「シスター・プリンセス〜リピュア〜」における人間関係


 「シスター・プリンセス」は「12人の妹たち」の物語である。これが「電撃G'sマガジン」の読者参加企画としてスタートした時点では、「12組の兄と妹」を前提としてストーリーが展開されており、妹同士の関係については不問とされていた。ところがTVアニメーション第1作においては、12人の妹たちが同一の兄とともに生活する姿が描かれることになった。ここでただちに頭に浮かぶ疑問は、「誰と誰の関係が強く、逆に誰と誰の関係が弱いのか」、言い換えれば妹たち+兄を構成員とする社会の構造に関するものである。

 一般に社会集団において構成員が増加すればするほど、その集団内で「派閥」が発生するものである。派閥構成まで至らないにせよ、構成員同士の人間関係の強度については、一般には一様ではない。構成員の人間関係が形成するネットワークのトポロジー構造を推定するためには、社会ネットワーク分析の手法を使用することができる。

 「実践ネットワーク分析」(安田雪、新曜社、2001)p.48-54に記載されているように、所属行列(接続行列)から、グループ内の人間関係を推定することが可能である。たとえば構成員13名からなる社会について、一人以上の構成員が存在する場面を20回観察したとする。ある場合には一人しかいないかもしれないが、別の場合には5人ぐらいが同時に行動しているかもしれない。それぞれの回について、誰が存在したか記録すると、20行13列の行列を作ることができる(行が1観察、列が各人に対応。存在を1、不存在を0とする)。ある行に1のフラグが立っている人を見ると、誰が同じ場面に参加している人がわかり、多くの行に同じ人同士のフラグが立っていれば、その人同士の間の関係が強い(つまり、いつもつるんで動いている)ことが示唆される。この行列Aに、その転置行列tAを左からかけてやると(tA*A)、行為者×行為者に対応した13行13列の行列が得られ、その要素はある構成員と別の特定の構成員が同時に存在した観察場面の数を示すことになる。

 本研究ではTVアニメ「シスター・プリンセス〜リピュア」Aパートを対象として上記のような分析を行うことで、同番組世界内における妹たちの社会ネットワークの構造について推定を行った。作業はまず各話について、一人以上の妹または兄が出現する場面(正確にはシーケンス)を切り分け、そこに存在した人間の名前を記録した。それをもとにして作成した行列よりMS-EXCELにより転置行列を作成し、元行列との積算を行うことで、各話ごとの人間関係を示す行列を得た。この作業を全話について行ったのち、その行列の全和をとることで、全13話分の結果を示す行列を得た。その行列の対角要素は(単独・複数を問わず)ある妹が登場した全場面数を示す。また各要素はある妹と別のある妹が同時に存在した場面数を示すものなので、これがその妹同士の関係の強さを反映するものと仮定して、重み付けグラフを作成した。

 下表1に各話における分析対象場面数を示した。計279場面が抽出され、うち216場面(77%)に二人以上の人間が登場した。全体の35%が二人登場場面であり、三人・四人登場場面はいずれも約15%程度であった。なお話数によって抽出場面数に大差があるのは、物語の展開の都合である。

 ネットワーク分析の結果を下表2に示した。対角行列(黄色で着色)を見るとわかるように、12人の妹の中では咲耶が突出して多く登場しており(80場面)、花穂(69場面)がこれに続く。この理由としては、両者いずれも全13話中3話ずつの主役となっていることが考えられる。実際に主役の回がなかった四葉(32場面)・白雪(37場面)は、他の妹と比較すると登場場面が少ないのだが、その一方で主役の回が一度存在する鈴凛の方がこの二人よりも登場場面が少なく(29場面)、主役の回が存在しない雛子が(一回主役の会がある)衛や鞠絵よりも登場場面数が多いという結果になった。

 表2の結果をもとに、12人の妹たちの人間関係の構造を推定した(下図)。ある人が自分以外の人と同時に存在する場面の平均値は19であり、標準偏差は8.1であった。平均値を足切ラインと考え、便宜上、同一場面登場数40以上(赤)、40未満35以上(青)、35未満30以上(緑)、30未満25以上(橙)および25未満20以上(黒)で分析を行った。これを見るとわかるように、「咲耶・鞠絵・春歌」のトライアドと、雛子を中心とする亞里亞・花穂・可憐グループが存在する。衛・千影は咲耶グループと近接であり、白雪は主として可憐を通じて雛子グループに含まれる。両グループは3つの弱い紐帯で結合している。残りの二人(四葉・鈴凛)は弱い紐帯で花穂に接続している。図には記載していないが、兄と両グループの主要構成員との関係も強く、両グループの緊密化に役立っている可能性が高い。その一方で四葉・鈴凛グループと兄の関係は弱い。

 以上の結果は、あくまでも「リピュア」Aパートで展開された場面の観察によってのみ得られたものである。この作品は(第13話以外は)一人の妹と兄の関係を中心として、周囲の妹たちを動かす構成となっている。その性質上、得られるデータにバイアスがかかっている可能性が否定できない。その検証のためには、同一の作業を初代「シスタープリンセス」アニメーションについて行い、結果を比較することが望まれる。


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