「 minori」の第2作。ゲーム発売直後に書かれたいくつかレビューを見るに、新海誠氏のオープニングムービーのすばらしさばかり聞こえてきて、ゲームそのものの評価はそれほどでもないような雰囲気。なぜそういう感想になるのか、何となく分かるような気もしなくない(理由は後で書く)。少なくともシステムの安定性とシナリオの一部(「・・・であった」が続く所とか)については、5つも出ているパッチをうまく当てると、かなりましになる(と思う)。一枚絵と立ち絵のクオリティーの差は仕様なのであきらめるしかないが、 Dream Cast版では全キャラの立ち絵を描き直しているらしい。
この作品の攻略対象は次の5人。悪いことは言わないから、この順番でプレイしる。
全体を通して言えることだが、この作品は全体の設計がかなりしっかりとしている。最近流行りの「ライトノベル系SF」みたいな感じで、全員をクリアすると全体像が見えてくる仕掛けになっている。ただし大半の世界観は彩シナリオだけ読めばわかるし、ちょっとカンのいい人なら望シナリオだけでも大体のところは想像できるはず。だから上に書いた順番でプレイしないと、一気に面白さが半減してしまうというわけ。
この作品のキーとなっているのは「街の力」。宣伝をぱっと見た感じでは「どうせ思いつきで、こんな設定にしたのだろう」ぐらいにしか感じないのだが、実はこれが全てのストーリーのベースとなっている。
*以下、完全にネタばれなので注意。
この街に住んでいる人は、ちょっとした「力」を持っている。例えば「風を操れる」(みなも)とか「高くジャンプできる」(ひなた)とか。中には「ワックスを薄く広げることができる」といった意味不明なものもあるが、大抵の場合、その力は、その持ち主の「想い」を「現実」の形にするものである。正確にいうと、「街の力」と「人の想い」が、現実の力として現れる。ただしその「街の力」を維持し続けるには「同化体」と呼ばれる「生贄」が必要である。
今から1000年前、彩は兄が「下半身のない娘」を眺めながら酒を飲んでいるシーンを目撃してしまう。それまで村人に慕われており、自分にとっても良い兄だった人間の奇行に驚く彩。兄から生贄の必要となったいきさつを知るも、それが許せずに彩は実の兄を手にかける。兄は「これで自分はやっと救われた。だが今度はお前が村の命を守るために、永遠に人殺しを続けなければならなくなった。」と言い残して事切れる。ここまで読んで大体の人は予想できたと思うが、この作品は全ての攻略対象キャラクターのエンディングに、「彩がこの呪縛からどうやって開放されるか」というテーマが絡んでくる。
---引用開始--- そして俺が公園から立ち去ろうとした、その時。 「待って!!」 ブランコが大きく鳴り。みなもが俺の背中に抱きついてきた。 「まこちゃんは、ひなたちゃんのことが好きなんだよね・・・・・・」 「わたしね、まこちゃんのことが好きなの・・・・・・。ずっと前から、まこちゃ んのことが大好きだったの・・・・・・。子供の時から、ずっと想い続けていたん だよ・・・・・・。あの時の約束、覚えてる・・・・・・?」 「結婚しよ」 「わたし、今でもあの気持ち、変わらないよ。あんなの、子供の時の約束で、 取るに足らないものなんだってことは、わたしにだってわかってる。まこち ゃんと再会してから、わたしが一人で舞い上がってたのはわかってる。 「でも、わたしにとっては、初恋の人だったんだもの・・・・・・大好きな人だっ たんだもの・・・・・・。そんなに簡単に、忘れられないよ・・・・・・・ 「ねえ、あの時の約束の返事を、ここで聞かせてほしいの・・・・・・・どんな答 えでもわたし、受け入れるから・・・・・・」 「わたしがずるい女だってことはわかってる・・・・・・ひなたちゃんが大変なと きに、こんなことをまこちゃんに聞いて・・・・・・。でもこんな時だからこそ、 まこちゃんに聞いておきたいの・・・・・・・」 俺は背中のみなもに言った。 「俺は、ひなたを愛している」 「うん、それでいいんだよ。だってわたし、その言葉を聞かないと、まこち ゃんのことを吹っ切れないんだもん」 「ありがとう・・・・でも、わたしたちは、ずっと友達だよね。」 みなもの瞳から、またとめどなく溢れ出す涙。 でも、満面の笑みで。 子供の頃のみなも。 あの時、みなもは泣かなかった。 