「Moon Light Renewal」
(Clear / 2003.7.25)
Clearが2000年2月25日に発売した「Moon Light〜おもいでのはじまり〜」のリニューアル版。システム周りは前作である「てのひらを、たいように」と同様のものに差し替えており、音楽もループ仕様になっている。フルボイスで声優の演技も上々だが、キャラクター名のところが全てブランクにされているところが、かなり雰囲気を壊しているように聞こえる。「あんた」なり「君」なりに置換するとか、いっそのこと主人公名変更不可にしてもよかったのではなかろうか。
「主人公(2年生)が通う学園が経営不振により廃校が決定、全員が強制的に転校を余儀なくされることになった。」ということで、数ヶ月後に必ずやってくる別れを前にした、主人公とその周りの人たちの関係の変化を描いた物語である。攻略対象キャラは5人。うち美姫は悠理グッドエンドを見なければルート分岐が起こらない。基本路線は純愛ものだが、一部に黒い展開がある。メインヒロインである悠理のシナリオには美姫シナリオがダイレクトに関わっている。これに加えて、悠理を見つめる沙祐璃さんの視線と、悠理から見た主人公と汐音の関係も絡んで、全体としての話しが構成されている。ただし、後者2つはそれほどタイトにそれぞれのシナリオが絡んでいるということではなく、それを示唆するような台詞が入っている程度なので、気をつけて読んでいないと読み飛ばしてしまうかもしれない。
香耶シナリオだけは中途半端なキャラ萌え志向(似非関西人とか)を感じたが、他はあざとい演出や属性の強調のためだけのイベントシーンもなく、淡々と終わりの日に向かって話しが進んでいく。第一作ということでユーザーに配慮したつもりなのか、えろシーンのテキストは無駄に長い(が、グラフィックは3枚/キャラ)。一番、盛り上がっている所で話しの流れを止めるだけならまだしも、汐音シナリオのように、その直後の展開と矛盾するようなタイミングでえちいシーンを持ってくるのは何とかして欲しい。
(以下、ネタばれあり)
上にも書いたがこの作品に出てくる人は、必ずやってくる「別れ」を意識しつつ、主人公やその周囲の人との関係を深めていく。学園ものでよく見るパターンでは主人公を2年生に設定しておいて、3年生キャラにこのような配役を割り振るのだが、その場合、当然のことながら主人公はその先輩が時が来れば卒業することを知っている。ところがこの作品では、主人公は2年生キャラである汐音(幼馴染)・悠理(メインヒロイン)が転校後も当然、同じ学校に通うことになると思っている。実はそれが錯覚であることに気づくことが物語の大きなターニングポイントになっているわけで、ここにこの作品のオリジナリティーがある。この作品では汐音以外、みんな過去の恋愛を引きずっているのだが、「おもいでのはじまり」という言葉が象徴的に示しているように、ヒロインたちは主人公と出会うことで、それを過去の「おもいで」として生きていけるようになる。まあありがちと言えばありがちな話しで、実際に個別シナリオを見ると、大体、半分ぐらい読んだ所でラストまでの展開が想像できてしまう。よく言えば80年代少女漫画的で王道まっしぐら、悪く言えば話しが単純過ぎ。もっとも、この辺のまったり感がClearらしさとも言えるが。
始めに香耶・汐音シナリオをクリアした時は、正直言ってアラばかり目についたが、沙祐璃→悠理→美姫と進めていくと、シナリオ展開の陳腐さを割り引いても、それなりに評価すべきかという気になってきた。正直、悠理シナリオを初めからプレイしてしまうと、美姫シナリオ以外のインパクトが弱くなると思うので、順番としてはこの辺が良さそうだと思う。以下、この作品から読み取れる人間関係の全体像をスケッチしてみよう。
- まず香耶(先輩)は直接、残りの4人の人間関係の中には入ってこない(と思う)。訳の分からないままに見学を続けた挙句に剣道部に入ってしまうと、彼女の理想の先輩が剣道を止めるに至った理由が分かる。しかも最後の最後になって彼女のライバルが、実はその先輩の妹であったというオチまで付いてくる。単独の話しとしては「可もなく不可もなく」と言った感じだったが、えちシーンの主人公は少しオヤジ入ってます。
