「ウメコ×ジャスミンが旬らしい」

 

 一部の腐女子の間で「特捜戦隊デカレンジャー」(2004215日放送開始)が人気を博していた。この番組は「ゴレンジャー」(19754月放送開始)から延々と続いている「東映スーパー戦隊シリーズ」の第28作目だ(厳密にいう場合、ゴレンジャーからジャッカー電撃隊までの15シリーズは「スーパー戦隊シリーズ」に含めない)。

 

 「デカレンジャー」の5人のメンバーは宇宙警察地球署に所属する刑事で、正式名称は「S.P.D(Special Police Dekaranger)」である。彼らの上司は宇宙警察地球署署長のドギー・クルーガーで、宇宙警察の最高責任者(宇宙警察本部長官)はホルス星人ヌマ・Oである。宇宙警察は警察行政機関なので、デカレンジャーたちに司法権は与えられていない。彼らが宇宙犯罪者(アリエナイザー)を現行犯逮捕した後にS.P.Dバッジを示すと、犯罪者情報が「宇宙最高裁判所」に転送されて、即座に判決が下る。その結果、「有罪」と出れば「デリート許可」としてアリエナイザーを消去する。ただし全てのケースでデリート許可が出ているわけでもない(第7話)ので、デリートされなかった犯罪者は「監獄衛星プリズロン」(第10話)にでも入れられているのだろう。司法権と警察権の分離をきちんと書いた特撮はあまりないと思うが、「デカレンジャー」はその辺に一応の配慮はしているといえる。もっとも現在の日本の法律では「死刑は、監獄内において、絞首して執行する」(刑法第11条)とされているので、その辺は現行法と異なっている。そもそも現行の規定において死刑プロセスが「死刑判決の確定後、法務大臣が死刑執行命令を発し、検察官が死刑の執行を指揮して、監獄の長が死刑の執行を行なう」ことになっていることからもわかるように、死刑執行は基本的に司法の仕事であって、(行政に属する)警察権の範囲を超えている。

 

 デカレンジャーの2年前に放送していた「未来戦隊タイムレンジャー」(2000213-2001211日)も警察ものだが、タイムレンジャーたちに死刑執行権は与えられていない。彼らのうち4人は3000年から2000年の世界にやってきた時間保護局の職員であるが、なぜか一人だけ現代人の非公務員が成り行きでメンバーに入ってしまう。一方、敵は30世紀から刑務所ごとタイムスリップしてきたマフィア一味。この時代には重犯罪者は「冷凍圧縮」して刑務所に保管されているのだが、一味は毎週一人ずつ彼らを解凍して「怪人」として利用していたわけだ。タイムレンジャーたちは怪人の身柄を確保すると、再度圧縮して刑務所に送り返している。つまり警察権の範囲で脱走犯を捕まえているだけで、別に刑罰を与えているわけではない。

 

 これらの作品と対照的なのが「機動刑事ジバン」(19891-19901月)である。「ジバン」は1982年の「宇宙刑事ギャバン」から始まる東映メタルヒーローシリーズ(全17シリーズ)の第8シリーズにあたる。ジバンとは人間社会崩壊を目論む秘密組織バイオロンに対抗して開発されたハイテク刑事である。その正体は、幼女絡みの事故で命を失い、五十嵐博士に体を改造されることで蘇ったサイボーグの「田村直人」で、彼はセントラルシティー警察署の刑事である。ちなみにジバンが炉理作品であったことは

 

              僕のかわゆい少女ボス   (1 1989.1.29)

           大好き!ナオトお兄ちゃん (2 1989.2.5)

           少女と戦士の心の誓い   (11 1989.4.9)

           好き!二人のお兄ちゃん  (46 1989.12.17)

 

といったタイトルを見ると明らかだろう。さらに、こんな回もあったようだ。

 

              ようこそ!!大霊界へ (第24 1989.7.9 「ジサツノイド」登場)

           美少年小太郎一座の怪人(第30 1989.8.20「カブキノイド」登場)

 

 なお、田村直人がジバンであることは秘密にされており、敵と戦う時には「警視庁秘密捜査官警視正機動刑事ジバン」と名乗っている。問題なのはその続きで、警察手帳を見せながら

 

対バイオロン法

第一条    機動刑事ジバンは、いかなる場合でも令状なしに

        犯人を逮捕することができる

 

第二条    機動刑事ジバンは、相手がバイオロンと認めた場合、

自らの判断で犯人を処罰することができる

 

第二条補足  場合によっては、抹殺することも許される

 

などと言って、毎週のように敵を抹殺していた。判明している限りでは、他には

 

第三条                           機動刑事ジバンは、人間の生命を最優先とし、

これを顧みないあらゆる命令を排除することができる

第六条                           子どもの夢を奪い、その心を傷つけた罪は特に重い

 

第九条                           機動刑事ジバンは、あらゆる生命体の平和を破壊する者を、

自らの判断で抹殺することができる

 

といった条文があるようだ。警視正といえば道府県警本部長,大規模警察署所長クラスで、捜査現場に出ることはない。キャリア組だと33歳以上(採用後10年)でここまで昇進するが、現場からの叩き上げなら、この辺がおそらく最高ポジションだろう。また警視正以上は国家公務員となり、警察庁の人事権下に入る。しかし、現行法では警察官に司法権は与えられていない(憲法第76条)し、それ以外の所でも違憲性全開である。まあこれはそういう世界の話なので仕方ないのだが、「機動刑事ジバン」が何なのか法令中に定義されていない所や、第6条のような明確さを欠く罰則規定があるところなど(普通は刑法第169条のような書き方をする)を見ると、あまりに穴だらけな議員立法にしか見えない。もっとも現実には行政機関が作った法案は内閣府法制局、議員立法の場合は衆議院または参議院法制局がチェックを入れているはずで、現実にはここまで既存法に抵触する法案が国会審議に持ち込まれることはないと思うが。