キャンピロバクター


 キャンピロバクター(Campylobacter jejuni / coli)は1972年に、ベルギーの下痢患者から初めて病原菌として分離された。細菌性下痢症全体に占めるキャンピロバクターの比率は高く、小児事例では約2割から検出される(サルモネラは5%)。大人の腸炎患者の7%がキャンピロバクター陽性である。日本では1979年に保育園内の集団発生事例が報告され、その後、検出技術の向上とともに感染症例の報告が増加している。かつては学校給食による事例が多く(全体の32.6%)、患者数100人を越える事例がその6割を占めていたが、最近では年数件までに減少している。季節としては春から秋にかけて9割が発生している。この菌は微好気(酸素濃度3-15%)、31-46℃でしか生育せず、乾燥状態では数時間で死滅する(大腸菌やサルモネラは2週間以上生育できる)。人体実験により、100オーダーの摂取菌量で感染が成立することがわかっている。このような特徴があるため、食品中での増殖が難しく、食中毒事例の大半はバーベキュー・ニワトリささみ刺身など、加熱不十分な肉類を喫食したものである。

 キャンピロバクター腸炎の潜伏期間は2-7日(平均2-3日)。発熱・頭痛・倦怠感と言った風邪類似症状から始まり、数日後に下痢・腹痛症状を訴える。下痢は約85%にみられ、水様便が約半数だが、軟便と悪臭を伴う粘血便あるいは血便を呈する場合もある。発熱や腹痛のみのケースも15%程度ある。下痢は一般に著明ではなく、抗生物質を用いない場合でも1週間程度で回復する。しかし60-90日程度は排菌が続くので注意が必要である。発熱はサルモネラ同様に多く、38-39℃が6割。嘔気は3割弱に見られるが、嘔吐事例は少ない。

 正確な理由は明らかではないが、キャンピロバクター感染後、1-3週間後に「ギラン・バレー症候群」という自己免疫性疾患が発症することがある。統計によって異なるが、全患者の1−3割程度に発生する。これは末梢神経系における急性突発性の多発性根神経症である。多くは下肢の弛緩性運動麻痺から始まり、だんだん上方にこれが広がってくる。四肢の運動障害に加えて、呼吸筋や脳神経麻痺による顔面神経麻痺、復視、嚥下障害が見られる。予後は良好で、数週間以内に快復が始まり、機能も快復する。しかし発症例の15-20%は重症化し、2-3%が死亡する。特に妊婦が感染した場合に発症リスクが高いことが知られている。

 キャンピロバクター食中毒は潜伏期間が長いこともあって、原因食材の特定が困難である。食中毒事例および食材の汚染状況から見て、食肉、特に鶏肉の関与が高いと推定されている。養鶏場にもよるが、ニワトリは5-8割がキャンピロバクターを保菌していると言われ、ウシ糞便からも数十%の確率で検出される。いずれもC.jejuniがほとんどで、C.coliは少ない。逆に豚からはC.coliが検出される。注意すべきことに、犬・猫・小鳥も同じ菌を保菌する。特に下痢症の動物の保菌率が高く、例えば下痢犬では約1割がC.jejuniに感染していた(健康犬では3.8%)。このためにペットからの感染の危険性もある。

 家畜・家禽の保菌率が高いために、解体過程や精肉処理で相互汚染が生じる。牛・豚については流通・保存中の乾燥によって菌数の低下が生じるため、市販精肉からの検出率は約1%程度。しかし解体に多量の水を利用する鶏肉では全体の約6割以上からキャンピロバクターが検出され、これはサルモネラの検出率の約2倍程度である。

(文献)


(C)MFRI [2002]