「はるのあしおと」

(minori/ 2004.7.23)


 「問い詰め」と「壷」(wind - a breath of heart-)で有名な minoriの第3作。主人公の桜乃樹は就職に失敗、片思いしていた相手(白波瀬)も彼の煮えきれない態度に愛想をつかして結婚してしまった。そういうわけで東京から故郷に逃げ帰り、親元でヒッキーと化していたダメ人間の樹が、成り行きで叔父の勤める学園で臨時教師を務めることになった。そこで出会うのは、これまたいろいろと難ありな生徒3人。というわけで、この作品は彼が彼女たちと関わることで、共に成長している姿を描いたものである。もっと詳しい内容を知りたい人は、ソフトバンクから出ているビジュアルファンブックを参考にされたい(ネタバレ全開ですが)。攻略対象は桜乃悠(似非いもうと)・楓ゆづき(引きこもり系)・藤倉和(ツンデレ系)+篠宮智夏(おさななじみ)で、学生3人を喰わないと、智夏ルートへの分岐が出現しない。3人のルートは掃除の見回り場所と、マラソンの相手の選択で決定される。優先順位は和>ゆづき>悠となっているので、何も知らずにプレイすると和ルートに乗って、いきなりヘコむことになる。ゆづきは何気に黒く、悠はうっとおしい。智夏は(シナリオは練れているが)大したことはない。和・ゆづきと悠・智夏がそれぞれセットで話が動いているので、この順番でプレイするのがわかりやすいかもしれない。各キャラのエンディングにはムービーが流れるが、オープニングムービーのクオリティーを期待すると肩透かしを食うので注意(つか、正直、蛇足って感じですが)。

 こういうダメ人間を主人公にしたえろげですぐに頭に浮かぶのは、 leafの「天使のいない12月」と keyの「CLANNAD」智代シナリオ。いずれも根本的な所に流れている、「現状で立ち止まることに対する息苦しさ」(あるいは「立ち止まることが許されなくなることに対する恐怖」)に共通するところがある。ただ、前者の主人公の厨房臭さや、後者のダメ人間がダメ人間のまま、女性側の母性に吸収されてしまうハッピーエンディングが、少なくとも私には極めて嘘臭く見えて仕方がない(ただし、そういう話を求める人が存在することも、よく理解できる)。その点、本作の方がはるかに「嘘がない」話を描いているように思える。もっとも、作品世界の中でのリアリティはそこそこあるため、人間関係で何かと生臭いところが見受けられる。そういったものに耐えられない「美しい世界が好きな人」は違う作品をプレイすることを進める。


*以下、ネタばれあり。注意。

 正直、自分でプレイしてもらった方がよいと思うので、キーコンセプトだけ。まず和は「目的のない優等生」。勉強も運動も(正直、樹よりも)できるが、その優秀な能力を何に使いたいのか、自分でもわからない。そういうわけで「良い教師になろう」として努力している樹に引かれていくわけだ。一方、ゆづきは「何かを失うことを恐れるために、何も求めない」少女である。はじめは傷の舐め合いのような樹とゆづきの関係だったが、やがてゆづきの中で彼は失いたくないものになっていった。ところが二人は・・・といった話。もう一点。ゆづきは和をうらやんでいたが、その彼女の方が和よりも先に努力を形にしてしまい、これが両者のシナリオの中で微妙な展開を見せることになる。

 悠と智夏のシナリオは、どちらも「別れ」を中心に据えた話で、補完的なものになっている。かつて母を亡くした悠は、自分の所に帰ってきた樹が東京に戻っていってしまうことを知り、「自分の愛した人は皆いなくなってしまう」と、情緒不安定になってしまう。智夏シナリオは別れを受け入れた後、「一人で」成長して行くことを描いたもの。わざわざ「一人で」と書くのは、このシナリオが「誰かと一緒でなくても、人は成長できる」ことを描こうとしているものだから。

(総括)非常にテーマ性が強く、丁寧に作った作品という印象を受ける。これで絵が炉里でなければいうことはないが、それは趣味の問題だろう。個人的にはこういうストーリーで読ませる作品がかなり嫌いじゃないが、えろげに「キャラ萌え」を求めている人には全く向かないと思われる。あと、オープニングムービーの歌詞・絵は何気にシナリオとリンクしているので、全キャラクリア後にもう一度見直すことをお勧めしたい。


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