マジカル☆ヒナ

「天耳通」編

(続き)


 航の下半身はまだ「こんなに元気だよ、見てごらん。」とばかりに、その存 在を強く自己主張していた。まだ上腹部に残る妹の髪の残り香が、彼の欲望を ますます掻き立てて行く。

 蛍光灯2本分の明かりが、ベッドにうつ伏している妹の上に、兄の影を落とす。  その影はますます濃く、その形態を正確なものにして行く。

 ハトが一度鳴いた。

   「…ごめんなさい、おにいちゃん。」

可憐はその顔を、涙で湿ったピンク色のコスモスから離し、航の方を向いて

 「軽蔑してもいいよ、こんな可憐のことなんて。」

と、ぼそりと呟いた。

 「嫌われても仕方ないよね。」

 これまでの展開から、内心、「これで非血縁エンドけてーい」と思っていた 航。彼は急に現実に引き戻された思いで、妹に見られないようにと体を横にひ ねり、慌てて彼のイチモツを黒いボクサーパンツに押し込みながら、

 「そんなことないよ。ちょっと驚いたけどさ。」
 「無理しなくてもいいよ、おにいちゃん。可憐、自分がやっていたことぐらい、 ちゃんとわかってるから。」

 彼女は航から壁の「稲メン」ポスターに視線を逸らしつつ、自嘲的な様子で、 彼女はそう付け加えたのだった。

☆☆☆

 「…そう、それがあなた流のやり方」

 「水晶玉が使えなければ、自らアストラル界に出向くまで」と、千影は幽体離脱して、この様子を観察していたが、これも全て計画された出来事と言わんばかりに、つぶやいた。

 「…あの時もそうだった…。」

 それは、いつの事だっただろうか。実兄との禁断の愛。その事実を知った、 彼女の母が兄ヒロシ、いや前世の航を異国の地へと留学させることを決定した 夜。

 「私だけは、千影ちゃんを応援してるから。」

 そう言って、真紅の薔薇のコサージュをプレゼントしてくれたのは、彼女の 妹の可憐だった。地位も将来も、全てを捨てた二人が、深夜のチャペルで、永 遠の誓いを立てる。満月の月明かりが、ステンドグラスを通じて、二人の足元 を仄かに照らしている。凛とした静けさだけが支配する中、二人は唇を重ね、 やがて二つの影は一つとなった。

 いつしか、千影の胸のコサージュは、彼女の傍らに転がり、二人の欲動は一 つの高みを目指して上り詰めるかのように思えた。

 「それは、はるかな昔から定められた運命。」

 「少なくとも、私はそう信じていた。」

 しかし、彼女が最後の高みに上り詰めようとした時、それは突如として起こっ た。その刹那、彼女の目の前が真紅に染まって行った。

 翌朝、教会のチャペルで、兄と妹の死体が発見された。妹の首にはナイフに よる傷があり、兄も切腹して果てていたという。彼らの家柄を考えると、社交 界から近隣のおばさん連中の間でまで、何かと取りざたされたのは、やむを得 ないことといえよう。それでも、今と違って「2ちゃんねる」などなかったた めに、「マーシー」ほど有名にはならなかったようではあるが。

 「でも私は満足していた。なぜなら、愛する兄くんと永遠の楽園で生きら れるはずだったのだから。」

 赤々と燃える、五角形の祭壇の中に、麝香を投げ込むと、千影は火の召還五 芒星を、燃え上がる炎に向けて何度を切り続ける。一瞬、彼女は煙の中に、ア スモデウスとゴロアブの姿を見た気がした。彼女の顔が普段の3割増し程度に 赤みを帯びているのは、高揚した心のせいなのか、それとも炎のせいなのか。

 「だが、それも全て、あなたが仕組んだものだった。」

 そう言うと、彼女はつい今しがた、床に転がっている可憐から切り取ったば かりの髪の毛を祭壇に投げ込むながら叫んだ。今の彼女には、外から聞こえて くる珍走団の爆音も耳に入っていないに違いない。

 「兄くんを追って、何度も繰り返される人生。その度に裏切られ、私は一人、 次の生に向けて死んで行った…」

 「だが、私は気づいてしまった。可憐、あなたが私から兄くんを奪い続け ていたことを!」

 「人生は偶然の連続」と言うが、それは人が過去を忘却し、そして因果の連 鎖を究極まで追い詰めるだけの能力に欠けているからに過ぎない。しかし、極 限の布施と、転生の中で修行を重ねることで、誰もが超越した力を身に付ける ことができる。

 「たしかに、あなたは、私よりも早かっただけなのかもしれない。」

 同じ人間を巡って、二つの運命が交差する。そして、「運命」が必然性の論 理によって裏打ちされている以上、圧倒的な力量の差を覆すだけの偶然性は、 どこにも介入の余地がない。

 ポアされたのがどちらだったのか、もはや、説明の余地はないだろう。

 「しかし、私は戻ってきた。あなたと兄くんの前に!」

 ますます高まる炎と煙の中、異界のものを召還する呪文が、延々と繰り返さ れていた。

☆☆☆

 「でも…」

 可憐は何かが吹っ切れたような、それでいてどこか諦めが混じったような態 度で、航の傍にやってくると、有無を言わせないような態度で、彼の唇を奪っ た。唐突な展開に、状況がよく飲み込めない航、そんな彼を挑発するかのよう に、彼女はブラウスのボタンを、一つ、また一つと外しだした。

