「春待蜻蛉」

(SPEED / 2002.11.29)


 SPEED(JANIS)の自称「純愛アドベンチャー」ゲーム。システムは安定して動作するが、フラグ管理に問題があるので、プレイ前にNoctovisionのサイトにあるパッチを当てる必要がある。設定とCGだけ見ると「泣きゲー」を狙っているかのように見えるが、実際にプレイしてみると「一体、何をやりたいのかよくわからない」という感想が出ること必至。「純愛」を描くつもりで設定だけは作ってみたが、(ライターに逃げられでもしたのか)結局、力足りずに「適当にエロシーンを入れて納期に間に合わせてみますた」といった感じで仕上がっている。「実力はあるのだが、諸般の事情でこんな結果になってしまったのか」と思ったが、新作「 藍色ノ狂詩曲 」(2003.11.14発売)についても「設定だけはいいけど・・・」という噂が聞こえてくるところから見るに、どうやらこれがこのブランドのスタイルらしい。

 春待蜻蛉で一番問題なのは、同じ攻略対象キャラのシナリオの中ですら、登場人物の性格の位置づけに一貫性がないことで、特に雫シナリオの小夜子さん(母親)の扱いは不自然以外の何者でもない。個別シナリオでこんな調子なので、作品全体の設計なんてものは全く期待できない。また共通部と個別シナリオの接合がうまく行ってない所が多く、「何もしていないのに雫が怒っている」みたいなところもある。テキストを見ても、タイプミスや翻訳ミスによる誤字が多いだけでなく、主語が「俺は」で進行していた所が「輝彦は」に変わったまま文章が進んでいく所がある。視線の切り替えが全く不必要なシーンで、突如としてこういうことが起こってしまうのは、一度目を通せば気が付くことで、商業作品でこんなことをやってしまうのは論外と言ってよい。多分、校正を入れる暇もなくプレスに回してしまったのだろうが、修正ファイルぐらい出してもバチは当らないのでは。


*以下、ネタばれあり。

 ネガティブな話しが続いたが、この作品の設定自体はそれほど悪くない。話しのメインになるのは石蕗家の姉妹(深雪・雫)と、その母親(小夜子)。実はこの姉妹には美大生の兄がおり、二人の姉妹はどちらも「おにいちゃん、大好き!」だったと。3年前の秋、この3人が母親の生まれた北海道の元炭鉱街にやってきた。その帰りに雫がバタバタしていて帰りの列車に乗り遅れる。それが不運の始まりで、3人が乗った次の列車が脱線事故に遭って兄が死亡。深雪も二度と足が動かなくなってしまった。元々、小夜子は夫とうまく行ってなかったのだが、その後、さらに関係が悪化。深雪の引きこもりもひどくなってきたこともあって、3人は北海道に戻ってきた。

 一方、大学を出て商事会社に就職したばかりの主人公(阿佐見輝彦)には妹(清花)がいたのだが、白血病で急死。生きる希望を失った彼はさすらいの旅に出るが、たまたま目についた「蛍乃町」の丘に心引かれ、ここを死に場所に選ぶ。そこで「いざ自殺」というときに雫から呼び止められる。といっても別に自殺を止めようというわけではなくて、崖から落ちそうになっている深雪を助けろという話しなのだが。

 そういう成り行きから輝彦は石蕗家にやっかいになることに。偶然にも事故死した兄と彼が瓜二つだったことから、ブラコンだった姉妹は急速に彼に引かれていくことになる。そこで展開される話しをごく簡単に書けばこんな感じ。

 粗筋だけ見ると、(大映ドラマ的であるにしても)それほど変な所はないのだが、実際にプレイすると違和感バリバリなシーンがそこここに出てくる。あと非常にもったいないのは、せっかくこういう姉妹と兄の関係を設定しているのに、雫−輝彦の関係を見ている深雪の視線(または「深雪−輝彦の関係を見ている雫の視線」)が十分に描かれていない点。これに母親から見た3人の関係をきちんと描けば、それだけで十分な「純愛アドベンチャー」になると思うのだが。

 上二人のシナリオはまだしもまともな方で、残り3人は「とにかく攻略対象にしました」という感じが漂いまくっている。

 結論。ワゴンセールで価格が3桁台まで下がるだけのことはある。石蕗家の家族の設定だけ生かして、誰か別のゲーム作りませんか?みたいな。あと、輝彦が死にたがっていることを初めから明かしてしまうことが、かなりクオリティーを下げる原因になっている。せっかく深雪シナリオで彼女と兄の関係を描いているのだから、その途中で事実を明かせばいいことだと思うが。


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