iHOPパンケーキの謎を探る


 一部ファミレスファンの間で人気を誇る「iHOP」。「International House of Pancakes」という称するだけあって、「パンケーキ」(とワッフル)が売りとなっている。少なくとも日本の店鋪では2-6枚の枚数指定注文が可能であり、メニューには価格とカロリー数が明記されている。まずは表を見ていただきたい。最近、メニューの改定が行われたが、価格は据え置かれている。(旧)とは改定前のメニューに記載されたものであり、「恋する気持ちとパンケーキ」(こっとん・ふぃーるど 1999)p9に記載されたものを用いた。(新)は新メニューに記載されているものである。

新メニューはカロリーが高い

枚数代金(円)(旧)熱量(kcal)(新)熱量(kcal)
2200222296
3280333443
4330406553
5380479663
6430552773

ちなみに新メニューでは「シルバーダラーパンケーキ」は430円(663kcal)、「ベルジャンワッフル」は380円(510kcal)となっている。

 旧メニューと新メニューを比較すると、新メニューの方が全ての枚数にわたって熱量が高いことがわかる。新旧メニューの間の熱量の差を枚数に対してプロットすると右図1のように原点を通る直線になった。枚数一枚あたり36.8kcalの増加が見られることから、おそらくメニュー改定の際に一枚あたりのサイズが増加したか、あるいはタネの組成がエネルギーリッチなものに変化したものと考えられた。

2枚から3枚のところで不規則な増加

 普通に考えると、パンケーキは同じタネを焼いて作るのであるから、一枚あたりの熱量は同じになるはずなのだが、実際に枚数とカロリーの関係をみると非常に奇妙なことに気付く。2枚から3枚に増えるところだけが、3枚以上に増えるところと比較して、一枚あたりの熱量の増加が大きく、また一枚あたりの値段の増加も大きいのである。左図2にパンケーキを一枚追加する時に必要な金額と、それによって得られる熱量を示した。これを見ると明らかなように旧・新を問わず、3枚目以降は1枚追加するごとに価格が50円増加し、熱量は73または110kcal増加している。しかし2枚から3枚に1枚追加する場合に限り、価格が80円増加し、熱量も111あるいは147kcal増加している。この(3枚目と4枚目以降の)1枚あたりの熱量の差は旧メニューで38kcal、現行のものでは37kcalと、ほぼ同一である。

 一つの可能性として2枚のものと3枚以上のものではトッピングのバタークリームの大きさに差があり、それが価格あるいは熱量の差に寄与していることが考えられる。通常、食品のカロリー計算は材料の組成をもとに、食品成分表に記載された熱量を合計して行われる。現在使用されている「四訂 標準食品成分表」(科学技術庁資源調査会 1982.11)によれば、バターおよびマーガリンの100g当たり熱量は 745kcal, 759kcalとされている(7.5kcal/g)。よって上記の38kcal分の違いがトッピングのバタークリームに由来したとすると、重量換算で5.1g相当となる。バターあるいはマーガリンは料理用小さじ一杯4gとされていることから、これぐらいの差があれば視覚的に差異が検出されることが期待される。

 そこで実際にiHOPにて2枚および3枚のパンケーキを注文し、パンケーキおよびそのトッピングのサイズの測定を行った(6/13/00 牛久店)。その結果、いずれのものについても、半径65mm、一枚あたり厚さ7.5mm程度であり、バタークリームの直径も35mm、高さ22mm程度と、枚数による明確な違いは検出できなかった。ちなみにシルバーダラーパンケーキのサイズは半径40mm、厚さ5mmであった。

 以上の結果より、残る可能性としては「2枚のものと3枚以上のものではタネの組成が異なる」ことが挙げられるが、実際にそのようなことを行っていることは考えにくい。ちなみに米国iHOP社のweb pageに掲載されているFAQによれば、同社はレシピの公開は行えず("...we are unable to release recipes.")また商品に関する栄養学的なデータの主張は行わない("We do not maintain nutritional data on our food.")とされていることから、この問題に関する公式な解答を得ることは困難であると考えられる。


(C)MFRI&ぷにネット「次世代イ作」プロジェクト(2000)

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