「妹と「事実婚」は可能か?」

 

 

 世の中には「事実婚」状態のカップルが少なからず存在する。彼らは事実上、婚姻状態にあるが、種々の事情から婚姻届けを出していないわけだ。ただ日本では歴史的に「内縁の妻」(妾妻)の権利を守る必要があった関係から、事実婚カップルの間には婚姻に準ずる形で、以下の権利・義務が生じることになっている。

 

1)夫婦の同居・協力扶助義務(民752条)

2)貞操義務、婚姻費用の分担義務(民760条)

3)日常家事債務の連帯責任(民761条)

4)夫婦財産制に関する規定(民762条)

5)内縁不当破棄による損害賠償、内縁解消による財産分与(民768条)

6)遺族補償および遺族補償年金の受給権(労基法79条・労基則42条)

7)優生手術の同意(優生保護法3条)

8)年金・健保・労災など各種受給権(厚生年金保険法3条の2、健康保険法1条の2、労働者災害補償保険法16条の2)※扶養に入れるので、国民年金3号も可能。

9)賃貸借の継承(借地借家法36条)

10)公営住宅の入居(公営住宅法23条の1

 

つまり、医療・保険・年金のような社会保障制度の面では、法律婚と事実婚の間に大差はない。しかし事実婚では配偶者の相続権や税金の配偶者控除などは認められないし、子供は私生児(婚外子)扱いとなる。

 

 それでは、法律婚が認められない兄妹(姉弟でもよい)の間に事実婚は認められるものなのだろうか。もし認められるとするなら、相続権については遺言で対処すればよいし、もともと同一氏名なのだから、夫婦で名字が異なるといった面倒もない。

 

 嘘みたいな話だが、近親婚者に関する事実婚に関しては、高裁判決まで出ている。どういうケースかというと、1958年から12歳年上の叔父と内縁関係になり、叔父が死亡する2000年まで、事実上の夫婦として生活してきた茨城県内の姪の女性(64歳)が、内縁の夫である叔父(当時72歳)が死亡したのに「近親婚」を理由に遺族年金の受給資格を認めないのは違法だとして、社会保険庁長官に不支給処分の取り消しを求めたものである。

第一審の東京地裁(2004622日)では「資格を認めれば、国家が反倫理的な近親婚を公認することになる」との社会保険庁の主張を退け、「遺族年金は、遺族の生活の安定のために給付されるもので、民法とは目的が異なる」としたうえで、「一度は親子の関係にあった者が内縁関係になった場合とは、社会的評価や抵抗感が異なる」と述べ、「内縁関係は42年にわたり、職場や地域でも抵抗なく受け入れられてきた。法的には婚姻関係に等しい」「民法上禁じられている近親婚関係にある者に年金を支給しても、遺族の生活保障という厚生年金制度独自の観点からの行為で、国が近親婚を公認したことにはならない」と女性の主張を認め、不支給処分を取り消した。ところが第2審の東京高裁判決(2005年5月31日)では、遺族年金制度は社会保障的性格が強く、事実婚の者が受給権を持つかどうかは、公的保護にふさわしい関係かという観点から判断すべきだ」とし、民法が禁じる三親等内の近親婚は「反倫理的で公益を害するものとされており保護することが予定されていない」として、姪の女性の受給を認めなかった。

 

 つまり、近親婚は公序良俗に反するものだから、法で保護する必要がない。だから、いくら世間で「夫婦」としての外面的状況が認められていたとしても「内縁関係」が認められるべきではない、というのが、現在の所の司法判断ということで、ゆえに兄妹(姉弟)の内縁関係に法の保護は及ばない。