「flutter of birds〜鳥たちの羽ばたき〜」

(SILKEY'S / 2001.2.23)


 この作品は「肢体を洗う」「奴隷介護」といったクセのある作品で知られる「SILKY'Sから発売されているが、完全に純愛路線なので「鬼畜」「陵辱」「アブノーマル」といったものは期待するだけ無駄。ただ病院ものだけあって、(看護婦の「朝比奈めぐみ」)以外、攻略対象キャラはかならず病気や怪我などで不幸な境遇に至る運命にある。主人公がかなりのヘタレ野郎なので、人によってはプレイしているうちに腹が立ってくるかもしれない。2ちゃんねる「欝ゲー」スレで話題に上がるだけあって、かなり破壊力があるシナリオ展開であることだけは間違いがない。

 いろいろな人が書いているように、システムは安定しているものの、極めて使いでが悪い。特にまずいと思うのは、画面が常に最大化表示されているところと、セーブポイントの少なさだ。もっとも、前者については私家版修正プログラムを拾ってくればなんとかなるし、コピーしたセーブデータを別ディレクトリに退避させておけば、後者も解消できる。キャラクター原画はelfの「同級生」シリーズで知られる竹井正樹で、今回、彼が監督もしている。好みの分かれる画風だと思うが、それとは別にしても、何とも古臭い(256色時代風の)CGではある。ゲームシステム周りも同級生シリーズを踏襲しているのか、必ずしも予想したところに狙ったキャラがいる保障はないし、メインキャラクターを5人クリアすると、ランダムに登場するキャラ(茂美)まで出てくる。恋愛シュミレーションならばそういうのもアリだろうが、このゲームについてはプレイヤーの意識的な選択に従ってストーリーを展開させないと意味がないので、ランダム要素を組み込むというのはむしろ悪い方向に働いているように思える。とはいえ、攻略サイトを参考にして、一日ごとにセーブしておけば、それほどクリアが困難というほどのことはない。

 攻略対象キャラは「森野大気」「虹掛美雨」「水川空」「南田白風」「美浜つばさ」「離加等命(メー)」「神楽琴羽」「朝比奈めぐみ」の計8人。上のリンク先にも書いているように「メー」と「めぐみ」については攻略のために他のキャラクターのエンディングを見ておく必要がある。ちなみに私は「美雨」→「大気」→「空」→「白風」→「琴羽」→「メー」→「つばさ」→「めぐみ」の順番で片付けた)。大気・美雨・つばさの3人についてはエンディングが2種類あるが、正直、「病気が回復してハッピーエンド」の方は今一つな所がある。たしかに大気ハッピーエンドのラストは最後まで手を抜いていないし、つばさについてもハッピーエンドに至るまでの、治療の副作用の描き方などは大したものではある。しかしバッドエンド(と公式には言うらしい)のインパクトの前にはどうしても霞んでしまうように思える。

 「この作品はシステムの不親切さを割り引いてもなお、プレイするだけの価値がある。」そう思わしめるに十分なほどに話の盛り上げ方がうまい。プロットだけ見ると、それほど目新しいところがあるわけではなく、ありがちなストーリーを組み合わせているだけなのだが、その定式的なシナリオを演出の力によって「力技で感動させる」ことに成功しているのだ。ただ、テキストのレベルで見ると、同じキャラのシナリオの中でさえ、明らかに品質のばらつきがある。シナリオライターは3人いるのだが、その中にどうも「設定を作ること=作品を作ること」と勘違いしている人がいるみたいで、かなりどうでもよい説明的な話しを、延々と会話の中に入れている点が目につく。しかもその素人騙しの話しの中身が、かなり間違っていることがわかるだけに、なおさら興ざめである。どうせ書くならばもう少しきちんと下調べをした方がよいし、逆にフィクションだと割り切るならば、どうでもよい所は適当にごまかしておいた方がましな気がする。


#以下、ネタばれあり。注意。

 主人公の松井裕作は医大の一年目(大気バッドエンドから推測)の夏休みに、叔父である「ヒゲ先生」の診療所にアルバイトに出かけることになる。そこで出会うのが、幼馴染で「妹分」だった大気だ。仕事を始めて早々に、彼は「可愛げのないガキ」(美雨)に会うことになる。なぜかわからないのだが、大気は彼女を診療所に連れてきて、検査を受けるように説得してくれと頼む。どちらのルートに乗るかは、どちらの好感度を上げるかによるが、両シナリオを読むと、この3人の関係が浮かび上がってくる。まず、子供のように見えた美雨は裕作と同年齢で、しかも小学校のころからの幼馴染だった。一方、その当時から裕作と大気は「兄と妹」のような関係だった。小学校の頃、主人公が美雨を庇ったことから男子vs女子の戦いが起こり、裕作は男子側のリーダーだった。美雨が裕作に会いに男子の秘密基地に出かけても、他の男子から入れてもらえなかったのだが、大気だけは出入りが許されていた。ある日彼女はこっそりと美雨を基地に入れてくれたのだが、それが問題となって、結局、裕作はリーダを下ろされてしまった。その後(インチキ臭い話しだが)美雨は原子炉の事故に巻き込まれて両親を失い、しかも成長が止まってしまった。その後、流れ流れてこの村にやってきた。一方、大気の方はというと、母親を病気で亡くし、それを機会として大学の治療方針に疑問を抱いた父親とともに、8年前にこの村にやってきた。

