「ALMA〜ずっとそばに」

(Bonbee! / 2003.5.2)


 Bonbee! の作品。2001年に発売予定だったが、延期を繰り返した末、2002年5月2日に発売。CD版とDVD版が出ている。ストーリー・キャラクターの概要はD-dreamを参考。初版にもかかわらず、パッチを当てたり、どこかから代替実行ファイルを探してきたりする必要もなく、真っ当かつ快適に動く。もっともこれだけ発売が遅れたのだから、準備期間は十分にあったという言い方もできるが。

 私はよく知らないのだが、このゲームの売りの一つは「 的良みらん」の原画らしい。女性キャラは5人(+1名)出てくるが、いずれも売れ筋な「属性」の組み合わせで作られているような感じを受ける。これが特に目立つのが香苗の「眼鏡っ娘」バージョンで、いきなり登場した時には同一人物とは分からなかった。なお、このバージョンがストーリー展開に何か重要な関係があるかといえば、どこにもない。おまけシナリオの四堂鈴眼鏡っ娘バージョンなんかを見るに、作者の趣味なのか。余談ながら、香苗・由衣がシスプリの可憐と花穂のように見えるのは私だけだろうか(カナエも「木之本さくら」コンパチに見える)。

 全体的な話は、「ONE」・「KANON」の「おいしいところ」を使って手堅く纏めたといった感じで、「秋桜の空に」・「Wind -a breath of heart-」・「ONE2」と狙っているところに大差ない。構成もよく似ていて、「前半にどうでもよい日常生活の描写があり、後半に事態が急変。で、最後は収まるとこに収まる」といった展開。シナリオ分岐は選択枝と、放課後の行動で決定されている。後者については事実上、狙ったキャラだけをひたすら選び続ければよいのだが、無関係なキャラクターを選んでも、話が破綻しないようにはなっている(これは逆にいうと、特定キャラクターに対するストーリーの本筋とは無関係の日常描写がかなり入っていることを意味する)。ただし、あまりにランダムにここを選択しているとバッドエンド(1種類しかない)に行くようだ。


 以下、激しくネタばれあり。注意しる。

 はじめにネタを明かしてしまうと、この作品の主人公は「生霊」である。彼は3年前に交通事故で死んでいるのだが、「自分は死んでいない」と思い込んでいる。正確にいうなら、荒良木円が彼の魂を「肉体に戻すために」現世に留める咒(まじない)を施したために、現世に魂が留まっているわけだが、この作業には3年間かかり、その間、彼は生霊であるにもかかわらず、人間として生活していたわけだ。いきなりこの辺から「うぐぅ」臭さが漂っているのだが、話はまだはじまったばかりだ。

 特にこの設定が有効に使われているのが香苗(幼馴染)・由衣(実妹)・梗(クラスメイト)の3人。鈴(巫女さん)シナリオは傍流に属し、あまり主人公が生霊であることが重要な意味を持っていない(しかも刀の力の設定などが本筋と矛盾する)。円シナリオは「なぜ彼女が主人公を助けるのか」という理由を説明するものだが、「主人公は前世の恋人が転生した奴だから助ける」というもの以上でも以下でもない。なお、どのキャラのルートにも乗れなかった場合にはバイク事故で病院に担ぎ込まれた所で目を覚ますと、「3年間入院して意識不明だった」というオチになる。つまりそれまでの話は「夢の中(あるいは幽体として)の生活」だったことになると。

     
  1. 由衣シナリオ
     この作品は断固として「実妹」にこだわっている様子で、主人公(巧巳)とせくーすはもとより、キスシーンすらない。しかしながら、こいつは「ブラコン」な奴で、見かけとは裏腹に「おにいちゃん、大好き」らしい。さて、この由衣は兄が生霊であることを知っている。なぜかというと、彼女が「大事なものを失う」ことと引き換えに、兄を助けてくれるように円に頼んだいきさつがあるからだ。その条件とは「兄への恋愛感情を捨てる」こと。ところが、復活の日が近づいても由衣はその条件を守ることができなかった。それは交通事故という形で始まるが、入院後、病状はだんだん悪化してくる(←この辺、病弱系入ってます)。視力を失い、続いて足・手と動かなくなってくるのだが、このタイミングで主人公は自分が生霊だと気付いてしまう。

     この作品中では必ず何らかの事故で主人公は病院に入院し、夜中に413号室に入ってしまう。そこで自分の肉体を発見することで自分が「幽霊」であることに気付いてしまう。そうなると「物理的干渉」を失い、人や物に触れることができなくなってしまう。しかもその状態で他人に「幽霊」とばれると、自分が消滅してしまう(「3年前に死んだ」ことになってしまう)。

     由衣シナリオでは、妹が不安に思っているにも関わらず、手も握ってやれないというジレンマに陥る。しかもその原因を作ったのが自分であることを知ってしまった後だけにたまらない。この辺は自分で読んだ方がよいと思うので詳しくは書かないが、サブキャラクターの楓をうまく動かして、シーンを展開している。残念なところは「どちらかが死ぬしかない」という話で引っ張ってきたにもかかわらず、ラストではなぜか両方助かってしまうところだ。「もう一人、巧巳を助けたい人がいた」ことが理由とされているのだが、「だったら始めから言えよ」といった感じだ。