 3つ目のボタンが外れ、思ったよりも小さい胸の下に、白いものが見えてき たところで、彼は今、目前で起ころうとしているコトを認識し、

 「やっ、やめろ!」
 「…」

 無言のまま、可憐の指は、下の方に降りていき、そしてブラウスは床の落ち た。薄い下着の下の膨らみから見るに、大多数の「おにいちゃん」ご 期待通りの貧乳であることが証明されたわけである。

 「僕の知っている可憐は、そんなコトする子じゃないはずだぞ。咲耶じゃあ るまいし。」

 「ふーん、おにいちゃんは、咲耶と、いっつも『そんなコト』をやっていたんだ。」

 しっかりと墓穴を掘る、兄、航。一気に「説得力ゼロ」である。

 「じゃあ、可憐が咲耶じゃないってことを、今、ここで実証してあげるから。」

 そういうと彼女は、今度はフレアスカートの裾を両手で掴み、その手をだん だん持ち上げて行った。スカートの端は足首からひざへ、そしてさらにその上 へと上昇していき、それと同時に航の恥ずかしさと劣情も急上昇していく。そ して、彼女の腕が、約90度の所でとまった時に彼が見たものは・・・。

 「ぶっ、ブリーフ?」

 それは彼にも見覚えのある男性向け下着そのものであった。股間にプリントアウトされている象さんが、今にも「ぱお〜ん」と叫びだしそうなイキオイである。

 「そう。『ぱんつをはいている咲耶は咲耶じゃない。』という命題が真であ る以上、これで私が少なくとも咲耶でないことは明白ね。」

 「異議あり!裁判長!弁護人の論証は前提条件が誤っています!」

などという隙も与えずに、

 「ねえ、おにいちゃん、可憐、おにいちゃんのためならブリーフ脱げるよ。 おにいちゃんも脱いで。」

 と、航の大脳の機能を一挙に停止させそうな一言とともに、彼をベッドの上 に押し倒した。

 「上から来るぞ!気をつけろ!」

と彼が言ったかどうかは定かではないが、首筋に回された腕によって密着する 妹の匂いに、思わず理性が1600光年先のM78星雲まで飛んでいってしまったご 様子である。思わず航は可憐のスカートの中に手を伸ばし、ソコの部分にタッ チしたのだが・・・

 「何だ!?この妙に手馴れた感触は?」

 意外な所に突起物を発見して、思わず、男性向け下着な現実に引き戻されて しまった航。彼の「暴れん棒将軍」は瞬時に萎え萎えである。一方、サドンデ スモードに入ってしまった可憐は、

 「ええい!上様とてかまわぬ!切捨てい!」

 とばかりに、彼のジーンズと黒のボクサーパンツを脱がせ、一気に「攻め」 モードに突入した。

 「おっ、おい、こんな猥褻物は、コミケじゃあ売れないぞ!」

 「無問題。『オットセイ』や『花びら』などに模していれば大丈夫 って、準備会も言っているし。」

 という会話がなされたのかどうかは知らないが、可憐の股間の「オットセイ」 は、今しも航の菊に(以下略)されそうな按配である。

 「先生!漏れの肛門も閉鎖されそうです!」
 「やめて!おしり、いたいの!」

 デブ専ビデオ「巨根部長」も真っ青なほどのイチモツによる攻め。その初め てのA感覚に苦痛の色を浮かべていた航、だが可憐の執拗な攻撃に、それは異 様な快感となって、彼を襲ってきた。この辺、不自然だが、801筋ではお約束の展開とい えよう。

 「なんだ、この感覚は!」
 「お前の感じている感覚は、ある種の精神疾患の一種だ。鎮め方は俺が知っ ている。俺にまかせろ。」

 一体、何をどう鎮めようというのか?

 「うきゅう、おにいちゃん。何か、何かが来るよう。」
 「いいから、イッてみようぜ!」
 「オー!ノー!」

☆☆☆

 「可憐…これが、あなたの本当の欲望…」
 「そして…兄くんの?…」

   儀式を終え、この痴情のなりゆきを興味深げに眺めていた千影だが、その意 外な結末を知った今、目を閉じて深くため息をつくのだった。
 「可憐の心に秘めていた欲望は、私の予想した通りだった。私の魔力は、そ れを兄くんに見せ付けることにも十分に成功した。しかし…」

   彼女は手元の魔術文献の一節に目を落とした。そこにはこう書いてある。

 "Any sufficiently advanced technology is indistinguishable from magic."

つまり兄くんの判断は…

 『極度にハッテンした弟は妹と変わらない』

 自嘲的にそう言い放つと、もう一度、ため息をつく千影。彼女は法衣を翻して、魔法円から出て行った。


 地球の上に朝が来る。兄と妹は、何事もなかったかのように、今朝もそれぞれのベッドで目覚めることであろう。


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