「CROSS†CHANNEL」

(FlyingShine / 2003.09.26)


 「 FlyingShine」ブランド第一作。2003年9月26日には「天使のいない12月」(leaf)や「月は東に日は西に」(オーガスト)など、計21作品がリリースされているのだが、前評判とは打って変わり、いざ蓋を開けてみると一気に人気作品となってしまった(エロゲー批評空間の「 集計」を見ると、同日発売作品の中でもデータ数・得点ともに高い数字を示している)。傾向としては自称「学園青春ADV」だが、「飛び出せ!青春」みたいな70年代青春ドラマを期待している向きには、全くお勧めできない。どのキャラのルートに乗っても神経症的な主体を巡る話しばかりが展開されるわけで。「エヴァ」世代以降のナウなヤングにとって、こういう話がかなりリアリティーをもって迫ってくるのかもしれないが、多少、病的なものを感じないわけでもない。プレイした皆さんの感想を読みたい向きは「CROSS†CHANNEL感想&レビューリンク集」がよくまとまっている。

 キャラ絵と概要は「 D-dream」を参考。シナリオの田中ロミオ=山田一(「家族計画」等のライター)という説もある(PinkBBS 葱板「田中ロミオスレ」)が、事実関係は不明。ただ「メッセージ先にありき」な作風は似ているかもしれない。プレイヤーを飽きさせない適当な軽さを持つテキストと緩急ある展開は、この手のノベルゲーの中では一定水準をクリアしているが、「メタえろげ」的なネタと下ネタが多いので、そういうのが嫌いな人には向かないと思われ。このゲームに関してはゲーム世界の成り立ちについて情報を得ていない方が、いろいろと楽しめる所が多いので、これからプレイする予定の人はこれ以上のことは知らない方が幸せだろう。話しは大まかに言って4部構造になっているが、メインルート一本道で最後にテロップ入りムービーが出て終了。第2部は3人、第3部は7人分のエンディングを見ると次の部に自動的に移行する(インサートムービーが入るので分かる)。各部内でのキャラ分岐にのみ選択肢は関係しており、いわゆる「バッドエンド」の場合はそこのセクションのスタートに戻る仕様になっている。ただ、OHPにあるパッチを当てないと、既読スキップモード使用時にゲーム進行が不可能になる(ループする)致命的なバグがあるので、そこの対処だけはした方がよい。



(以下、ネタばれあり。未プレイの人は見ない方が吉)。

 初めてこのゲームを立ち上げると、9月7日(月曜日)の新学期から一週間の期間を5人の攻略対象キャラ+αと過ごすことになる。ここだけ見ると「壊れかけた部活を立て直そう」というテーマの、隙だらけな「青春ドラマ」なのだが、このステージは「顔見せ」を兼ねた前フリ。この作品でやろうとしていることは、「みんな」という関係がどうやって形作られているかを、対人関係に問題を持っているキャラクターの補完を通じて描き出そうとする作業なわけだが、主人公が理想としている「みんな」集って部活をする「普通な日常」というのは、彼らが表層的な関係を保っているこの時点でしか成立していない。

 第2部。ここでは第一部とよく似た日常が4回繰り返される。しかし違う所は8人以外の全ての生き物が姿を消してしまっていることだ。時間軸上は第一部から約一年後ということになる。そういう状況で、主人公は「見里」「冬子」「霧」「美希」のそれぞれと「よろしくやろう」とするわけだが、最終的には必ず誰かが死に、ヒロインとの関係も「バッドエンド」と呼ぶべき展開にしかならない。実はこの学園、精神を病んだ子供たちばかり集めているわけで、誰一人として一筋縄では行かないキャラクターなわけ。しかし、「どうしてこういうエンディングを迎えざるを得ないのか?」という謎は次に行かないと分からない所も多い。

 第3部。更に時間は繰り返される。しかし違うことは、主人公と曜子が「繰り返される世界」の謎に気づいていることだ。これは前の美希シナリオで判明することだが、この世界を認識している主体(主人公)から見ると、同じ1週間が繰り返されているように見えていても、その認識可能な世界の中に繰り返さない(過去から続いている)部分(祠)がある事実から、「実は自分を含む世界の方が日曜日に分解され、前の週と同じ世界が構築される」という仮説が成り立つ。分解の瞬間に祠にいれば、自分の主観的(肉体的)な時間は継続し、記憶も消えない。実はここが「こちら側の世界」と「元の世界」のクロスポイントで、主人公はそれまでの「転生」の記録にあたるノートを参考にして、これまでの失敗を繰り返すことなく7人のキャラクターを「元の世界」に送還しようとする。ここでも各ヒロインの抱える心の傷が露骨に描かれるのだが、一応の解消を見た時点で二人の関係は断絶する。

 第4部。「こちら側」に一人残った主人公は、一人で部活動を開始する。その放送は「向こうの世界」でも「幽霊放送」としてネットで話題になっていた。日曜日、送還されたキャラクターたちの手元のラジオから主人公の声が流れてくる。そしてキャラクターたちの時間も流れはじめていた・・・、といった感じでエンディング。

 それなりに長いだけあって、いろいろと見所が多い話なのだが、重要そうな所をいくつかピックアップしてみる。

 総括。設定、展開ともに面白いし、テキストも読んでいてダレない。全12周でエンディングだが、スキップを使えば一周2時間程度で終わるので、それなりに忙しい人でも何とかなるだろう。ラスト(「黒須ちゃん†寝る)に、第三部の解釈に多様性を残す記述があるが、その辺を大いに語る趣味はないので省略。このゲームはその内容上、かなり読み手側の「世間の生きにくさ」に関する感覚を要求するところがあるが、(ラストで声高にメッセージを垂れ流しているにも関わらず)意外にもその感覚に対する作品からの評価はニュートラルな所がある。この辺のバランス感覚が若者受けの秘密か?


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