「パティシエなにゃんこ」

(ぱじゃまソフト / 2003.2.28)


 「ぱじゃまソフト」の作品で、同日に「マブラヴ」(age)や「Routes」( Leaf)が発売されている。登場キャラ等についてはOHPを参考。このサイトにディスクレス起動を可能にするパッチが置いているので、ついでに落としてくると吉。攻略対象キャラは6人だが、茉理(実妹)と亜里咲(冬華の親友)は「エロ禁止」仕様となっているので注意。ゲームは11月25日からクリスマスまでの一ヶ月間の話で、前半部(冬華・亜里咲は12月10日、ミオ・かなでは12月15日、みちるは12月18日まで)で狙ったキャラクターを必ず選択するようにしておけば、後半は一本道(一応、選択はあるがエンディングには影響しない模様)。逆にだれの好感度も突出しないように選択を入れておけば茉理エンド(12月17日で確定)を迎える。冬華・亜里咲は12月7日の選択までは共通で、ここと翌日のキャラクター選択だけでルート分岐が決定される。私は「ミオ」→「みちる」→「茉理」→「かなで」→「亜里咲」→「冬華」の順でクリアした。正直、「茉理」・「亜里咲」のシナリオは今一つ(というより「おまけ」程度)なので、あまり期待しない方がよいが、実妹の茉理を攻略対象にしなかった点は非常に評価できる(この作品では、全体構成を崩さずに妹と兄の間に露骨な恋愛関係を持ち込むのは無理がある)。他のキャラのシナリオのラスト付近はどれも甲乙つけ難いのだが、話の起伏の大きさは「冬華」が一番大なので、これを先にやってしまうと、他が平坦な話に見えるかもしれない。プレイ時間はけっこう長く、ボイスオン・スキップなしで、1キャラクター攻略に10-12時間ほどかかった。

 このゲームの一番の特徴は最初から最後まで、全てのキャラクターが個別キャラシナリオに絡んでくる所だが、それは「ひよこ館」という場の中でそれぞれのキャラクターが成長していく姿を描こうとしている姿勢から来ているものだと思われる。レビューを読んでいると、多くの人がこの作品を「癒し系」と評しているようだが、(「夏日」などのように)「またーり」系という訳ではない。(無理筋な展開が目につく所も多いが)ストーリーの起伏はそれなりにあるし、作品全体を通して伝えようとしているところは非常に明確。見ようによっては青臭い理想論で塗り固めているとも言えなくもないのだが、(こういうご時世だけに)せめてフィクションぐらいはこういう「人が信じられる」ことを前提とした空間があってもよいのかも。「C†C」などと違って声高に論ずるべき要素はないので「議論厨」には向かないだろうが、古き良き時代の「ぴえろ魔法少女シリーズ」みたいな作品が好きだった新中年のおにいちゃんにはお勧めできるかも。


*以下、ネタばれあり。

 (ミオ):OHPを見ると「この冬、あなたは猫に恋をする」と書いているが、ネコ耳なのは「ミオ」だけで、他は普通の人間である。この「ネコ魔法使い」が勘違いで主人公に魔法をかけてしまう所から話は始まる。正直、スタート直後にこいつが出てきたときには「積み戻し決定」と思ったが、実はそれほどキワモノでなかった模様。人間を信じられなかったミオが、ひよこ館の仲間たちと過ごすうちにだんだん考えを変えていく。しかしそんな時に主人公と彼女の別れはやってくる。この辺は自分で読んだ方がいいと思うので省略するが、実に「魔法少女もの」お約束の展開である。

