「ひまわり」

(Regrips / 2002.8)


 元同人のソフトハウス Regrips の第2作目。純愛系VN。総論的には絵・テキストともに難点が多いと感じるが、丁寧に作ればかなりの良作になった予感はする。ほとんど欝ゲーの要素はなく、チープな感動系と言った所か。

 舞台は北海道のド田舎。唯一の「外界との窓」とも言える私鉄を使って、主人公の三宅直之(浪人)が帰省するところから話はスタートする。攻略対象は5人(うちショタ1名含む)。いずれのシナリオにも共通するのは、一度、(クロスワードパズルおたくの)主人公が東京に戻るのだが、メインヒロインである里中真理子の死亡or近日死亡確定の話を聞いて、村に戻ってくることと、ストーリーに決着がついた時点で、もう一度、主人公が村を出ることである。

 プロットは一直線&ヒネリなしで、素人にも優しいわかりやすい、お約束の展開。これは悪いことではないが、もう少し丁寧に情景や心理の描写を行っていれば、もっと説得力がある話になっていたと思われる。その端的な例が真理子シナリオ。なぜか主人公を「おにいちゃん」と呼ぶ彼女は、夏の終わりに「不治の病」にかかる。この辺の不条理さは、ほとんど「わが子よV」(花王 愛の劇場 [1985])のノリである。そんな中、主人公は東京に戻るのだが、彼女のことが気がかりで、この男、2浪中のくせして、次の夏にまた村に戻ってくる。その後も淡々と真理子の病状の悪化が描写されていくが、そうこうするうちに「札幌の病院に移転させるか」という話が出てくる。普通のセンスを持っているライターなら、ここで主人公がなんらかの形で介入するような選択肢を入れそうなものだが(私なら「True End:移送反対→真理子死亡」「Bad End:移送賛成→真理子助かるも、町のことなど忘れ果てる」みたいな展開に持っていく)、有無を言わせずに話しは進む。結局、移送が決定した日の夜に真理子が失踪。次の日の朝に、彼女はひまわり畑で発見されるのだが、「この町で死にたい」という話に。その続きの、彼女が自分の病気を知っているという事実を周囲の人が受け入れて、残りの日をこれまでそうであったように普通に過ごしていくという展開は悪くない。こういうストーリーなら、「なぜ彼女がそこまで生まれ育った土地にこだわるのか」という理由を、伏線としてきちんと描いておく必要があると思うのだが、それが十分になされていないために、もっとも盛り上がるべきシーンに説得力が欠けているのだ。大体、あんなに「おにいちゃん」という言葉を乱発しているのだから、その「おにいちゃんとの大切な思い出」の一つや二つ、回想シーンで挿入してもバチは当たらないだろうに。

 綾瀬加奈子のシナリオには少しだけ工夫が見られる。と言っても、別に性格が悪いメイドさんが出ているとか、なぜか彼女がゴスロリ服を東京から通販で買っているとかいう所ではない。姉である綾瀬さくらのシナリオと絡んで、一応、「謎解き」の形になっているのだ(それほど大したものでもないが)。さくらシナリオは綾瀬加奈子シナリオクリア後にしか出ないのと、主題歌はさくらシナリオをクリアした時にしか出ない点に注意。それにしても、これほどイベントシーンの「一枚絵」がない方が良いえろげも珍しい、つうか、せっかくの感動シーンが萎え萎えなんですけど(特にさくらシナリオのラストとか)。音声OFFみたいに「グラフィックOFF」の機能はないんですか、みたいな。あと、事件の原因であり、加奈子のトラウマの元凶となっている津波の話は、もう少しリアリティーをもって描いた方がいいのでは。ついでにエンディング近くの津波の再来のシーンも(藁。はっきり言って、不自然過ぎな展開です。

 葉山くるみシナリオ、これはうまく書くとかなり面白かっただろうと思わせるようなストーリー。「過疎の町」という場面設定が、もっとも有効に使われており、なぜ、この作品に「私鉄」が必要とされたかというのが、ここで明かされる。 浪曲的な「義理と人情の板ばさみ」を実感したければ、真理子シナリオをクリアした後で、これをクリアすると吉。個人的にはかなり嫌いじゃないです>こういう「すれ違い系」。

 最後に・・・里中翔(性別:男♂)。BLです。しかも翔の「誘い受け」で本番あり(お。つうか、誰をターゲットにしたシナリオですか、これは。多分、真理子シナリオをクリアしないと、このシナリオへの分岐が出ないので注意、と言っても、積極的に攻略したい奴がそんなにいるとは思えないが。


インデックスに戻る