「僕と、僕らの夏(完全版)」

(light / 2003.8.8)


 「 lightの第8作「 僕と、僕らの夏 」PC版(2002.2.1発売)に、同年9月26日発売のDC版と、公式アナザーストーリー「二つの恋」ベースの追加シナリオをマージしたもの(super marge version)。初版・完全版ともにプレイした感じでは、明らかにシステム周りが使いやすくなっている上、シナリオの細かい部分にも手が入っている様子。DVD-ROMにはPC・DC両オリジナル版も入っているので(初版限定ラジオドラマ+音声CDが不要な人は)こちらを買った方がよいと思われ。登場人物や設定については公式サイトを見れば分かるので省略。シナリオは創作文芸サークル「LIFE・SYSTEMで活躍中の早狩武志氏。「閉鎖された村の中で生じた「巨大ダム建設」。それがもたらした動かしがたい状況の下、それぞれの立場で育つしかなかった子供たち。そしてやってきた最後の夏(村の消滅という時間的限定)」キャラクターの行動原理をきちんと説明するために、こういった背景設定を準備。矛盾なくそれぞれのキャラが動かせるように非常によく設計されたプロットと(萌えの欠片もないが)無駄なくキャラクターの感情を表現するテキスト(貴理引きこもりシーン「でも、トイレだけは別なの」の辺りとか)。これに(無駄な属性の強調もない)グラフィックスと標準水準以上の音楽・ボイスが加わっているのだから、どう見ても売れないはずはないだろう・・・と私は思うのだが、実際には「地味にしか売れなかった」らしい。世知辛い世の中、やはり「うぐぅ」とか「竹箒」とか「おにいちゃん」なんかがないとダメなんでしょうかねえ。もっともこの作品にも「恵ちゃん」というサブキャラ(幼女)が出てきて、DC版では一応の攻略対象にもなっていたのだが、完全版ではそのbad endだけが残った様子。たしかに全体の流れから考えると蛇足以外の何者でもないので、これは正しい選択だと思われ。あと、えろシーンは全て必然性がある所に入っているが、そのために冬子がクソ男に(以下略)というシーンもあるので、そういうのが嫌いな人はDC版をプレイしる。

 「僕夏」完全版は

  1. 「in the hight of summer」
  2. 「a side role」
  3. 「blue marbles」
  4. 「when one was a boy」
の4段構成になっている。「a side role」は選択肢なしだが、いくつかのパターンがランダムで出てくるので、一度通しで「when one was a boy」までクリアしたあとで、何度か再プレイした方がよい。基本的にこのゲームは同じ時間軸の上で展開されるドラマを、それぞれの登場人物からの視点から見た場合に立ち現れる姿を、徹頭徹尾、描こうとしているものである。これと全く逆の戦略をとっているのが、「Kanon」(Key)に代表されるヒロインシナリオ分岐型恋愛ADVで、その多くは分岐後に主人公が相手をしなかったヒロインたちがどうなるかは、プレイヤーの脳内補完に任されている。例えばこの作品で祐一が栞を捨てて、幼馴染の名雪に走ったとしよう。その後の数少ない香里の言動から、栞の病状芳しからぬことは推測できるのだが、ストーリーは祐一と名雪の関係に集約されて進行していく。これに対して、「僕夏」は(ダム建設後の話である「when one was a boy」以外の)各シナリオを使って、いわば「栞視点」「香里視点」から祐一と名雪の関係を描くような構成を取っている。


(以下、微妙にネタばれあり)
 この作品の中心となっているのは主人公である恭生と幼馴染である貴理の子供っぽい恋愛。これに「百合っ子」有夏が絡んで三角関係となる。貴理と恭生の関係を壊そうとして彼に接近した有夏が、だんだん恭生に引かれて行き、本筋では振られるはめになる(「ひと夏の恋エンド」や、無駄に「貴理・有夏百合エンド」もある)。主人公の親友である英輝は、過去に有夏をいじめたことを負い目に思いながらも、ひそかに有夏を狙っている(で、有夏と恭生の関係の妨害に走る)。一見、彼らを外から応援していたようかのように見える「大人の女性」冬子。しかし彼女も実はそれなりの思惑をもっていたことが「blue marbles」(裏シナリオ)を読むとわかる(有夏を巡る展開が弱かった初版では、おそらく冬子が事実上のメインヒロインだったと言ってもよい)。「in the hight of summer」(表シナリオ)貴理・有夏ルートでは「ただの大人の女性」として立ち振る舞っていた冬子が、実は「子供でいることを許されずに大人になってしまった」こと、そしてそのような彼女が貴理・恭生の初々しい恋愛を見て、それを壊してやろうという黒い欲望を抱き、それに有夏・英輝それぞれの思惑が微妙にシンクロしつつ、話しが進んでいく。表シナリオではそのような黒い話しは一切、語られないのだが、裏シナリオを読んだ後にもう一度表シナリオの「恋愛相談シーン」を読み返すと、きちんとその伏線は張られていることに気づくはずだ。

 「書淫大好きふりすきー」の レビューに書いているように、DC版追加分である"in the hright of summer"有夏trueシナリオが、(完全版で追加された)"a side role"で英輝視点を加えてより深く語られる。そしてこれがオリジナルの時点から存在していたおまけシナリオ("when one was a boy")へと繋がることになる。彼女をどう評価するかは人それぞれだと思うが、私はこういうキャラがかなり嫌いではない(というか、どう見ても彼女がメインヒロインですね)。ただ、「a side role」「有夏・恭生 & 英輝・冬子カップリングエンド」は、全体の焦点をぼやけさせるだけだと思う。

 結論。「in the hight of summer」だけ見ると凡百なギャルゲー(一部百合ゲー)だが、プレイを続けるに従ってだんだん話しが香ばしくなってくるので、やるならば全コンプを目指すべき。三角関係と言っても「君望」ほど濃くはないので、欝度は低い。まあ「長森シナリオの茜萌え」(ONE)みたいな黒い人にはお勧めできるかと。あと、「百合シーン」はあっても「百合ゲー」ではないので注意。


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