「いとことは結婚できるが・・・」

 

 法律で禁止されている婚姻相手は、直系血族または3親等以内の傍系血族であり(民法7341項)、ソフ倫はそれに該当する「近親」との関係の描写を禁止しているわけだ。この親等の数え方は、片方から共通の祖先まで遡り、そこから相手に到達するまでの世代数を合計する。例えば兄妹は2親等、叔父叔母は3親等であり、その子供であるいとこは4親等にあたる。Kanon (Key 1999.6.4)でいえば、水瀬名雪と相沢祐一は問題なく結婚できるが、名雪の母である秋子さんは攻略対象キャラにできないわけだ。

 

近親相姦の禁止が法定化されている理由は、「優生学的または倫理的配慮」とされる。そこで、ここでは近親相姦によってどれくらい遺伝的影響が出るものか考えてみよう。まず、ヒトの受精卵には父と母から受け継いだ同一染色体が一つずつ入っている。いわゆる「血の濃さ」を表す遺伝学の用語に「近交係数」(F)があり、これはある個体の染色体内の特定遺伝子座について共通祖先からの同祖遺伝子が二つ揃う確率を示す。常染色体劣性遺伝病は、同じ病原遺伝子が揃った時に発症するので、定義上、近交係数が高いカップルの子供ほど当たりを引く確率が高い。後に述べる特殊事例を除くと、いとこ・叔母・妹の近交係数はそれぞれ1/16, 1/8, 1/4であり、法律は1/8以下の近交係数を示すカップルの婚姻を禁止していることになる。ところが、世の中には妹と近交係数を示す相手と合法的に結婚できてしまうケースが存在する。「Clover Hearts(ALCOT 2003.11.28)を少し改変して説明しよう。

 

南雲白兔・夷月、御子柴玲亜・莉織という二組の一卵性双生児がおり、白兔・玲亜と夷月・莉織の二組のカップルが誕生。その後、玲亜から男の子(雄基)、莉織から女の子(ちまり)が生まれた。

このケースでは戸籍上、雄基とちまりは4親等(いとこ)の関係にあるので、彼らがその後、結婚することには何の問題もない。しかし一卵性双生児というのは遺伝的に同一のクローンなので、白兔・夷月、玲亜・莉織はそれぞれ同一人物とみなしてよい。ゆえに雄基とちまりの遺伝的関係は同一の父母から生まれた兄妹と全く同じである。

 

近親婚集団における劣性遺伝病の発生確率は、任意婚集団における病気の発生率をq2qは婚姻集団内における病原遺伝子の存在確率)とした場合、Fq+q2(1-F)で示される。比較的メジャーな常染色体劣性遺伝病である先天性聴覚障害やフェニルケトン尿症・色素性乾皮症の発生率(q21万児に一人のオーダーで、先天性魚鱗症のようなマイナーなものは、この1/100程度である。そこで前者のq1/100、後者を1/1000程度とした場合、近親相姦によって何倍ぐらい子供の罹患リスクが上がるか計算してみよう。

 

メジャー系:  いとこ7         叔母13          いもうと26

マイナー計:  いとこ63       叔母126        いもうと251

 

いとこ結婚と比べると、いもうと結婚は4倍程度リスクが高く、メジャーな病気では、兄妹カップルの400児出産について一児程度が罹患することになる。これは35-36歳母親がダウン症児を出産する確率と同程度であり、そう考えると社会的に許容されている範囲の大きさのリスクであるともいえなくもない。