「出生の秘密」

 

 かなり昔、「出生の秘密」をネタとした漫画やドラマが流行した時代がある。その一つにすずき真弓「さすらいの太陽」(小学館小コミ, 1970.9.20-1971.10.10)という漫画があり、後にアニメ化されている(CX, 1971.4.8-9.30)。その内容は以下のようなものだ。

 

 夜学に通っていたおでん屋の娘、峰のぞみが昼間部に移り、そこで香田美紀と出会う。彼女は香田財閥の令嬢として育てられてきたのだが、実はその二人、生まれた時に病院の看護婦、野原道子によってすり替えられていたのだ。そうとも知らず、美紀はのぞみに嫌がらせを続けるのだが、そんなある日、のぞみは「ファニー森山」(森山尚)という青年に出会う。二人は相思相愛の仲になるのだが、このファニーは4歳の時に森山家に養子に出された、峰家の長男だった・・・。

 

 のぞみとファニーの間には自然血縁関係はなく、美紀がファニーの実妹である。普通養子縁組では実親と子の関係は切断されないので、戸籍上、のぞみとファニーの実の親はいずれも峰慎介・静子である。いくら野原道子が記者会見ですり替えの事実を公言しても、それだけではファニーとのぞみの関係は兄妹のままなので、二人が結婚するためには、それに先立って戸籍の訂正を行なう必要がある。戸籍の訂正は当事者の申請に基づき、裁判所の関与下で行なわれるのが原則である(戸籍法113-116条)。例外として、たとえば文書偽造の有罪判決が婚姻の無効を強力に推定できる根拠とされた例があり、この場合は市町村長の職権で訂正が認められている(戸籍法24条)。野原道子の刑事裁判の過程で、おそらくのぞみ・美紀の真実の父親が明らかにされるはずなので、その結果を受けて職権で戸籍が訂正されるものと考えられるが、そうでない場合でも確定判決または無効を宣言する審判を得れば、戸籍は訂正できる。その効果は出生に遡るので、野原道子が事実を暴露する前に香田大次郎が死亡し、香田美紀が遺産を相続した場合、その事実を知ってから5年以内ならば、のぞみは美紀に対して相続回復訴訟を提訴することができる(民法884)