  2. 香苗シナリオ
     この作品の由衣・香苗・梗シナリオでは主人公は最も相手ととコミュニケートしないといけない所で物理的干渉を失ってしまい、相手から距離を取らなくてはならなくなる。このシナリオでは、香苗と付き合い始めたところで彼女が主人公と円の仲を疑いだし、一方で主人公の方はというと、必死になって自分が生霊であることを隠そうとしなくてはならない状況におかれている。香苗がキレて主人公の前から走り出した所で交通事故に巻き込まれそうになるのだが、捨て身で彼女を助けようとした結果、なぜか香苗と接触できてしまう。別にこれは「奇跡」が起こったわけでも何でもないが、「実は香苗も幽霊だった」というのだから、もっとタチがよくない。ともあれ、香苗に触れられないというジレンマは解消されたのだが、今度は別の問題が生じてくる。主人公は香苗の記憶を持っているわけだから、生霊から人間に復活した後で、生霊である香苗に接触すると彼女が消えてしまう。それどころか、主人公の復活それ自身が香苗消滅の引き金になるかもしれないというのだ。この辺、もう少し引っ張るとよいと思うのだが、実際には安易な妥協策が持ち出されて、二人とも復活。ハッピーエンドという結末。

  3. カナエシナリオ
     香苗をクリアすると、7月13日の分岐が有効になる。このルートに乗ると病院で「カナエ」という少女と出会うことになる。放課後、ひたすら病院に出かければ彼女との仲は進展していくのだが、一方で香苗の方がだんだんおかしくなっていく。はじめは感情が希薄になっていき、続いて感覚も弱くなっていく。上に書いたように香苗は幽体なのだが、その本体が「カナエ」で、こちらが回復していくと、生霊は弱っていくという寸法。こちらも「二人に咒を施して両方復活」という展開。

  4. 梗シナリオ
     このルートに乗るためには、放課後にひたすら陸上部で調教され続ければよい。上で見たものは、いずれも主人公が幽体だとバレなかった場合の展開だが、このシナリオでは正体がバレて、この世界から切り離されてしまう。そこに至るまでの展開は、「梗が高飛び失敗→主人公が助けに行って、事故→入院先で事実を知って幽霊化」の後、「正体がばれないように梗と距離を取っていたものの、試合に出られなくなって一人、グラウンドで泣いていた梗に同情して、思わず抱きついてしまい」、結局、彼女の前から消えてしまうというもの。こう書いてしまうと、なんかアホみたいな奴だが、実際にはもう少し感動的(にしようと努力した跡がみられる)。主人公の方は梗が見えるのだが、彼女にしてみれば彼は消えてしまったわけで、しかも他の人にとって彼は「3年前に死んだ人」として扱われている(この辺、他のシナリオと比べるとかなり丁寧に書いている)。しかも主人公にしてみれば、自分が現世にいるということは、梗が自分の記憶を持っていることを実証しているわけで、いやでも彼女が悩み続けていることを実感しないわけにはいかない。最も最後は「梗の記憶を消すと同時に主人公を復活させる」というアクロバット的な方法で解決が図られるのだが、なぜか復活後も梗は主人公のことを覚えている。この辺、かなり無理のある説明をしているのだが、ここは正直に「一から出会う」でもよかったのでは。

 総評としては、(いろいろな人が書いていることだが)やはり前半部分と後半部分のつながりが今一つのように思える。共通部分の会話も「一度読めば十分」な一発ネタ的なものが多く、2回目以降、私はほとんどスキップしてしまった(既読判定はしっかりしているので、安心して飛ばせます)。サブキャラの動かし方もうまいとは言えず、特に祐貴のキャラクターは極端に色付けしすぎているせいで、香苗シナリオ後半の「実は俺も香苗が」というところの説得力がかなり失われているように見える。上記のシナリオに共通する「物理的干渉の喪失」とそれによるジレンマ、これに加えて「自分の復活に伴う恋人の危機」というテーマは、「泣きゲー」を狙っているならばそれなりに正しい選択だと思う。ただ、これそのものはすでに珍しくないものになっているので、もう少し設定なり盛り上げ方なりを工夫しないと「パチモン」という評価を受けるのでは。あと、どのキャラについても最後の最後になって「実は二人とも助ける方法がある」という展開になるのはいかがなものか。

 全くの個人的な評価なのであまり参考にはならないが、最も期待していなかった梗シナリオが、実は最も真っ当だった所が驚きではある(正直、香苗・カナエシナリオよりも面白い)。鈴シナリオは予想通り、ストーリー的には見るべきところはなかった(が、巫女さん萌えな人はやってください。貧乳ですし)。由衣シナリオは「妹スキー」な人が日常をまったりと楽しんだ後で欝になるにはよいといえるだろう。


インデックスに戻る