 (みちる):はじめは厨房にすら入れてもらえず、あまりに取り付きにくいキャラのように見えるが、実はそれもきちんと後半の伏線になっている(主人公を麻美の代理と見ることが嫌とか、いろいろと複雑な感情あってのことだ)。12月半ばに、みちるをパティシエールの道に引きずり込んだ麻美が、冬華の店にやってくる。彼女は有能なみちるがひよこ館にくすぶっていることが我慢できず、昔のように一緒に「世界一」を目指したいと思っていたのだが、一方でみちるはひよこ館で働き続けたいと思っていた。結局、二人は「クリスマスケーキで勝負して、勝った方が相手の言うことを聞く」ことに。ここからシリアスな展開が続くが、最後に勝負は引き分けに。多分、こんな勝負などするまでもなく、互いに相手の目指している「世界一」の何たるかは理解していたのだろうが、二人が共同でそれを目指すことが不可能であることを、再確認する結果になってしまった。麻美は、みちるがどうすべきなのか、彼女とひよこ館のスタッフに最後の判断を任せ、留学のためのチケットを渡しすと一人で帰ってしまう。そして主人公たちが出した結論は・・・(自分でプレイして確かめてください)。このシナリオの秀逸な所は「誰もが相手のベストを願っているにもかかわらず、それが皆を不幸にする」シチュをうまく捌いてエンディングに繋げているところだと思う。ただし麻美を俗物の権威主義者のようにしか読み取れていない人にとっては、あまり見所のある話ではないと思う。

 (かなで):「『おさななじみ』です。以上。」といった感じのキャラクターだが、この作品全体の中では必須のシナリオではある。なぜなら、この話は主人公が嫌って家まで飛び出す原因となった父親が何を求めてケーキを作り続けていたのか、また、どうして母親がそれを受け入れていたのか、そういったことを主人公が理解する道筋を描き出しているものだからだ。個人的には別キャラルート決定時のかなでの一言(「もうすこし、幼馴染でいたいからね」「もう負けているよ」など)の方が、メインシナリオの待ちぼうけシーンよりも強く印象に残っている。

 (冬華):設定やシナリオ展開の安易さは「浪曲」を彷彿とさせなくもないが、多分、メインキャラクターなのだろう(かなで同様、えろシーンも15分以上もあった様だし)。なぜ彼女が向かいにある商売敵の「ひよこ館」を眺めていたのか、その謎は最後の最後に明かされることになる。この店のケーキは彼女にとって、幼い時代の楽しい家族の思い出そのものだったのだ。ところが彼女の父親である姉小路修一郎はそのライバル店「ショコラ・ル・オール」のオーナーだったりする。ひよこ館オーナーの病気の機に乗じて、彼はライバル店潰しにかかり、娘の冬華にその手先として働くことを命じる。ところが冬華は父親に反発して家出、結局、ひよこ館でアルバイトを始めてしまう。それをきっかけとして、「クリスマスにケーキの売り上げで勝負」という展開になるのだが、修一郎は仲買に手を回してひよこ屋の妨害に走る。それでも、それまでのなじみ客に救われて勝負の日に至るが、最後の最後で・・・(自分で読むことを推奨)。この辺の冬華の動かし方にはセンスを感じたが、ひよこ館が最終的に勝ってしまう展開は不自然すぎる。修一郎・父親・剛田さんの間の関係も話を振るだけで放置している点と合わせて読むと、多分、ライターが話に収拾をつけきれなかったのだろう。このシナリオに決定的に欠けているのは「修一郎」側の視点で、少なくともこのシナリオを読む限り、修一郎がただの小悪人にしか見えない。(全体の構成から考えると)彼は彼なりに冬華を大切に思っていたはずで、そのためにショコラの仕事にのめりこんで行ったのだろう。その辺を亜里咲シナリオでも使ってきちんとフォローしておけば、(どちらが勝負に勝とうが)エンディングはきれいに纏められたはずだ。

 (亜里咲):「ショコラ」の嫌がらせの「ひよこ館ケーキ大量廃棄作戦」の所から分岐する。猫になる所を彼女に見られてしまった主人公が、そのまま人間に戻れなくなってしまい、その責任を感じた彼女と、だんだん接近していく・・・といった話だが、むしろ彼女と冬華のなれそめを描くことの方が重要そうな雰囲気。

 (総括):最近、まれに見る「節度ある良作」。派手さはあまりないし、キャラクターの妙な口癖がうざい(「みゅーみゅー」言っている奴とか)が、それが気にならなければやってみる価値はあるかもしれない。


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