「こもれびに揺れる魂のこえ」

(UNiSON SHIFT/ 2003.7.11)


 「忘レナ草」で有名な「UNiSON SHIFT」の第7作。攻略対象はスイ・アヤナ・コハルと、途中から3人の子供をつれてやって来るマオ、あと時々生活物資を運んでくるツバキの計5人。しかし最後の数章以外は共通なので、二人目移行は既読スキップを使うと30分程度で終わってしまう。システムに自動文字送りがないのが不便だが、「Lost Technology」の自動クリックツール「Fortuna」を使用すると、この問題は回避できる。立ち上げにオリジナルCDが必須で、プロテクトのせいか不自然に時間がかかる。絵と音楽は美しいが、ラストの手紙のシーンの途中でエラー終了するのはいかがなものか。あと、基本的に話は主人公視点で進んでいくのだが、所々、第3者視点(地の文)でテキストを書いてあるところがあって、そこだけが妙に浮いて見える。

 小さな村で牧師をしていた主人公(麻宮)の所に「ただ愛情を彼女たちに注いでやってください」という手紙が届き、彼は「突き動かされるものを感じて」遠く離れた施設に出かけた。その外界から閉じられた楽園の中では、3人の少女たちが暮らしていたのだが、彼がやってきたことで彼女たちも段々変わってきて・・・といった話。少なくとも前半8割程度の日常描写は「『お兄ちゃん、大好き』抜きのシスプリ」といった雰囲気で、こういうのが好きな人にはお勧めできる。しかし、ひたすらヌルい雰囲気で「少女たちの成長の物語か・・・」とプレイヤーを油断させておいて、最後の方で超設定を持ち出してくるので油断ならない。たしかに外界と隔離されたような施設で少女3人だけで過ごしていたからには、なぜか理由があるに違いはないだろうが、あまりにそれまでの伏線の張り方が弱いために「設定の後付け」をしただけのように見えて仕方がない。3人とも抱えている問題は普遍性があるものなのだから、改めて妙な世界観を持ち込まなくても、ノベルゲーとしては成立すると思う。

*以下、ネタばれあり。注意。

 完全にネタばれだが、この施設は「創造主」と呼ばれる老人のもので、主人公は彼と瓜二つのコピー人間である(この辺、作品中の時系列が不明瞭)。主人公の「半身」である「創造主」は孫(ツバキ)の病気を治すためにコピー人間を作ろうとした。一人目は失敗し、二人目に生まれたのがアヤナ。その噂を聞きつけて、死んだ娘(翆)を復活させてほしいという夫婦の希望に答えて作ったのがスイだが、彼女は夫婦から「イラネ」と送り返されてきた。コハルだけはオリジナルの人間だが、その才能を軍事利用するために、国家が命じて大量コピーを作らせようとした経緯がある。それに嫌気がさして創造主は3人の少女をつれて、外部から隔離された村に施設を作った。マオはその研究所で働いていたのだが、職場がつぶれてしまったために3人のコピー人間を連れて、彼の住むはずの施設にやってきた。更に話が複雑なことに、主人公の中には副人格がいて、コハルシナリオではそちらが暴走してしまう。

 正直、作品の個別シナリオ部分は設定に振り回されているばかりで、「理解はできるがご都合主義の展開」といった感じが否めない。ただしスイの個別シナリオだけは「作られた子供の悲劇」という言説の本質に迫る、よい展開だと思う。特にすばらしいのは主人公の「思い込み」のせいで、二人の気持ちがすれ違ってしまうバッドエンドで、これで無駄に入っているエロシーンがなければ言うことはない。

(総括)トンデモ展開前までの部分は、非常によい雰囲気の、子供たちの成長を描く作品といってよい。しかし最後の方の展開は、(ライターのやりたいことは理解できるのだが)全体のバランスから考えると、話を押し込み過ぎで、どうにも嘘くさい。私はこういう作りの作品が好きではないが、「セカイ系」が嫌いでない人ならあまり問題はないだろう。


インデックスに戻る