その1 ラジオのしくみ
この本は「自分でラジオを作って、外国の放送を聴いてみよう」というものだ。小学校高学年〜中学生ぐらいの、夏休みの工作や自由研究なんかにちょうどいい感じになるように書いたつもりだ。また、ここで紹介しているラジオを全部、自分で組み立ててみて、一応は放送が聞こえることを確認しているものばかりだから、「本当に動くのか?」という所は、あまり心配しなくても大丈夫だ。
すぐに工作をはじめたい人もいるかもしれないけど、まずは簡単に「ラジオのしくみ」について勉強してみよう(もっとくわしいことを知りたい人は「4級アマチュア無線技師」国家試験用の教科書でも買ってきて、自分で読んでほしい)。
人間が聞こえる音を「低周波」という。いくら大声で叫んでも、人の声は数百メーターぐらい、花火の音のような大きなものでも、せいぜい数キロメーターまでしか届かない。ところが、電波はもっと遠く、場合によっては地球の裏側や、土星近くにいる人工衛星までも届く(2005年1月14日に土星探索機「カッシーニ」から切り離されたハイヘンス探査機からの画像が、地球まで届いている)。
電波そのものは1888年に「ヘルツ」という人が発見して、それから7年後の1895年5月にポポフが世界最初の無線通信の公開実験に成功、同じ年の9月にマルコニーが6kmの陸上無線通信を成功させた。1901年にマルコニーは、陸海2,700km間の通信にも成功している。ただし、その当時の通信は電波を出したり止めたりして符号を作る「モールス通信」という方法だった。モールス符号は1837年に作られたものだから、実は電波が発見されるより前にあったわけだ(1844年より有線通信に使用されていた。西部劇で出てくるアレだ)。1912年4月14日の「タイタニック号沈没」の時にはじめて、「SOS」の遭難信号が使われている(日本では1999年2月1日から、遭難・安全通信に無線電信を使用することを中止した)。
ラジオ放送はモールス通信のように電波で符号を作る代わりに、そのままでは遠くまで届かない音(低周波)を電波(高周波)に乗せて、遠くまで届かせようとするものだ。このような音声通信に初めて成功したのは1902年で、この時にコリンズはマイクを使って声を5kmほど遠くまで届けている。その4年後の1906年には40km、1908年には80km、1910年には800kmまでと、どんどん遠くまで電波を飛ばすことができるようになった。1920年に世界ではじめてのラジオ放送局ができて、その2年後にイギリスのBBCが、1925年には日本のNHKがそれぞれ開局している。
さて、放送局は音を電波に乗せて手元のラジオまで届けているわけだから、逆にいうと、ラジオを聞くためには電波の中から音を取りだしてやらないといけないことになる。これを「復調」または「検波」といって、電波に音を乗せる(変調)の方式によって、いろいろな方法がある。普通のAMラジオの電波ならば「ダイオード」という部品を使うだけで、簡単に検波できてしまう。
もう一つ。たとえばTBS(東京)ならば954kHz、東海ラジオ(愛知)なら1332kHzといった風に、ラジオ局によっていろいろな周波数で放送を行っている。テレビのチャンネルを思い浮かべてもらえばわかりやすいように、いろいろな放送局の電波の中から聞きたい周波数(チャンネル)のものだけが選べるようになっていれば都合がいい。そのためのしかけを「同調回路」という。一番簡単な同調回路は「コイル」と「バリコン」を並列につないだ「LC共振回路」だ。
最近、大人向けの雑誌に「鉱石ラジオ」というものがよく載っている。「鉱石」というのは「方鉛鉱」という「石」で、これに針を立ててやると、ダイオードの代わりになる(正確には検波用の点接触型ゲルマニウムダイオードの方が、こちらを元にして作られた)。これに同調回路を組み合わせたものが鉱石(ゲルマニウム)ラジオで、世の中で一番簡単なしくみのAMラジオだ。
放送局から発信された電波は、アンテナから遠くなるほど弱くなるし、電波は鉄筋コンクリートの建物の中や、地下には届きにくい。鉱石ラジオは電波から取り出した電気のエネルギーを音のエネルギーに変えているものなので、電波が弱い所ではよく聞こえない。そこで「もっと大きい音にするにはどうすればよいか」と考えると、二つのアイデアが浮かぶはずだ。
(1)検波回路に入る電波(高周波)を強くする。
(2)検波回路から出てきた音(低周波)を強くする。
(1)を行う回路を「高周波増幅回路」、(2)を行う回路を「低周波増幅回路」という。
大昔には増幅回路に真空管(電子管)を使っていたが、1970年代以降はトランジスタ(またはFET)が主流となり、今ではIC(集積回路)を使うことが多い。
今回はまず練習で、「ICを1個使った中波ラジオ」を作り、次にもっと難しいものに挑戦する。しかしどちらも「同調回路」「高周波増幅回路」「検波回路」(「低周波増幅回路」)の組み合わせで、その順番もこの通りになっている(「ストレート方式」という)。