「おまえら、妹は好きですか?」

 

 一部の狭い世の中では「妹」がブームらしく、20046-11月の半年の間に、少なくとも「妹ゲーム大全」(INFOREST)と「いもうとドリル」(英知出版)の二冊のムック本が出ている。この手の文献には「おなか一杯」になれるぐらいの妹キャラが紹介されている。妹と比べると人気は低いようだが「姉ゲーム大全」(INFOREST)なるムックが出せるぐらいには姉キャラも健闘しているようだ。よく知られているように、近年の商業用エロゲーに出てくる攻略対象である「いもうと」(おねえちゃん)キャラは、「兄」(弟)と血縁関係がない。「こころナビ」(Q-X, 2003.6.23)の今関凛子や「タナトスの恋」(Red Label, 2003.9.26)の結城奈緒美のように、極めてトリッキーな設定を持ち出すことで実妹・実姉を攻略対象にした例もないわけでもないが、大抵の場合は「義理」か「おさななじみ」か「知り合いの炉里」ということで逃げを打っている。なぜかといえば「コンピュータソフトウェア倫理機構・倫理規程」(平成11622日改定)の禁止事項に「6. 近親(血続きの、直系および3親等以内の親族)相姦はその行為を描写した作品を制作しない。」とあったからだ。ちなみに、この規程の注意事項には「同性愛についても、上記の男女間における性的表現と同様で十分注意する。」とあるので、兄弟のハッテンも不許可である。ソフ倫が上記のような規定を設ける必要があるのは、近親相姦が社会的に禁止されているにも関わらず、ユーザーニーズが高く、かつ物語を作りやすいからである。ただし、この規程はあくまでもソフ倫加盟企業による業界規制にすぎない。規程のうち「わいせつ表現」に係る部分は、刑法第175条(わいせつ物頒布等)を回避する目的があるわけだが、近親相姦に係る表現に関しては、刑法上、それを禁止する特段の規定があるわけではなく、単に「公序良俗」に配慮しているだけだ。ソフ倫の近親相姦描写規制は2004年秋に廃止され、「ALMA〜ずっとそばに Complate Edition」(bonbee, 2004.11.26)には、2003年初版にはなかった「由衣と実兄が(以下略)」というシーンが追加されている。なお、この規制の撤廃に関しては、実兄妹関係の描写がすでに認められている、商業用小説ライターからの圧力であるとの噂がある。

 

 義理妹と(以下略)というのは、今から20年前に作られたOVA「くりいむれもん part 1. 媚・妹・Baby」(フェアリーダスト, 1984年)に出てくるぐらい歴史があるもので、近年の有名所では「D.C.」(CIRCUS, 2002.6.28)の朝倉音夢や「ひなたぼっこ」(Tarte, 2004.6.25)の速水小春などがいる。義理の妹が出来るケースでメジャーなものの一つに「親の養子縁組」がある。その典型例を以下に示す。

 

 ある不妊な夫婦が男の赤ちゃん(航)を養子に迎えた。その数年後、間の悪いことに、この夫婦に女の子供(花穂)ができてしまった。航と花穂は兄妹として育てられたわけだが、どうしたわけかブラコンに育ってしまった花穂は「お兄ちゃま大好き!」などと言い出し、航もまんざらではないご様子。そうこうするうちに「電撃G's maazine」では掲載できないような事情もあったのか、花穂が「らーじ・PONPON」に・・・。

 

Dear My Friend」(light, 2004.7.9)のメインヒロイン(久代麻衣)も同様の設定であり、へたれDQNな主人公、森川恭一が「手を出してはいかんだろう」と無駄に悩む話が展開される。

 

主人公の父親にして「ロリ小説四天王の一人」、森川文人が孤児院から麻衣を引き取ってきて、恭一と一緒に暮らすことになる。恭一は不自然になついてきた彼女と最終的にくっついてしまい、その後、「麻衣は自分の本当の妹なのかどうか」と父親に問い詰める。文人にしても身に覚えあることがあったために彼女を養女にしたわけで、麻衣同意の上で父親と彼女は親子鑑定を行なっているところだった。で、最終的には「血縁関係なし」という結果が出て「ハッピーエンド」となる。

