「加奈〜いもうと〜」

(D.O. / 1999.6.25)


 1999年に「D.O.」から発売され、その後、X-boxに移植が決定されている。2001年発売の廉価版はMS-Windows 2000に対応しており、Windows XP環境でも安定して動作する。シナリオライターは(最近、別名で「CROSS†CHANNEL」の大ヒットを飛ばした)「山田一」。有名脚本家である「山田太一」までは行かないが、作劇と演出の巧みさという点では、その辺のえろげ(ギャルゲ)作家と一線を画している。本作はその(多分)デビュー作にあたる。気をつけて読んでいるとわかるように、「ほのぼのしたシーン」→「シリアスな展開」→「第三者が入ってきて尻切れな所で次のシーンへ」といった形で緩急をつけながらシーケンスを組み立てていて、しかも話の全体的な構成もきちんと伏線を処理する形で組まれている。この手の病気ものについては「赤い○○」などの大映ドラマや「花王 愛の劇場」など、よい先行作品が多いため、この作品も「○○の劣化コピー」と評されることもあるようだが、その後、正面からこの手の移植医療を扱ったえろげが出ないことからわかるように、こういう誰にでも「おいしそうに見える」ネタを真っ当に使うのはそれほど簡単ではないのだ。

 この作品、今更、説明するまでもないように、「近親相姦&死にゲー」。発売本数は約2万本と、この手の「ノベルゲー」にしては大ヒットを飛ばし、今や「泣きゲー」の代名詞ともなっている。もっとも、筑紫哲也の「News23」(TBS 2001年2月14日「幸福論」)で「34歳毒男が無駄に感情移入し、言葉を詰まらせながら『加奈』の素晴らしさを語る」シーンが取り上げられ、一般人に「ヲタク=キモイ」という印象を植え付けることになったというおまけもついた(その後、当人がD.O.掲示板に書いたところによると、TBS側がそういう歪曲したイメージを与えるように編集したらしい)。

 主な登場人物は主人公(藤堂隆道)、妹の「藤堂加奈」、そして主人公の幼馴染である「鹿島夕美」。通称「知的エンド」シナリオに絡んでくる人で特に重要なのが、主人公の父の妹である「霧島須摩子」と、彼女の娘(霧島香奈)。攻略対象キャラは夕美と加奈だけで、えろシーンはストーリー展開上、必須な所に入っている(まあこのゲームに実用性を求める奴はいないと思うが)。シナリオは基本的に一本道で、4つぐらいの必須選択枝と「元気・知的」パラメータの大小関係によって6種類のエンディングに途中から分岐する(攻略方法はD.O.のサイトにあるヒントを見ればわかるはず)。一通りのエンディングを見ると、一番始めに選択肢が一つ増えて「おまけエンド」を見ることができる。多くのレビューに「ベストエンド(ED1『はじまりのさよなら』)を最後に見るべき」と書いているが、個人的にはこのエンディングと「知的エンド」(ED4-6)はインチキ臭いと感じたので、それほどこだわることもないのかと思う。ただし、「断固、ハッピーエンドが見たい」という主義の人は、ノーマルエンド「追憶」(ED2)を見た後にこれを狙うと、幸せになれるだろう。


*以下、ネタバレあり。

 全体的な感想はこちらのレビューに近い。私としては「主人公はなぜそこまで加奈を守ろうと思うに至ったのか」という描写が薄い点が気になる。これに加えて彼は小学生の時の事件をいい年になるまで根に持つようなドロドロとした性格の奴で、そのくせ、一度、夕美にハメられてしまうと変な責任感からか彼女と付き合うようになってしまうわけで、この優柔不断さはその辺のドキュソ系主人公なんかよりもはるかにキモい。たしかに彼が加奈を「恋人」として見ることを躊躇している理由の一つに「近親相姦はイカン!」と思っていることがあるわけだが、多分にそれは彼の過剰な思い込みである線も濃厚。通称「夕美エンド」(迷路から)がもっともありそうな結末に思えるところが、かなりアレでナニなキャラクターだといえよう。

 基本的に良作なのだが、あえて一番、出来が悪いところを指摘するなら、それは主人公の父親の動かし方に尽きる。父親自身、自分の妹を癌で亡くすシーンが入っているが、明示的な形でそれが主人公にどういう影響を与えたのかよくわからない。例えば知的エンド「雪」で「父親は自分と同じ思いを息子に味合わせたくなかったがために、加奈と会うことを禁止したが、息子は逆に父親が近親相姦を禁止しようとしていると理解した」等、すれ違いの拡大を図る戦略はありえたはずだ。また「今を生きる」「おわりのはじまり」の移植を反対する理由として「実の息子の方が義理の娘よりも大切だから」ということを唐突に持ち出すべき理由が全然わからない。父親は主人公が「加奈と義理の関係にあることを知らない」と思っていたはずで、ならば「移植話でその秘密が知られることを恐れた」という展開に持っていく方が自然だと思う。その上でベストエンド最後の加奈・両親のすれ違いを描くと、もっと効果が大きかったと思われる。

 もう一点。知的エンドで、加奈の肝臓を香奈に移植するエンディングがある。純粋に移植医療の面から見ると全然、話にならないぐらい破綻しているが、それよりも下手だと思うのは「提供相手が香奈だから」という話を聞いて、主人公がそれを受け入れるところ。「香奈も移植が必要な状態になっている」という話を伏線で敷いておいて、その上で情報を与えずに判断を迫るようにした方が話が締まると思うのだが。もちろん、結果的にそれが加奈の意思と一致していたという展開になっても全然、かまわない。

 結論。下調べは雑だが、「どうすれば効果的にユーザーの感情をゆさぶることができるか」という点を冷静によく考えて作っているシナリオだと思う。個人的には「追憶」と「迷路から」が好みで、「知的エンド」と「はじまりのさよなら」はイラネって感じだが、そこは人それぞれだろう。あと「主人公は加奈を性愛の対象として見ていたが、加奈は最後まで『おにいちゃん』として見ていた」っていう後ろ暗いエンディングがあってもよかったのでは。


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