満面の笑みのままで、俺と別れた。 あの、泣き虫のみなもが。 本当は泣きたかったくせに。 そして今も、満面の笑みで、俺を送り出そうとしている。 みなもの、それが精一杯の優しさ。 そして、俺もそれに答えなければならない。 ひなた。 それが今初めて、俺にとって、妹の名前ではなくなった。 ---引用終わり---ちょっと諦めが良すぎる気がするが、まあこういう展開はアリだろう。この作品の立派なところは、「誰かが幸せになるその裏に、不幸になっている人がいる」ことをわざわざ描いているところだと、私は考えている。この辺は趣味が分かれるところだと思うが。それはさておき、真が家に帰ると、ひなたがシャワールームで倒れていた(この辺も引用したいところだが、妹スキーな奴にとってはいちばんイイ!シーンだと思うので、自分でプレイしてください)。翌朝からついにひなたが目を覚まさなくなってしまい、真は九月堂へ。そこでまた長々と説明的な台詞が入るのだが、サクっと纏めると次のような感じか。
--引用開始-- 「これでよかったんです」 「妹さんを助ける方法は、二つあったんです・・・・・・。一つは、あなたの心を 妹さんにあげること」 「そしてもう一つは、私が死ぬことだったんですよ・・・・・・」 「眠り病は、永遠に眠る病気じゃないんです・・・・・・永遠に起きている病気な んですよ・・・・・・。逆なんです。」 「あなたたちは、夢を見てるんですよ・・・・・・。今も・・・・・・。この街の夢 を・・・・・・」 「そしてこの街を生き長らえさせているのは、この私・・・・・・」 「だから、私を殺せば・・・・・・あなたたちも、街の夢から覚めることができる んです。眠り病にかかっているのは、あなたたちなんですから」 「夢にはいつか、終わりが来る。私はこの時を、ずっと待っていたんで す・・・・・・。夢の中で一人現実を生きていることに、私はもう疲れていました から・・・・・・」 「夢の中に逃げても、そこにあるのは掴めない夢だけ・・・・・・私は、生きなが ら死んでいたんです・・・・・・」 --引用終わり--このエンディングの特徴は「なぜ彩がみすみす殺されたのか」という点がクリアでないことで、その意味ではTrue endというよりはBad endといってもよいのかもしれない。もちろん「妹とハアハア」できればいい奴には関係ありませんが。
---引用開始--- (海のシーンよりわかば) 「望ちゃんが男らしくなろうとしていたのは、わたくしのためだったんです の・・・・・・。わたくしのこと力は、望ちゃんの病気を抑えているだけじゃない。 望ちゃんの未来をも、抑えているんですわ・・・」 「わたくしと望ちゃんは、いつまでもこの関係でいられるわけじゃない。い つかは、別れなくちゃいけない。この年齢になって、望ちゃんもわたくしも、 ようやく、それに気付き始めたんですわ。いいえ。本当は、とっくの昔に気 付いていたんですの・・・・・・。永遠の関係など、この世にはないと・・・・・・」 (2部 望と公園にて) 「わかばは私の妹で、そして私にできた、初めての同年代の友達だったんで す。それまで私はただ白い天井と、窓の外の景色を眺めることしかできなか った。でもわかばが来てくれて、そしてわかばが手を差し伸べてくれたおか げで、私は飛び出すことができたんです。白い天井から、窓の外の景色の中 へと・・・・・・。私にとってわかばは、妹以上のかけがえのない存在。わかばが いなければ、今の私は、ここにいないから・・・・・・そんなわかばに、私は恩返 しがしたいと思ったんです。わかばのことを一生、この命に賭けても守りた いと思ったんです。そして、わかばを幸せにしたいと思ったんです。それが、 私の唯一の望みだったんです・・・・・・でも・・・・・・年を取るにつれて、私はだん だんとわかってきました。わかばは私といたら、幸せにはなれないんだっ て・・・・・・」 「わかばは私の病気のために、傍にいてくれようとする。でもそんなことは、 永遠には続けられないことなんです。永遠には続けられない関係なんです。 そしてそれは、わかばを縛っていることになっているんだと、私は気付いた んです。私のせいで、わかばはその人生が狭められている。だから・・・・・・」 「私にとっての唯一の願いは、わかばの幸せ。