- 氷沼悠理(同級生)は元金持ちのお嬢さんで、彼女の父の私設秘書をしていたのが奈々村沙祐璃(現コンビニ店員)。ところが、悠理は彼女の実父と沙祐璃の不倫関係の末にできた子供だった(漢字で見るとわからないが、実は「さゆり」から名前を取って「ゆうり」という名前をつけている)。沙祐璃シナリオは悠理がその事実を受け入れるプロセスを描いたものとして理解できる。二人のシナリオを統合すると「恋人を亡くした悲しみから不倫に走った母の子供が、また婚約者を亡くして哀しんでいる」といった事実が浮かび上がってくる。あくまでも他人の顔をして悠理と主人公の急接近を見ているようで、実は細かい所で沙祐璃さんは二人の様子を観察しているみたいだ。
- 次に悠理シナリオであるが、彼女が恋をしないようにしている理由は、かつて婚約関係にあった幼馴染が事故で死亡したためであり、それを乗り越えていく様子が描かれている。前半部「偽恋人→本当の恋人へ」の心の動きの描写は悪くないが、後半の「理由不明に疎遠になってしまう」辺りの同級生キャラの動かし方は、なんか「公式的」といった感じだ(個人的にはもう少し汐音や沙祐璃さんがこの辺に濃く絡んでくると面白いと思う)。なお、彼女のハッピーエンドでは、彼女が元彼・主人公との恋愛を元にした小説を雑誌に連載することになるのだが、その小説の書き出しが、このゲームのスタート時点で登場する文句そのものなのだ。
- 悠理は主人公と岡崎汐音が幼馴染であり、しかも汐音が自分同様、彼を愛しているにも関わらず廃校をきっかけとして主人公と別離を強制されることを知っている。しかもそれを知った上で、なお自分が主人公と付き合うことを選んでいることすら自覚していることを示す台詞もしっかりと書かれている。一見、喧嘩相手にしか見えない汐音がなぜそこまで主人公に入れ込むのか、その理由は彼女のシナリオを読むとわかる。ただし汐音シナリオの主題はむしろ主人公・大竹・汐音の三角関係で、互いに相手に配慮するあまり、人間関係のすれ違いがどんどん加速していく様子が描かれる。これはこれで話しとしては面白いが、主人公や大竹が無駄に熱血な奴になっている所が不自然といえば不自然。
- 最後に片瀬美姫。彼女は現役のお嬢様で、彼女には素敵な「お兄ちゃん」がいた。ところがほんの半年ぐらい前、彼女は夜の公園でドキュソ2人に襲われてしまう(CGあり)。その結果、妊娠が判明し、親にも黙って堕胎。で、夏の海で飛び降り自殺を図るのだが、書置きを見た兄が駆けつけてきて、彼女を助ける。それは良かったのだが、そのときに兄の方は溺死。結局、全てを親に話してしまったのだが、それを聴いた父親は「世間体が悪い」とマスコミに圧力をかけて「海で溺れた妹を助けようとした兄」という美談に仕立て上げさせた。さて、その兄の葬儀には一人の女性がやってきていた。それが悠理で、つまり兄とは彼女の婚約者その人だったと。美姫シナリオで主人公はいくつかの勘違いを繰り返す。彼女の兄の死亡という事実しか知らない時点で彼女が公園を拒否するのは「兄との思い出を思い出したくないのだろう」と想像する。そのうち、彼女がまたドキュソにレイープされそうになるという事件が起こり、それを通じて事の真相を知る。結局、主人公は飛び込み自殺を繰り返した彼女を彼が助け、ついでにせくーすしてしまうことで、彼女の持っている「穢れた女」という負い目を除くことに成功したと思ってしまう。これで問題は終了したように見えたが、実のところ彼女の中の問題は完全には片付いていなかった。美姫は悠理の婚約者が死亡した本当の理由を知らないと思っており、そのために悠理に対する罪の意識を持ち続けていた。悠理ハッピーエンド以外では彼女は両親の住む外国に旅立つことになり、謝恩会にも出ずに一人で空港に向かうのだが、主人公と美姫は汐音からその事実を聞き、あわててタクシーで彼女の元に走る(そこから先の話しは自分で読んでほしい)。
「断固、感動させてやろう」と言った覇気は全く感じられないし、最後の最後まで特にすごい盛り上がりがあるわけでもないが、そうと分かった上でプレイするならば、人によっては感動するゲームではあろう(個人的には美姫シナリオの黒さばかりが印象的だったが)。あと、この学園から「Talk to Talk」の学園に某キャラが転校して行ったことを匂わせる記述が入っていたようだ。
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