニウムダイオードを使用した(SD46,1N60のいずれでも動くことを確認した)。普通のダイオードはシリコンで作られているが、検波用にはゲルマニウム製点接触型のものしか使えない(バイアス電圧を加える等の工夫すれば、ショットキーバリア型のものでも何とかなると思う)。低周波増幅は2SC1815を使用した電流帰還バイアス型のもの(Yランク・GRランクどちらの部品でも動くことを確認した)。

 

 同調用のコイルは、自分で作るならば フェライトコアT68-#2(赤色)を使用すればよい。巻数の計算はJR6BIJhttp://jr6bij.hiyoko3.com/index.php)の計算フォームを使うと簡単だろう(試作品は0.75mmホルミル線で26 [もう少し少ない方がよい] 6回巻)。もっと楽をしたい人は FCZコイルの7MHZ用(9MHZ用でもOK)を買ってくればよい(動作確認済み。こちらの方がお勧め)。

 

工作

 

 まず材料をそろえよう(価格は一応の目安)。

 

コイル:上を参考。自分で巻く人はホルミル線も買ってくること。:180

ポリバリコン:AM用単連:250

FET2SK241 : 100

トランジスタ:2SK181540

ゲルマニウムダイオード:1N60など:40

可変抵抗器:1kΩ(B型がよい):150

炭素皮膜抵抗器:1kΩ(茶黒赤金), 4.7kΩ(黄紫赤金)×2, 7.5kΩ(紫緑赤金), 30kΩ(橙黒橙金), 1MΩ(茶黒緑金):一個5

セラミックコンデンサ:47pF47, 100pF100, 0.1μF104×2:一個10

電解コンデンサ:100μF20

電池スナップ:9V角電池用:20

セラミックイヤホン:250

ラグ板:6P以上:50

その他:つまみ・アンテナ用端子・配線用ビニル線など:300

 

 とりあえず、実体配線図の上半分(高周波回路)を組み立てよう(図8)。もし自信がなければ、この段階で一度、きちんと動くかどうか調べておいた方がよい(図9)。大丈夫そうなら、下半分の低周波増幅回路を組み立てよう。昼間は電波が弱いので、夕方以降にうまく動くかどうかチェックしよう。アパートなどでは、2-3mぐらいのビニル線をアンテナとしてつなぎ、ベランダの外などに出してやると電波を受信しやすい。なお、アンテナ線は絶対にコンセントに入れてはいけない(最悪、死にます)。

 


     図8 高周波部分の配線          図9 動作テストの様子

 


改造のヒント

 

 高周波側はあまりいじる所もないし、ダイオードを2つ使用して倍電圧検波にしても、あまり音は大きくならなかった。低周波増幅段については、一石のエミッタ接地回路の場合、自己バイアス回路でも電流帰還バイアスでも動作に大きな差はなかった。また低周波増幅に9Vで動作するICLM386N)を使用すると、低周波発振が発生して、どうもうまく動作しない。100円ショップで販売している1IC2石のAMラジオと同様に、トランジスタを2個つないで低周波増幅率を上げる方法も試して見た。回路設計の方法はJE3NQYの「電子工作の部屋」(http://www.page.sannet.ne.jp/je3nqy/)に記載されている。これに従って9V用に設計して、実際に組み立ててみると、たしかに一石の場合よりも音は大きくなるが、油断をすると低周波側でも発振が起こる(電源に並列に100μFの電解コンデンサをつないでやると、少しはましになる)。この手のアナログ回路はデジタル回路と違い、全く同じ回路で部品を組んでも、その実装方法で全く性能が変わるので注意が必要だ。

       


       図10 FCZコイルを使用したバージョン(右:2バンド対応)