「血縁度maxでも結婚できる」

 

 「実妹と信じていた恋愛相手が、実は義理の妹だった」という設定については既に述べたので、次に「恋人同士だった二人が、後に血縁関係がある兄妹であることが判明する」ケースについて考えてみよう。例として宮川匡代「15歳のレビュー」(集英社マーガレット, 1992)を取り上げる。

 

 中3の村上郁子は同級生の高田郁実と両想いの仲になったのだが、郁子の腹違いの妹であるさゆりも郁実が好きになってしまった。郁実には多希という兄がいて、彼も郁子を好きになってしまう。ところがその後、衝撃の事実が発覚。郁子と郁実は実の兄妹だったのだ。もともと郁子を嫌っていたさゆりはその事実を郁子に告げる。一方、偶然に多希と父の会話を聞いてしまった郁実もその事実を知り、彼女と別れようとする・・・。

 

 なぜこういう事態に至ったかというと、郁実と同居している母、一子が現夫と結婚する前に郁実の父と職場恋愛の末に、郁子が出来てしまったから。「未婚の母」として郁子を生んだ一子はその後、さゆりの父と再婚。一方、不倫相手である郁実の父は正妻との間に多希をもうける。だから郁子と郁実の実の両親は完全に一致しているのだ。もっとも、婚外子(非嫡出子)である郁子には戸籍上、父親が存在しない。ゆえに郁実の父親から認知されない(彼女が20歳を超えていれば、その認知を拒否する)限り、郁実とはあくまでも赤の他人である。なので、いくら父親を共有する実の兄と妹であるとしても、法律上、婚姻を妨げる理由はない。

 

 その後、一子が結婚する。相手の連れ子であるさゆりと、その実の父の間には親子関係は存在しないし、逆にさゆりと一子の間も同様である。だから法的には郁子とさゆりの間には姉妹関係は存在しない。さてここで郁子と郁実が結婚することになり、さゆりがそれを妨害しようと思ったとする。まず考え付く方法は郁実の父に対して「郁子を認知しろ」と迫ることだが、認知の訴えを提起できるのは「子、その直系卑属またはこれらの者の法定代理人」に限定される(民法787条)。ゆえに郁実の父が認知を断れば、それ以上、法律的にこれを強制する手段はない。

 

 ところで、婚姻の成立には以下の3つの実質的要件が必要である(民法742743条)。

 

   要件                   欠けた場合

(1)婚姻意思             婚姻の無効(はじめから婚姻の効果がない)

(2)婚姻障害の不存在 取り消し(将来に向かって婚姻の効果を喪失する)える

(3)届出                   婚姻の不存在(無効)

 

 このうち、近親婚は(2)の婚姻障害に該当する。だから一度、婚姻届が受理されてしまえば、その婚姻は取り消されるまでは有効である。婚姻障害には公益的立場から定められるもの(民法731-736条)と私益的立場から定められるもの(脅迫・強要)があり、前者は各当事者、その親族又は検察官から、その取消を家庭裁判所に請求することができる(民法744条)。上記のように、さゆりは郁子または郁実と親族関係が存在しないため、二人の婚姻を妨害する目的でこの訴訟を提起することはできない。

 

 ここでさゆりの父が通りすがりのレッサーパンダ男に殺されたとする(病死でもよい)。もし郁子が事実に反してさゆりの父の「実の子」として戸籍に入っているのならば、非摘出子と摘出子の間で遺産取り分が露骨に異なる(民法第900条)ために、さゆりには血縁関係不存在の訴えの利益が存在する。このような場合には、親子関係不存在の訴えが可能である。ところが父または母の再婚相手の連れ子は、互いに1親等の姻族関係しか存在しないので、郁子に義理の父の財産相続権はない。放っておいても郁子の取り分はないのだから、財産争いの名目をもって、郁子の血縁関係を法廷で明らかにするという嫌がらせ手段も取りようがない。ということで、郁子・郁実の結婚に関して残る問題点は保護者の同意条項(民法737条)だけだが、これは時間が解決する話である。以上のことから「戸籍上、他人ということになっていれば、血縁度maxな兄と妹でも結婚は無問題」ということが結論される。