「てのひらを、たいように」

(Clear / 2003.1.24)


 今はなきClearが2003年1月24日に発売。その後、プリンセスソフトよりDC・PS2に 移植されている。前半(「てのひらを」編)は春野明生が転校生の夏森永久と出会うところからはじまって、その後、佐倉穂・吉野美花も巻き込んだ、大波乱の夏休みに突入する。まったく同じ時間軸の話(ループではない)を4回(永久normal→穂・美花→永久true)読むと、「たいように」編が選択できるようになる。こちらは(明生のアニキ分にあたる)速見順哉が主人公で、「てのひらを」編で起こっている事件を床与更紗・成瀬凛とともに外側から見ていく話。こちらも同じ時間軸の話を2回読むことになる。問題なのは一回の話を読むのに著しく時間がかかることで、スキップなしの両編第一回目は、いずれも下手をすると20時間以上かかる(二回目以降は多分、3-4時間で終わる)。ただ、話の構成とストーリーの展開はかなりうまいので、思ったよりは苦痛はない。特に脇役の蓮見まりあと日高圭一郎の動かし方が秀逸で、シナリオ全体の設計もかなり考えられている。正直、この作品が18禁である必要は(更紗シナリオの一部演出を除くと)ほとんどないし、今ではPC版も手に入れにくいみたいなので、興味のある人はPS2版を買ってくればよいかと。DVD-PGでよければ「アイチェリー」からファンディスク(AB)入り版を入手することもできる。


*以下、激しくネタバレあり。

 物語の舞台となっている町には「さとり伝説」というものがある。大昔、この町に「さとり」という怪物がいて、旅の武士がこれを退治した。が、その時に返り血を浴びたせいで、その子孫の中にはさとりの力を持つものが生まれてしまうことになった。こんなはた迷惑な家系は根絶やしにすればいいようなものだが、ある意味、村を救った恩人の家系でもある。ということで、現在の「旧家」の人々は代々、そのような力を持つ女児だけを生き埋めにしてきた。物語のメインヒロインである永久も「さとり」であるとして、子供の頃に埋められそうになっていたのだが、当時「ともだち」であった明生・穂・美花によって計画が妨害された。町としてはそのような事実が「あってはならない」ため、この3人から永久に関する記憶を消した(のだが、記憶が消えていた理由はそれだけではない)。永久はその後、山に閉じ込められていたのだが、生き埋めになる代償として、夏休み前まで3人がいる学校に行くことになる。ところが蓮見まりあの嫌がらせ(これにも理由がある)が幸いして、彼女は予定よりも長い間、学校に通うことになり、やがて3人の記憶が戻ってくる。と、ここまでが「てのひらに編 永久normal」で、穂・美花も彼女たちに関する小さなエピソードが入る以外はほとんど同一である。永久trueはこの先に続きがあって、彼らが永久にこれから起こることを知ることになる。そして町全体(旧家)を敵に回して勝ち目のない戦いを始めることになる。正直、ラストの落とし方は「これでいいのか?」という感じだが、他によい方法があるわけでもないだろう。

 一方「たいように」編は、順哉たちが夏休みの宿題で「さとり伝説」について調べるうちに、彼らが明生たちにかかわってくるようになる。ストーリー展開上、派手な演出が少なく、そのために「てのひらに編より面白くない」という意見もあるが、作りの丁寧さには大差はなく、特に凛シナリオでは(「海のトリトン」ラストを思わせるような)面白い展開が待っている。正直、「てのひらに」編は(セーブファイルでもどこかから入手して)永久trueだけやればよいので、残りの時間を「たいように」編に当てた方がよい。

(総括)
 出てくるのはどう見てもエロくない、ナイチチのガキばかりで(更紗・まりあを除く)、恋愛要素も不本意ながら入れたように見える、ある意味、何を考えて作ったのかわからない18禁ゲームである。もっとも純粋にノベルゲーとして見ると、かなりの水準のもので、大風呂敷を広げただけでうやむやのうちに終わってしまう「CLANNAD」と違い、ちゃんと広げた風呂敷を畳んでいる。これでプレイ時間がもう少し短ければ言うことはないが、この規模の話を書くにはどうしても必要な分量ではある(もっとも、穂・美花で2回も同じ話を読ませる必要は感じないが)。時間に余裕のある人には自信をもってお勧めできる良作である(私はクリアに2ヶ月かかったが)。


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