「炎多留 魂」

(T&M / 2002.10.24)


 T&Mの第2作。無印「炎多留」はこれと言ったストーリーもなく、お気に入りの男とひたすらハッテンするだけのゲームらしいのだが、今度の作品は「プロジェクトX」ばりの「熱い男たち」の物語を描いたノベルゲーである。もっとも「バーチャルプレイシステム」は健在で、受け・攻めの選択は可能。しかも主人公(入江)とサブキャラの性的指向(ゲイ・ノンケ)も可能なので、全員ゲイで入江を受けに設定しておけば、テレビ局中「吹き荒れる衆道の嵐」で、「入江総受け」みたいなプレイが可能だ。今時のゲームにしては珍しく、男はサブキャラもフルボイス(←当たり前)。最も、女性キャラはサブキャラを全員ノンケに設定した時に、バッドエンドのラストで一瞬、出てくるだけらしい。修正パッチを当てないと画像100%コンプできないが、プレイに支障があるバグはなさそうな様子で、極めて安定して動作する。プレイ期間は10日間。基本的には一日9回、場所を移動して攻略キャラを探すのだが、誰がどこにいそうかは表示されるし、フラグ立ても厳しくなさそう(大半はどう行動しても良い)。しかも入江を「ゲイ」に設定すると、他のゲイキャラから携帯に「誘い」の電話がどんどんかかって来るので、無駄にホモシーンを堪能することができる。

 誰を攻略対象にしようが、シナリオは一本道で共通なので、一番好みの男 を選んでスタートすればよい。初めのプレイには数時間かかると思うが、二回目からは既読部分をスキップすれば1時間もかからずに終わる。プレイスタイル(受け・攻め)はその筋の人にとっては重要かもしれないが、ストーリー展開とは関係なさそうな雰囲気なので、ノンケな人はこれも好きな方を選んだらよい。効率的に各キャラのtrue endを見るためには、主人公を「初心者ゲイ」、ターゲットを「ゲイ」に設定し、他のキャラをノンケにしておくとよい。

 ゲームのストーリーは一昔前の業界ものドラマと似たような感じで、どこかの青年orリーマン向け漫画雑誌に連載されてそうな雰囲気。10日間という短い期間に怒涛のように事件が起こり、そして爽やかに解決していく。特に凄い仕掛けがあるわけでもないが、素人ゲイマーにもわかりやすい良質のシナリオといえる。また「彼氏とわっふるや苺サンデーを食いに逝く」みたいな「キャラ萌え」だけのためのシーンを延々と読まされることはないので、ダレずに一気にプレイできる。もっとも、本来は中編で書くべき内容を強引に短編に押し込めた感もあり、特に事件の真相を解明する過程は、もう少し話しを膨らませてもよかったようにも思える。もっとも、これはノベルゲーとして考えた場合の判断で、「おかずゲー」と考えるならばストーリーはこれぐらいの規模に留めておいて、繰り返しプレイで多様なシチュが楽しめる方がいいのかもしれない。


*以下ネタバレあり。

 舞台はBCCテレビで、主人公の入江嵩児と攻略対象4人(瀬田道夫・喜多道満・折尾護・袴田暁)は特番の製作を行うことになった。報道局長と製作デスクの瀬田はかつて起こった事件の確執から不仲で、この特番で視聴率30%を取らないと、瀬田は左遷させられてしまう。部下4人は皆、このプロジェクトを成功させねばならないと思っているが、そんな中、喜多道と折尾が対立。元野球選手であった喜多道は、スポーツキャスターを止めてメジャーリーグに移ろうかと迷っていたのだが、そのような中途半端な態度で報道の仕事を行うことが、折尾は我慢できなかったのだ。対立の表面化の原因となっている、元監督から貰った野球ボールが、台風の中、資料室に閉じ込められたシーンで極めてうまく利用されている。一方、視聴率を取るための特ダネとして、入江は昔の医療事故について追いかけていたが、やがてその鍵を握る人間は極めて身近にいることが判明する。一人は同僚である袴田、もう一人は入江の家に転がり込んできたアイドル砂根太陽である。昔、一人の事業家と、その親友の医者がいた。医者は事業家の連帯保証人になったのだが、事業は失敗。事業家は自殺を図るが、その医者によって命を取り留める。しかしその時には既に末期癌に冒されていて、やがて死亡した。ところが、若かりし時代の瀬田が、この事件を「医者による意図的な殺人」として報道。結局、医者の一家は家族崩壊に至った。ところが、マスコミの追求に対して何の言い訳もしない医者の姿に不審を持った瀬田は、自分の推理に疑問を持ち、再取材を行おうとした。それが当時のデスクであった現局長との確執の原因となっていたのだ。しかも、この事件の当事者である医者の息子が太陽、事業家の息子が袴田という事実も同時に明らかになる。超売れっ子歌手である太陽の隠された過去でもあり、これを本人の口から語らせれば確実に視聴率が取れる。しかしそのためには太陽がスタジオに来てくれなければならない。ここで太陽の好感度をある程度上げていれば、視聴率47%でハッピーエンドになる。以上が共通シナリオで、各キャラの生い立ちや行動の理由が、それぞれのルートを見ると、よりよくわかるようになっている。例えば折尾ルートを読むと、彼が入江の「おさななじみ」であることがわかるのだが、ここで出てくる「ボインダー」の元ネタがわかる人は確実に30代以上である。特定キャラのルートに乗ると、花火の後の公園のキスシーンと、番組終了翌日にハッテンが入る(回避不可・効果音あり)。その後、それぞれの話に応じた後日談が少し入った後にエンディング。

 シナリオの規模としては、フロッピーで供給されていた時代の恋愛ノベルゲーと同じぐらいのもので、コンパクトに良くまとまっている。ハッテンシーンや風呂・便所シーンみたいな(ゲイメンが)「抜くための」シーンを外して、もう少し謎解きと関係者の葛藤を深く描けば、「ビッグコミック」なんかを愛読しているノンケなリーマンにも受け入れられる、新しいタイプのノベルゲーにもなりえたかも知れない。正直、ホモに独占させておくのは惜しい作品なので、(ハッテンシーンに嫌悪感がない人は)一度プレイするとよいかもしれない。なお、(「素人ゲイ」向けの)「白箱」はロットアウトしたので、これからの人は漢らしく、新宿2丁目でイケメンな兄貴から「黒箱」を購入していただきたい。


インデックスに戻る