「WHITE ALBUM」

(leaf / 1998.5.1)


 「 leaf が『To Heart』から1年後に発売した「AVG+SLG」ゲーム。概要は OHPを参考。初版でもWindows XP環境で動作するが、パッチ当ては必須。システム面も(今から見ると)貧弱で、「読み飛ばし」「読み返し」程度の必要最低限の機能しかサポートされていないし、セーブも(攻略対象キャラよりも少ない)5箇所しかない。だが、音楽とシナリオはすばらしい。

 CDのおまけフォルダの中を見るとわかるように、この作品はもともとラブコメギャグ漫画のノリで、「浮気を楽しむ」ゲームになるはずだった。ゲームスタートの会話などで初期パラメーターが決定される点や、AVGにしては不当にも高すぎるランダム性は、このように「システムメインのSLGミニゲー」を作ろうとしていた時の名残と言ってよい(システム周りの解析は「WHITE ALBUM Data Room」に詳しい)。レビューを読んでみると、かなりの人が「『セーブ&ロード』を駆使しないと目的のキャラが出ない」と書いているみたいだが、必要なだけの好感度なり経験値(特に弥生)を稼ぐように選択肢を入れておけば、時間関係が前後するだけで、必要なイベントは発生する。幸いにしてキャラクターの出現ポイントは限定されているので、そこだけを重点的に配置すればランダム要素によってエンディングが迎えられないことはないはず(詳細については「 White Album: 攻略」を参考)。なお、SLG要素が実質的に意味を持っているのは、主人公が過労で倒れた時にキャラクターが見舞いに来たりする所だけで、実際上は主人公がいやおうなく三角・四角関係になだれ込んでいく話を描いた「恋愛AVG」である。


*以下、ネタバレあり。注意。

 大学1年生の主人公には森川由綺という恋人がいる。彼が付き合い始めた頃から彼女は芸能界デビュー目指して養成所に通っていたのだが、その甲斐あって、一年後の今は本格的に芸能界で活躍を始めている。そのため、大学でもだんだん合う機会が減っていき、やがて二人の間に距離が開いていく・・・。

 というわけで、このゲームの主人公には始めから恋人がいて、由綺ルート以外では二人の関係を知っている人たちを巻き込んだ三角関係(美咲・理奈ルートでは四角関係)になだれ込んでいく。こういう設定は当時にしても珍しかったし、今でもそれほど頻繁に使われるネタではない。マルチエンド型AVGがあえて触れようとしなかった、「振られる側の立場」や「二股をかけられる側の心情」を積極的に描くことで、前作『To Heart』との差別化を図ろうとしたのだろうが、残念ながらその試みはあまり成功しなかったようだ(詳しくは「TINAMIX INTERVIEW SPECIAL Leaf 高橋龍也&原田宇陀児」を参考)。リアル世界でこういうシチュに置かれたカップルは、皆が傷つかない形でフェードアウトしてしまうことの方が多いだろうから、この設定を見て「リアリティーがある」というのは早計だが、同じフィクションの恋愛を描くならば、こういうやり方も悪くないと思う。

 攻略対象は6人。由綺ルートでは、二人遭えない日が続いた後に、事務所オーナーにして業界のカリスマ仕掛人、緒方英二に彼女が告白されて・・・という話だが、二人は純愛を貫くことができる。ある意味、普通すぎるシナリオだ。彼女との時間を少しでも作るためにスタジオでADのバイトを入れまくると、由綺専属マネージャーの篠塚弥生との接点もできてしまう。ネタばれすると面白くないと思うので、あえて書かないが、こういう形で恋愛相手との絶対的な距離を描き出そうとするアイデアは斬新。彼女の攻略のためには、他の女性キャラと適当に話をして、話題を豊富にしておく必要があるようなので注意。「芸能界組」のキャラクターのもう一人は、緒方英二の妹にして由綺の先輩にあたる「緒方理奈」。それまでの唯一、自分でいられた場所である兄を由綺に取られそうになる。それを妨害するために主人公に接近した彼女が、やがて彼を愛してしまう。その結末を2月27日の強制ADバイトシーンで見ることになるわけだが・・・とりあえず英二がいい仕事してます。流れによっては、幼馴染(河島はるか)や 先輩(澤倉美咲)、後輩(観月マナ)と主人公がくっついてしまうこともある。どの人も彼と由綺の関係を知っているだけに戸惑いや遠慮は大きい。特に美咲シナリオでは彼の親友(彰)との四角関係になってしまうが、2月28日の公園シーンで・・・(あとはご自分でプレイしてくださいよ)。

(総括)全体を通じて描き出そうとしているものが明確で(はるかシナリオは今ひとつだったが)、どのシナリオでも最後にはきちんと落ちる所に話が落ちている。ただ、ヒロインたちの過去がきちんと描かれていないために、「言いたいことはわかるけど、なぜそこまで?」という行動を取るキャラが目立つ(特に美咲とマナ)。主人公・由綺の関係を軸にして、攻略対象キャラ(と場合によっては英二や彰)の関係をもう少し深く描いておけば、SLG要素なしでもすごいAVGになり得たと思えるだけに残念ではある。あと、システムの関係上、ハードなイベントの次の日には平気な顔をして主人公が他のキャラと話しをしているみたいなシーンが続出してしまう点もいただけない。とはいえ「To Heart」よりは真っ当なセンスを持った作品だとは思うので、積んでいる人は一度、プレイしてみることをお勧めしたい。個人的には弥生シナリオが秀逸だと思うが、多分、普通の人は美咲か理奈の方が好みだろう。


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