「ママ先生5人は可能か」

 

 「12人の妹」(Sister Princess)や「6組の双子」(双恋)といったキワモノ読者参加企画で有名な「電撃 G's magazine」が、かつて「HAPPYLESSON」という企画を実施していたことがある。「天涯孤独な主人公の事を心配した5人の美しい先生達が、放課後はママに大変身!」ということで、不条理なことに「ママ」が5人も登場してしまうらしい。あまりにフェチな設定だが、一体、何が起これば、こういう事態が発生しうるのだろうか。

 

 どう考えても、主人公の遺伝的な母親は一人しかいるわけがない。分かりやすくするために、この人を「やよい」と呼ぶことにしよう。次に主人公の遺伝的な父親が一人必要である。今ここに「きさらぎ」という男性がいたとして、その性的自認は女性であるとする。ここでやよいときさらぎが百合カップリングを形成したとして、かつ「子供だけは欲しい」と思ったとする。例えばやよいが神社の跡取りをどうしても作る必要に迫られていて、かつ、きさらぎも「女装疑惑」で出世が危うくなっていたというシチュを想定すれば、まあ不思議はなさそうである。だが基本的に二人は「百合」なので「せくーすして子作り」はしたくない。日本では認められないが、外国ではこのようなカップルに対しても体外受精を実施するクリニックは存在し、かつ金と取って代理出産する女性もいる。ここでむつきが貸し腹で主人公を出産したと考えると、遺伝的なつながりはなくとも彼女が「ママ」と呼ばれても不思議はない。

 

 ところが日本人であるむつみが、きさらぎとやよいから気づかれる前に、日本大使館に主人公の出生届けを出してしまった。父親は「不明」ということで非嫡出子の扱いである。むつきときさらぎは家庭裁判所に対して親権不存在確認の提訴を行ったが、日本の法律下では出生を行った者が自動的に母親になってしまうので門前払い。やよいと主人公の間には何の法的な関係も存在しない。一方、むつきが独身であり、かつきさらぎが精子を提供していれば、彼が主人公を認知することが可能。この場合、やよいと主人公の間に法的な親子関係は存在しない。むつきが引渡しを拒否した場合には民法788条に基づいて、家庭裁判所が子の監督者を決定する。このようなケースではきさらぎ・やよいカップルは真っ当に子供を育てることができないと判断される可能性も否定しきれない。なお、むつきに夫がいれば、彼が主人公の父と推定される。摘出否認ができるのは主人公だけで、夫にその権利はない。

 

 さて、このケースでは主人公の監督者がむつきになったとしよう。しかしその後、彼女は同じ職場の巨根部長とデキてしまい、幼い子供を残して愛の逃避行。この時点ですでにきさらぎ・やよいカップルは破局。施設に入れられた天涯孤独な主人公をうづきとさつき(男)のカップルが引き取ったのだが、実はこいつらも偽装百合で、どちらも自分を「ママ」と呼ぶことを強要していたと。

 

 以上のように、かなり無理な想定をすれば「ママが5人」というシチュエーションも不可能ではない。「HAPPYLESSON」の世界は、性的錯綜者だらけという自然かつ自明な結論である。一方、このケースで巨根部長やむつみが存在しなかったとして、かつきさらぎが「種なし」だったとしたらどうか。第三者(さつき)の精子を使ってやよいの卵子を人工授精させ、これをやよいの母体に戻して出産を行った場合だ。もしこの人工授精についてきさらぎが同意していたならば、その子供である主人公は摘出推定が及ぶために、やよいはきさらぎと主人公の間に親子関係がないという主張はできない。また(今のところ)さつきと主人公の間に遺伝的な親子関係は存在しても、法的な親子関係は存在しない。