「Kanon」

(key / 1999.6.4)


 「 keyの第1作にして、多くの信者とアンチを抱える作品。2000.1.7にはえろシーンをさっくりと削除した「全年齢対象版」も発売されている(通常版と全年齢版の違いはこちらに詳しい)。スタッフは「ONE」を作ったTacticsの元メンバーで、(無駄に目が大きい)CGを描いているのは樋上いたる。シナリオは久弥直樹(あゆ・名雪・栞)と麻枝准(真琴・舞)ということになっているようだ。

 私は通常版をPC(MS Windows98)で、全年齢対象版を「わっふる」を使用してSigmarionIIでそれぞれプレイしたが、システム周りの不具合もなく全キャラをクリアできた。PC版オリジナルは音声なしだが、PS2版 Kanonを持っている人はvkanontool PS2版 を使用すると音声化できるかもしれない。

 この作品については何を書いたところで激しくガイシュツだと思うので、どこから話しを始めればよいのやらよくわからないのだが、この作品をプレイしたことのない人は、まず「 かのんSS-Links」を一見することをお勧めしたい。そのリンク先を見ても、正直、何を言いたいのやら訳わからない小説もどきのものが並んでいるばかりであまり面白くないかもしれないが、この作品がこれだけの人をして「何か書かずにはいられない」気持ちにしているという事実だけは伝わると思う。私自身はそれほど激しくこの作品にはまったわけではないが、どのキャラクターのルートに乗っても、「泣きのツボ」を押さえたストーリーが展開されることになっているので、この手の話が好きな人にとっては「突き動かされるものを感じて」しまうのだろうと思う。ただ一方で、アンチな人がいうように作品世界がリアリティーに欠けるところも大だし、「奇跡の大安売り」に見えるところがあることも否定できない。そういうのが許せない人はlightの「僕と僕らの夏」やleafの「天使のいない12月」でもプレイすることをお勧めする。誰か目についたキャラクターを一人プレイすれば自分がこの作品に向いているかどうかはわかると思うので、「これはダメだ」と思った人は躊躇せずに積みゲーの山の中にCDを戻した方が時間の有効利用というものだろう。それだけ人を選ぶゲームだとは思うし、無理をしてまでプレイする価値は多分、ない。


(以下、ネタばれあり)

 共通シナリオから分岐して主人公(祐一)と攻略対象キャラクターの間の話に入っていくわけだが、この作品に特徴的なのはその2者に加えてもう一人のキャラクターが明に暗に絡んでくるところにある。一番分かりやすいのは川澄舞と倉田佐祐理の関係だが、沢渡真琴シナリオでは天野美汐が、美坂栞シナリオでは美坂香里がそれぞれ絡んでいる。この作品を表面的に捕らえるならば、7年前の事故によって幽体離脱し、鯛やき食い逃げに走っている月宮あゆのもたらす「奇跡」によって水瀬名雪の母親(秋子さん)や栞なんかが助かったりする安易かつ子供だましな「おとぎ話し」にすぎない。ただ実際のところ、そんなものはかなりどうでもよい、いわば「蛇足」の部分であって、そこを取り上げて批判するのはかなり大人気ない態度だと思う(つうか、「無視しろよ、藻前ら」って感じですね)。この作品で描かれる「奇跡」なるものは既に何らかの関係性を持っている二人の少女と祐一が出会う時点ですでに始まっており、(「天使人形」の件のあゆの台詞ではないが)それを実現するのは祐一の介入によるのではなかろうかと、私は考えている。この観点から見て興味深いのは、本来、真琴シナリオのストーリー進行上、いわば狂言回しとして登場していたはずの美汐さんが、真琴と同等かそれ以上にファンを獲得してしまっているように見えることである。このシナリオはいろいろな読み方が可能だと思うが、上記のような人にとっては美汐さんの過去の反復と清算の物語として理解されているのであろう。

 私がこの作品にはまりきれない理由の一つとして過剰ともいえる「奇跡の大サービス」がある。その最たる例は栞シナリオ(True)で、彼女が学校に復帰する所だ。私としてはこの展開ならば無理に彼女を生きながらえさせない方が、ラストはきれいに片付くと思う(が、バッドエンドは箸にも棒にもかからない話なので論外)。おそらくこのシナリオで最も重要なのは1月29日の喫茶店のシーンであり、そこで名雪・香里を栞・祐一と同じテーブルに呼ぶと、香里と栞の関係の回復が図られることになる(あまりにもあっけない一言で「あとは読者の補完におまかせします」と言った感じではあるが)。シナリオ集(「Kanon T.V. Animation Series Scenario」MOVIC [2002])だけを見た感じでは、この辺の盛り上げ方はTVアニメ版第9話(「笑顔の向こう側に」)の方がうまそうな気もする。いずれにせよ、栞に「思い残すところがない」と思わせておくことが重要だと思うので、その辺を香里の回想シーンあたりで描くと(ありがちだが)よかったのかもしれない。

 その他。(話しの展開は別として)テキストのうまさという点では舞シナリオがベストだと私は思っているのだが、どうして舞は魔物の正体が幻影だという事実を受け入れた時点でハラキリに走る必要があったのか。TVアニメ第8話「少女の檻」では佐祐理を絡めて、その辺をそれなりに理解可能な形で示しているようだが、ゲーム版ではよくわからなかった(なんか読み落としがあるのかも知れないが)。まさか「奇跡」を起こすためだけに切腹したのではないと信じたいところだが。

 と、ここまで書いてきて、名雪とあゆがほとんど出てこないことに気づいてしまった。たしかに「うぐぅシナリオ」はこの作品世界を説明する上で必須な位置を占めているし、祐一とあゆの過去の関係を描く上で、名雪の視線を導入することに十分な必然性がある。「ボクのこと、忘れてください」という台詞は悪くなかったのだが、「あゆ復活」で一気に興ざめして、それまでの話しの方を忘れてしまったので、あまり書くことがなくなってしまったと言う。うぐぅ。


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