「あした出逢った少女」

(MOON STONE / 2003.5.30)


 MOON STONEの自称「本格サスペンスノベル」。システム周りは必要なものが揃っているが、少なくともうちのWinXP環境では、(誤字修正パッチを当てた後でも)キャラクターが二人立っている画面で確率的に不正終了する症状が出ている。あと、録音レベルの問題かマイクの使い方の問題かはわからないが、一部キャラクターの声が割れている様子。絵はサイトなりパッケージなりを見ればわかると思うから省略。

 「キャラ萌え」を求める人は、はじめからこんなゲームは回避すると思うので関係ないが、「感動的なドラマ」なんてものを求めている人にとっても、このゲームは退屈なだけのものだと思う。では小説、特に推理小説スキーな人ならどうか、判断は分かれると思うが、少なくともラスト付近までは退屈だと思う。おそらく、このゲームの最大の欠点は「プレイが苦痛かつ退屈」なところにある。


*以下、ネタバレあり、注意。

 攻略対象は「早苗」「冬香」「倫」「美里」の4姉妹(ほかに女性キャラが3人出てくる)。ストーリーは基本的にtrue endルートの一本で、途中で各エンディングへの分岐がある。順番としては倫→美里→早苗の順で殺されていき、最後に残った冬香がキーパーソンである。冬香以外のキャラクターのルートに乗ると、それまでに展開された伏線は一切放置される。いずれもパターンは一緒で、「精神病院から抜け出した男が、攻略キャラを殺そうとし、主人公がそいつを射殺して終了」というもの。お詫び程度に後日談が入ってますが、正直、「はぁ?」って感じですね。そもそも、どうして主人公が拳銃を持っていたのかすらわからないし。それぞれのキャラのルートを読まないとストーリーの全体像がわからないということもないので、時間がない人は攻略サイトでも使って、true endルートだけを見ればよい。

 このゲームが「推理もの」であると考えるなら、おそらくそこに欠けているのは「ストーリーの起伏」だろう。大層な作品でなくても、例えばTVの2時間もの推理ドラマでもよいのだが、この手のものはラストまで話に付き合ってもらうために、以下のような基本構造を持っているはずだ。

 ところがこのゲームでは、次から次へと伏線となる情報だけは与えられるのだが、読者がそこから事件の真相を想像しようと思うだけのインパクトがない。ある人はこれを「「起承転結」の「転」ばかり続く」と評していたようだが、的確な表現と言えるだろう。たしかにクラスメイトの日記の下りなどは、トリックとしてみると面白いのだが、肝心のその男の影があまりに薄いために、最後になって事実が明らかになっても「はい、そうですか。なんか設定の後付けみたいですね」で終わってしまう。「おじさん」にしても、その過去がストーリー進展とともに徐々に明らかになりつつある所で、「こいつが犯人だ」と思わせるような決定的な事件が起こるとよいと思うのだが、どうも設定だけが先走っているように見える。要は偽犯人の仕立て上げ方が下手なのだ。

 実際にプレイした人ならわかると思うが、このゲームは最初から最後まで「現在」と「過去」のシーンが交互に現れ、そこのフォローがかなり疲れる要因になっている。しかも「現在」のカットと「過去」のそれは一連の時間軸上で動いている話のように見えるために、そのうちにどっちがどっちなのか分からなくなる。ただそれはトリックとして必要不可欠な要素であるとも言える。読者が混乱に陥るのは、次に例示するようなことがことが延々と続いているからだ(ここに挙げた例はゲーム内容とは無関係)。

  1. 「現在」ヒロインが蹴った赤くて丸いボールを主人公がキャッチする
  2. 「過去」そのボールを更に主人公がキックする。なぜかボールにはトゲが生えている。
  3. 「現在」ボールが、悪人を粉砕する(一瞬、ボールの形が写るが、どうやらトゲは生えていないようだ)。
 話の流れが連続しているので、一見すると上から下に時間が流れているように見える。つまり主人公(=読者)は「ボール蹴り」を「現在」進行形で経験しているわけだ。ところが二番目のキャプションには「過去」と書いている。上のような理解に立つ限り、二番目だけ、どうして「過去」になるのか理解できない。

 鍵となる部分についてネタバレをすると、ゲーム中に表示される「過去」と「現在」のカットが連続した時間軸上にあるように見えるのは錯覚である。実は過去に起こった連続殺人事件と全く同じシーケンスの連続殺人事件が「起こされていた」わけで、これを図示するとこういう感じになる。

---●▲■---○△□---

ここで黒字の部分が「過去」の一連の事件。白字が現在進行中の事件で○→△→□と現在の時間が進行している。ところが同じ字同士のものは極めて類似しているために、「●→△→■」と表示されても、それが「○→△→□」のようにも「●→▲→■」のようにも見えてしまう。

 大まかな話はこういうことだ。かつて橘高幸信には妻の「冬香」と4人の娘がいた。この幸信は元軍事科学者なマッドサイエンティストだった。子供の頃の主人公は幸信の「実験」によって、異常な殺戮能力を身に付け、湖近くの女学生2人を手始めに、この娘たちを順番に殺害していく。ところが早苗まで殺したところでなぜか力を失い、ついでにピストルで自殺してしまう。ところが主人公に愛情を持っていた冬香は、主人公を復活させてしまう。更に半分、物語の世界に逝ってしまっていた彼女は、自分と主人公がハッピーエンドになる話を現実世界で展開させるべく画策を始めた。残った娘である「あやめ」を自分の代理である「冬香」に仕立て、殺された3人の娘をバイオ技術で再生。夫の幸信もどこかから調達してきた(だから、れいーぷシーンは実の父と娘ではない)。彼女が描いた筋書きは過去に起こった一連の事件を忠実になぞったものだが、主人公が自殺せずに、(もはや自分と同一視していた)冬香が結ばれるエンディングになっていた。「現在」の一連の事件は、精神病院から脱走した男を使って、過去の事件を繰り返す形で、自分の小説のシナリオを実現していったものである。他にも主人公の妹を介して、因果の輪は広がっているのだが、その辺はさっくりと省略。

 結論。推理小説と呼ぶには今ひとつ捻りが足りないし、話に引き込む力が弱い。必要性は認めるが、「過去」「現在」のシーンの頻繁な切り替えに神経を使うのも疲れる。ついでにキャラ萌え要素も期待できない。仕掛けはそれほど悪くないので「地雷」とは思わないが、こういうものは本の形にして、「そうさく畑」か「コミティア」の創作文芸ジャンルで出した方がよいのでは?少なくとも私は、これをゲームの形にする必要は全然感じなかった。


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