よく考えてみると、これは変なシナリオである。親子関係に関しては、民法第4編 親族が基本法となる。その第734条に「直系血族又は3親等内の傍系血族の間では、婚姻をすることができない。」とあることから、親・兄弟・祖父母・叔父叔母(祖父母の子)・自分の子供・孫とは結婚できない。良く知られているように、リアル妹と結婚できない法的根拠はここにあり、逆に「いとこ」と結婚することは何ら問題ない。養子縁組は血縁関係がない人間の間に、血族間同様の親族関係を生じさせる法律行為(727条)なので、DMFのケースのように父親の養子縁組によって妹ができた場合、それは主人公から見ても血縁関係のある妹と同じ傍系血族となる。ところが民法第734条に「養子と養方の傍系血族との間では、この限りでない」という但し書きがあることから、義理の兄妹(姉弟)の婚姻は合法的に成立する。だからDMFのケースでは、別に麻衣と自分の父親との間に血縁関係があろうがなかろうが、実際のところ、それほど大きな問題でもない。恭一が結婚可能な年になった所で、二人で婚姻届を出しに行けばそれで終わることだ。なお、文人が麻衣と養子縁組していない場合は、こんな面倒なことを考えることもなく、麻衣は始めから赤の他人として考えてよい。

 

 養子には「普通養子」と「特別養子」の2種類がある。普通養子では養子縁組後も実親との血縁関係が消滅しないが(つまり、親が二組存在する)、特別養子の場合は実方の血族との親族関係が終了する。特別養子制度は子供の福祉を目的として1988年に新設されたもので、そのために厳しい養親の条件が課されている。6歳以上(例外的な場合は8歳以上)の子供は特別養子にできないので、DMFのケースではこれを考慮する必要はない。養子縁組を解消する行為を「離縁」という。普通養子の場合は協議によって離縁は可能だが、特別養子の場合は「養親による虐待、悪意の遺棄その他養子の利益を著しく害する事由がある」「実父母が相当の監護をすることができる」の2条件を満たした場合のみ離縁が認められることがある。離縁が成立した場合、普通養子は養親との親族関係が終了し、特別養子は縁組前の親族関係と同一の関係に戻る。

 

 DMFのケースで、麻衣が文人のリアル娘である(つまり恭一のリアル妹である)かどうかは、養子縁組によって生じた血族関係に影響を与えないわけだが、もしも「血縁関係あり」という鑑定結果を元に、文人が彼女を認知した場合は、話が変わってくる。認知の否認については「夫が子の出生を知つた時から1年以内にこれを提起しなければならない」(777条)のだが、承認についてはこのような期限設定がない。未成年だろうが成年後見人だろうが、法定代理人の承認なく認知は可能(780条)だし、遺言によることも可である(781条)。これは基本的に認知されることが子供にとってメリットがあることを想定しているからで、子その他の利害関係人は認知に対して「反対の事実を主張することができる」だけである(786条)。「成年の子は、その承諾がなければ、これを認知することができない」(782条)のだが、逆に未成年であれば、認知は親の届出だけで成立する。だから、文人が麻衣の気づかないうちに認知してしまえば、恭一が彼女と結婚することは不可能になってしまう。文人が本気で「麻衣に手をだしちゃいけないからねー」と思っていたなら、こういう嫌がらせもできたわけだ。

 

 余談ながら、(普通)養子縁組の条件というのは「自分が成年に達していること」(792条)・「相手が卑属で、一日でも年少であること」(793条)であり、相手が15歳以上であれば当事者同士の合意で成立する。なので、実兄妹・姉弟の間でも、その気があれば養子縁組は可能である。つまり合法的に「いもうとのパパ」になることも可能なのだ。親の養子縁組によって生じた兄妹・姉弟関係の場合にも同様のことがいえるので「義理妹にしてリアル娘にして妻」あるいは「リアルママ先生にして義理のお姉ちゃんにして妻」といった無茶な設定も、法的には十分に可能である。