そのためには、私がわかばか ら離れなくちゃならないんです・・・・・・」 ---引用終わり--細かいところは省略するが、望シナリオのラスト付近で、わかばは自分から彩に殺されに行く。(ひなたシナリオと同じで)自分の命を望に渡そうというわけなのだが、その理由が望には気に入らない。なぜなら「望が死んだら、自分の力は意味のないものになる。私はいらない子になってしまう。一人になるぐらいなら死んだ方がいい」。この辺、「自分の存在意味」の問いを、わかばと彩で重ね合わせているわけだ。で、また長々と台詞が始まるわけですが、一言でいうと「家族なんだから、そんなことは心配することないよ。」みたいな感じ。もう一波乱あるが、この望・わかばシナリオでは彩が「犠牲のある幸せは、きっと偽りの幸せと気付いたから」と言って消えてしまう。「街の人がもはや力を必要としていない」ということをどのように解釈するかは、シナリオによって微妙に異なるが、このシナリオを読む限り、人の想いの力はもやは街の力の支持を必要としていないと理解することができる。いずれにせよ、街の力は消えて、望も数年後に死亡。この辺を見て「欝ゲー」と評する人もいるが、個人的にはこれは極めて自然な展開で、ラストもうまく纏めていると思う。わかばシナリオは望シナリオとほとんどルートが共通しており、はっきり言えばおまけ以上の何ものではない。そう言い切れるのは、せっかくの「寝取り」イベントが「えろシーン」を出す以外の何の意味も持ちえていないから。一応、「一回ヤッた後で全てを忘れて手を引こうとした」という解説はあるが、それまでの姉妹関係に関する伏線が弱すぎて、これがどうもこじつけ臭く感じてならない。この辺はむしろわかばが「断固、自分の思いを貫こうとした」線で話を進めた方が、望シナリオとうまく差別化できたのかもしれない。わかばエンドでも望は死ぬが、わかば結婚シーンで、みなもから衝撃の事実が明かされる。彩以外の4人の攻略対象が皆姉妹だったというのだ(これ自身は望エンドでも、わかばがそれを匂わせるようなことを言っている)。こういう設定を用意するのはかまわないが、じゃあその設定が作品全体の中で一体、どういう意味を持って、どう使われていたかというと、これが全く理解できないわけで。みなもシナリオラストの無意味な文化祭コスプレ同様(いや、それ以上に)、必要性を全く感じないものの一つである。
以上、見てきたように、この作品はきちんとした作品舞台の設定を持っていて、各シナリオではそれなりに表現しようとするテーマも持っている。にも関わらず、それなりの数のレビューで低い評価を受けている理由は2つあるように思える。一つは「テキスト表現のまずさ」、もう一つは「中途半端なキャラ萌え志向」である。前者は実際に自分でプレイするとわかると思うが、テンポが悪いとか、そういった次元とは別のものである。会話表現が苦手なライターが無理に会話で話をつないで行こうとすると、こういう風に「テーマが先走った」書き言葉の羅列になってしまう。ひなたシナリオのラストで主人公を「真さん」と呼ぶようになったこと(DC版では選択可能になっている)に不自然さを感じた人も多いらしいが、これも「表現したいテーマ先にありき」でテキストを書いてしまったためだと私は想像している。「兄妹としての時間の積み重ねの重さ」と「恋人になった二人」を描くことは別に矛盾しないのだから、むしろ最後まで「お兄ちゃん」でいいだろうと、私は考えるのだが。もう一点。みなもシナリオの「たこやき」や「文化祭」が最も分かりやすい例だが、キャラクターの「属性」を表現しようとするシーンを無理やり挿入しているために、うまく流れていたストーリーが不自然になり、逆にそれが挿入部分を無駄に目立たせるハメになっている。私はスタッフの「キャラ萌え」垂れ流しか、あるいは営業上の理由で無理にこういうファクターを盛り込んだのだろうと思っているが、はたしてこれが多くのユーザーに好意を持って受け取られたのだろうか?
結論。ムービーを見て過剰な期待を持たなければ、それなりに面白い作品だと思う。個別シーンだけ見るといい所も多いのだが、テキストとカットの繋ぎの悪さでかなり損をしている。時間がない人は「望シナリオ」だけやればいいかもしれない。
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