「激しくデキ婚」

 

 母子関係は分娩という事実によって、当然に発生するため、嫡出母子関係(自分と、自分の腹から生まれた子供の間の関係)の成立については、民法に何の規定もない。しかし父子については、親子関係を証明する自明な事実は存在しないため、一定条件を満たした場合に親子関係があると「推定」している。一番メジャーなのは、婚姻中に生まれた子供は、そのカップルの男性の子供(嫡出子)とみなす(民法7721項)というものだが、これはあくまでも推定であるから、自然血縁関係がないと考える場合には嫡出を否認することもできる(民法774条)。婚姻後に子供が生まれている場合、懐胎の時期が婚姻後前かで嫡出推定を受ける・受けないという分岐が生じる。嫡出推定を受ける場合であっても、夫が長期出張中・収監中などのケースがありえるので、懐胎期間内の肉体関係の有無により、これが更に嫡出推定の及ぶ子と及ばない子の二つに別れる。婚外子の場合は有無を言わせずに非嫡出子である。

 

 ところで、現在、全カップルの3割強が「できちゃった結婚」である。まあ「できちゃう」ぐらいだから、付き合ってはいたわけで、いい機会だからと(女性にハメられて泣く泣くかも知れないが)婚姻届を出すわけだ。ところが、婚姻成立後200日未満に子供が生まれてしまうと、婚姻中に懐妊した子と推定されない(民法7722項)。その後、このカップルの間に子供が産まれると、その子は二人の実の子(嫡出子)である。よく知られているように、非嫡出子の遺産の取り分は嫡出子の半分である(民法9004項)。事実上、両親と血縁関係があるにもかかわらず、親がドキュソだったために罪のない上の子が損をするハメになる・・・。

 

 それではマズいので婚姻届が出てから200日以内に生まれている子供は、戸籍実務上、嫡出子として出生届けが受理される。これは「内縁関係が先行する場合には」認知がなくても嫡出子扱いしてよいとする大審院民事連合部昭和15123日判決を拡張したものだ。ただし、あくまでも「推定を受けない嫡出子」であることに変わりはないので、いつ誰から「親子関係不存在確認の訴え」を起こされるかわからないという危険は残っている(嫡出推定を受ける子については、夫だけが子の出生を知ってから一年以内に嫡出否認の訴えを提起することができる)。