「想い出の彼方」

(PL+US / 2000.8.4)


 今はなきPU+LS (現 Tacticsの第3作で「純愛系VN」。シナリオは非常にオーソドックスで、特に捻った所はない直球勝負。ストーリー展開に冗長性がほとんどなく、「萌えるため」だけのシーンは皆無。これに加えて、キャラ絵もアレなので「 ゆうなたんとハアハア 」みたいなものを求めている向きには全くお勧めできない。ただし、シナリオの痛さでは、かなりいい線行ってるので、「欝ゲースキー」な人なら、買ってよしかも。

 システム周りの問題点としては、WinXP環境で、うまくBGM周りの制御が行えていないようで、激しく動作が不安定になる。もっともBGM OFF設定にしておけば問題がない。音声はONでもあまり問題はなさげ。

こちら の説明にあるように、攻略対象は5人。少なくとも「ひふみ」までは順番に攻略するしかないので、私のように途中でマシンが死んで、セーブデータがポアされてしまうと、また始めからやりなおしになるという罠。

 沢口美緒と辻川葉耶香、この2シナリオに共通する主題は「過去とどういう形で決別するか」というもの。問題の焦点は自殺した(ことになっている)辻川葉耶香。主人公はリア厨時代に、彼女の自殺を止められなかったことに、罪悪感を持っている。普通に考えれば、初恋で舞い上がっている厨房が、相手を理想化してその苦悩をリアルに受け止められなかったからと言って、5年後まで悩む必要はないと思うのだが、そういうことを考えていては、このゲームの世界には着いていけない。割り切りが要求される。

 沢口美緒シナリオ:
 中学時代、美緒は葉耶香の親友で、主人公と葉耶香が付き合っているのを知っていた。だが内心、主人公のことを憎からず思っていて、ついに葉耶香にそのことを話してしまう。その直後にいいタイミングで葉耶香が自殺したことから、その原因は彼女が葉耶香から主人公を横取りしたせいだと思い込んでいる。その自殺の直後、主人公は遠くに引越し、5年ぶりに同窓会のためにこの町に戻ってきた。美緒は主人公といい仲になりたいと思っているのだが、主人公が葉耶香に囚われていることを知って、それを表には出せないと。
 一方で葉耶香は残留思念か浮遊霊かは知らないが、この世にまだ残っていて、この2人が昔のように仲良くしているのが気にいらない。葉耶香は始め、実体化して主人公の前に現れ、最後の方では超越神力で彼女と主人公二人の「えいえんの世界」を作ろうとする。結局、幽霊と人間2人の間の三角関係の中で、主人公が「永遠逝き」を選ぶのかどうか、という話になる訳で、普通ならば、「えいえん逝き」は罠→美緒を選ぶという発想になりそうなもの。だが、このストーリーでは「幽霊と一緒にいる」を選ぶのが正解。この幽霊、思ったよりも女同士の友情に厚いらしく、このルートで現世で親友だった美緒に主人公を譲ることになる。
 5年もたてば、街の風景など変わってしまうものだが、このシナリオでは主人公の記憶の中の風景と、現在見ている街の風景の混乱が、ストーリー展開にうまく生かされている。ただし、「ラブホの中だけは葉耶香の力が及ばない」と考えるのはご都合主義だと思うが。

 辻川葉耶香シナリオ:
 このシナリオでは美緒はいてもいなくてもあまり関係がない。葉耶香は家庭内暴力&父親レイープでリスカしている所をメイドさんに発見されるが、事実の発覚を恐れた父親が娘を「死んだこと」にして座敷牢に閉じ込める。ストーリーの大半はこの事実を知ることに費やされる。最後の方で主人公は廃人化した肉体を発見する。一方、霊の方は肉体から離れて外界にいるのだが、その人格がスプリットして「二重人格」を呈している。一つの人格は主人公のことを思って「私のこと、忘れてください」と、どこかで聞いたような台詞を言っているのだが、もう一つの人格は美緒シナリオ同様、こいつも「えいえんの世界」で、主人公と二人だけで生きていたいと願っている。壮絶な争いが展開されて、後者の人格の方が勝ったかのように見えるのだが、最後には満足したのか(←謎)こっちの人格は消えてしまう。数ヵ月後、主人公が廃人化していたはずの辻川屋敷に行って「眠り姫」を目覚めさせるというのがラストシーン。
 これはこれで悪くないストーリーだが、途中、ひたすらにダークな話が展開されるのは「 アンネット」そっくりかも。

高城ひふみシナリオ:
 このシナリオについては、主人公と下級生キャラのひふみの間の関係だけで話が進み、他のキャラクターはいてもいなくても同じ扱い。私は基本的に「前世の因縁」だの「怨念の仕業」といった超越的な設定があまり好みではない。なので、プレイした3人のシナリオの中では、これが一番、評価が高い。
 「なぜ、彼女は写真を撮れなくなったのか」。一見、何も考えずに思いつきだけで書いたシナリオのように感じるが、実はそれなりに計算された話であることが、この質問の答えを知るとわかる。この前の2人と違って、はじめの方はまたーり&ほのぼの系な進行。きっと彼女はノスタルジックなものを追い求めすぎて、変わっていく町の姿を撮れなくなったのか、などと思わせておいて、後半、追い込むように鬱な展開に。
 主人公の認識では、ひふみは5年前同様、彼とラブラブであり、一見すると彼女の行動もそのように見える。しかし彼女に「変わっていない」というと、「私は変わってしまったんです」みたいに、非常に強く拒否される。で、その原因が判明してみると、なんと彼女、主人公が引越しした後の高校時代に「自分を変えるために」と援助交際をしていたと。
 もともと、親からもかまってもらえず、友達もいない彼女は、唯一、仲が良かった主人公が引っ越した後、また一人に戻ってしまった。いろいろと自分を変える努力をして、最後に行き着いたのが援交だったと。オウムとかSPGFなんかでなかったのがせめてもの救いではあるが、現実に、こういうケースは存在するので、あながち虚構だけの話とは言えない。まさに「リアルなリアリティー」と言ったところだ。
 「援交で何かが変わったか」というと、状況は何も変わらなかった。ただ変わったのは「過去の良い思い出を失った」という事実だけという罠。彼女が写真を撮り続けていた理由は、主人公の思い出を消えない形で残すためだったのだが、援交後、ひふみは自分の主人公に対する想いが、写真の中に見えないことに気づく。これが始めの質問の回答である。実はこれ、不可抗力とはいえ、原因の一端は引っ越し後、放置プレイモードに入っていた主人公にもあり、しかも真実を知るや、それまでの対応が全て勘違いだったことが判明するという、非常にイヤな展開。まあ、最後には救いが残されてはいるが。
 余談ながら、「Talk to Talk」の白倉素直もカメコだったと思うが、こういう陰気系キャラって、カメラオタというのが業界の定説なんでしょうかねえ。


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