 「大気が太陽・美雨が月・裕作が地球」という例話に端的に示されているように、大気は自分が「妹」として、美雨と裕作の関係を見ているしかできないし、そのためには美雨のことを忘れている裕作に、彼女のことを思い出させないといけないと考えている。一方で美雨はというと、自分は二人に迷惑をかけているだけで、裕作が自分に気をかけているのは大気がいるからだと思っている。両方が裕作を想いながら、同時に互いのことを気にかけている。そんな中でただ主人公の裕作だけが、そんな二人の気持ちも知らずに能天気に過ごしているわけだが、あと2日でアルバイトが終わるという8月30日の時点で事態急を告げる(これは全員のシナリオに共通している)。詳しくは自分でプレイすることを強く推奨するが、大気シナリオハッピーエンドの伏線の張り方やサブキャラの動かし方には見るべきものがあるし、主人公にとって本質的だったところが「大気を妹としてみるか女性としてみるか」という所にあるのではなくて、もっと別のところにあった(彼との昔の約束を守って、大気が一人で頑張り続けていた)ということが最後の最後で判明するというのもすごいところだ。美雨ハッピーエンドルートに「奇術師の話し」が出てくるのだが、これがこちらの話の伏線になっているのならば、かなり計算されていると言ってもよい。なお、大気・美雨のバッドエンドではどちらも、生き残った方と裕作が結ばれることを願いながら、片方が死んでいくことをきちんと書いている。またこの作品の立派な所は、(大気シナリオ以外のルートに乗った場合に)彼女が「振られた」という自覚を持っていることをプレイヤーにさりげない形で示している所だ。命(メー)エンドの場合でいうなら、それは「どうしたんだ、裕作くんは?」「娘さんよ・・・」という、たった二行だけなのだが、これをあえて書くことで、プレイヤーは自分の選択で、三角関係のうち、一人を切り捨てたことを認めざるを得なくなる。美雨が何を考えているかは、これほど明確には示されていないのだが、ただ彼女も裕作が他の女性を選んだ場合、自分の気持ちを抑えてその手伝いをするシーンが出てくる(命シナリオで言うと、風車小屋に向かうシーン)。

 その他のキャラも見所が多いが、個人的に重要だと思うところだけ書いておく。まずつばさだが、彼女のエンディングは2種類ある(8月30日に「治療を続ける」か「治療をやめるか」で分岐)。このシナリオは延命治療の是非を扱ったもので、この作品には必須なものだと思う。ただ大気とつばさのバッドエンドのラストは似たようなパターンなので、その辺にもう一工夫欲しいところだ。なお、彼女のルートに乗らなかった場合、8月22日の丘で、彼女が東京の病院に移るという話を聞くことになる(琴羽にも受付で同様のシーンあり)。
 次に琴羽。この作品に出てくる症例の中では、彼女の過食症というのが最も現実にありそうなケースだ。彼女の病気の原因は親からの愛情を求めるあまり、自分を抑えすぎていたことであり、主人公から愛情を与えられるようになると症状が軽くなった。と、ここで終わらないのがこの作品。彼女と主人公が急接近する原因になったのは、親をなくした子供で、この子を介して二人が仲良くなったわけだが、なぜか琴羽がこのお子様に嫉妬するようになってしまったのだ。治癒したと思っていたら主人公に感情の転移が起こっていたわけで、しかも幼児退行までおまけに付いてきていたと。そこから先の話は、精神医学の立場から見ると?といわざるを得ない展開ではあるのだが、まあ「愛は奇跡を起こしてしまう」と割り切ってしまえば、それなりに話しの筋は通っている。
 最後にメー。なんか「超先生シナリオ」を読んでいるような気分になれる話しだが、実はけっこう深い狙いがあるのかもしれない。このシナリオは現実から逃避してメーに癒されたいと思っている主人公と、一人寂しく居場所を求めているメーのすれ違いを書いているのだが、結局、彼女を外の世界に溶け込ませることにも成功できず、彼女から逃げ出すような形で主人公は村を出て行くことになる。そして最後の最後に、その一年後が描かれるのだが、それは一人で主人公の帰りを待ち続けていたメーの姿だった。そこから展開されるのは二人の中で「止まった時間」なわけで、その意味ではこのシナリオと美雨シナリオは共通のテーマを背景としている。ただ、あまりに主人公があまりにヘタレだったせいで、メーの時間を動かすことには成功しなかったわけだが。

 結論。ゲームシステムがもう少しましで、かつ「設定厨」を思わせるようなテキストがなければ、もう少し高い評価を得ていたはず。絵柄を見た上で、買おうかどうしようかと思っている人がいるなら、買ってプレイすることをお勧めする。もっとも「死にゲー」に抵抗がなくて、かつ「キャラ萌えよりも泣きを求める」タイプの人に限定だが、逆にこういう人ならば元は取れるだろう。


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