「With you〜みつめていたい〜」

(カクテルソフト/ 1998.9.11)


 1998年9月に「 カクテルソフト」から発売された作品。「ONE」(Tactics)と同じ年に発売されたとは思えないぐらい「王道まっしぐら」シナリオの学園ものADVである。登場キャラクター等については公式サイトを参考にされたいが、どう頑張っても「鳴瀬真奈美」と「氷川菜織」以外は攻略できないので注意(一応、各キャラともサービスカットはある)。システム周りは今から見ると物足りないところもあるが、その当時としては親切な部類だったと思われる。BGMはoggやmp3ではなくmidiで提供されているが、ソフトウエアmidiで十分、対応できる。 EP-ROMさんの「ゲーム今昔記」に書いているように、この作品はもともと「ラブコメ」になる予定だったのだが、紆余曲折の末に「中途半端なファンタジーもの+α」の形で落ち着いたという経緯があるらしい。えろげで描かれる恋愛が「天使のいない12月」(leaf)のようなものになってしまった昨今から見ると、この作品中の「幼馴染」たちの三角関係はあまりに古臭く、まるで80年代の少女漫画を読んでいるような按配。しかしたまにはこういう「青臭い」話も悪くはないかと思われるので、あまり期待せずにプレイするのもまた一興かもしれない。ちなみにえろシーンは「取ってつけた」感じ全開で、むしろない方がまし。


*以下、ネタばれあり。注意。

 この作品の主人公には「鳴瀬真奈美」(眼鏡っ子)と「氷川菜織」(巫女さん)の二人の幼馴染がいる。彼の幼い時、真奈美は父親の仕事でミャンマーに旅立つことになるのだが、彼女との別れの時に彼女を乗せた列車に追いつけなかったことの悔しさから、彼は「早く走りたい」と思うようになる。やがて高校生になった彼は短距離走の選手となっていたのだが、その前に真奈美が戻ってくる。ずっと真奈美の幻影を追いかけていた彼を近くで見ていた菜織と、子供の頃の彼の姿を今の彼に重ねるばかりの真奈美、そしてそのどちらを取るか揺れる主人公。まるで教科書を見るような幼馴染ものの三角関係が展開される。

 ルートは二つしかない。一つはメインシナリオである「真奈美ルート」で、これはミャンマーの「ナッ神」伝説をスパイス程度に振りかけた「似非ファンタジー」。ミャンマー展で「縁切りの宝玉」が消えてしまうが、それはチャムナに姿を変えて二人の仲を裂こうと画策していたと。その理由は「偽者の絆」で主人公と繋がっている真奈美を、自分の恋人であるナッの片割れが守護しているのが許せないというもの。正直、こんな設定を作らずても、普通に「強引な柴崎に誘われてはいるものの、今の自分の気持ちがわからない。」という流れでも何も問題はないと思う。その上で柴崎と乃絵美の関係をもう少し丁寧に書いておけば、平凡ではあっても、もう少し何とかなったのでは。もう一つの菜織ルートでは、主人公のゴールであった真奈美が戻ってきたことで、彼女は自分から手を引こうとする。個人的には(「眼鏡っ娘が嫌い」というのもあるが)正直、こちらの話の方がはるかに真っ当で理解しやすいシナリオだと思う。ただ残念なのは今ひとつ真奈美側の気持ちの描写が薄い点と(これは真奈美シナリオにおける菜織にも言える)、終盤付近の展開があまりにあっさりと進み過ぎているところである。ちなみにどちらにも決められないとバッドエンドに行ってしまうが、その一つである「乃絵美ピアノエンド」は見た方がよいと思われ。

 結論。多分、このご時世にここまでの「青春もの」な作品を作るのは難しいと思う。ほんの5年ほどの間に、「気がつきさえすれば、そこに絆はある」という幸福な「物語」は消費されてしまい、今では他人との関係の「成立の可能性」といったメタな話がテーマになってしまうご時世なのだから。


インデックスに戻る