「Crescendo - 永遠だったあの頃-」

(D.O. / 2001.9.28)


 「虜」や「妖獣戦記」で有名な「 D.O. 」が2001年に発売した学園ものゲーム。2003年7月25日に「あやめシナリオ」後日談を強化した「Full Voice Version」が出ている。OHPに書いてあるように、舞台は卒業を直前に控えた学校で、主人公(佐々木涼)の5日間の生活が回想シーンを交えつつ展開される。一シナリオ3-4時間あれば読み終わる。攻略対象は歌穂・杏子・優佳・香織・あやめの5人+隠れキャラ1名(美夢)。一日目は顔見世の共通ルートになっており、二日目の行動でどのキャラクターのルートに乗るか決定される。杏子・美夢以外はTrue,Normalの2種類のエンディングがあり、いずれも4日目の選択で分岐する。美夢はデフォルトキャラをクリアすると、一日目に選択肢が出てくる。

 「えろ漫画家」紫川弓夜さんの原画がヲタクなおにいちゃんたちの琴線に触れなかったせいなのかどうかは不明だが、売れ行きはそれほどのものではなかったという。しかし水無神知宏によるテキストは構成・表現ともにその辺のノベルゲーとは一線を画している。文章の表現で特徴的なのは、小説と同様、「地の文」を用いて背景描写やキャラクターの視点の切り替えを行っていることと、比喩表現の多用。前者の戦略は完全に成功しているが、(ろくに禁則処理も行っていない)表示システムもあいまって、時として会話文の部分を誰がしゃべっているか、瞬間的に判断できないところがある。キャラクターごとにフォント色を変えるとか、何か工夫をした方が読みやすいように思える。後者については洋物の古典的な恋愛小説を意識して書いているのだろうが、人によっては「くどすぎる」と感じるかもしれない。なお、音楽はピアノ中心のクラッシックで纏められていて、これもまたテキストの雰囲気にマッチしている。

 肝心のシナリオだが、(美夢以外は)かなりリアルな設定で、ラストはどれも美しく纏めている。内容としてはキャラクターの属性(義理の姉とか教師等)に合わせて「お約束」ともいえるようなジレンマを設定し、ラストでその解消が図られる。ネタとして目新しいものはないが、「『何を言いたいのかすらわからない』うちにハッピーエンドになって終わり」みたいなノベルゲーも多いことを思えば、小さくともきっちりと纏まった話だと思える。


*以下、ネタばれあり。

 歌穂と杏子は二人で一つのシナリオと考えた方がよく、「四角関係」を描いたごく普通の「学園もの」である。歌穂は一年生の時、卒業する先輩に告白できないまま終わってしまった。その時、涼が優しい態度を取ったことから、彼女は彼に好意をもっていた。実は彼も同様であったのだが、どちらもそれを言い出せないままに卒業が近づいてきた。そんな時、涼は本意にもなく、文芸部の幽霊部員にしてバスケ部キャプテンの杉村を歌穂とくっつけようとし、失望した彼女はそれを受け入れる。一方、一年生の杏子も事情あって涼に好意を持っていて、それを察した歌穂が彼女に告白を勧めていた。4人が4人とも互いに配慮しているだけに動きを取り辛いのだが、タイムリミットはやってくる。

 香織とあやめも微妙にセットとなっている。保健教諭の香織は前の学園で「お気に入り」だった男子学生から自殺されたという過去を持っており、涼のことを憎からず思っている。あやめは看護学校で香織の後輩だった関係で、二人は互いのことを熟知しているわけだが、彼女は香織が「前の学校の生徒」の代替物として自分の弟を利用していると思っている。そんな所に香織の見合い話が降ってくる。正直、True endは不自然すぎる展開なので、3日目の写真は「定期入れに戻す」を推奨。一方、あやめの方はといえば、あまりの設定の激しさに驚かされる。涼は赤ん坊の時にあやめの両親に引き取られた。つまり彼らは義理の姉弟の関係にあるわけだが、その事実を知った涼が逆上してあやめをれいーぷ。それを苦にして、彼の実親の所に相談に出かけようとしていたあやめの両親が交通事故死。そういう事情があっても彼女は断固として涼を「弟」として親代わりに育てていた。ところがそんな所に、涼の実の親が彼を引き取りたいという申し出をしてきた。このシナリオのミソは、涼が負い目を感じていたのと同様、あやめの方も負い目を感じる事情があったというところ。実は彼女、涼が中学生になったときに事実を話そうとした両親を「彼が自分から離れて行くのがイヤだから」という理由で止めただけではなく、「いっそ体を与えてしまえば、彼が離れていかないだろう」という理由で彼から抵抗しなかったと。

 優佳は涼のクラスメイトだが、その設定もあやめ同様に激しい。彼女はある家庭に引き取られたのだが、そこにいた「義理のおにいちゃん」が彼女をれいーぷ。しかもそいつは「優佳が誘った」とまで言い放った。その後、彼女は施設に入ったのだが、学校では「公衆便所」扱いされていた。清潔壁な涼は彼女を軽蔑していたのだが、彼女が教室で切迫流産に襲われた際、周りのクラスの奴らの対応に腹を立てて彼女を保健室に連れて行ったことが接点となって、二人の付き合いが始まった。彼女は「ウリ」を止めると涼に誓うのだが、それに腹を立てた奴が彼女を集団れいーぷ。True end は皆さん、想像の通りの展開で大したことはないが、Normal End は一読の価値がある。卒業数年後、クラス会が行われることになるのだが、なぜか風俗情報誌を持ってきた奴がいて、それには風俗嬢と化した優佳が掲載されていた。そこに彼女がやってきて・・・(続きは自分で読んでください)。

 最後に美夢だが、これはこの作品で無理やり「キャラ萌え」したい人以外は読まなくてもいいと思われ。「薄幸の美少女」みたいな位置づけのキャラで、一応、書いておけば、癌で死にかけの彼女が卒業前に生霊と化して涼の前にやってくるが、最後は「ボクのこと、忘れてください」みたいなことを言って消えてしまう。ラストの葬式のシーンを見るに、このシナリオで言いたいことは歌穂の美夢に対する後ろめたさなのだろうが、そこが途中の生霊の話と全然噛み合っていないのだ。

(結論)歌穂・杏子シナリオだけ見るとありがちな「学園もの」ゲームだが、見所はやはり優佳・あやめシナリオだろう。まあ、「かわいいおとこのこ」とか「ネコ耳メイド」とか「池沼系」みたいなキャラに萌え転がりたい奴ばっか増えている昨今では、こういう「『18禁』でなければ書けないストーリー」が一般受けするとも思えないが。


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